02 国外追放、テンプレー!
さぁ! 私の処遇は!? はよ言って!! ドキドキ! 解放ドキドキ!!
「何回も何十回も、私との交流を断り、真剣に『聖女候補』の修行をしているかと思いきや、騙された! 欺いた罪は重いぞ、ローズクォーツ!!」
忌々しそうに睨みつけてくるトムロイド殿下。
お茶会を断ったこと、根に持ちすぎじゃない?
「『聖女』は、このステファニー嬢がなる! そして、新しい我が婚約者だ!」
トムロイド殿下が手を差し出すと、照れた微笑みを浮かべて、ステファニーが手を重ねた。
へぇー。『聖女』の座も、『王子の婚約者』の座もゲットか。ステファニー、やるねぇ~。拍手していい? だめ? あ、そっか。全部私から奪ったのか。すごいわ~。
……。普通に今あるスケジュールだと、ステファニーには荷が重いだろうけれど、ちゃんと調節してくれるわよね? 神殿関係者のヘイト顔が浮かんだが、忘れておこう。気にしたら負けだ。
ん? 待てよ? そもそも、王家が私に押し付けたよね? つまりは、現国王陛下と王妃なんだけど。
二階の王家のバルコニーを見上げてみれば、玉座に座る二人は失望した目で見下ろしていた。
アッ。あなた方も、信じていらっしゃる? 素晴らしい茶番だわ。拍手したい。
「陛下達に泣きすがろうが、情状酌量の余地はない! ローズクォーツ・ジガルデ侯爵令嬢! お前は国外追放だ!!」
ついに、下った。私への断罪。処罰。
国外追放!
待ってましたテンプレーッ!!!
あれよこれよと手配された馬車に乗せられて、国の外まで放り投げられた。
果てしなく広がる無法地帯の自然を見ながら、数日は経ったのに、今更気付いた。
私、パーティー中、一言も喋ってないわ……!
まっ。いっか!
必要最小限のパーティーにしか参加しなかったから、交友関係が浅すぎて、助けてくれる人もいなかった。
『聖女』も、『王太子妃』も、やらなくて済んだ。父には勘当だから二度と家名を名乗るなとも言われたので『令嬢』ですらない。
じ・ゆ・う・だぁああ~!!!
王子、ありがとう! バカでありがとう! 妹とステファニーが手を組んだかどうか知らないけれど、女に騙されちゃって! あの顔だけいいナヨナヨワガママ王子が次期国王で、あの茶番を鵜呑みにした国王夫妻もいて、この国の行く末が心配だけれど、まぁなんとなるでしょ! 頑張って!
社畜人生を経験済みだけど、わりと代わりっているからね! 自分がその仕事をしなくても、代わりに出来る人って存在するものよ! だから私が『聖女』じゃなくても、なんくるないさー!!
『聖女補佐生』もいるし、力を併せれば何とかなるっしょ! 王国だって優秀な人材はいるんだし、破滅したりしない! 大丈夫大丈夫!
温情で多少の食料の入ったカバンを持たせてもらったので、肩にかけて、スキップする。
ええっと、確かここは南東だって言ってたわね。この先真っすぐ行けば、大帝国ダークリンだ。
この周辺国で一番怖い国家権力者。まだ若いのに、冷酷無慈悲な采配をする美しい皇帝が君臨する大帝国だ。
とりあえず、その大帝国に行こうか。入国審査とかは大丈夫だろうから、あとはお得意の神聖魔法を駆使して、その日の生活費を稼いで、まったり暮らそう。
魔物がうじゃうじゃしている辺境伯領とかが、狙い目よね。冒険者を雇って討伐しているだろうから、その冒険者の怪我を癒すお仕事。
早く行った方がいい。
最悪、国外追放を撤回させて、償いを理由に、神殿に飼い殺しされるかもしれないもの。
断る! 私は、もう自由なんだー!!
そういうことで、スタコラサッサと自国から離れるために、早歩きで突き進む。
小まめに、水魔法で生み出した水で、水分補給。休む時に、乾パンをモグモグ。
岩山を横切って、小さな林も通り過ぎて、どんどん進んでいく。
なんもないなぁー。国と国の間って、こんなものなのか。
国と国の間。どの国にも属さない宿屋とかないかな。
……ないんだろうなぁ。需要ないから。
そういうことで、日が暮れる頃に適当な岩山の上に登って野宿。
土魔法で地面を柔らかくして、緑魔法でふさふわの綿毛を召喚して、それをベッドにスヤァーした。
もちろん、見えない結界付き。神聖魔法の結界は、魔物の不可侵領域だ。これは意識して張り巡らすのではなく、設置するだけでいいので、私が寝てしまっても維持されるので平気。他の『聖女補佐生』は、出来ないとのこと。やったことないけれど何日も持つと思う。
でも、過度な期待に辟易していたので“一晩だけ持つ”ってことにしておいたんだよね。
満天の星々の下、開放感ある地上で、眠った。
起きたら、朝陽が直下。まぶいっ。
私。ベッド替わると眠り浅くなるのよねぇ……。綿毛ベッドを作ることを習得しても、改善出来なかった。だから仕方なく、侯爵家に帰ってたんだけど。枕なら枕を持ち歩くけれど、ベッドはなぁ……。収納魔法がなくて、残念。しょぼん。
ストレッチをしてから、進行開始!
歌いながら、順調に進んでいれば、魔物の気配が近付いてきた。
魔物の群れが、出現したみたいだ。瘴気が集まるところに、魔物って出現する。
一度、真逆の国境で増援に行ったことがある時に感じた気配に似ているから間違いない。でも、これはもう少し邪悪で、強い感じだ。
これ、どう考えても、大帝国がマズいんじゃないだろうか。
足を速めてみれば、遠くで戦っているのが、かろうじて見えてきた。
うわっ! なんかあそこだけ戦争じゃん!!
どうやら魔物の軍隊と、大帝国の軍が戦っているような形みたいだ! 小規模だろうけれど、最早、戦争!!
頭一つ分どころか、人三人分は高い身長のミノタウロスの風貌の魔物が、大きな斧を振り回している。
蹂躙とかじゃなくて、誰かと一対一で戦っているみたいだ。すごいな、あんな巨体と刃を交えることが出来るなんて。どんな強者だろう。
気になりつつも、もうやぶれかぶれで、全力ダッシュした。
ミノタウロスと誰かの戦いを中心に戦場と化している。甲冑姿からして、騎士の軍らしい。彼らが、魔物と応戦していた。
やっと戦場に足を踏み入れたけれど、ミノタウロスと戦っていた人が、ついにやられたらしい。
騎士達に動揺が走り、注目が集まる。私も目にすれば、後ろに飛ばされる黒髪の男性が血飛沫を上げていた。
マズい! あの怪我は、今すぐ止血しないと!!
そばの魔物は弾かれる不可侵領域の結界を張ったまま、彼の元まで、また全力ダッシュ。
トドメを振り下ろされる斧の前に出て、結界を広げれば、ミノタウロスは押し負けてヨロけた。
やべ。全力疾走しすぎた。
ぜぇぜぇ、しながらも、後ろを振り返れば、彼を守ろうと構えていた騎士達と目が合う。呆気に取られて固まる騎士達に、手を翳して「ちょ、待ってっ」とタンマをかける。
マジ、痛い。肺がぁ、横っ腹がぁ。深呼吸、深呼吸。
倒れている黒髪の男性は止血をしてもらいながら、まだ意識を保っていた。
困惑げのぼんやりした目で、私を見上げている。
「神聖魔法の使い手です。治療しますね」
「できる、のか?」
「はい。ご安心ください。すぐに癒しますわ」
誰かを治療する聖女モードで微笑みかけてしまった。しょうがない。こうやって安心させた方がいいに決まっている。
黒髪の男性が手を伸ばすから、周りに許しをもらって、その手を握り締めた。
それだけで、安心して意識を手放してしまったから、急いで治癒を始める。両手で握り締めた手の主の負傷箇所に力を集める意識をすれば、あっという間だ。普段なら、手を抜いて痛み止めを施してから、ゆったりと時間をかけて傷を塞いでいたけれど、戦場でそんなことは出来ない。
「終わりました。他に負傷者はいますか?」
「そんな! こんな一瞬でバカなっ! ッ!? 傷が……ない!?」
黒髪の男性の止血をしたであろう浅黒い肌の男性が慌てて確認しては、絶句した。
深い傷はもう綺麗さっぱり消えたので、大丈夫。
「出血が酷かったでしょうから、二三日は安静に。他にも重傷者がいるなら、私、えっと……ええっと?」
その浅黒い肌の男性に、黒髪の男性の手を託そうとしたのだけれど、しっかり私の左手を握り締めている。
あっれぇー? 意識ないよね? 力強いな? 剥がれないぞ???
気を失っている男性の顔を覗き込んでは、手を抜き取ろうとしたけれど、だめだ、抜けん!
困って浅黒い肌の男性に手助けを求めるけれど、まだ呆然としている。だめだこりゃ。