その20
この辺は、夫婦になっても変わらない所なのかも知れない。
だが、イチャイチャしている時に、ノックの音がした。
「伯爵閣下、新艦隊が入港するとの事です」
ノック音の後に、扉番の兵がそう告げた。
それを聞いた2人は、もうそんな時間かと顔を見合わせた。
「すぐに、港に向かう」
サラサは、威厳ある口調でそう答えた。
「畏まりました」
扉番の兵は、そう返してきた。
「さてと、今日は色々とあるわね」
サラサはそう言うと、立ち上がった。
「ラロスゼンロに送る人材の方、どうします?」
バンデリックは、立ち上がったサラサにそう尋ねた。
「そうね、できるだけ早く旅立って貰おうかしらね」
サラサは、そう言うと扉に向かって歩き出した。
「了解しましたが、無駄になる可能性もありますね」
バンデリックは、サラサの先を行って、扉を開けた。
「まあ、それもそうだけど、こう言うのは早い方がいいしね。
先ずは図面から引く必要があるだろうし」
サラサは、そう言いながら扉を通って部屋の外に出た。
「まあ、いずれ、やる事になりますから、無駄になる事はないですな」
バンデリックは、そう言いながらサラサの後を追い、扉を閉めた。
「ま、そういう事ね」
サラサは、バンデリックに同意した。
今回、予算が下りなかったとしても、いずれは湖に戦列艦が必要になる事を見越しての動きでもあった。
一応、その辺の事まで考えているサラサであった。
「ラロスゼンロへ派遣する面々に、派遣準備に入るよう通達してくれ」
バンデリックは、扉番の兵の1人にそう頼んだ。
「了解しました」
頼まれた扉番の兵は、敬礼すると、小走りで伝達しに行った。
それを見送ったバンデリックは、先行しているサラサに小走りで追い付いた。
「今回入港する艦隊は、サラサの指揮下に入るとの事ですが」
バンデリックは、サラサに追い付くと、今行おうとしている用事に言及した。
「あくまでも形だけね。
基本的には、独立した艦隊よ」
サラサは、そう答えた。
「とは言え、5隻ですよ。
運用面に問題が生じると思いますが」
バンデリックは、問題点を指摘した。
「まあ、戦力としては少ないけど、丸っきりの新造艦を集めた艦隊よ。
訓練を考えると、最初はそれくらいで丁度いいでしょに」
サラサは、もし自分が任された場合の事を考えると、同情していた。
新兵の訓練は、流石のサラサでも頭を悩ませるようだった。
とは言え、サラサはまだ本格的な新兵の訓練を経験した事がなかった。
現在指揮している第2艦隊は、訓練された兵達を引き継いでいた。
「まあ、確かにそうですが」
バンデリックは、サラサの言い分に納得はしたが、
「しかし、ラロスゼンロの件にリンクするとは、なんともはや……」
と色んな事がリンクしている事にバンデリックは、複雑さを感じていた。
「まあ、仮にラロスゼンロの件が否決されたとしても、艦数が増えるのはもうちょっと先ね。
認められた場合、目処が付かなくなるかも知れないけど……」
サラサは、どちらにしろ、上手く入っていない気分になっていた。
当然、両方やれればいいのだが、予算上、選択肢が限られてしまっていた。
「確かにそうですね。
とは言え、第2艦隊が全力出撃した場合、残されるのは、今入港している艦隊のみです。
ワタトラ防衛には、かなり心許ないですな」
バンデリックは、次々と問題点を挙げていた。
別に、挙げたい訳ではないのだが、まあ、結果的にはそうなっていた。
「今まで、ほぼゼロだったのが、まとまった部隊が少しでもあるだけ、マシという事でしょうね」
サラサは、溜息交じりにそう言った。
バンデリックが挙げた問題点は認識しているが、どうしようもないと言った感じである。
「ま、そう言う事でしょうな」
バンデリックがそう言うと、2人は、館をちょうど出た所だった。
2人はそのまま、港へと向かって行ったのだった。
ま、世の中って、何事も100%満たされる事ってないよね……。