その9
3人は検問所を通り過ぎると、港に入り、サラサの乗艦する旗艦へと向かった。
フィアナは、不安そうに辺りを見回しながら、それでも興味ありげに見ていた。
単に連れて来られただけならば、興味深くあちらこちらを見ていたのだろう。
が、生憎そうではないのであった……。
そう考えると、ちょっと悲しいかも……。
対照的に、周りに活気があり、人が忙しく行き交っていた。
そう言う状況なので、フィアナの興味の度合いが徐々に上昇していった。
そして、それに伴い、サラサとバンデリックから少しずつ置いて行かれる形になっていた。
「ねぇ、姉ちゃん、何でここに?」
騒々しい中、フィアナの後ろから驚きの声が上がった。
「!!!」
フィアナは、びっくりして立ち止まり、その声の主の方に振り向いた。
無論、その声の主の正体は良く分かっていた。
サラサとバンデリックの方も、その声に反応して、振り返った。
そして、ゆっくりとフィアナの方に歩いてきた。
「こっ、これは、伯爵閣下、参謀長閣下、失礼致しました」
声の主は、サラサとバンデリックを見て硬直した。
ただ、偉い事に、硬直しながらも敬礼するのを忘れなかった。
声の主は、少年に近い年齢だったにも拘わらずだ。
それに対して、サラサとバンデリックは、答礼した。
「ええっと、どなた?」
サラサは、珍しく(?)遠慮勝ちに聞いた。
どう見ても自分の部下であるからだ。
「私の弟のフィルタです」
フィアナは、一歩下がって、サラサとバンデリックの前を空けるようにした。
こうすると、左手にサラサとバンデリック、右手に弟のフィルタが見えるようになる。
「今年入った新兵ですね。
3番艦の」
バンデリックは、確認するように言った。
が、本当は、サラサに情報を流していたのだった。
サラサは、それに頷いていた。
「恐縮です……」
フィルタは、バンデリックが自分の事を直ぐに言い当てたので驚いていた。
まあ、艦隊名簿を丸暗記しているバンデリックに取っては造作もない事だった。
「ふ~ん、弟さんねぇ……」
サラサはサラサで、姉弟の顔を見比べていた。
(また、良からぬ事を考えているな……)
バンデリックは、サラサの行為を見てそう察していた。
「ねぇ、いえ、姉が何か仕出かしましたか?」
フィルタは、思い詰めた表情でそう尋ねてきた。
新兵にとっては、雲の上の存在の2人に対して、口を開くとは中々の姉思いである。
少なくとも、サラサにはそう感じられた。
「ちょ、ちょっと、何よ、その言い草!」
サラサが何か言う前に、フィアナが真っ先に反応した。
確かに、フィルタの言い草はあれである。
まあ、この物語の書き方に沿ってはいるのだが、普通に考えるとあれである。
「!!!」
「!!!」
サラサとバンデリックは、遅ればせながらフィアナに同意した。
「だって、姉ちゃん、家ではいつもやらかしているじゃないか!」
フィルタは、サラサとバンデリックを他所に、姉に指摘した。
「ぐっ!!」
反論すると思われたフィアナは、口籠もった。
あれだけの反応を見せていたのに、たった一言で黙ってしまった。
その様子を見て、サラサとバンデリックは、顔を見合わせた。
この娘、ドジっ娘?と言う共通認識が出来上がりつつあった。
でも、マリザの推薦もある。
どういう事だろうか?
「姉が何をやらかしたか、存じ上げませんが、何卒お咎めなきようにして頂けませんでしょうか?」
フィルタは、必死に頭を下げに下げまくっていた。
「あんたねぇ……」
フィアナは、呆れた表情で弟にそう言った。
そして、自分の信用の無さを思い知っているようだった。