AIonline 4 マネー
帰宅し早々に吉田に電話することにした。
「もしもし、吉田か?」
「おう。お前から珍しいな。何かあったのか?」
「俺、テスター辞めるわ」
「おい、ブラザーそりゃねぇぜってマジで言ってんの?」
俺は今日あった出来事を話した。
綺麗な子には不審者扱いされイケメンガードマンにはかっこつけと思われ、医者のどうでもいい話につき合わされた事を。
「全部お前の妄想じゃねーか。誰もそんな些細なこと気にしてないって。医者は、まあ残念だったな。俺なんか普通に歩いてたら前にいた小学生に防犯ブザーを鳴らされて周りの大人に取り押さえられた事あるぞ」
「俺がもしお前だったら恥ずかしくて、街歩けねーよ」
「え。何でそこマジなトーンで言ってるの!?笑う所だろ!」
「いや、それは友達でも笑えないよ…」
「馬鹿野郎!それはお前を楽しませるために盛った話をする俺の親心だろ」
ブラザーになったり親になったり忙しい奴だ。
「まあ、その話は置いておいて」
「まてまて。お前から切り出した話だろ。嫌になるぜブラザー」
吉田の事は無視して先を進める。
「前から聞きたかったんだけど明は誘わなかったのか?」
久楽明。俺と吉田と久楽は幼稚園から中学卒業まで一緒に遊んでいた仲だ。
「誘ったけどあいつ断りやがったんだよ。今、彼女に夢中らしいぜ」
久楽明はモテていた。それも半端なく。顔はイケメン、性格は優しい、スポーツ万能、頭脳明晰、家は金持ちとまるで女性の理想の塊のような男だ。数多の女子に告られていたが俺達といるときは返事に応じていなかった。今は好きな子ができたんだな。
「じゃあ、祝いの言葉でも言ってやったか?」
「言うわけねぇだろ!言ったのは呪いの言葉だよ。もうあんな奴とは絶交だ。絶交!!」
小学生じゃないんだから。
「悔しいのか?」
「くやしぃぃぃぃ!!俺も彼女欲しぃぃぃ!!!」
「じゃ、またな」
と言って電話をすぐに切る。これ以上関わると面倒なことになりそうだ。
話を聞いてくれたから、ありがとうのメールだけ打っておこう。
俺、テスター頑張るよ。
お前と話すとなんか元気出るわ。
数日後、またチャットルームが開くと告知があったので参加する事にした。
すると右下の数字が200まであったのに195までしか表示されていなかった。
GM(オカモト)>ども。GMのオカモトです。みんなはじめまして!よろしく!発言権解除
他のメンバーも挨拶しているので俺も挨拶だけしておく。
168>よろしくお願いします。
36>よろしくでござる
22>よろしくにゃにゃにゃ
ござるとネコは今日も参加しているみたいだ。
それにしてもGMのノリが軽いな。ハラさんはどうしたんだろ。
GM(オカモト)>ハラさんはお腹ピーピーの為、お休みです。今日はそんなに時間ないからガンガンいくぜ
腹痛の件でみんなに笑われてる。
絶対適当に作った話だろ。
可哀想だなハラさん。
俺としてはちゃんと説明してくれたらどんな人が来ようが構わないです。
GM(オカモト)>気づいちゃってる人は気づいちゃってると思うけど、αテスターが200人から195人に減っちゃいました。これは僕達の会社が君達の家に刺客を差し向けて殺したんじゃないから安心して下さい。みんな生きてまっす。
そんなの分かってるよ。どんな会社だよ。
GM(オカモト)>辞退した理由は色々あるんだけど、主な理由を発表します。それは、いくらゲームでも人と同じような感情を持った者達とは戦えないという事みたいです。
理解できる。俺も本当に無理そうだったら辞退するのを考えないとな。
GM(オカモト)>理由はもっともだと思うよ。こう言っちゃ何だけど、僕もモンスターと戦えないからね。
なんで戦えないんだろ。
何かトラウマがあるのかな。
詮索しないでおこう。
GM(オカモト)>僕の場合は単純に戦うのが怖いんだよ。まだテストも始まっていないし、状況が分からなくて驚かせているかもしれないけど、この先、そんな人達は出てくる。だから無理だと思ったらテスターを辞退してくれていいよ。恥ずかしい事じゃない。このゲームは人を選ぶんだ。しかし、このゲームは面白い。1回やると抜け出せなくなる面白さだ。それは断言できる。僕は戦えなくても毎日ログインしているからね♪
ドキドキする言い方だな。俺は大丈夫だろうか。
GM(オカモト)>ここで嬉しい発表だ。
GM(オカモト)>ダララララララララララララ
どうしたのGM。おかしくなっちゃったよ。
GM(オカモト)>ジャン!このゲームはリアルマネーを稼げるんです!
ドラムロールかよ。ていうか、みんなドン引きだよ。怪しい集会に連れて来られた気分だよ。
GM(オカモト)>言い方が悪かったかな。遊んでいても報酬が出る可能性があるゲームだと言うことなんだ。
100>それってどのようなシステムなんですか?
武器とか装備を現実の金でトレードできるのをシステムに組み込んでるんじゃないの?
その方法は難しいよ。
色々と問題点がありそう。
GM(オカモト)>それでは説明しよう。プレイヤーがゲームに入ることでAIたちは刺激を受け成長する可能性がある事は前にも言ったと思う。それはプラスにもマイナスにもなると予想される。この世界の住人は必死に生きている。それゆえ僕達が知らないような技術、聞いた事もない音楽、見た事もないような物語が生まれる。それは現実世界に生かされるんだ。つまりは君達がこのゲームで真剣に遊ぶことによって、現実世界に貢献できる可能性があるんだ。
100>途中にすみません。世界に不利益な事をすると損害賠償金を請求される事はあるんですか?
GM(オカモト)>それは絶対にないよ。通常のプレイではこちらから報酬は出ても損害賠償を求める事はない。
100>例えば、街中の人を殺しまわっても罰を受ける事はないんですね。
物騒すぎるぞ。
GM(オカモト)>我々は関知しません。ですがその街の住民は黙ってないかもね。
多分、そんな奴が出たら他のプレイヤーも黙っていないだろう。
GM(オカモト)>話を戻すね。例えば村に疫病が流行ったとします。その病気は現実世界に実在し治療できない病原菌だとします。もしゲーム内で治療薬が発明されれば、将来その治療薬は現実世界にも役立てるかもしれないと言う事です。現実世界で作ることが出来たら莫大なお金が振り込まれる事でしょう。まあ、そんな事は滅多に起きないので気にしなくていいです。一番多い可能性はプレイヤーが物語を紡ぎ、出版や配信する方法だね。
お金目的でゲームをする人は増えそうだな。
でも、薬や人の役に立つ物を生み出せる可能性があるのは夢があるな。
GM(オカモト)>はっきり言えば、このシステムは後付けなんだよね。正当な報酬があると燃える人も多いから。まあ最初はゲームを純粋に楽しんでくれると嬉しいんだけど。あと、当然の事ですがプレイヤー間で現金やそれに準ずるものの受け渡しは規約違反ですから注意して下さい。RMTは禁止ということです。報酬が発生するのは我々の会社からのみです。そして、ゲームが始まる前に口座を作っておいてください。お金は必要ないですという人も中にはいると思うので、その方は振り込み口座番号を入力しなくても結構です。ゲームは始められます。あと、テスターの報酬は手渡しで行います。
GM(オカモト)>最後に、2~3日後に健康診断のメールが行くと思います。異常がない方はすぐにテストを開始できると思うので楽しみにしていて下さい。第二の人生が待ってますよ。それではお疲れ様でした!