第195話 経済革命クラブ始動
アーサーたち経済革命クラブのメンバーは、カヴェンディッシュ侯爵と戦うために動き出す。
まずはグランヴィル工務店に出向き、カヴェンディッシュ建設への売掛債権を買う。これにはナタリアの父である、サミュエル・グランヴィル騎士爵も立ち会った。
彼はアーサーたちを見て、不安そうにしていた。
「うちの売掛債権を額面で買ってくれるのはありがたいが、カヴェンディッシュ建設と対立するのは商売上避けたいところだが」
「どのみちカヴェンディッシュ建設が今のまま存続することはありません。閣下が手を引いたとしても、僕たちが止まることがない以上、この先仕事がなくなるのは確実です」
アーサーはサミュエルの不安を理解した上で、今後のカヴェンディッシュ建設の未来がないことを話す。ただ、どうやるかまでは明かさなかった。
サミュエルは大きく息を吐くと、天井を見上げた。
「そうだな。君たちに助けてもらわなければ、うちはどの道終わっていた。そして、アーチボルト家に狙われたとなれば、カヴェンディッシュ建設も終わりなんだろう」
そう言うサミュエルであったが、一つ勘違いをしていた。
アーチボルト家に狙われたのではなく、アーサーとイザベラに狙われたのである。スティーブはまだ、現段階では積極的にカヴェンディッシュ建設や侯爵をどうこうするために動いてはいない。
子供たちのやり方を見守っている段階である。
どうにもならなければ手助けするつもりであるが、それまでは子供たちに任せるつもりであった。
このへんの感覚は外からではわからないのも無理はないが。
売掛債権の買い取りの契約が終わると、アーサーは債券の工事現場をサミュエルから教えてもらう。
「支払いがされないのは瑕疵があるからってことでしたよね」
「ええ。そこの手直しが終わらない限りはといきなり言われて、じゃあどこですかと聞いても明確な場所が指示されない状況で……」
下請けの弱さが出ているやり取りであった。支払いの遅れについて問いただすと、工事現場に瑕疵があると言われ、じゃあそれがどこなのかと訊くと、明確な場所は示されない。
それに、その建物は既に施主が使用しているので、当然カヴェンディッシュ建設には支払いがあったはずなのだが、遅延損害金の請求を回避するためと言われてしまっている。
施主に直接確認すれば、カヴェンディッシュ建設と明確に対立することになるので、それも出来ずにいたのだ。
そして、教えてもらった施主はネイサン子爵ということ。工事現場は彼の邸宅のガゼボであった。
「よし、じゃあ次は瑕疵の確認だね」
アーサーはメンバーを見回してそう言った。
リリアはそれに疑問を呈す。
「瑕疵の確認は出来なかったんでしょ。どうやって?」
「それはアーチボルト家の名前を使う。この工事の売掛債権はこちらが購入したんだ。支払いが出来ない理由を確認させてほしいと言えば、させてくれるでしょ。それでも拒否されるようであれば、これは裁判で決着をつけることになるし、そうなると話が大きくなるから、向こうも折れると思うよ」
アーサーの回答にリリアは納得した。
グランヴィル家ではカヴェンディッシュ家と格が違い過ぎるが、アーチボルト家であれば格上として扱われる。
これを強く突っぱねれば、建設業界だけでなく、社交界でも人口に膾炙することになる。
「で、ここからがリリア嬢が主役になるから」
「えっ?」
アーサーに主役と言われてリリアは面食らってしまった。
自分が参加することでシナリオが完成したということだったが、いまだその主役になるという覚悟が出来ていなかったのである。
しかし、時計の針は動き出してしまったのだった。




