その14
「ワタトラ伯サラサ閣下がいらっしゃいました」
国防委員会の会議室の門番が、ノックとと共に、中に向かってそう言った。
ほんの一時、サラサ、バンデリック、門番は、待たされた。
がっちゃ……。
扉の開く音がし、ゆっくりと会議室の扉が開かれた。
「どうぞ」
中に居たシルフィラン侯の幕僚の1人がが扉を全開にすると共に、一礼してサラサを向かい入れた。
「ありがとう」
サラサはそう言うと、扉を通り過ぎて中に入った。
それにバンデリックも続いた。
「ワタトラ伯サラサ、参りました」
サラサはそう申告すると、敬礼した。
バンデリックもサラサの斜め後ろで同時に敬礼した。
「ご苦労。
陛下への挨拶は済んだのだな?」
中に居たオーマが答礼しながらそう言った。
「はい、恙なく」
サラサは、敬礼したままそう答えた。
「うむ、よろしい」
今度は、オーマではなく、隣にいたシルフィラン侯が答礼を解きながらそう頷いた。
それと同時に、オーマも答礼を解いた。
答礼を解かれたのを確認すると、サラサも敬礼を解いた。
(侯爵は2人だけ……ね)
サラサは、目だけを動かして状況を確認した。
まあ、こう言う時に、首を振ってキョロキョロとする訳には行かないだろう。
一応、気を遣っていた。
そんな事をサラサが思っているうちに、爵位持ちの3人の幕僚達が、サラサの敬礼が解けたので、同時に、自分達の敬礼を解いていた。
「まだ、正式に決定した訳ではないが、貴公の席は、そこだ」
シルフィラン侯は、右手でサラサの席を示した。
それは、委員の末席で、入口に一番近い場所だった。
「……」
サラサはそう言われて、無言で、その席を見詰めた。
特に、感想があった訳ではなかった。
予想してなかっためまぐるしく変わる状況に付いていけないだけだった。
(珍しいものばかり、見せられるな……)
バンデリックは、気付かれないように苦笑していた。
思わぬ展開もそうだが、サラサの反応も一々面白く、新鮮だった。
とは言え、これは、サラサの身に危機が迫っていないと断言出来る状況だからこう思っていられるのだろう。
「どうぞ、掛けたまえ」
シルフィラン侯は、動こうとしないサラサに席に着くように促した。
彼にしてみれば、遠慮しているように映ったのだろう。
それは、彼のサラサに対する評価でもあった。
「はっ」
サラサは一礼して、了解した。
そして、ゆっくりと自分の席に着いた。
その傍らに、バンデリックが立ったのは言うまでもなかった。
(そう言えば、一度、会議に出席したわよねぇ……)
サラサは、もう遠い記憶を思い出していた。
セッフィールド島沖海戦の前の出来事だった。
(あの時は、机なしだったが、今は、あるのね……)
サラサは、何だか違う世界に迷い込んだ気分になっていた。
(やれやれ……)
バンデリックは、サラサが何を考えているかは分からなかったが、碌でもない事を考えている事は分かっていた。
「話が前後してしまったが、陛下が仰っていたと思うが、ワタトラ伯、貴公を国防委員会の会議の出席者として認めようという話が出ている」
シルフィラン侯が、現実に戻ってこないサラサを引き戻した。
(そうは言われても、あたしとしては答えようがないのだけど……)
サラサはそう思いながら、答えに窮していた。
「貴公が、この件に関して、何か意見する事は難しかろう……」
シルフィラン侯は、サラサの心情を理解しているのだろうか?
「!!!」
サラサは、心を読まれたと思い、ドキッとしていた。
そんなサラサの様子を見て、バンデリックはやれやれと思うのだった。
まだ、何か、やらかしていない分、マシなのかも知れない。
とは言え、シルフィラン侯は、サラサの心情を読み取ったというか、一般的な人間の反応を読み取ったに過ぎなかった。
彼は、成る手揃いの国防委員会の議長なのだから、この手の事は得意であった。




