その17
「申し訳ない、全く事態が飲み込めていないのだが……」
マイルスターは、シャルスの説明にそう反論した。
まあ、無理もない。
これで、何が言いたいかが分かれば、エスパーである。
それに加えて、いつも冷静で的確な説明をするシャルスがこんなんだ。
不測の事態が起きている事はよく伝わってきた。
その為、そう反論したが、もの凄い緊張感を持っていた。
「マイルスター、お見合いしてみないか?」
エリオは、説明になしに本題を切り出していた。
如何に切羽詰まっていて、その解決の糸口をやっと見付けたと言う状況である。
無理もなかったのだった。
「はい……?」
マイルスターは緊張していたが、一気に脱力してしまった。
と同時に、更に困惑の表情を浮かべるのだった。
マイルスターにとっては至極当然の反応である。
予想外以上の案件が飛び込んできたからだ。
ただ、説明もなしに突っ込んでいくエリオが、アホなだけなのである。
流石に、稀代の策略家である。
やる時にはやらかしてしまう……。
「相手は、リーメイだ。
いいだろう?」
エリオは、当惑しているマイルスターが目に入らないのか、畳み掛けた。
あっ、でも、この表現は正しくはないか……。
とは言え、何と言っていいのだろうか?
それだけ、緊迫した間抜けな状況であった。
「待って下さい、待って下さい」
マイルスターが、取りあえずエリオに落ち付く様に、両の掌をエリオに向けながらそう言った。
「……」
エリオはマイルスターのそんなジェスチャーを見て、黙った。
冷静になろうとしていたのだろう。
「私にそんな気はありませんよ」
エリオが正気に戻ったとみて、マイルスターは少し安心しながらそう言った。
「何ですって!
リーメイの何処が不満なんですか!」
マイルスターの言葉に敏感に反応したのは、シャルスだった。
似つかわしくなく、大声を上げていた。
リーメイは、シャルスにとって大切な妹分。
軽くあしらわれたのだと思って、カチンと来たのだろう。
意外と、シャルスも身内になると人間味溢れている。
「いやいや、シャルス、落ち付いてくれ。
私は、そんな事は一言も言っていない」
マイルスターは、思わぬ側面攻撃に慌てていた。
傍から見ていると、マイルスターの言葉は全く正しい。
だが、そんな事は、今のシャルスには通じる訳ではなかった。
「総参謀長閣下は、今、リーメイは嫌だと仰ったじゃないですか!」
シャルスは、ヒートアップしていた。
「だから、私はそんな事を言っていない」
マイルスターも、シャルスに釣られてヒートアップしていた。
(あれれ?)
そんな2人をエリオは、呆気にとられて見ていた。
「私は、現在の地位が過分である事を承知している。
それに加えて、結婚なんて、考えられない!」
マイルスターは、自分の考えている事をぶちまけていた。
口調が珍しく荒々しかったので、ぶちまけるという表現になった。
「そんな事で、誤魔化さないで頂きたい!」
シャルスは、益々ヒートアップしていた。
シャルスは、マイルスターが逃げているとしか思えなかったからだ。
とは言え、まあ、これは2人の話が噛み合っていない事を示していた。
「まあ、2人とも落ち着け」
エリオは、2人の間を取りなす様にそう言った。
珍しく、総司令官らしく、威厳のある言い方だった。
「殿下!」
「殿下!」
マイルスターとシャルスは、エリオにそう怒鳴った。
うん、エリオの威厳なんてこんな物である。
と言うか、こういう雰囲気を作ったのは、エリオである。
したがって、2人の怒鳴り声がエリオに向くのは当然の結果であった。
流石の、稀代のやらかし家であるのだった。