AIonline 3 診断
チャットが22時前に終わり、今日の事を考えていた。
世界が敵に回るってどんな状況なんだ。
全てのAIから狙われるって事なのかな?まあ、そんな状況になってまでゲームを続けてはいないだろう。
そういえば、簡易AI作成シートをダウンロードしないといけなかったんだ。ダウンロードしている間に吉田にメールでも送っておこう。あいつの意見も聞きたいからな。
数分後返信が返ってきたが、チャットルームには参加しておらず、家族で外食していたみたいだ。
重要な発言があったので見ておくようにとだけ書いてメールを送信。
意見が聞きたかったのに、まったく役に立たない奴だ。
簡易AI作成シートをダウンロードし実物を見ると、TRPGのキャラクターシートというより履歴書に近いキャラクターシートという感じだった。能力値を書く欄が一切なく、容姿も文字で表現しないといけないようだ。
難しいな・・・。
3Dモデリングでキャラを作るのだと思っていたがどうやら違うようだ。
チャットルームといいキャラクターシートといい不思議な事をさせる会社だな。
俺は3つの簡易AI作成シートを作るために、空欄を埋めていく。
どんなキャラクターを作るかは大体決めてある。
まずは人族の男性。騎士の家系でまだ若く修行中の身としておこう。
次にエルフの女性。
御淑やかで弓と魔法が得意。
最後に獅子獣人の男性。
正義感が強く高潔な人物にしておこう。あとは身長や体型と年齢、性格や子供の時にどのような出来事があったか、設定が無茶じゃない範囲で書いておく。
重要なポイントは書き終わったけど、本当にこんなのでAIができるのか?
テスターになってからずっと疑ってるよな。
それでこの簡易AI作成シートをどうすればいいんだ?
αテスター用のサイトにログインして調べて見る。すると、ハイアースに誕生させる前にテキストワールドと言う仮の世界でどのような人物に育つかシミュレートしてくれるのかが分かった。
注意書きに、ハイアースで誕生させると設定が違う場合がありますと書いている。
あまり期待できないが他にやる事もないしシミュレートしてみよう。
ネット上にあるテキストワールドにインポートしてみると、テキストファイルが3つ表示された。
そこには自分が書いた獅子獣人の体格よりも少し大きく修正されており、エルフの性格が御淑やかから御転婆に変更されていた。
なんだよバグってるのか?
何回試してみても結果は変わらず、他の設定を少し変えても御転婆のままだった。
どうしようもないのでこのままの設定で行くことにした。
程度にもよるけど、どれほど御転婆なんだろ。
上手く喋れるかな。
心配は尽きないな。
簡易AI作成シートは健康診断のときに提出するらしく、携帯にダウンロードしておく。
日曜日。
家の最寄り駅から2駅目で降りて携帯で検索しながらテラルーム支社を探す。
歩いて5分程でその建物は見つかった。
凄く広いし誰もいない。
想像していた建物とぜんぜん違う。
俺はもっと小さく怪しい建物の中にあるのだと思っていたが、この建物全部がテラルーム支社らしい。
まるで大型ショッピングセンターだ。
駐車場は100台は駐められる程の広さで5階建ての造りのようだ。正面玄関は閉まっているみたいでどこから入ったらいいのか分からない。
正面玄関付近に行き携帯で検索しようか迷っていると裏のほうに入っていく人陰が見えた。
裏口があるのかな?
まあこんなにも大きい建物だと出入り口は多いだろうな。
携帯で検索しながらその人に付いて行く事にした。
ここに来るぐらいだから関係者かテスターだろうと当たりをつけて、見失わないように少し駆け足で追う。
後姿からすると女の子みたいだ。
少し歩くと女の子は俺に気付いたみたいでチラッと後ろを振り向いた。
俺と同い年ぐらいで可愛いと言うよりも綺麗な顔立ちの女の子に見えた。
女の子は俺を確認すると少し足早になった。
ちょっとショック。
俺、不審人物に見えたのかな。
こんな人気のないところで後ろから付けられたら俺だって気持ちが悪い。
反省。
もし社交的ならこの距離からでも「おーい。ここで健康診断やってるみたいなんだけど君知ってる?」とか言えるんだけど、と妄想している内に建物内に入っていった。
裏口かと思っていたがこっちも正式な出入り口なんだろう。
テラルーム関係者・テスター様と看板が立ててある。
入り口は透明な自動ドアで中が丸見えで、さっきの女の子がガードマンらしき人になにやら話をして奥に入っていった。
一瞬、変な男の人につけられてるんです、とかガードマンに言ったのかと思ったがそうではなかったようだ。
セーフ。
自動ドアを通りガードマンにテスターに当選したメールを見せ通ろうとする。
するとガードマンは前に立ち塞がり
「すみませんがお名前とご年齢の確認をさせてもらっているので…」
と申し訳なさそうに言ってきた。
「と、とうじょうかつたかです。17さいです」
俺はもうパニックだ。メール見せただけで通れるわけないよね。確認必要だよね。もしかしてメール見せなくてもよかったのかな?この人に、何かっこつけてメールだけで入れると思ってるんだよとか思われてないよね。
「この端末から当選メールをスキャンしてください」
や、やっぱり当選メールは必要だよね。
「確認しました。どうぞお通りください」
「あい」
もう駄目だ。はいって言おうと思ったのに、あいって…。恥ずかしすぎる。久しぶりの外出がただ醜態をさらすだけだなんて。
「東条さん」
ガードマンが俺を呼んでいる。また何かやっちゃったのかと思って振り返る。
「これ、テスター全員に配っている冊子なんです」
「す、すみません」
「5階で健康診断をやっているみたいだから。右の突き当たりに階段があるからそこを使って下さい」
「あ、ありがとうござます」
冊子を渡そうとしているのも気付かないなんて。
こんなことじゃ駄目だ。
気をしっかり持て俺。
気分転換に冊子を読みながら5階まで行こう。
冊子を読み進めると、やはりここは将来大型ショッピングセンターになる予定らしい。
この建物全てがテラルームが所有していて自宅でAIONLINEができない人達にこの場所で遊んでもらう計画らしい。
1階から4階までは他の企業に貸す予定みたいだ。完全にテラルームをなめていた。
凄い資金力だ。
5階に着くと、壁や天井、床にいたるまで真っ白だった。
広い空間で受付のようなものが設置されていて女性2人がそこに立っていた。
2人とも美人だ。
この敷地内は美人しかいないのか。
今思うとあのガードマンもイケメンだった。
そうなると中の下良くて中の中の俺はここでは異端なのか。
受付に近づくと
「いらっしゃいませ。テラルーム支社にようこそおいでくださいました」
と軽くお辞儀をされた。
「お、おう」
変な声が漏れてしまった。
「AIONLINEの当選メールをご確認させていただいております」
俺は素早く携帯を取り出しメールを見せる。
さっきまでの俺とは違う。
言われた事しかしない。
即行動。
すると平べったい棒のような物を取り出し携帯にかざした。
あれでメールをスキャンしているようだ。
ピピと電子音が鳴った。
2回確認するのか。
思ったより厳重だな。
「ご確認いたしました。東条勝隆様ですね。こちらの書類のほうにサインをお願いします。この書類は契約書になっております。」
一通り文面を見てみる。
まあ、要約すると期間中は人に話すなという事だろう。
書類にサインをして渡す。
「念のためにご確認しますがアルバイトが可能な高校ですか?」
「はい。確認してきました」
やっと普通に受け答えできた。
「簡易AI作成シートのご提出をお願いします。この機械にかざしてください」
と直径10センチの丸い球体を取り出してきた。
簡易AI作成シートを呼び出し機械にかざす。機械音がピピっと鳴った。
「では、健康診断はあちらの2番のお部屋にお入りください」
そこには1番から順番に5番までの部屋が並んであった。
「ありがとうございます」
と礼だけ言って2番の部屋に入る。
部屋は簡易診察室みたいな所だった。
臨時で作ったのだろう。
そこには男性の医者が座っており傍らには女性の看護師が立っていた。
男性の医者は見た目は50代以上で太っていた。傍らに立っている看護師さんは美人だった。
「そこに座ってください」
と医者に言われた。
緊張してそわそわしていると医者の机にフォトフレームが飾られているのを見つけた。それを見ていると医者が
「マイファミリー見る?」
と言ってフォトフレームを渡してきた。そこには目の前の医者と傍らに立っている女性看護師と子供が4人写っていた。医者は親指をクイッと上げて女性看護師を指しながら言った。
「マイワイフ」
その言い方腹立つ。
そして俺の顔からは一切の感情が抜け落ちていた。
彼は医者で綺麗なお嫁さんと可愛い子供達に囲まれているのに、俺はさっきあった綺麗な子に不審者扱いされ(正確にはされてないけど)、イケメンガードマンからはかっこつけた小僧と思われている。そして、もちろん俺が付き合った女の子の数は0人だ。
嫁どころか嫁候補もいない。
彼女いないから当たり前なんだけど、と色々と考えている最中も医者の自慢話は続く。
妻が18の時に結婚しただとか、9年間で4人の子供が生まれただとか。目の前のおっさんが54歳で水泳をしているとか本当にどうでもいいようなことも聞かされた。看護師さんも恥ずかしがってたし俺もなんか恥ずかしい。
いつの間にか検査が終わっていた。採血されたり身体をスキャンされたのは微かに覚えているんだけど、どうでもいい医者の話が頭から離れない。
毎日ヨーグルトをたべるんだって。
どうでもいいよね。
検査が終わったときに看護師さんが「お疲れ様でした」と言った時、少し救われた。
美しい。
2番の部屋から出ると1番の部屋からさっきの綺麗な女の子が出てきて目と目が合ってしまった。
遠目でも綺麗だったのに近くで見ると美しいとしか感想が出てこない。
顔の造形美だけではなく目に力があり吸い込まれるようだ。ポニーテールも良く似合っていて顎のラインが美しい。
彼女はすぐに俯き足早に去っていった。
たまたま目が合っただけでそんなに歩く速度上げなくても。
ショックすぎる。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
長い溜息が出てしまった。
あの子に嫌われたかな。
もう帰ろ。
帰る途中、俺より少し年上なカップルがイチャイチャしながら階段を上がって来るのがみえた。
2人ともテスターかな。
キスをしながら上がって来たので顔は良く見えなかったけど俺の心は大ダメージを受けていたので気にする余裕がなかった。
この世界では16歳から成人です