その7
「ひぃ!!」
フィアナが扉を開けると、バンデリックが貼り付いていたので驚いた。
「ああ、ごめんなさいね」
フィアナに対する謝罪が、何故か後ろにいるサラサから発せられた。
それにも驚いたフィアナは、後ろを振り向いた。
そこには、バツの悪そうな表情をしながらも微笑んでいるサラサがいた。
「まあ、害はないので許してね」
サラサは、そのままの表情でそう続けた。
どう見ても、惚気ているようにしか見えなかった。
少なくともフィアナにはそう感じた。
「申し訳ない……」
今度は、正面(?)のバンデリックが頭を下げていた。
「いえいえ、私の方こそ、申し訳ございませんでした」
こうなると、悪くない筈のフィアナも謝る他なくなってくる。
世の中、そう言うシステムなのである。
「こいつは、私の夫であるバンデリック。
部屋に入れないから、ウロウロしていただけなの」
サラサは、構わずにバンデリックの紹介をした。
「よ、よろしくお願いします」
めまぐるしい展開に、フィアナは何とか付いていこうとしていた。
「そして、こちらはフィアナ。
あたし付きの産婆さんに今、なって貰ったわ」
サラサは、フィアナ越しにバンデリックにそう告げた。
飛びっきりの笑顔だった。
「……」
当然のように、バンデリックは唖然として、フィアナを見た。
どう見ても、若すぎるからである。
とは言え、あまりまじまじと見ても失礼である。
しかし、どうしたものか?
バンデリックは、助けを求めるように、サラサとフィアナ越しにマリザに視線を向けた。
「ああ、マリザの推薦よ」
それに気が付いたサラサは、バンデリックにそう告げた。
「……」
バンデリックは、そう言われたので再びフィアナを繁々と見詰めてしまった。
そして、困惑した表情でマリザに視線を戻した。
「……」
マリザはそれに気が付いたので、肯定の意味合いで、無言で頭を下げていた。
「はぁ……、了解……」
バンデリックは、何とかそう言った。
事態が飲み込めない訳ではなく、いつも通り呆れていた。
とは言え、特に反対することはしなかった。
と言うより、取りあえず事態は改善されたと感じた。
尤も、バンデリックは、遠征が中止になる事を少なからず望んでいた。
だが、一方で、そうならない事も分かっていた。
ならば、せめて何か改善する策が欲しかった。
まあ、思っていたものとは全然違っていたが、これはこれで良しとするべきだろう。
そんな風に考えているバンデリックを他所に、サラサはフィアナの横を通り過ぎて部屋の外に進み出た。
そして、今一度部屋の中のマリザに振り向いた。
「マリザ、では、また」
サラサはそう挨拶した。
「緊急事態で会わない事を切に願っています」
マリザは、意外に険しい表情でそう言った。
「あたしもそう願うわ」
サラサはそう言うと、歩き出した。
バンデリックは、マリザに一礼するとサラサの後を追った。
「!!!」
フィアナは慌てるように、マリザに一礼すると、扉を閉めた。
そして、2人の後を追った。
流されるままにサラサ付きの産婆になってしまったフィアナだったが、自分が今やらなくてはならない事は理解しているようだった。
産婆なので、臨機応変に機転が利くのかもしれない。