AIonline 1 招待
9年前の下書きを元に作りました
当時は恥ずかしくて投稿できませんでした
2054年科学は劇的な進歩を遂げていた。
宇宙旅行は当たり前となり、車は海水で動くようになり携帯電話は紙の薄さになっていた。
映像・音声の分野ではヴァーチャルリアリティ技術の向上により、自宅にいながら映画館やライブで見に行くよりも迫力のあるコンテンツが楽しめるようになった。
だが良い事ばかりではない。
クローン技術の発展により多くの兵士が生み出され国際問題にもなった。
その為に戦争が起き今も戦いが続いている。
兵器の進歩も凄まじくレーザー銃が誕生してからは世界中の死者が一気に跳ね上がった。
人間だけではなく建物も簡単に解かせる兵器は全世界で製造・使用禁止が国際法で定まったぐらいだ。
今の世間の関心は、人間が快適に住める惑星が見つかったことだろう。
しかし、先住民がいるらしくその対応に意見が真っ二つに分かれ論争が繰り広げられている。
地球の人口は120億人を超え食糧問題で切羽詰った状況になっている。
惑星を占領してでも手にいれようとする声が大きく、とある国ではすでに攻撃をする準備をしていると言う噂もある。
世間は多くの問題を抱えているが、俺、東条勝隆も一つの問題を抱えていた。
それは再来年、大学受験をするか就職をするかの選択の時が訪れた事だ。
世間から見ればちっぽけな問題だろう。
人によれば問題にもならないだろう。
しかし、今まで周りに流されていただけの俺には大きな問題だ。
答えの第一候補はこれだ。
友達に大学行くやつらが多いから俺も大学行こっかな!!だ。
代表的な駄目な奴の答えだ。
自分でも情けない。
しかし、将来の夢が何もない俺にとっては妥当な答えのような気もする。
そんな俺の元に一通のメールが来た。
新作VRMMORPGのαテスター募集と書いてある。
VRMMORPGとは仮想現実型大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームの略の事だ。
ゲーマーになってαテストを一般で募集しているのを初めて見た。
まあ、ゲーマーと言ってもゲーム歴12年程だが。
新作のゲームを出す時にはαテスト・クローズドβテスト・オープンβテスト・正式稼動という流れが主流で、αテストは社内で開発関係者がテストするのが普通なのに珍しい事もあるものだ。
人見知りの俺がVRMMORPGをできるのかという重要な問題があるのだが、ゲーマーとしてはαテストから参加できるというのは、いやが上にも期待が高まる。
もっと詳しくメールを読んでみよう。
何々。
このゲーム上の住人たち全てにAIが組み込まれています。
はい、凄く嘘くさいです。
まず現時点でAIは確立されていないし、万が一にもAIができていたとしても、そんな膨大なデータの塊をサーバーに置いて、世界中の人達がそのサーバーにアクセスしてネットゲームをできるはずがない。
一気にテンションが下がった。俺の脳内では祭りが始まるところだったのに。
このゲームってどこが作っているんだ?
テラルーム株式会社?聞いた事もないな。
こういう時は検索検索。
あったあった。
パズルゲームやシューティングゲームのソフトが紹介してあるけど、これって携帯アプリばかりだな。
お世辞にも面白そうじゃないソフトばかり作ってる会社だ。
こんな所がAIを作ることができるのかな。AIどころかVRMMORPGも作れないんじゃ…。
それにこのαテストは自宅でやるのではなくて近隣のテラルーム支社でやるって書いてあるな。
調べてみると2駅ほど先にその建物があるみたいだ。
一々そこに通うのも面倒だな。
年齢は16歳以上と書いてある。
高校生はアルバイト可能な高校に入っている方が対象って、このαテストはバイトなのか?
読み進めると、少し謝礼が出るって書いてある。
金額は書いていないけど気になる。
あと、健康診断も受けないといけないのか。むむ。毎日テストに参加しないといけないらしい。
病気や重要な用事は休んでもOKって書いてるけど、俺のやる気ポイントはゼロになった。ただでさえ家から一歩も出たくない男なのに毎日テストは過酷過ぎる。
電車賃もかかるし。
テスト項目はAIONLINEにダイブしての稼動実験。
AIONLINEって言う名前なのか。
そのままだな。
もう一つは新型VR機器本体アークの稼動実験と書いてある。
人体実験かよ。
そして、このゲームは守秘義務があるらしい。
ゲーム関係者とテスター以外の第三者に情報を開示すると、アカウント剥奪や最悪訴訟も起こせるようだ。
当選しても誰にも話さないけど、なんかこう雁字搦めで規則が多く、楽しめなさそうだよな。
その時、俺の携帯に着信があった。
ピロンピロンと電子音が鳴っている。
誰からだろう。
少しドキドキしながら携帯を見ると、そこには吉田の文字が。こいつは数少ない電話に出れる奴だ。幼稚園から中学校まで一緒で、高校から別々になったけどなんとか話せるだろう。
スピーカーフォンにして電話を取る。
「もしも~し。人見知り君元気ですか?」
久しぶりの会話がそれか。俺は冷たく言い放つ。
「電話切るぞ」
吉田は少し焦ったような口調で
「ごめんごめん。軽いジョークのつもりだったんだよ」
「もういいから。用件は何だ」
「お前の所にもテラルームからαテストのメールきたか?」
これってどういう基準で送信しているんだ?
「俺のところにも来たよ」
「なあ。これ応募するだろ?」
凄く期待している感じで言われても…。
「いやいや。まずこのメール怪しくないか?この会社のサイトを見に行ったけどろくな商品作ってなかったぞ」
「何だお前。メール最後まで見てないのか。そういう所、昔から抜けてるんだよな」
お前の電話で最後まで見れなかったんだよと言いたいのを我慢してメールを最後までみて見る。
メールを見ている間もごちゃごちゃと何か言ってるが、無視だ無視。
スクロールするとメールの最後のところに協賛している会社がずらっと載っていた。
大手企業ばかりでかなりの数の名前が載っていた。俺でも知っている企業ばかりだ。
「大手の企業ばかり載ってるな」
「そうだろ全部で47社ほど載ってたぞ」
一々数えたんだ。暇だね~、と心に思うだけにして。
「でも、これって怪しくないか?」
と聞くと、吉田は自慢げに。
「怪しむと思ったから事前に掲載されている全企業調べたら、本当に協賛してたんだよ。だから応募しようぜ。一緒にまたゲームしようぜ」
有名な会社を数社調べただけでよくないか、そんなに時間をかけずともいいんじゃないかと吉田に言うのを我慢して、そしてゲームしようぜと誘われた嬉しさを押し殺して。
「そこまで言うんだったら応募してみようかな」
と言い終わらないうちに「イヤッホー」という叫び声と共に電話が切れた。
数分後メールで「テスターの件よろしくお願いします」と丁寧なメールが来た。
さっそくメールに書いてあるアドレスにアクセスして飛んでみると、AIonlineのαテスター募集と書いてあるサイトに行き着いた。
凄く素っ気無いサイトでゲームの概要も説明もほとんど書かれていなかった。
ただ、このゲーム上の住人たち全てにAIが組み込まれています。未知なる世界にようこそとメールに書いていた文がそのまま載っていただけだ。
やはり怪しい。
大体なんで俺の所にメールが届いたんだ?
より詳しくテラルームという会社を調べてみると、他にも調べている人が大勢いて、どんな会社か詳しくまとめている人がいた。
その人によると、今プレイしているMMORPGの親会社であることがわかり、無料のメールマガジンを購読している人、全員にメールを送っている事がわかった。
スパムメールみたいに誰彼構わず送っているものだと思っていたから、少し安心した。
応募ページに行ってみると、定員200名と書かれていた。
これは当たらないだろ思いつつも応募完了。
その夜はいつもやっているMMORPGの仲間達とAIonlineについて話してみると、ほぼ全員テストに応募している事がわかった。
もし向こうで会ったら一緒に遊ぶ約束と、たまにはここにも顔を出す約束を取り付けてお開きになった。
αテストの当選発表の日程が書かれていなかったので、すっかり忘れていた一ヵ月後、携帯にメールが届いた。そこには当選おめでとうございますとIDを登録するためのアドレスが書かれていた。嬉しさのあまり1人でガッツポーズをしてしまった。
恥ずかしい…。
ID登録するためにサイトにアクセスすると、今度は個人情報をビッシリ書かないといけないみたいだ。健康診断はテラルーム支社で行われるらしい。一体どんな建物なんだ?健康診断の予約日を次の日曜日に指定してIDとパスワードを作成してゲーム用のメモ帳にも書いておくことにする。
一応、母にもテスターに当たって日曜日に出かけると言っておこう。
1階に降りて行き台所にいる母に報告する。
俺はちょっと自慢げに格好をつけて
「ゲームのテストに当選したから次の日曜、出かけるから」
と言うとこっちを見て呆れた顔でこう言った。
「あんたVRMMOできるの?」
最初は何を言っているかわからなかったが、その意味を理解した。
脳内変換するとこう言っているんだろ。
あなたは周りに流されて生きている人見知りで恥ずかしがり屋でボイスチャットもできないクソ人間なのにゲーム内で他人と話せるの?そして来年受験よ!
「が、頑張る」
搾り出した答えがそれだった。
母が溜息をついた。そりゃそうだろ。俺の子供がこんな状態であんなことを言ったら溜息の1つや2つは出る。
「気を付けて行ってらっしゃい」
「ありがとうございます!」
それだけを言って2階にある自分の部屋に戻った。
そういえば吉田の事すっかり忘れてたな。メールをしておこう。
メールを送るとすぐに電話がかかって来た。メールで済ませたかったのにと思いつつ携帯電話に出る。
「はいはーい。どうだった?」
すると携帯電話の向こうからすすり泣く様な声が聞こえてくる。
一瞬、知らない奴からの電話を取ってしまったかと思ったがディスプレイには吉田と書かれていた。
おそるおそる聞いてみる。
「吉田だよな?だ、大丈夫か?」
吉田は泣きながら
「どうぜんじだ」
俺はよく聞き取れなかったので
「え?なんて言った?」
吉田は同じ調子で
「どうぜんじだ」
当選したと言っているみたいだ。
どれだけこれに賭けてたんだ。
泣いてるじゃねえか。
「俺も当選したから。じゃ、電話切るな」
と言い即効で電話を切った。俺も浮かれていると思っていたが、あいつのテンションは情緒不安定の域にまで達したみたいだ。
数分後、吉田からメールが来て、当選おめでとうございますと書いてあった。
律儀な奴だ。
完全なAIという描写をなくしました