AIonline 7 衝突
馬車に乗りながら外の景色を見ていると人が少ないのがよくわかる。
この城郭都市の規模からすると人口は最低でも10万人以上はいると思う。
なのに武器屋や防具屋どころか飲食店まで閉まっている。
人が少ない理由を考えているとフランギースさんが
「街の人達を見ていたんですけど、成人している男性がやけに少ないですね」
確かに子供や女性はよく見るけど男性は殆ど見ていない。
「参謀の俺から言わせてもらうと、この街で何かが起こっている」
馬鹿のマモルが答えになっていない言葉を吐き出した。
みんな無視だ。
「お城に行ったら何か分かるでしょう。念のために戦える準備はしておきましょう」
フランギースさんは参謀よりもリーダーに向いているみたいだ。
数分して城に着くと馬車でここまで来たプレイヤー全員を謁見の間に通してくれた。
城自体が大きい事もあり謁見の間は広く一番奥には玉座が設置されていた。
兵士と騎士が数十人おり文官も数名いた。
この中に誰かプレイヤーはいないか確かめると、宰相の名前だけが理解できる事が分かった。
【宰相】GMイノウエと今の役職まで分かった。
他のプレイヤーも宰相だけこちらの人間だと言う事がわかったみたいで少しざわついてきた。
「みなさん静粛に。これより国王が来られます」
皆が静まった頃に国王が奥の扉から登場した。
国王は鎧姿であったが薄汚れておりいたる所に黒いシミをつけていた。
国王は玉座に座りもせず立ちながら話し始めた。
「戦士諸君、遠路はるばるようこそおいでくださった。わしがガラディア国国王メテウス3世である」
偉丈夫という言葉がこれほど似合う男はいないだろう。
歳は取っているが魅力に溢れている。
いや、年を取っているからこその魅力と迫力があるのかもしれない。
俺はそんなに人を多くは見ていないが、一目見て只者ではないと思ったのは初めてだ。
「時間がないので本題に入る。今この国は戦時中だ。オーク軍が北の砦に攻め入り応戦している最中だ。諸君らは南のゴブリンをけん制して頂きたい。以上!わしはこれより戦場に戻る。イノウエ!後は任せた」
「仰せのままに」
それだけ言うと国王は去っていった。
「私が宰相のイノウエだ。これから君達にはこの街を拠点に活動してもらう事になる。国王や国の重鎮達には話を通してある。まず、この国は様々な種類の亜人たちに包囲されている。国王が言われたように北にはオーク軍が南にはゴブリン族がこの城を目指している。北は今、我々ガラディア軍が交戦している。東や西にも軍を配置しているが南には十分な人員を配置できない状況だ。そこで君達にゴブリンの数を出来る限り減らしてもらいたい。あやつらは馬鹿だが性格は残忍で有無を言わさず人族に攻撃を仕掛けてくる。もちろんタダ働きをしろと言っているのではない。殺したゴブリンの右耳と貨幣を交換しよう」
ゲームでよくあるやつだ。
敵の体の一部と金を交換。
エグいしグロすぎる。
横でマモルがやっとゲームらしくなってきたと騒いでいる。
「少しいいだろうか宰相殿」
宰相に近い位置にいる騎士が進み出てきた。
「私の名はガラディア国第2騎士団団長アーノルド=ロス。宰相殿が以前から話しておられた戦士達を見て私は失望しております」
「どういう意味だねロス殿」
「どう見てもこの者達は戦える人間ではないでしょう」
まあ、当然でしょうね。
ここにいるプレイヤーのほとんどが年を若く設定しているし、このゲームではまだ誰も戦っていませんから。
図星で何も言えないです。
「見てください!この者たちの装備を。持っている物が全部新品ではないですか?」
ロスがプレイヤーの近くまで来て武器を確かめている。
「武器を使った形跡がない。それに年齢の事はいいたくはありませんがほとんどが若者だ。これではこの者達を死にに行かせる様なものです」
心配してくれているのか侮っているのかよくわからないが面倒な事になったな。
GMはどう切り抜けるんだろう。
「おっさん、グダグダうるせえんだよ」
声の方を見るとプレイヤーが発言したみたいだ。
人混みをかき分けて金髪の無手の男がロスの近くまで来てガンを飛ばしている。
金髪の男の行動はまるで不良みたいだ。
「君の名は?」
「ガント。一戦やったらわかるだろ?今からやろうぜ」
こいつは誰かと戦いたくてウズウズしていたんだな。
危ない奴だ。
「失礼だが、ガント君。私が君と戦う理由はあるのかな?」
「そういえばそうだな」
ガントは帰る素振りを見せて一回転して下段の足払いをロスにかけた。
ロスは背中から派手に転び、謁見の間にガチャンと鎧の音が派手に鳴った。
辺りは静まり返っている。
「これでやる理由が出来ただろ?間抜けな団長さん」
「貴様!」
ガントはロスから少し離れた。
「速くその剣を抜けよ。攻撃しやすいように少し離れてやったぞ」
ロスは声にならないほど怒っている。
周りの兵士達も徐々に殺気立ってきた。
素早く起き上がり剣を抜くと剣を構えジリジリとガントに近づいていった。
「皆の者、手を出すなよ。これは一対一の決闘だ」
ガントは両手を構え軽くステップを踏んでいる。
「お前らも手を出すなよ。こいつをボコボコにしてやる」
ロスはガントとの距離が一定になるとそこから一歩も動かなくなった。
「あのガントって人、KAGEKIの四天王のガントじゃないですか?」
フランギースさんはガントの事を知っているみたいだ。
「知ってんの?あの人」
「直接の面識はありませんが有名人ですよ。KAGEKIという格闘に特化したVRがあるんですけど、そこで四天王といわれている人です。その四天王は全員プロのゲーマーです」
「あのガラの悪いのがプロねぇ~。世も末だね」
「一匹狼で知られている人で派閥に入っていないのに四天王と言われているんです。実力は確かです」
フランギースさんは物知りだな。
「俺達はVRの事をよく知らないんだけど凄い奴なんだな」
こんなに喧嘩っ早かったらそりゃ一匹狼になるでしょ。
今も戦わなくても何とかなったかもしれないのに。
これからのプレイヤーの印象が悪くなりそう。
「それにしても両者とも全然動かねえな。おい!高い金払ってんだからさっさと戦え!」
お金も払ってないし試合を見に来ているんじゃないんだから意味不明な野次は飛ばさないでくれ。
するとその野次に触発されてかガントが動いた。
軽いジャブのようにしか見えなかったがロスは避けれず、顔にパンチを食らい鼻血を出していた。
それからの試合は一方的だった。
ロスが顔の攻撃に気を取られているとボディーを狙われ、ボディーに気を取られていると軽いジャブで顔にダメージを受けていた。
ガントとロスの動きが圧倒的に違う。
ロスが剣を振りかぶり振り下ろすまでに、ガントは懐に入り攻撃して剣の射程外に出る。
人間技じゃない。
ロスは攻撃と防御の歯車が合わず、どんな行動を起こしても裏目裏目に出ていた。
ボディーも鎧越しなのにダメージが通っているみたいで、ますますロスの動きが悪くなり肩で息をし始めた。
あまりにもダメージが蓄積されて焦ったのか大振りな攻撃をしてしまった時、それを狙っていたかのようにガントは低い体勢からタックルを決めロスを倒すことに成功した。
受身もできず背中から倒されたロスの鎧の音が辺りに響き渡った。
そしてロスの剣が床を滑る音がした。
「2回目だな倒されるの。でも、これで終わりだから」
ガントはすぐに馬乗りになりロスの顔面を力一杯殴り続けている。
両手で防御していたロスの手が次第に動かなくなり完全に気絶している状態でもガントは殴り続けている。
「ありゃやばいな。ちょっと止めてくるわ」
マモルが2人のもとに近づいてガントを止めようと腕を掴むとガントは立ち上がりマモルが殴られた。
「邪魔するなって言っただろうが!!」
マモルが口を押さえ戻ってきた。
「痛い…。口切れた…」
マモルさんそれ口から出ている血じゃなくて鼻から大量出血している血です。
フランギースさんが回復職の人を探して連れてきてくれた。
魔法で回復してもらうとマモルは俺の方を見てこう言った。
「俺の仇を取ってくれ」