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07 自由になった祝杯で一気。◆ノア皇帝◆


ヤンデレな気のあるノア皇帝視点。




 リート王国……滅ぼしてしまおうか。

 仄暗い考えが膨らんでいくと。


「ノア陛下? 大丈夫ですか?」


 女神が声をかけてきて、思考の暗い海から引きあげてくれた。


「酔いました?」


 へらりと笑いかけるローズこそ、頬を紅潮させて、ぼんやりした声を出しているのに。

 他人の心配か。他でもないオレとなると、この上なく嬉しい。


「ローズ。正直に答えてほしい」

「なんでしょう?」

「あなたは貴族令嬢か?」

「私は、()()貴族令嬢ではありません!」


 ドンッと言い放つローズは、酔っているせいか、“もう”という言葉をうっかりつけている。

 やはり、今は貴族令嬢ではなくなったのか。

 レベルの高い教養を身に付ける身分をやめたのか。何故?

 悲壮感はない。望んでやめたというなら、大抵は修道女になると思うのだが。


「では、()()()()貴族令嬢だった?」

「…………………………」

「ローズ?」


 ガチリと固まったローズは、必死に回答を考え込むが、酔いも回っているせいで思いつかないまま、口をハクハクさせたあと、むぎゅっと唇を強く締めてしまった。

 ……可愛いな? 絶対に連れ帰る。


「酔いましたわ。休ませていただいてもよろしいでしょうか?」


 令嬢らしい口調に変わったローズは、この場を逃げようとした。


「ローズ様、では水を飲んだ方がよろしいかと。あと、あまり急に動いては、お身体に障ります」


 プロトが逃げ道を、さらりと塞いだ。

 ローズは、どうすればいいかわからなそうに固まってしまった。


「昼は、『聖女候補生』ではないとも言っていたが、過去に『聖女候補生』だったのでは?」


 続けて事情聴取をすると、ローズはオレと目を合わせないように斜め下でウロウロと視線を泳がす。

 答えられないようなので、オレは優しく、畳みかけることにした。


「オレの推測を言おう。ローズは、リート王国の貴族令嬢で、『聖女候補生』だった。しかし、なんらかの理由で身分すら手放して、今ここに一人でやってきた。違うかい?」


 汗をダラダラかいて、青ざめているローズの様子からして、間違ってはいないようだ。


「何があったんだい? ローズ。君が悪事を働いて、追放されたとは思えない。話してくれないか? 力になるから。オレ達は、あなたに恩を返したい」


 優しく声をかけて、怯えるローズの肩を撫でた。

 オレを『冷酷無慈悲の皇帝』と恐れている貴族達が見たら、腰を抜かすだろうな。

 我ながら、こんなにも優しい表情と声を出すのは、珍しすぎる。相手を油断させる演技でもない。心からの優しさを示しているのだから、親しい者達だって絶句するはず。


「……悪事をして追放されたとしても、入国させてもらえます?」


 弱ったように、ローズはそうオレに尋ね返した。

 驚いてしまい、一瞬、プロトと視線を合わせる。しかし、憶測を立てるより、先に聞いた方がいい。


「何があったんだい?」と、もう一度、事情を話してもらおうと尋ねる。


 躊躇はした様子だったが、ローズは観念したように重たい口を開いた。


「私は『聖女候補生』で『聖女』に選ばれるはずだったのですが、『聖女』には相応しくない行いをしたとして、婚約破棄をされて、国外追放を受けたのです」

「……は?」


 喉が痛むくらいの低い声を出した。


「……婚約破棄?」

「はい」

「……婚約?」

「はい?」

「婚約者がいた?」

「ええ、はい」


 どす黒い感情が沸き上がって、渦巻いている。

 キョトンと首を傾げるローズの後ろで、プロトが首を振って宥める素振りをするが、オレは片手で持っていた酒瓶をパリンと握り壊してしまった。


「わわっ! 大丈夫ですか!? 切れてる!」


 ああ。キレている。オレはキレてるんだ。

 ローズの婚約者という存在に。過去形だとしても、抹殺しないと気が済まない。

 ……のに。

 治癒魔法で手当てして、タオルで酒と血に濡れた手を、丁寧に労わるように拭ってくれるローズを見ていたら、毒気も抜かれてしまう。不思議と沸き上がった黒い感情による破壊衝動も、まぁいいか、という気持ちになる。

 婚約破棄は、破棄されたのだ。過去のことになったのなら、多少は……多分…………割り切れ………………。


「ローズ様。詳しい話を聞いても?」


 プロトが深堀りしようとすると、声をかけるから、また仄暗い感情に溺れかけたオレは我に返る。

 そうだ。どうして、この女神が婚約破棄をされた? どんなことが起きたというんだ?

 例え、悪事だと他人が言おうとも、それ相応に理由があったのではないか。

 ローズに何があったのかと、オレは逆に、手を拭いてくれていたローズの手を握り締めた。



「結局、全て冤罪なんですけど、『娘』としての私も、『聖女』としての私も、そして『()()()()』としての私も必要ないとのことなので、もう頑張る必要がないと思い、この際、甘んじて国外追放を受けました」



 明るく言い退けるローズは、やはり酔いで口が滑りやすくなっているのだろう。

 今の一瞬だけで、色々特大の情報を、ケロッと吐いた。


 プロトは自分が手にしたコップを落としかけるし、聞き耳を立てていた同じ焚火を囲っている近衛騎士達も絶句している。


 やはり、婚約相手は、王族! 王太子はまだいなかったはずだが、『聖女』になるはずだったというなら、婚約者のローズが『聖女』となった暁には、立場が盤石なものになり、立太子が出来たのだろう。だから『王太子妃』だ。

 それなのに、こんなにも強力な神聖魔法の使い手であるローズを切り捨てた。『聖女』になるはずだったのは、当然だ。なれない方が、おかしい。

 過労死と言う言葉が出たぐらいだ。

 王太子妃になるための教育や、『聖女候補生』の修行で、ローズは多忙だったに違いない。昨日今日の熟睡も、忙殺された日々からの解放された反動による安堵の睡魔だと考えれば、納得。

 それほどに頑張ったというのに。

 冤罪をかけられるほどに歓迎されなかった場所から、飛び出すことを選んだ。


 悲壮感なく、むしろスッキリした様子のローズに、胸が痛む。

 もっと早くに出会えていれば、オレがさらってあげたのに。

 あんな衝撃的な出会いをせずとも、きっとあなたならば、オレの心を容易く奪えた。


「国から出られて、嬉しいかい?」

「はい! 自由ですからね!」


 満面の笑みで言い切るローズは、オレに捕らわれていることに気付いていないのだから、愛い。


「では、祝杯をあげよう」

「え? いや、もうお酒は」

「ほら、自由になったローズを祝え! 乾杯!」


 オレが周りに声を上げれば、おずおずとコップを上げる一同。


「さぁ、一気に飲み干して。ローズ。こういう場では、一気に飲み干すんだ」

「え? ええ? そ、それはちょっと」

「ぐびーっと」


 ローズにはコップを持ち直させて、残りを飲み干すように促す。

 笑顔で圧を向ければ、周囲も一気コールをし始めたので、雰囲気に呑まれたローズはコップの中のお酒を飲み干した。

「けほっ」と、熱い刺激に軽く咳き込むローズの背中をさする。


「じゃあ、次は愚痴を零そうか?」

「はい?」


 何故? と、こてんと首を傾げるローズ。


「冤罪。違うって言えたか? ちゃんと言った方がスッキリするだろう。聞かせて?」


 一気に酔いが回れば、饒舌になるはずだろう。

 優しい微笑みと背中をポンポンと撫でて、促す。ローズの隣では、メモをする準備をするプロト。


「そういえば……違うという暇、なかったです」


 ぽけー、としたローズは、酔いが回ったのだろう。瞼を重そうに閉じては上げる。


「ほらね。溜め込んではいけない。些細な恩返しの一つとして、どうか聞かせておくれ」


 もちろん、これで恩返しということにはする気はないが、こう言った方が口にしやすいだろう。


「……でも……何から話せば……」

「『娘』としてのローズが必要とされていない、とは?」


 ぼんやりと迷うローズに、こちらから選ばせてもらう。まだ『王太子妃』のことは聞けない。先に聞いてしまっては、このままリート王国に乗り込みかねないからだ。


「ああ、そうです。私には一つ下の妹がいるのですが、私と違って両親にも使用人にも溺愛されておりまして……ですが、ないものねだりのワガママな子で、私が『聖女候補生』ということも、『王子の婚約者』だということも常日頃不満に思って、癇癪を起して当たり散らすんです」


 はっきり『王子の婚約者』と言われると胸が抉られる痛みを覚える。「へぇ」となんとか相槌を打って、胸をさすっておく。


「両親は私を貶すことでなんとか溺愛する妹を宥め、使用人達も妹第一なので、私を冷遇してきたんですよ」


 はぁああ? 使用人ごときが、『王太子妃』になる未来のある令嬢を冷遇だと? 頭おかしいんじゃないか?


「どんな冷遇を受けたのですか?」

「妹が可哀想だからと、物を投げつけたり熱湯をかけようとしたり」


 ヒュ、とプロトが、喉から空気を漏らす。

 熱湯だと? 使用人ごときが、なんてこと……。


「あ、なので、私は家で常に悪意などを弾く結界を張って過ごしてました。神聖魔法が打ち消す瘴気って、悪意に分類されるので、そういう結界も張れるんです。悪意ある者の接近を拒み、接触も弾く結界」


 慌てて付け加えたローズはなんてことないように明るく言うが、家では常に結界を張って過ごすほどに、危険だったということじゃないか。

 家だというのに。安息のための場所だというのに。


「他には何をされた? ちゃんと食事はとれたのか?」

「ひゃっ、ノア陛下っ。くすぐったいっ」

「ぐっ」


 思わず、腰を掴んで引き寄せて、改めて彼女の細さを確認しようとしたら、頬を赤らめて身を捩る。

 その上で、色っぽい声を零すものだから、胸から込み上がるものがあった。


「食事は、妹が酷く暴れたあとは、私の分だけ忘れたと言って抜かれることがありましたが、一応『王子の婚約者』ということもあって食べれてましたよ」


 ……。だめだ。『王子の婚約者』というワードが、オレの熱を奪っていく。


「つまり、あなたの両親は、『聖女候補生』であり『王子の婚約者』であるあなたよりも、妹君を大切にして、あなたを蔑ろにしたと?」


 正気を保とうと、腰をグッと引き寄せて離さない。

 それにオロオロしたが、やっとオレの力に敵わないと学習したのか、無駄な抵抗はしなかった。


「はい。だから元より、両親には娘だと思われていたなんて、ビックリしちゃいました」

「え?」


 なんて?


「『聖女』に相応しくない行いとして、妹を虐げたって断罪をされたのです。妹は自分の劣等感を私にぶつけられたと涙ながらに訴え、両親も“見損なった”とか“同じ娘とは思えない”と妹を庇っていたのですが……見損なうほどに何か関心を持たれた覚えも、妹と同じ娘と思われていたこと自体、初耳で」


 だからビックリしたのだと、困惑気味ではあったが、あっけらかんとした様子でローズはそう語る。


 オレと同じくポカンと口を開いてしまったが、プロトはペンを走らせて書き留めた。



 



嘘つけないヒロインが好きです。

生優しい尋問、続きます。


次回、更新予定未定ですが、今月中にはするはずです!


2023/11/01

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