その6
短いやり取りだったが、サラサは決断した。
鈍そうであるが、気を遣える娘だと感じたからだ。
サラサとフィアナ、やっている事に共通点は全くなかった。
サラサの容姿はろ……であり、フィアナは典型的な田舎娘だった。
容姿も共通点がなかった。
だが、サラサは、フィアナに自分に通じるものがあると感じたのだった。
……。
やり取りの後、短い沈黙が流れた。
サラサにとっては大した沈黙ではなかったが、フィアナの方は当然違った。
只でさえ、初めて目通りした上級貴族にジッと見られているのである。
緊張して当然である。
それをマリザは温かく見守っていた。
「フィアナ、あなたさえ、良かったらあたしに付いてきてくれないかしら?」
サラサは、微笑みながらそう言った。
「!!!」
サラサの優しい微笑みに、同性のフィアナはときめいてしまった。
(あれ……?何か、変な雰囲気?)
サラサは、フィアナの思わぬ反応に戸惑ってしまった。
ここは答えが返ってくるものだと思っていたからだ。
……。
そのお陰で、沈黙がまた訪れていた。
「フィアナ、お返事を」
見かねたマリザが、和やかにフィアナを諭した。
「ああ、はい!」
フィアナは、慌てながらも我に返った。
「ありがとう、フィアナ。
では、早速付いて来て貰いましょう」
サラサは更に笑顔になり、立ち上がった。
マリザの方は、うんうんと頷いていた。
(あれ……?)
今度は、フィアナが戸惑う番だった。
まあ、何も返事をしていないのに、そういう展開になったら、そういう反応は至極当然である。
「マリザ、迷惑を掛けてごめんなさいね。
でも、当分、こういう体制で行くわね」
サラサは、マリザにそう告げた。
「是非もなしですね。
フィアナの腕は私が保証します。
しかし、決して無理はなさらないでくださいませ。
サラサ様のお体は、決してご自身のものだけではないのですから」
マリザは、溜息交じりにそう言った。
事を進めてしまった以上、諦めざるを得ないと言った所だった。
「ありがとう、気を付けるわ」
サラサはニッコリとして、再び礼を言った。
マリザとは対照的に笑顔なのは、事が上手く進んだからである。
「では、失礼するわ」
サラサは、そう言うと、踵を返した。
「お気を付けて」
マリザは、そう言うと一礼してサラサを見送った。
そして、この件は幕を閉じないのである。
サラサは、扉の前まで行ったが、付いて来ないフィアナの方に振り向いた。
そこには固まっているフィアナがいた。
今更嫌とは言えないので、固まっていたのだった。
まあ、正直な所、嫌も応も決めていない状態だった。
「何か、気になることがあって?フィアナ」
サラサは、首を傾げながら質問してきた。
(気遣って下さっているのね……)
フィアナは、サラサに対して好感を持った。
そのお陰か、緊張が少し和らいだ気がした。
「いえ、申し訳ございません」
フィアナは、そう答えると自然にサラサの方に歩み寄った。
そして、扉を開けるのであった。
大丈夫かよ……。