その1
太陽暦537年2月、戦いの予感は満ち満ちているものの、その機はまだ熟していないようである。
なので、戦いの話ではない。
エリオは今年20歳、サラサとリ・リラは19歳になる。
この年頃となると、次世代に向けての仕込み(?)準備(?)実行(?)が始まっていなくてはならない。
というか、無事、始まってはいた。
本人達に自覚があるかどうか分からないが、それが自然の摂理である。
当然、怠け者のエリオは公私ともに忙しくなっていた。
本人は、無駄に忙しくなったと感じているが、いずれも必要な事である。
その自覚を持ってほしいと周囲は思っているが、まあ、放っておいてもやる事はやっているので、何も言わない事にしていた。
言うと底なし沼に嵌まるからである。
なので、誰もが避けている。
とは言え、当然、例外は1人だけいる。
それは言うまでもないだろう。
その人物だけの言う事は絶対であり、当然、逆らえない。
まあ、それは単なるノロケなのだろう。
エリオは、取りあえず、これまで感じなかった感情に支配されるのだった。
たぶん、幸福というものなのだろう。
そんな中、惣領としては、その幸福のお裾分けをしなくてはならないようだ。
ジャンケンに勝ったサキオが、エリオの立ち会いの下、年末に、結婚式を挙げた。
そして、次に、年始にジャンケンに負けたマキオが、エリオの立ち会いの下、結婚式を挙げた。
ジャンケンに関しては、エリオ立ち会いの下、壮絶な駆け引きがあったのは言うまでもなかった。
そんな壮絶な戦い(?)の後に、まだ、案件があった。
シャルスの結婚式であり、それを今月、エリオの立ち会いの下、行ったのだった。
こうして見ると、流石のエリオも自分のせいで、周りに多大な迷惑を掛けていた事を自覚せざるを得なかった。
(いや、疲れた、疲れた……)
エリオは、1人執務室で机に突っ伏してだらけるのだった。
既に陽は落ちていたので、エリオがだらけていても誰も注意しなかった。
まあ、部屋には誰もいなかったのだが……。
なので、目一杯サボり、開放感に浸っていたかった。
だが、そこはそこ、ボケラッとしていたいのだが、直ぐに色々な思考が頭の中を駆け巡っていた。
サボりたいはずなのに、いつの間にか、そうなっていない。
そういう人間を、人は間抜けと言う。
(やっぱり、俺って、こう言うのは向いていないなぁ……)
エリオは、憂鬱になっていた。
3つ結婚式の事を思い出していたのだった。
惣領なので、立会人を務めていた。
つまり、自分の時の宮内庁長官ローア伯の役割を果たしていた。
それは、当然の義務として執り行った。
しかし、何だかしっくりこないまま終えていた。
まあ、何か、やらかしたとかという事は全くなかった。
寧ろ、2組からは感謝感激のお礼を言われた。
他の1組からは、まあ、普通に感謝されてました。
それらに対して、何だか居たたまれない気分になっていた。
エリオの性格から言うとそれは無理もないだろう。
(オヤジなら、もっと上手くやれたのだろうな……)
エリオは、久しぶりにサリオを褒めていた。
あっ、勿論、父親として尊敬していた事は事実である。
だが、仕事を押しつけてくると言う存在であり、その辺は忌ま忌ましさを覚えていた。
だが、こう言った華やかな儀式の場合、サリオは盛り上げ上手だったのは言うまでもなかった。
(それに比べて……)
エリオは、そう考えると落ち込んでいく一方だった。
サボれているこの状況、もっと楽しめばいいのだが、まあ、こう言った性格だから仕方がない。
それに、誰もエリオに盛り上げ役など期待していないのである。
その辺が今一分かっていないのかもしれない。
一族の暮らしぶりは、サリオ時代よりエリオ時代の方が遙かに安定していた。
なので、大いに喜んでいるのだった。
だが、エリオには、一族のそう言った望みを理解しているとは言い難かった。
とは言え、それは、エリオだけが分かっていないだけではない。
人は意外と期待されていなかったり、自分では全く気付かない所を評価されたりしているものである。
なので、人生はままならないのかも知れない。