その11
正しく、中心点にいるサラサである。
そして、中心点にいると、却って身動きが取れないという状況である。
サラサ達の身柄を巡って、交渉が繰り広げられているからである。
とは言え、そのサラサは、その交渉の場には、一度も出ていなかった。
当然である。
査問や裁判ではないので、本人が出て行く必要がないからだ。
と言うか、出て行ったらとんでもない混乱が生じるだろう。
想像してみると、アホみたいな地獄絵図が思い浮かぶ。
サラサとバンデリックは、法国駐在バルディオン王国大使館の中にいた。
各国の大使館は、それぞれの国が警備を担当している。
そして、その周りを教会の僧兵達が各国の大使館を警備している。
と同時に、その僧兵達は、各国の大使館からの出入りを厳しく監視している。
その為、法国内では騒乱が起きにくい状況である。
まあ、要するに、サラサ達は安全な所にいるという事である。
とは言え、サラサは大使館外には出られないので、意外に時間があった。
なので、暇を持て余していた。
そう言う事なので、サラサは、バンデリックの看護を全力で行う事となった。
そうなると、落ち着かないのはバンデリックである。
普段は、逆の立場(?)だからだ。
逆の立場というのは、おかしな表現ではあるが、まあ、伝わる人には伝わるだろう……。
「あのぉ……、お嬢、じゃなかった、閣下、常時付いて頂かなくても……」
バンデリックは、落ち着かないといった感じで、ついつい口に出してしまった。
言った後、しまったと思ったが、後の祭りである。
キィッ!!
言い間違えそうになった事と合わせて、サラサに睨まれた。
ビクッ!!
バンデリックは、怪我が増えそうな予感に襲われた。
とは言え、サラサが手を出す訳がなかった。
……。
なので、平穏ではない、妙な沈黙が訪れてしまった。
「閣下、お忙しいでしょうから……」
バンデリックは、沈黙に耐えかねてそう口を開いた。
無論、目が泳いでいた。
「忙しそうに見える?」
サラサは、机に向かいながらそう応えた。
「……」
バンデリックは、この場の空気に耐えきらなく、真実ではない事を言ってしまったので、黙る他なかった。
そして、何もかも終わったかのように、天井を見上げた。
サラサの方は、気にせずに、机に向かい続けた。
机には、報告書の他に、戦史に関する本、科学技術に関する本などがあった。
勉強しているようだった。
時間を有意義に使っていた。
まあ、他にやることがなかったのもあったが、この機会にと、始めた勉強だった。
勉強は兎も角、今のサラサには、外部に対して能動的に動くことは出来ないでいた。
騒乱の中心人物が、出歩く訳にも行かないし、意見を言うことさえ出来ない。
となると、大使館に閉じこもる他、手段がなかった。
そうすると、まず第一にやることとなると、バンデリックの看護である。
それでも、空き時間があり、その時間に勉強しているのだった。
看護対象のバンデリックは、当然ながら落ち着かない。
サラサとバンデリックの関係から、さぞかしぞんざいに、あるいは尊大な態度で、扱われている事を想像するだろう。
その通りといいたい所だが、サラサは看護には結構慣れており、意外にも的確な看護が行われていた。
何で慣れているかは、ここでは多くは語るまい。