第192話 親視点
リリアとエリザベスが帰った後、アーサーは父親であるスティーブに呼ばれていた。
「リリア嬢はどうだったかい?」
「どう、と言われますと?」
「婚約者として見たら、という意味だね。アーサーには跡取りとして政略結婚をさせることになってしまったけど、出来れば幸せな結婚生活をしてもらいたいと思っているんだ」
スティーブは照れ笑いを浮かべながら、アーサーに質問の意図を伝えた。
これは偽らざる本心である。
領民を飢えさせないためにも、領地の発展は必須。今はスティーブがいるからどうにでもなるが、その後を考えれば政略結婚による、他家との繋がりも強化していかなければならない。
それは、跡取りであるアーサーの役割であった。
クリスティーナ主導で進められたアーサーの婚約者選び。スティーブもその重要性を理解しつつも、自由な恋愛をさせられない後ろめたさはあった。
ならば、せめて政略結婚であっても幸せになってほしいという親心である。普通ならそんな親心は隠すものであるが、アーサーに対しては噓をついても見抜かれるだろうという信頼があって、正直に伝えたのである。
「まだそんなに関りがあったわけではないので、現在の情報だけでの判断となりますが」
とアーサーは前置きをして話し始めた。
「突然経済革命クラブに入りたいと言ってきたのと、イザベラとぶつかったことを見れば、我が家の女性としては相応しいかと」
それを聞いてスティーブは頭を抱えた。
「また一人、手ごわい女性が増えそうだということだね」
「はい。しかし、困っている学友に対し、手を差し伸べるのを即決したのは評価できます。そこで損得を考えるようでは、表面上だけの関係だったでしょうね。貴族としてはそれが正しいのかもしれませんが。いや、でも少し私を試すような感じでもありましたが」
アーサーはナタリアがやってきてからのやり取りを思い返し、そうこたえた。
「それはあるかもしれないね。リリア嬢には家柄しか見えていないんだから。まあ、これからか。それで、その同級生の実家の件はなんとかなりそうかな?」
「調査次第ですが、小さな工務店を救うだけなら簡単です。しかし、カヴェンディッシュ侯爵までを狙うのであれば、現段階ではなんとも言えません。それでも、国家の資金を私するようなことがあるのであれば、陛下の臣として、これを排除するべきでしょうね」
「そうだね。ま、手に負えないようであれば言って欲しい。この前のカッター伯爵のように、命の危険があるようなら、それは子供の領分じゃないから」
「わかりました」
そして、アーサーはスティーブの執務室から出た。
入れ替わりでクリスティーナが入ってくる。
「アーサーはどうだったかしら?」
「相変わらず優等生だね。親の前ではもう少し感情を出してくれてもいいんだけど。リリア嬢と二人きりでもあの態度だったらと心配になるね」
「政略結婚でも?」
「そう。折角なら一緒にいて楽しい方がいいじゃない」
「それは、あなたみたいに何人も妻を娶らなければね」
クリスティーナに言われると、スティーブは目をそらした。
現在妻は四人。未だクリスティーナは嫉妬深いのは変らない。まあ、それでも他の三人と喧嘩をするような関係ではないのだが。
「それよりも、カヴェンディッシュ侯爵との関係が心配だね」
と、スティーブは話題を変えた。
「それくらいの相手が丁度いいでしょ。どうやって決着をつけるか楽しみだわ」
スティーブの浮気は疑っても、息子の成功は疑わないクリスティーナであった。




