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親の町工場を立て直そうとしていたが、志半ばで他界。転生した先も零細の貴族家だったので立て直します  作者: 工程能力1.33
外伝4

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第205話 仲買人からの報告

 執事はカヴェンディッシュ侯爵に元ボスが自白したことを伝えた。

 これには侯爵も渋い顔になる。


「まずいな。先手を打ってこちらから事情を説明するか?」


 侯爵は執事に訊ねると、執事は首を横に振った。


「いえ、それではこちらに奴が来たことを伝えることになってしまいます。そうすれば関係は決定的。濡れ衣を着せられていたなど、知らなかったという態度の方がよいのでは。かつて少し関係があっただけで、黒幕に仕立て上げられるなど迷惑千万という風にして押し通してしまう方がよいかと」

「確かにな。先に申し出るのは悪手か」


 こうして、カヴェンディッシュ侯爵はアーチボルト家の出方を待つことにしたが、そのアーチボルト家からは特にアクションは来なかった。

 そうしているうちにも、カヴェンディッシュ建設の増資が始まる。

 増資の発表後、下げを加速していた株価も、いざ売り出しとなったら反転し始めた。株価の値動きを聞いていた侯爵も、資金繰りと株価の両方が安定したことで一安心となっていた。

 しかし、その株価が急落をすることになる。

 急落の原因は侯爵による公共事業の不正受注や、王都の再開発に伴う許認可申請での贈収賄疑惑で、侯爵が取り調べを受ける可能性があるというものであった。

 カヴェンディッシュ建設が侯爵あってのものというのは、市場参加者の常識であり、その侯爵が仮に逮捕されるようなことになれば、株は無価値になるのだ。

 リスクを嫌った投資家の売りが膨らむ。

 そのような状況に侯爵は苛立っていた。


「俺が逮捕されるなど、誰がそのような噂を流したんだ!」

「現在調査中でございます」


 執事はそう答えるが、内心では犯人は見つからぬだろうと諦めていた。噂の出所は怪文書である。主だった仲買人たちに侯爵逮捕の噂が書いてある怪文書が届けられた。差出人は不明であるが、不正があったとされる事例について、詳細が書かれていたのだという。

 仲買人たちはお得意様にこの情報を伝え、それが広まって今の売りにつながったのだ。執事もそうした事情は把握していた。だからこそ、差出人不明の怪文書の犯人は捕まえられないだろうなと諦めていたのである。

 ただ、これを侯爵に言ったところで、素直に納得してくれるわけもないので、調査中と答えたのだった。

 さて、この増資であるが今回のカヴェンディッシュ建設では、新規発行株を一気に売り出すようなことはせず、毎日少しずつ売りに出していくという、MSワラントに似た仕組みをとっていた。

 この新株の売りが終わるまでが、侯爵とサリエリ商会の契約期間となっている。

 再び株価が下がったカヴェンディッシュ建設であったが、なんとか新株の発行下限価格以上では推移していた。もちろん、それはこの噂にもかかわらず、買い向かっている投資家がいたからである。

 侯爵家に出入りする仲買人から、そんな買い向かっている投資家の話が持ち込まれた。対応するのはいつものように執事である。


「実は、複数の投資家がカヴェンディッシュ建設の株を買っているようでして」

「それが何か問題でも?」


 執事が訊ねると、仲買人は頷いた。


「今回の増資で閣下の持ち株比率は下がっております。このまま買い進まれると、筆頭株主の座を明け渡すことになるかもしれぬと思いまして」

「そんなに大量に買っている者がおるのか?」


 仲買人の言葉に執事は驚く。


「いや、今は7から8%程度まで買っている者が5人ほど。しかし、これは良くない噂の中で特異な取引でしょう」


 その説明に執事はなんだ、大したことはないではないかと思った。


「その程度であれば閣下の持ち株に届かぬではないか」

「はい。しかし、ここからさらに買い進むようですと……」

「それでも、閣下の存在を脅かすわけではないであろう」

「はい。しかし、株主などで結託されてしまえば、閣下のご意見もとおりません」


 それを聞いた執事は笑う。


「それは心配し過ぎだ。閣下あってのカヴェンディッシュ建設。閣下の手腕が無ければ、今の業績を維持することなど出来ぬ。だから、最後は閣下の言うことに従うはずだ」


 カヴェンディッシュ建設の利益は侯爵によって生み出されるといっても過言ではない。仮に、株主が結託して侯爵を追い出したとして、会社は今と同じ利益を生み出すことは出来ない。

 侯爵が別の会社と結託して、そちらに公共事業を発注し、さらにカヴェンディッシュ建設に建築許可を出さなければ、たちどころに潰れてしまう。そうなれば、株を買った資金が全て水泡に帰すというわけだ。


「ええ、そうでしょうとも。ですから、現状は懸念をお伝えに伺ったというだけでございます」


 仲買人は、後々問題が起こったときに、何故報告をしなかったのかと責められることを恐れ、先回りして報告をしに来たというわけである。

 結局、この件は侯爵には伝えられないまま終わった。


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