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61 パスチャー王国へ

 スティーブは地図を頼りに、一直線にパスチャー王国の王都を目指した。途中の領地は全て領主を人質に取り、領主の居城、屋敷をマッキントッシュ伯爵軍が占領する形で進んでいく。

 スティーブの横には常に、ベラの姿があった。今も、攻略した子爵の居城で拘束した子爵の前に二人で立っている。

 身体強化の魔法に加えて感覚向上の魔法により、ベラの戦闘力は近衛騎士団長を上回っていた。ただ、魔法の効果が切れてしまえば、騎士団の中では真ん中くらいの実力であった。それでも、真ん中くらいというのは驚愕すべき実力なのだが。

 彼女は魔法で能力が底上げされることで、最適な動き方を経験する事が出来、それが魔法が無くてもそう動こうとすることで、短い期間で実力をあげる事が出来たのだ。


「スティーブのお陰で、大量の捕虜の扱いに困るって言ってた」

「誰が?」

「偉い人」


 ベラはマッキントッシュ領の人を知らないので、誰と訊かれても名前も役職もわからなかった。ただ、他の兵士が頭を下げているのを見たので、偉い人なのだろうと思ったのだ。


「フォレスト王国の時もそうだったけど、食事を出すのも大変なんだよね」

「今回はアダムズ辺境伯とマッキントッシュ伯爵でわけっこしているから、ソーウェル辺境伯の時よりはいいんじゃない?」

「まあそういう考え方もあるか。でもさあ、殺すよりは生きて捕らえたほうが気分的に楽じゃないかな」

「その感覚がわからない。一人殺すのも、一万人殺すのも同じでしょう。敵なんだから」


 ベラの考え方は一般的なこの世界の考え方であり、平和な時代の経験があるスティーブには馴染めなかった。


「多分、人を殺せば殺すほど、普通の気持ちが無くなっていくんだと思う」

「それで悩んでいたら貴族なんて出来ないよ。これからも敵と戦わなきゃならないだろうし、犯罪者を処刑することもしなきゃならないし」

「処刑は命令だけだからね。少なくとも戦場で敵を殺すのよりは気が楽なはずだよ」

「じゃあ、スティーブは私に敵を殺せって命令だけすればいい。私が全部の敵を殺すから」


 ベラは本心からそう言った。彼女からしてみたら、好きな男が悩む姿を見たくないというのがあり、そのためなら戦場で戦う事などどうということはなかった。

 いや、それならば自分でやる方がいいとスティーブは考える。

 スティーブには、自分が人を殺すことから逃げるため、ベラにその作業を押し付けるなどという選択肢はなかったのだ。


「いや、そこは覚悟を決めるよ。出来れば戦争のない平和な世界が来るといいんだけど」

「それならスティーブが大陸を統一すればいいじゃない。みんながスティーブの家来になれば、戦争なんて無くなるよ」

「スケールの大きい話だね。それと、その話は人前ではしないで欲しい。国王陛下の耳にでも入れば、反逆の疑いを掛けられて、家族も領民もどうなるかわからないからね」

「わかった。でも、国王陛下だろうが皇帝陛下だろうが、スティーブなら勝てるでしょう」

「それはわからないよ。それに家族を同時に攻撃されたら、守る事も出来ないじゃない。個人の能力ではなくて、組織力としての国王と皇帝を考えないとね」


 スティーブが敵の領土を奪って占領出来ないのは、ずばりその組織力が無い事が原因である。ただ相手を倒すだけでは大陸統一などは出来ない。積みあがった屍の上に座るだけで、国家など無くなってしまう事だろう。


「私には難しい事はわからない。だから、スティーブが考えて命令をしてくれたらそれでいい」


 ベラは難しい話が苦手だったので、スティーブとの会話をこれ以上続けるのを諦めた。スティーブも会話をそこで切り上げる。

 今まで会話をしながら隠れている敵を探していたが、虫やネズミは隠れている敵を見つける事は無かった。


「これで完全に制圧出来たことがわかったから、伯爵軍を連れてこようか」

「うん」


 そうして二人はマッキントッシュ伯爵領へと転移する。魔法で拘束されている子爵は突然現れたスティーブに魔法で拘束され、訳の分からないままに城内を制圧されて、そしてその相手が消えたことに戸惑うが、考える事を諦めた。

 直ぐに子爵の前にはスティーブが軍隊を連れて戻ってきた。


「閣下、仕事が早すぎますよ。今日で三回目ですよ」


 そう言ったのは先発隊の隊長としてアダムズラントに行った男だった。

 今はすっかり占領担当になっている。

 彼の言うように、今日スティーブがおとした領地は三個目であり、別の部隊が転移で連れていかれるのを隊長は見ていた。そして、二回目の部隊の転移を見て、今日は自分達の出番はないだろうと思ったら、それが回ってきたのである。


「こんなことは直ぐにでも終わらせたいじゃない」

「ま、普通の戦争なんてもんは、戦場で何日も過ごさなきゃならないので、飯も食えない時もあれば、風呂にも入れないもんなのですが、毎日決まった時間に出勤して、夜には見張り番を残して戻ってきて家で寝られる戦争ですから、早く終わらせたいなんて気持ちも薄れますがね」


 隊長の言うように、戦争とは兵士が過酷な環境に置かれるものであり、ここでは言及しなかったが、行軍の途中でも敵の奇襲があったり、罠が待ち受けていたりするもので、気の休まる暇もないのが普通なのだ。

 それが、戦闘も無ければ家で寝られるような戦争ともなれば、早く終わって欲しいなどという気持ちが湧きようもなかった。


「そうは言っても、明後日には王都に到着する事になるだろうから、あと二日で終わりだよ」

「早いものですなあ。戦っているのも閣下だけで、私など順番が来るまで隊員と賭博で時間を潰しているだけですよ。これが戦争だとは思えません」

「まあまあ、どこから敵が子爵を取り返しに来るかもわからないから、気は抜かないでほしいんだ」


 スティーブはそう言ったが、実際には占領した城には使役している動物たちを残してあり、敵のそうした奪還作戦は直ぐに察知出来るようにしている。

 今のところは、領主が人質になったことで、兵士達は武装解除に応じているので、杞憂に終わっているのだが。

 そして、その会話を聞かされている子爵は、自分が捕まった相手がとんでもない化け物である事を理解し、救出されるかもしれないという希望を捨てたのだった。ただ、命だけは助けてほしいという命乞いをするのが精一杯であった。


「それじゃあ次の所に行ってくるから、占領の後処理はお願いね」

「帰りは拾ってくださいよ」

「勿論だよ。居残り組の選定だけはしておいてね」

「はい」


 そう言うと、スティーブは次の領地を目指して転移をした。

 後に残された隊長と、その副長がスティーブの消えた後を見ている。

 不意に、副長が隊長に話しかけた。


「隊長、私は竜翼勲章の話は眉唾で、国威発揚のための作り話だと思っていましたが、実物を見て思い違いも甚だしいとわかりましたよ」

「誰だってそうだろうよ。あれが大人がやった事だって言われても信じられないのに、ましてや子供だぞ。今のことだって誰に話しても本当の事だとは思わないさ。それに、俺にこのことを言ってきた奴が居たら、酒を抜いてから来いって言ってるだろうな」

「全くです。そもそも魔法だっていくつ使えるんですか。魔法使いでもダブルまでなんていう常識は吹き飛んでしまいましたよ」

「で、それだけじゃなくて様々な発明と、西部地域での社会システムの発案だろう。西部地域が好景気だって聞いていたが、その原因となったのが閣下だとは信じられなかったよ。でも、今なら信じられる」

「うちの子もああなりませんかね?」

「馬鹿を言え。子供たちがみんなあんなに優秀なら、俺たちはどう生きていけばいいっていうんだ」


 隊長の問いに、副長は答えられなかった。ただ、息子に食わせてもらえないかなと、ほんのちょっとだけ思ったのである。


 その翌日もスティーブは順調にパスチャー王国を攻略していた。馬よりも早く移動するため、パスチャー王国内部はいまだカスケード王国が攻め込んできているとは気づいていなかった。

 午後三時を過ぎた頃、パスチャー王国の王都を目前にして、かろうじて目視で王都の城壁が見える場所にスティーブとベラ、そしてワイアット隊長をはじめとする先発隊の面々がいた。

 先発隊の隊長をずっと隊長と呼ぶのも、他の隊長と混同してしまうので、ここにきてやっと名前を聞いてわかったのだ。


「王都なんてどこも変わらないねえ」


 スティーブはそう感想を述べた。


「見えるんですか?」


 ワイアットは遥か彼方の王都の城壁を、目を細めて確認したが、彼にはよく見えなかった。


「今、鳥や虫を使って王都の中を偵察しているからね」

「偵察、侵入、戦闘と一人で戦争が完結してしまいますね」

「そうでもないよ。わかっていると思うけど、一人で占領出来る範囲なんて限られているからね」

「閣下なら魔法で人形を操ったり、御身の分身を作ったり出来るでしょう」

「あ、それいいね」


 ワイアットは半分冗談で言ったつもりだったが、スティーブはその話を真剣に考えた。そうした魔法を使える魔法使いを見つけて、作業標準書を作成してしまえば、色々と楽になる事が見えてくる。


「で、今から行くんですか?」

「明日にしようと思っていたんだけど、城内の警戒が緩いからねえ。日が暮れる前に終わらせられそうだよ」

「一国の王都を二時間掛けずに落城させるってんですから、俺ら兵隊は次の職を探さないといけませんね」

「そうでもないって。僕一人で出来る事なんて限られているからね。さあいくよ」

「心の準備が」

「常在戦場。準備なんて言わないの」


 そう言うと、スティーブは部隊丸ごと玉座の間へと転移する。

 パスチャー王国の王城では、今まさに戦況の報告が行われているところだった。

 国王が玉座に座り、その隣に宰相が立ち、軍関係の役人たちが王の前に跪いて戦況を報告するといった状況である。国王は前王から玉座を譲られてまだ五年であり、年齢は32歳で若さと野心に満ちあふれていた。


「敵辺境伯の領都アダムズラントに侵入したという報告が届きました。次の報告では占領したという報告が来ることでしょう」

「うむ。そこを橋頭保とし、周辺地域に支配を広げ、ゆくゆくはカスケード王国の王都を狙えるな」

「三年もあれば、それは可能かと」


 というやり取りの最中に百人の兵士が突如出現したのだ。その場にいた者達は例外なく驚く。


「何者か!」


 護衛の騎士が叫ぶも、その時にはスティーブの魔法により、鉄の鎖で全員が拘束されていた。しかも、手枷足枷ではなくて、首輪でだ。

 その事態を見て、国王専用の転移の魔法使いが脱出のために、国王の近くに転移しようとした。


「あーあ、動かない方がいいですよって忠告しようと思ったのに」


 スティーブは手で目を覆った。魔法で作られた鉄の鎖は、転移の魔法の効果を打ち消す。魔法使いは頭だけが国王の隣に転移して、床を転がった。元の場所に残った首から下の体は、前のめりに倒れて音を立てる。

 スティーブはきっと転移の魔法使いがいるだろうと予想し、首輪での拘束としていたのだ。これが手枷足枷だった場合、逃げられてしまう可能性もあるからだ。


「閣下、何者かって聞かれてますが」

「スティーブ、挨拶は礼儀の基本って言っていたじゃない」


 ワイアットとベラに言われて、スティーブは顔から手をどけて、相手の質問に答えることにした。


「アダムズラントからやってきました。正確にはもう少し南ですが」

「カスケード王国からだと?あそこは今アダムズラントが陥落寸前と報告を受けたばかり。それに、ナイト・オブ――――」


 国王はナイト・オブ・ソードと言いかけて口を止めた。スティーブたちにはわからぬことだが、帝国が裏で動いているのは秘密にする約束になっていた。帝国としては表立ってカスケード王国と争うつもりはなく、パスチャー王国国王の野心をくすぐって、侵攻に走らせたのだった。


「精鋭を送り込んでいたはずだが」


 国王はそう言いなおした。


「ほぼ全員が捕虜になっていますよ。えらく強かった騎士はどこかに逃げちゃいましたけどね」


 えらく強かった騎士がローワンを指すことは国王も理解できた。そして、正体がばれていなそうだとわかり、ホッとする。実際はばれているのだが。

 そして、ここまでの会話でなおも、国王はスティーブたちがカスケード王国からやって来たというのを疑っていた。百人からの兵士が移動していて、国内で気づかないはずがないからだ。


「しかし、本当にカスケード王国から来たというのか?そうであれば、国内で発見の報告があってもよいはず。一気にここまで転移できるわけでもあるまい」


 転移魔法の常識として、使用する魔力は重量と距離に比例する事がある。国王はそれを知っているので、百人を転移させようと思えば、少なくとも王都の中から転移してきたと考えたのだ。

 パスチャー王国の転移の魔法使いは、その距離ですら百人の兵士を転移させることは出来なかったが。


「まあ、途中途中で領主を捕まえてきましたから、連絡出来る人がいなかったのでしょう」


 そういうとスティーブは国王の前から消えた。そして直ぐにまた転移して戻ってくる。


「この人を知っていますよね」


 スティーブに連れてこられたのは中年の男。その男は鉄の鎖で拘束されていて身動きが取れず、顔だけを国王に向けた。


「陛下」

「コープランドか!」


 連れてこられた男はコープランド子爵。王都への通り道に領地を持っていたため、スティーブに捕まってしまった貴族のひとりだった。


「さて、これで信じてもらえましたかね?この状況でもまだ戦いますか?それとも降伏しますか?」


 コープランド子爵を見て愕然としている国王に向かって、スティーブは微笑みながらそう訊ねた。


「降伏して助かる保証はあるのかね?」

「まあ、そこいらへんは僕の権限ではないですからお約束は出来ませんが、フォレスト王国の国王も健在ですし、命まで取るような事はしないかもしれませんね。いや、あそこは無くなると帝国と直接対峙することになるから残されたのか。なんとも言えませんね。うちの陛下に訊いてみてください。今から行きましょう」


 スティーブはそういうと、国王と宰相を連れてマッキントッシュ伯爵領に転移した。面倒な事はマッキントッシュ伯爵に任せようというスティーブの魂胆である。

 そして、マッキントッシュ伯爵を連れて、カスケード王国の王都に転移した。

 国王は他の政務の最中であったが、緊急事態ということで急遽パスチャー王国の国王と終戦の交渉をすることになったのだった。

 その話をすると、スティーブは急いでパスチャー王国の王城へと戻る。

 ベラとワイアットたちを迎えに来たのだ。ついでに他の捕虜もカスケード王国に移送するため。

 スティーブの顔を見たワイアットがにこにこしながら話しかける。


「いやあ、閣下。本当に日暮れ前に終わらせましたね」

「気分よく寝たいじゃない。みんなで帰ろうか」

「今日ここに泊る連中を選ばなくてもいいんですか?」


 ワイアットが部下たちを見ながらスティーブに訊ねると、スティーブは全員で帰る許可をマッキントッシュ伯爵に貰って来たと言う。


「マッキントッシュ卿からは、この王城は占領しなくていいと言われているよ。相手の国王が人質になっているんだし、この城に戦略的な価値はないから」

「じゃあ、何かを貰っていくのも無しで?」

「そうだね。それは僕は認めないよ。戦争は終わったんだから、後は交渉次第だよ」

「まあそうなんでしょうけど、兵士というのは命をかけた見返りが無いと士気があがらんので」


 戦争に参加した者は相手の兵士が持っていた金や、装備品などを貰う権利がある。勝って生き残る事でそれなりの財産が築けるのだ。今回も領主の城や屋敷から色々と物を持ち出している。そして、スティーブもそれは知っていて止めはしなかった。

 しかし、今は終戦交渉中であり、その最中に略奪行為をするのは、スティーブの倫理観が許さなかったのである。


「そこはマッキントッシュ卿に配慮するように言っておくよ。ここまで来たのに手ぶらで帰るには、それなりの見返りが必要なのはわかるから」

「閣下にそう言ってもらえるなら、そうします。閣下が言うならみんな納得するでしょうから」

「本当は僕から出してあげたいんだけど、みんなマッキントッシュ卿の兵士だし、僕は今回手伝いで来ているだけだからねえ」


 スティーブが手伝いというと、ベラがスティーブの腕を肘で軽くつついた。


「手伝う人間が一番前で功績をあげるのはどうかと思う」

「そうなんだけど、それが結果として一番人が死なないやり方だから」

「そうです。閣下が居なければ我々も半分が生き残れたかどうか。アダムズラントの時で死んでいたと思いますよ。圧倒的な支援魔法の数々と、閣下による敵の拘束があればこそです」


 ワイアットがアダムズラントの戦いを思い出して頷いた。身体強化と治癒魔法により、死者が出ないという奇跡的な勝利を収めた戦いは、そうは無い。

 あの時スティーブが後方で支援に回っていたら、自分も死んでいたかもしれないという実感があったのだ。会話を聞いていた部隊の一同も同じ気持ちだった。


「それに、殺さなければ人質として解放するときにお金も貰えるし、そうした身代金がとれない相手は奴隷として使えるから」

「前回はその分の報酬をもらったよね」

「ベラ、あの時はソーウェル閣下の依頼だったからね。今回は特にそういった契約もないし、義理の実家の手伝いだから、報酬は期待していないよ。僕としては早いところ領地に戻って、工場の経営をみたいんだけど」

「ニックが今頃泣いているかもね」

「一応毎日顔は出して、話はしてきたけど」


 スティーブの話を聞いて、ワイアットは呆れた。


「戦争中に領地の経営も見ていたんですか」

「どうしても僕じゃないと判断できない事もあるからね。毎日帰っているんだからそんなに苦にもならないよ」

「普通は戦争中に毎日領地の様子を見には行けませんし、戦争以外の事に対処する余裕なんてないです。その歳でどれだけ働いたら気が済むんですか」

「別に気が済むまで仕事がしたい訳じゃないんだ。うちの領地はずっと赤字だったし、今でも農業生産は人口を賄うほどはないから、工業製品を作って売ってお金を稼がないと詰んじゃうんだよね」


 スティーブはアーチボルト領の事情を吐露する。ワイアットにはそれが理解出来なかった。スティーブ程の実力があれば、軍のトップに立つことも出来るだろう。そうなれば、領地ももっと良い場所に変えてもらえるはずで、今の領地にこだわる必要もないのだ。

 しかし、それは言ってはならない気がして黙っていた。

 スティーブはそんなワイアットの気持ちを察する。


「何か言いたそうだね。あの領地は父が拝領した時に、苦しいのがわかっていてついて来てくれた人たちばっかりだから、見捨てて他に行くわけにはいかないんだよね。ワイアットもこれからどうせ貴族になって領地を貰うんだから、その気持ちがわかるようになるよ」

「私が貴族ですか?」

「なにも驚く事じゃないよ。西部地域はフォレスト王国から広大な土地を割譲されて、戦争に参加した兵士から多数騎士爵がうまれたんだから」


 スティーブは今回もそうなるであろうと考えていた。そして、先発隊の隊長だったワイアットは、領地を与えられるだろうと思っていたのである。


「スティーブがそういう考えだからみんながついていくの」


 ベラが胸を張ってスティーブのことを自慢した。そんなベラの肩をスティーブがポンポンと叩いた。


「さあ帰ろう」


 そう言うと、人質たちも連れてマッキントッシュ伯爵領に転移した。

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