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親の町工場を立て直そうとしていたが、志半ばで他界。転生した先も零細の貴族家だったので立て直します  作者: 工程能力1.33
外伝4

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第200話 サリエリ商会

 侯爵が家に帰ると、執事が来客を告げた。


「サリエリ商会の支店長がお見えです」

「どんな要件だ?突然の訪問など何を考えておるのだ」

「増資についてだとか」

「なるほど、増資か」


 運転資金を得たい侯爵にとって、増資の話を持ってきたというのはありがたかった。なので、会うことを決めたのである。

 サリエリ商会はソーウェル家の御用商人であり、侯爵もそのことを知っているので、アポなしの訪問などという無礼な真似をするのが信じられなかったが、増資と聞いて流石の情報力だと感心した。

 侯爵は応接室に入ると、そこにいたのはほっそりとして清潔感のある中年男性だった。


「閣下、突然の来訪を御寛恕くださり、誠にありがとうございます」


 やや慇懃ながらも、その態度からは無礼さは感じられなかった。

 そして、そこからは増資の話となる。増資は発行済み株式の50%を新たに発行して、市場で売り出すことになった。いわゆる公募増資である。

 増資金額が決まった後で、売り出しまでの説明となった。


「増資については我が商会が請け負いましょう。しかしながら、売り出し完了までの間に担保が必要となります」

「担保か。現金なら他の条件にしてくれ」

「ええ。手数料を後程いただくまでの間だけですので、閣下の持ち株を貸していただければ結構です。名義の書き換えも行いません」


 侯爵は名義の書き換えが無いのならと、二つ返事で承諾した。

 今回の増資は公募増資。新たな株券を市場で売ることで資金を調達する方法である。担保というのは建前で、株券が増えることで株価が下がるのは目に見えるので、借りた株を売ってしまい、増資後に下がったところを買い戻すことで、手数料以上に稼ぐためのものであった。

 一旦売るので、契約の中に担保として差し入れしている期間は、その権利を行使するのはサリエリ商会となるとある。名義の書き換えよりも、こちらが優先される契約となっていた。

 しかし、知識も無ければ、目の前の資金に窮している侯爵にとって、断ることなど出来はしない。

 また、35%の持ち株比率も、この増資で23%程度まで下がってしまい、筆頭株主ではあるが、決定権については薄まってしまうのだが、そのことについても考えてはいなかった。

 こうして増資の話がまとまると、すでに用意してあった契約書に金額などの数字を書き足して、侯爵がサインをする。無事に契約書の取り交わしが終わって、サリエリ商会の支店長は帰っていった。

 執事は侯爵に訊ねる。


「よろしかったのですか?一時的にでも株を手放すことになりますが」

「一時的に貸すだけだ。契約書にもそう書いてあるであろう。心配はない」

「はい――」


 執事はまだ何か言いたそうであったが、侯爵の機嫌を損ねると面倒なので、それ以上は口にしなかった。

 しかし、サリエリ商会のタイミングの良さに、思うところが有って、それがのどに刺さった魚の骨のような気持ち悪さを生み出したままとなっていた。空売りしているのがバルリエ商会、増資の話を持ってきたのがサリエリ商会。どちらも裏にはソーウェル辺境伯がいる。これが偶然と思えるほど、ぬるい世界で生きてきたわけではない。

 が、それは胸の内にしまっておいた。

 そうしていると侯爵が何かを思いついて、ふと顔をあげた。


「ふむ、金の事で頭がいっぱいになって忘れていたが、俺をここまで虚仮にした連中には痛い目を見せてやらんとな」


 そう、報復を思いついたのである。


「閣下、バルリエ商会に手を出せば、ソーウェル辺境伯とぶつかることになりますが」

「いや、そちらは流石に手を出さぬ。しかし、グランヴィルの奴だけは許さぬ。ヘレナを奪っただけでは飽き足らず、仕事を出してやっていたのに、飼い犬が手を噛むような所業。すぐに手配せよ!」

「承知いたしました」


 侯爵も怒っているとはいえ、まだ計算が出来ぬほどではなかった。

 なので、手を出しても問題ないグランヴィル騎士爵を狙うことにしたのである。


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