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親の町工場を立て直そうとしていたが、志半ばで他界。転生した先も零細の貴族家だったので立て直します  作者: 工程能力1.33
外伝4

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第197話 青菜に塩

 ネイサン子爵邸を出て、待たせてあった馬車に乗ったアーサーとリリア。

 二人きりになると、リリアは大きなため息をついた。


「はぁ、緊張した。貴方随分と落ち着いていたようだったけど、緊張とかしないの?」

「これくらいの事、祖父や父の仕事を手伝っていれば、頻繁にありますからね。それに、母は自分よりも若い時に、父と一緒に株の仕手戦で、株価を吊り上げるために大勢の前で演技をしていましたしね。それに比べたら大したことではないですよ」


 アーサーが言うのはトンプソン男爵とドローネを相手にした仕手戦の事であった。あの時クリスティーナは、実家のマッキントッシュ家を巻き込んで、ステンレス製の像の価値を高めるために、大勢の貴族の前で演技をしていたのだった。

 それを聞いて、リリアは自分とクリスティーナを比べてしまう。

 アーチボルト家で会った時のオーラは、そうした経験から作られるものであり、自分がそこまでになれるのかと自問自答する。

 元々がアーサーが婚約者としてふさわしいかを見極めるために近づいたのに、今では自分が相応しいのか考える立場になっていたが、彼女はそのことに気づいていない。

 考えるのを止めてアーサーを見ると、その顔が急に頼もしく見え、リリアの顔は赤くなった。


「何か?」


 アーサーに訊かれて、リリアはハッと我に返る。


「別に――」


 そういって、視線を窓の外に移した。

 車窓から見える王都の街並みは、いつもと変わらぬ賑わいを見せていたが、リリアはそんな景色は頭に入ってこなかった。

 そうしているうちにも、馬車はバルリエ商会に到着する。

 応接室に案内されると、そこには会頭のバルリエと、経済革命クラブのメンバー、それにナタリアが待っていた。

 イザベラがアーサーに訊ねる。


「どうだった?」 

「予定通り。魚が餌にくいついた状態だ。だから、この後も計画通りにいく」


 アーサーの返答に笑顔になったのはバルリエである。


「では、これからカヴェンディッシュ建設の空売りをはじめます。しかし、毎回我が商会に注文を出していただいて、エマニュエル商会には申し訳ないですな」

「仕方ないよ。エマニュエル商会で空売りを仕掛けたら、あっという間に提灯がついて儲けが少なくなるからね」


 そうアーサーがこたえると、エリザベスが身を乗り出した。


「今度こそママに利益を取られないようにしないと」


 ぐっと拳を握りしめる。

 前回のカッター伯爵とのフレミング商会をめぐる仕手戦では、その利益を親に没収されたエリザベスが、今度こそはと燃えていた。

 利益は没収とはいうが、実は経済革命クラブでの使用は認められている。エリザベスが個人的に使うのが禁止されているだけなのだ。だから、今回の空売りの原資についても、エリザベスの物ではないのだが、自分の手持ちでも空売りをして、それで利益を得るつもりでいたのだった。


「リズ、あんまり大きく張ると、逆に動いた時に泣きを見るわよ」


 イザベラが注意するも、エリザベスの頭の中はまだ見ぬ利益でいっぱいになっていた。相場で失敗する投資家そのものではあるが、今はアーサーとイザベラが味方に付いているので、失敗することなど考えられなかった。

 そんなイザベラをミハエルはあきれ顔で見ており、心配するリリアとナタリアとは対照的であった。

 特に不安が大きいのはリリアである。


「次は私が主役なのよね……」


 弱気な顔でメンバーを見るリリア。

 イザベラが鼻で笑う。


「経済革命クラブに乗り込んできたときとはえらい違いね。青菜に塩をかけたって、もう少しシャキッとしているわ」

「水分がぬけてしおしおだよ」


 ミハエルは苦笑いしてイザベラの言葉を訂正する。

 アーサーとエリザベスは笑うが、リリアはとてもそのような気にはなれなかった。

 しかし、それでもリリアが主役となる場面はやってくる。

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