その25
とは言え、気にならない訳はないのであった。
サラサは、サラサなりに気にはしていたのだった。
まあ、自分の運命が変わるので気にしない人間はいないだろう。
(陛下の推薦は有り難い事だけど、有り難迷惑って側面が強いかしらねぇ……)
サラサは、書類と格闘しながらそう思っていた。
とは言え、傍から見たらいつも通りである。
(とは言え、ここまでトントン拍子に話が進むものなのかしらねぇ……)
サラサが、疑念(?)を持っていた。
国王の意思が示されたとは言え、戦争が間近に迫っている状況である。
そんな事を議論している場合ではないだろうという感じであった。
その辺、サラサの感覚はずれているのかもしれない。
人事というものは、そう言うものではないのである。
必要がある場合、いつ如何なる時も行われるものである。
とは言え、その辺の事が分からないサラサではない。
サラサは、自分の能力をそれ程評価してはいなかった。
いけ好かないヤツであるが、エリオの能力を散々見せ付けられているせいか、自分の能力を客観視していた。
そう言う事もあり、そんなに急ぐべき事ではないと考えているのだろう。
(あたしが、委員会に加わるメリットって何かしらねぇ?)
サラサは、この話が出てからずっとこれを考えていた。
そして、これと言ったメリットはないように感じられた。
意外にも殊勝である。
とは言え、客観的に本当のところ、見てどうだろうか?
正直言って、これは判断が難しいという問題ではなかった。
きちんとした戦略眼に乗っ取り、挙げた実績が何よりも委員に相応しい事を証明していた。
近年、サラサに匹敵する功績を挙げたものは皆無である。
そう考えると、国王の推薦は間違ってはいない。
ならば、すんなりと受け入れられるかというと、まあ、そこはそこ、それはそれである。
オーマとシルフィラン侯以外の4侯は、階級で並ばれた。
面白くないと思う輩も少なからずいるのは確かである。
だが、武人としての性格が強いのが6侯の特徴である。
功績を挙げたものを否定するのは武人としての誇りが許さなかった。
と言うものの、権力闘争や感情面から見ると、同意したくはない。
その辺の気持ちをどう折り合いを付けるかが、現在の会議の主題となっていた。
そういう思惑はともかくとして、サラサにとって面倒事が増えるだけではない点を挙げておこう。
サラサが、考えてはいるがあまり関心がない、と言うより、なんか嫌だなと思っているのは事実である。
それは、面倒事が増えると思っている時点で、明らかである。
(もし、委員会に入ったら、こう言った事が増えるのかな……?)
サラサは、目の前の書類が山になって積まれる事を想像していた。
オーマの執務室の机の上をそのまま持ってきた格好だ。
(ああ、面倒事は嫌だな……)
サラサは想像力を高めて、憂鬱になっていた。
だが、まあ、流石のサラサも気が付いていないようだった。
まあ、成った事がないので、仕方がない事ではある。
エリオが何故、サキュス沖海戦みたいな事が出来たのか?
それは、構想と実行できる権限を持っていたからである。
権限を持つという事は、戦略面の幅を広げられる。
それにより、戦術面で選択肢を多くする事が出来る。
そういう意味では、面倒事はさておいて、サラサが委員になるメリットは十分にあるのである。
そして、そうなった時、初めて戦略面での差を縮める事ができる。
この辺は、今後の変化として、現れてくる事だろう。
(やれやれ、浮かれる事なく、いつも通りか……)
そんなサラサを見て、バンデリックは呆れるように、頼もしく思うのだった。
とは言え、色々と考えている事は、当然気が付いていた。
そして、最後に、やっぱり面倒な事という結論に至っている事もである。