その8
フィアナの受難は、これで終わりではなかった。
でないと、面白くはないですからねぇ……。
まあ、それはそれとして、受難が始まると、何故か重なる事はよくある事である。
フィアナは、サラサとバンデリックに連行されていった。
向かった先は、港である。
先ずは、職場の案内という事である。
フィアナは、朝、妹に挨拶を交わして家を出て行った事を思い出していた。
今日の朝までは、いつもの日常だった。
最近変わったのは、成人した弟が家に居る時間が減った事である。
釈然としない様子でフィアナは、2人に連行されていったのだった。
「……という事で、どう思う?」
サラサが、バンデリックに熱く話しているのが一部だが、聞き取れた。
「いや、まあ、ねぇ……」
バンデリックの方は、サラサの熱さとは無縁のようだった。
と言うより、戸惑っていた。
いや、いつものように呆れていた?
「でも、実際いないのだから、仕方がないじゃないの!」
サラサは、更に熱っぽくなった。
2人を知っている人間からすると、よくある事である。
だが、フィアナは、当然の如く、2人をよく知らない。
釈然としない上に、目の前の光景に戸惑っていた。
何を話しているかは分からないが、碌でもない事である事は理解出来た。
それでもフィアナの凄い所は、平然と構えている点だった。
流石に、街一番、いや、もしかしらら国一番の産婆が推薦しただけの事はある。
どのような状況に叩き込まれようが、冷静さを保てるのだろう。
風貌に反して、意外にも逸材である。
「まあ、確かに、最終判断するのはサラサだけど……」
バンデリックは、いつものように反論していた。
何に?何でしょうかねぇ……。
「そう、最終判断はあたしがするのよ」
サラサは、バンデリックの言質を取ったという顔になった。
要するに、しめしめと言う表情になっていたのだった。
「了解……」
バンデリックは、溜息交じりに諦めた。
(まあ、ハードルを下げるという意味では、一時的にそうするのも悪くはないか……)
バンデリックが諦めたのは、別の思惑もあったからだ。
この辺の抜け目無さが、サラサを支えているのだった。
そう、結局、掌で……。
「じゃあ、決まりね」
サラサはそう言うと、立ち止まった。
ちょうど、港の検問所の前だったので、番兵達が敬礼しようとした時だった。
彼らは、サラサ達を見ながら挙げようとした手を固まらせていた。
(何も、こんな所で、立ち止まらなくても……)
バンデリックは、そう思いながらサラサの横で立ち止まっていた。
まあ、1人で行く訳には行かないからだった。
それと同時に、驚いた表情でフィアナも立ち止まった。
そして、サラサは、笑顔でフィアナの方を振り向いた。
「フィアナ、あなたにはあたしの産婆兼副官に任命します」
サラサは、そうフィアナに告げた。
「はぁ……」
フィアナは驚く様子もなく、溜息を吐くようにそう反応した。
「よし!」
サラサはそう言うと、向き直って再び歩き出した。
満足そうな笑顔だった。
(うっ、この娘、多分何も分かっていないのでは……?)
バンデリックは、フィアナの反応を見て、そう思わざるを得なかったのだった。