その7
……。
妙な点で合意したが、懸案の共通認識は持てなかった為、沈黙が訪れた。
(陛下は譲る気がないようだ……)
ラーデ侯は、国王の表情を見てそう確信した。
「……」
国王の方は、ラーデ侯の返事待ちで黙っていた。
(さて、困ったな……)
こうなると、話が進まない事をラーデ侯は、分かっていた。
確かに、外交交渉を始めるのは悪手ではない。
しかしながら、早急にやるべき事ではないと思っていた。
「やはり、それは第一優先事項ではないと思われます」
ラーデ侯は、取りあえず自分の意見をきちんと述べた。
「う~ん……」
国王は、ラーデ侯の言葉に唸っていた。
何で分からないかなあと言う意思表示であった。
だが、苛立ってはいなかった。
普段は、斜に構えているのだが、この辺は王座に就くには相応しい器量を示していた。
「侯よ、我の意見としては、貴公とは全く正反対な結論を出している」
国王は、淡々とそう話し始めた。
どうやら、順を追っての説明が始まるらしい。
「……」
ラーデ侯は、真逆な自分の意見を一旦押し殺す事にした。
「戦いというものは、国が滅びないように余力を残して行うものだ。
そう教えてくれたのは、そなたであるぞ」
国王は、笑みをたたえながらそう続けた。
「!!!」
ラーデ侯は、びっくりして、些か居心地が悪くなった。
その通りだったからだ。
とは言え、現状は、国王の言っている事とは違っているように、ラーデ侯は感じていた。
「まあ、総兵力の話をしている訳ではないんだ」
国王は、ラーデ侯が感じている点を察していた。
「と仰いますと?」
ラーデ侯は、勿体ぶっているような国王に堪らず尋ねた。
「シーサク4世は即位してから何年だったかな?」
国王は、思い出そうとして眉間にしわを寄せた。
「3年です」
ラーデ侯は、質問をはぐらかされたと思いながらも間髪入れずに答えた。
「そうだったな」
と国王は、ラーデ侯の言葉に頷いてから、
「彼はまだ若いし、在位期間も短いので、大きな実績がない」
と続けた。
真意はまだよく分からないので、ラーデ侯の表情は怪訝そのものだった。
「実績を残そうと、焦っているのは間違いがないだろう」
国王は、更にそう続けた。
(確かにその通りですが、それが何に繋がるのでしょうか?)
ラーデ侯は、取りあえず自分の疑問を心の中に留めた。
国王の様子からまだ語り終えていない事が明らかだったからだ。
この辺は、流石に元教育係であり、国王の事がよく分かっていた。
が、何が言いたいのかまでは全く分かっていなかった。
「シーサク王国は武断的性格を持った国家である。
その為に、軍事的な実績を残そうとするのは致し方がないのかも知れない。
だが、スワン島沖でワルデスク侯が息子共々討ち取られ、断絶状態である。
ラロスゼンロでは、ヒンデス侯が責任を取った。
そして、今回の責任者は後を継いだ息子のヒンデス侯。
失敗すると、2家目の断絶状態が生まれる」
国王は、今度は勿体ぶらずに、長々と説明をした。
(これから行われるラロスゼンロの戦いは、5分5分。
確かに、そんな危険な賭けをしている状況ではないな……)
ラーデ侯は、ジッと聞きながら考え込まざるを得なかった。
「13貴族中2家が機能不全となると、流石のシーサク王国も傾きかねないよな」
国王は、ジッと聞いているラーデ侯にそう語り掛けた。
「……」
ラーデ侯は、何とも言えない表情で黙り込むしかなかった。
「もし、我が国がこんな状況に陥る戦いを仕掛けるとしたら、貴公は、フンメル侯に何と言う?」
国王は、興味深げに問うてみた。
フンメル侯とは、メジョス王国の軍最高指揮官である。
「解任し、戦いを止めます」
ラーデ侯は、絞り出すようにそう言った。
誰でも、言い負かされるのは、嫌なものである。




