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 近衛騎士団長となったダフニーは悩んでいた。

 国王夫妻襲撃事件の真相がわからないまま、時間だけが過ぎてゆくのだ。強いものが近衛騎士団長になればよいと思っていたのが大きな間違いであったと気づいて、父の偉大さを改めて実感したのだった。

 事件の捜査というのは剣の技術や腕力は使わない事が多い。犯人と直接対峙するのでもなければ、頭を使うほうがはるかに多いのである。そして、頭を使った結果オーバーヒートしそうになっている。

 一応、名誉騎士団長としてオリヴァーも完全には引退しないでアドバイスをしてくれているが、そのオリヴァーにしても手掛かりをつかめずにいた。

 スティーブの意見にあったように、国内の貴族が雇用している魔法使いの情報を確認し、転移の魔法使いと火属性の魔法使いを雇用している貴族がいないかと探したが、該当するのは王家だけだった。そして、その転移の魔法使いも火属性の魔法使いも健在である。もちろん、国王夫妻を警護しているダフニーはその顔を知っていた。

 となると、可能性があるのは外国の勢力である。周辺の国々はカスケード王国に領土を奪われたところばかりであり、復讐する動機は十分にあった。

 しかし、特別に兵士を国境沿いに移動させた国はないのである。それどころか、戦争の気配すら感じなかった。

 ダフニー近衛騎士団長に与えられた執務室の机に座り、大きなため息をついた。

 同室していた父親のオリヴァーが苦笑する。


「せっかく望んでいた近衛騎士団長の座に就いたというのに、何をため息をついておるのか」

「黒幕がわからぬ襲撃事件の調査をどう進めるべきかと思いまして。そして、私が望んでいたのは近衛騎士団長の座ではなく、最強の騎士という称号だったのだとわかりました」

「この国では最強の騎士が近衛騎士団長だろう」

「果たしてそうでございましょうか。そうであれば近衛騎士団長には知性や教養というものは必要ないということになります」

「それもそうだな」


 とオリヴァーは娘の言葉に納得した。


「加えて、事件の捜査などというものは、剣で斬れば解決するようなものでもございません。最終的には斬ることになるのかもしれませんが、今はまだ斬るべき相手も皆目見当がつかぬ状況。これではまた次の襲撃も許してしまいそうです」

「事件から数日が経ったが、外国の動きもないか。そうなると、軍事行動とセットとなる襲撃ではなく、恨みによるものだったのかもしれんなあ」

「フォレスト王国、パスチャー王国、メルダ王国、クリプトメリア王国のいずれかが領土をとられた腹いせに、陛下を狙った可能性は捨てきれません」

「それであれば帝国も同じか」

「そうですね。しかし、帝国は賠償金のみでしたが、腹いせならありますね。しかし、腹いせをするにしても、狙うべきはアーチボルト閣下だと思いますが。全てこちらの勝因は閣下ですから」


 スティーブのことを話すダフニーは嬉しそうであった。


「返り討ちになるのが目に見えているから、やらなかったのではないかな?」

「そうですね。一人でソード騎士団を壊滅させる実力ですから、もはや閣下を倒せる人物はおらぬのではないでしょうか。だからこそ陛下に狙いをつけたと。しかし、陛下への襲撃が成功していたとして、軍事行動もしないというのは、本当に無駄に魔法使いを使い捨てたとしか思えませぬ。陛下が亡くなって混乱している時こそ攻め時だと思いますが」

「ふむ。だとすればこちらを混乱させることが目的だった可能性もあるな。例えばクーデターとかな。隣国でクーデターを計画する者がいたならば、国内が混乱している時に外国から攻められたらひとたまりもないと考えるだろう。そうさせないためには、隣国が攻めることが出来ないようにすればよいわけだ。国家元首の暗殺や、民の武装蜂起など、やりようはいくらでもある」

「ならば、どこかの国で政変がおころうとしていると?」

「ひとつの仮定だがな。しかし、近衛騎士団には外国への捜査権がない。間諜網を使うことも出来ぬから、結局は捜査は行き詰まりだな」

「一応陛下には可能性をご報告しておきます」

「我らが考えつくようなことは、陛下ならすでに考えて動いていそうだがな」


 そう言ったオリヴァーの言葉は事実だった。

 国王ウィリアムは外国の勢力による襲撃と、その背景を推測して周辺国の情報を探っていた。そして大きな情報を掴む。

 イエロー帝国皇帝、クリフ・イソ・イエローが崩御したのだ。その情報が王城に届いたとき、国王は帝国内で争いが起きるかもしれないと思ったのである。

 そして、すぐに次の情報が入ってきた。

 皇太子であるヘンリー・イソ・イエローが皇帝の弟であるレナードに討たれたというものだった。ヘンリーが自分が次の皇帝であると宣言をする前に、レナードが宮殿を襲撃してヘンリーを討ち取ったのだ。そして自分が皇帝であると宣言をした。

 当然この暴挙に対して帝国内は割れる。レナード派が主流となるが、ヘンリー派の残党だったり、他の皇族を皇帝にしようと画策する派閥だったりが入り乱れた内戦となった。

 これを知って、国王ウィリアムは自分を狙ったのはレナードであると確信した。帝国内が混乱して対外的な軍事力が弱まるのをわかっていたので、ウィリアムを暗殺してカスケード王国も混乱させようと画策したのだ。

 そして、この情報を得てカスケード王国側も動きが激しくなる。帝国のどの派閥が勝利するかの分析と、それについての対処だ。積極的に関与して恩を売るべきか、傍観を決め込んでなにも手を出さないか。何が国益となるかの白熱した議論がかわされる。

 その結論がでないうちに、カスケード王国も深く関与する事態となった。

 ヘンリー・イソ・イエローの息子である、ルイス・イソ・イエローがオーロラのところに保護を求めてきたのである。

 やってきたのは本人と護衛だった。

 オーロラは直ぐに国王とスティーブにこの事を伝える。

 スティーブに伝えたのは護衛に呪いがかかっていたからである。ルイス殿下は護衛の命を助けてほしいとオーロラにお願いした。護衛の命が助かるのであれば、望むものはなんでも差し出すという条件で。

 そして、オーロラはその条件に合意してスティーブを呼んだのである。カスケード王国内でも呪いを解呪できる魔法使いはおらず、唯一スティーブに可能性があったからだ。

 オーロラに呼び出されたスティーブは、ルイス殿下とその護衛に面会した。

 護衛は起きていることが出来ずにベッドに横になっているし、ルイス殿下はそれに付き添っているというので、オーロラとともにその部屋を訪れる。

 ベッドには天蓋がついており、寝ている護衛の顔は見えなかったが、ベッドの隣に置いた椅子に腰掛けている若い金髪の美男子がルイス殿下だとわかった。


「はじめまして。スティーブ・アーチボルトです」

「ルイス・イソ・イエローです。一応殿下なのですが、帝国内の争いに巻き込まれ、護衛のエース・オブ・チャリスと一緒にここまで逃げてきました。しかし、エース・オブ・チャリスが敵の呪いの魔法にかかり、命が危ないのです。助けてはいただけませんでしょうか」


 この時、オーロラはルイスからの報酬を受け取ることで合意しており、スティーブに対してはオーロラから報酬を出すから、余計なことは言わないようにと言われていた。

 なので、報酬について口にすることは無かった。


「呪いの魔法ですか。ソーウェル卿にも頼まれましたが、僕も呪いの魔法は初めてですね」

「エース・オブ・ワンドが使う魔法で、即死はせずにじわりじわりと苦しみながら殺すということくらいしか」

「殿下はよく無事でしたね」

「私は皇族に与えられる魔法無効の指輪をつけておりますので。呪いや精神系の魔法はきかないのです」

「それって機密では?」

「今の私には機密などありません。一人では何もできませんしね」


 ルイスの顔には疲れと諦めが見えた。

 帝国からここまで追手を躱しながら逃げてきたので、肉体的にも精神的にもまいっているのだろう。

 ここで護衛に死なれれば、本当に一人きりになってしまう。そうしたこともあって、護衛をなんとか助けたいと思ったのだ。

 そんな弱々しい様を見せつけられると、スティーブはなんとかしてあげたいと思った。


「では、護衛の方の様子を拝見します」

「どうぞ」


 そういわれて天蓋の布をどけて護衛を見て、スティーブは驚いた。


「ナンシー?」


 ベッドには大柄な銀髪の美女が寝ていた。それもナンシーに瓜二つの。


「いいえ、彼女はナンシー・クロムウェルの妹、セシリー・クロムウェルです。閣下ならナンシーはご存じでしょうが、その経緯から名前を出すことがはばかられまして」


 ルイス殿下もナンシーとスティーブの話は聞いており、セシリーの名前を出すのがはばかられたのである。


「うーん、ちょっと待っていてください」


 そう言うとスティーブは自宅に転移した。

 そしてナンシーを探しだし、事情を話す。


「あら、旦那様お早いお帰りですね。ソーウェル卿との話し合いは終わったのですか?」

「まだ終わってないんだ。そして、ナンシーの協力をもらいたい」

「私の?どのようなことでございましょうか」

「エース・オブ・チャリスは知っている?」

「はい。妹ですから」

「エース・オブ・ワンドは?」

「知っておりますよ。妹と何か関係が?」

「実は帝国で皇帝が崩御して、その後跡目争いが起こり、ヘンリー皇太子が皇帝の弟のレナード殿下に殺されたんだ。それで、皇太子の息子であるルイス殿下がセシリーと一緒にソーウェル卿のところまで逃げてきた。だけど、逃げる途中でエース・オブ・ワンドの呪いの魔法を受けて死にそうなんだって。両腕に蛇の刺青が出来てて、これが徐々に首へと伸びてきていて、あと1週間もすれば呪いが首をかみ切るって話なんだ。その呪いをどうやって解呪すればいいのか知っているかな?」

「そのようなこと、妹なら知っているはずですが」

「意識がないんだよね」

「そういうことですか。であれば私がお話ししますが、呪いの刺青がある部位を切断すればよいのです」


 ナンシーが言う解呪の方法は腕の除去だった。だから、セシリーは解呪できなかったのである。両腕が無くなってしまえば、どうやってルイス殿下を護衛できるのか。

 そう考えて、呪いを受けたままの逃避行を続けていたのだ。


「一緒に行く?」


 スティーブはナンシーに訊ねた。ナンシーは少し考えて頷く。


「会えば何を言われるかわかりませんが、旦那様のお役に立てることもあるかもしれません」

「無理しなくていいよ」

「大丈夫です。それに、謝ってもおきたいですし」

「わかったよ」


 そう言うと、スティーブはナンシーを連れてオーロラの居城に戻る。

 ナンシーの姿をみたルイス殿下は驚く。


「クィーン・オブ・ソード、生きていたのか」

「その者は公式記録では死亡しております。仮に生きていたとしても、祖国を裏切ったものが殿下の前に姿を現せますでしょうか。旦那様のお役に立てるならと、解呪のお手伝いに参りました妻でございます」


 ナンシーはそう言って頭を下げる。


「我妻はよく、似ているといわれますね。ま、仮に本人だとしても、我が国と帝国の停戦合意の中に、全ての関係者の罪を許すとありますので、なんら罪を咎められるようなことはありませんが」


 スティーブのその言葉でルイス殿下は理解した。あの停戦合意はナンシーを自由にするためのものであったと。

 そして、今それを追及しようとは思わなかった。むしろ、セシリーを助けようとしてくれていることに感謝をしたいくらいだった。

 ナンシーはセシリーの腕をみる。


「旦那様、二の腕辺りからスパッと斬ってください。おっと、ここだと血でベッドを汚してしまいますね」

「斬って再生すればいいのかな?」

「はい。かつて見た、エース・オブ・ワンドの呪いと同じです。あのものは性格が悪いので、呪いをかけた相手が、自分の腕を斬ることが出来るかどうか、笑いながら見るのが趣味です。一度その呪いをかけた場に居合わせましたが、その時は相手が自ら腕を斬り落として、呪いが解けたのを見ております」

「そういうことなら、やってみようか」


 スティーブかオーロラの方をみる。


「たかだかベッドくらい、血で汚れたとしても替えればいいだけよ。ここでやって」


 オーロラが場所の許可を出した。

 その会話を聞いてルイスが不安になる。


「腕を斬って再生が可能なのか?」

「まあそれくらいなら」


 そう言ってスティーブは亜空間から剣を取り出すと、一気にセシリーの右腕を斬った。そして再生させると、次に左腕を同じように斬って再生させる。

 パッと見、セシリーの腕が四本あるように見えた。


「なんと、転移、収納、治癒の魔法が使えるのか」

「秘密ですけどね」

「わかった。この事は口外しないようにしよう」


 ルイスがそう約束をした。

 オーロラは斬った腕を片付けるように命じ、ハリーが腕を部屋の外に持ち出したとき、セシリーが目を覚ました。


「死んだはずのナンシーがいるということは、ここは死後の世界」

「違うわよ」


 起きて最初に目にはいったのがナンシーだったため、セシリーは死後の世界かと勘違いした。

 それをナンシーが訂正する。


「まだ死んでないわ。旦那様が貴女を呪いから救ったの」

「ナンシー、旦那様って?それより、何で生きてるの?」

「話すと長くなるけど、公式記録では死亡だからね。今の私はセシリーの姉ではなくて、別人」

「何をいってるの!それにその大きなお腹はなによ。ナンシーが裏切ったせいで、私がどんなに大変だったと思っているのよ!」


 今まで死にかけていたセシリーだったが、呪いが解けてナンシーを見たら怒りが爆発した。

使わなくなった設定の供養ということで。元々はナンシーが死んでからセシリーと出会い、心の傷をセシリーに癒してもらいながら惹かれあうような感じにしたかったのですが、ナンシーが生きていることでそれがボツに。まあ、その設定だったらセシリーも死んで、さらに心の傷が深くなる予定でしたが。クリスの立場無いですね。

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