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第2話 不意打ちアタック

 違世界人と現代人の見分け方はなにか。違世界人はどこからやってくるのか。違世界人は死ぬのか。


 それらの疑問は、初めて違世界人を観測してから二十年経つ現在でもすべて未解明である。唯一判明している事実を挙げるのならば、彼ら彼女らは“善意を持って命を奪っている”ということだ。


***


(――なんて、テレビで言ってた気がすんだけどなぁ……)


「…………………殺す」


 思い切り殴りつけた結果、スーツ姿の違世界人は大きく吹っ飛び滑り台に激突する。まるで滑ったあとのようで、どこか滑稽だ。最も、口から吐く言葉はそんな雰囲気を帳消しにする恐ろしさがあった。


「殺す。殺す。殺す。絶対にお前の家族ごと消してやる」


「はは。悪ぃが日比谷家はもう俺一人だよ~」


 先ほどまでのスマートな立ち姿からの惨状に調子づいた京介は、相手が小さくつぶやく呪詛に舌を出して返してみる。それがより一層相手を怒らせることを理解したうえで。


 どうやらこの違世界人はまだ倒れる気は無いらしい。京介は確実に本気で殴った。しかしそれでも口の端から血が少々垂れているだけでまともなダメージは入ってないように思える。


(痛みってよりかは、俺に殴られたことでキレてんな)


 この異常な耐久力も、ただの人間との違いか。



「差違」


 違世界人が小さく、何かを言った。京介の耳にそれが届くよりも前に、自分の右肩にじわじわと熱を帯びる痛みがやってくる。

「!! ……なんだよそりゃあ」


 違世界人の手には、いつの間にか鋏が無くなっていた。どこへ行ったのかと辺りを見回る必要もなく、京介の右肩に感じる痛みの正体がそれであることは容易に分かった。


(くっっっそ痛ぇ!!)

(数m先の俺に向かって投げたってことか? どんな力だよそれ…?)


 人間離れした力。それが違世界人の特徴なのかもしれない、と京介は心の中で思った。テレビでは全くと言っていいほど報道されたことのない特徴である。

「……っ!」

 唇を噛み締め、肉を通る感覚を覚えながら鋏を引き抜く。ぼたりと地面に垂れた血が大きく二つの円を描く。


「これが美優を殺した凶器か……?」

「ああ。そしてお前を殺す凶器でもある」


 気づけば立ち上がっていた違世界人の男は、口元の血を拭うと再びこちらにやってくる。先ほどとは違い、油断を見せない相手は足早に京介の息の根を止めようと近づいていった。


(イかれた投擲力を持ってるから避けるのは得策じゃねぇ)

(なんとか一撃を防いで……はは、そっからどうするよ)


 京介は理解していた。このままでは死ぬと。自身の攻撃はまともにダメージを与えられず、対して相手の攻撃で右肩に大きな深手を負わせられた。

 こうして頭の中で冷静に、長く思考を深めるのも死の間際に見せる走馬灯に似た何かなのかもしれない。

(もしほんとに死んで違世界とやらに行けるなら…俺はうれしいのか?)

(いや……俺は今生きてるここでいろんなことを経験したかった)


(美優と一緒に)



 隠し持っていたもう一つの鋏を強く握った違世界人の一撃が、京介に直撃する。


「止まりなさい!」


 その直前。死を覚悟し、瞼を閉じた京介の耳に入った声は何やら騒がしく二人の周りを取り囲んでいく。一体何だと恐る恐る目を開けた。


(んん……?)


「ちょっと、きみ達こんな夜中に何してるの?」

「ああ…そっちの子なんか肩に怪我してるじゃないか!」


 二人の警官が、京介と違世界人の男の間に割って入っていた。どうしてこんな時間に、と考えて察する。一か月前に起きた事件の影響で見回りを強化していたんだろう。

(美優に感謝だなこりゃ…)

「あー、そうなんすよ。この人にいきなり斬られてぇ…くそ痛いですねェー」


「なにっ! ……こう言ってますけど、どうなんですか?」


 警官の一人が違世界人に問いかける。演技をしながらも男に視線を向けてみると、先ほどの殺意はどこへ行ったのか、穏やかな顔で困ったような表情を浮かべていた。


「や、やだなぁ。そんなわけないじゃないですか」

(こいつらをまとめて始末して違世界送りにしてもいいが…警官を殺ると後が面倒だ。特に、日本だとたった1人殺めるだけでも捕まるからな)

(腹の虫は収まらんが、ここは穏便に済ませてやる……クソガキが)


「……あ、間違えた! 俺ぇブランコで遊んでたら落ちて怪我したんすよ!」

(違世界人のことは良く分かんねぇけど、現代での立場とかもあるんだろ?)

(刑務所にぶち込まれたくなかったら抵抗はしない方が良いよなァ~)


 京介と男の目が合う。言葉では介さないまでも、お互いが分かっていた。決着は次だと。京介は命、男は身柄の確保を担保にこの場を収める取引をしたのである。


 そろっての釈明が効いたのか、警官たちも当初の不信感は大方晴れてきた。とはいえ“スーツを着た男が深夜に公園で少年と居る”ことを覆すことはできず、違世界人は交番にて詳しい話を聞くことになった。


「ほら、きみはもう帰りなさい。肩の怪我は家でしっかり対処するんだよ」


「ああはい……分かりました」

(……もう少し。あいつが背を向けた、その時だ)



 油断。この場に居る誰もが感じていた解散の雰囲気。京介はこれを待っていた。警官が二人を止めた時から考え、そうなるように誘導した。違世界人を倒す唯一の手段について。

「それじゃあ、いきましょうか」

「はい…朝までには返してくださいね。会社がありますので…!」


 警官たちに連れられ、公園を出ようとする違世界人。去り際にこちらを睨んてきていた辺り、いつか必ず奴とは出会うだろう。そして、必ずまた殺しに来る。


 だから。


(おそらくあのガキは俺が少し前に殺した女の彼氏かなにかだろう)

(となると、この公園にも再び顔を見せる時がくるはずだ)

(毎日待ち伏せしてやるよ…そして、次に会った時こそお前を殺――


「???? あギッ? ………アァ……??!」


「くらえよ不意打ちアタック」


 一気に最高速度で駆け出し、男の背後に忍び寄る。辺りに舞った砂ぼこりが夜の風に消えてゆくまでにたどり着くと、京介は服の中に隠し持っていた武器で不意打ちを仕掛けた。そう、自身の肩に刺さっていたあの鋏で。


「きっ……きぃさまあああァァァァ…!!!」


「おい止まれ! 何をしてるんだきみは!」


 男の両隣に居た警官に止められながらも、右手に持った鋏で男の首を刺し続ける。何度も。何度も。何度も。何度も。しまいには羽交い絞めにされて地面に抑え込まれるが、京介はようやくそこで鋏を離して抵抗をやめた。


「は、はは……違世界人も死ぬらしいな……さすがに首をやられるとよ…」


 警官の怒号が辺りに響く。過剰ともいえるほどの抑え込みと肩の出血により、京介は少しづつ意識を失っていく。とても遠くでパトカーのけたたましいサイレンの音が聞こえ、それを子守歌にいよいよ視界は真っ暗になった。


(まあ……ずーっと塀の中でも……良いさ)


(美優の仇を…………打てたしな……)



***



「やあ! おはよう!」


「――ん?」


 見知らぬ天井。刑務所に設置された医務室か何かかと思ったが、それにしては耳に入ってきた声が明るい。起き上がりたいけど、起き上がれない。


「わ」


 このやわらかいベッドから上半身を上げようと悪戦苦闘する京介を、見下ろす形で姿を現した声の主。白衣を着た明るい金髪の……女性。


「ねえきみ! よく一人でアレを殺せたね!」


「――違世界人バスターズとか、やってみない?!」

違世界人の特徴②:


一般的な人間と比べると運動能力は極めて高く、特殊な力を持つ個体も存在する

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