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親の町工場を立て直そうとしていたが、志半ばで他界。転生した先も零細の貴族家だったので立て直します  作者: 工程能力1.33
外伝4

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第191話 アーチボルト家の人々

 三人が調査内容について議論をしていると、そこにクリスティーナがやってきた。

 リリアは素早く立ち上がると頭を下げる。


「アーチボルト夫人、この度はお招きいただきありがとうございます」

「あら、そんなにかしこまらなくてもいいのよ。それに、招いたのはアーサーでしょ。聞いたわよ」


 クリスティーナもアーサーからリリアの来訪と、その目的を聞いていた。

 婚約者が来たのに挨拶をしないというようなことはなく、こうして顔を出したというわけである。

 本来、格下のリリアが挨拶に行くべきところであるのだが、今日は正式な訪問ではなく、クリスティーナもそんなことは気にしていなかった。

 そして、リリアはクリスティーナの圧に押されて緊張する。

 アーサーが自分の結婚相手として相応しいかどうかを見極めるつもりであったのだが、それが相応しくないとなった場合、クリスティーナに対して婚約破棄を申し出ることが出来る気がしなかった。クリスティーナの決定したことに反対出来るほど、自分にはオーラがないことを自覚させられた瞬間であった。

 なお、アーチボルト家の女性の力の序列では、この上にアビゲイルが控えており、一族の女性で彼女に意見できる者はいない。

 さて、話をクリスティーナに戻すと、彼女はアーチボルト家の人間として、家の権力を伸ばすために様々なことをやってきた。それは、時には顔に似合わない強権的なこともあり、まだ学生のリリアが同じようなオーラをまとうのは無理というものであった。

 そして挨拶が終わり、クリスティーナが退室すると、リリアは緊張が解けたことでトイレに行きたくなった。


「ちょっと席を外しますわ」

「はい」


 そして、部屋を出ると、外で待っていた使用人にトイレまで案内してもらう。


「こちらでございます」


 そう言われてトイレに入ろうとしたところ、そこから背の高い女性が出てきた。


「イザベラ?」


 その名がリリアの口から出た。


「ああ、貴女がイザベラとアーサーの同級生、婚約者のレミントン辺境伯令嬢ね」


 そう返答が来たことで、リリアはきょとんとなる。

 が、よく見ればイザベラよりも年齢が随分と高いことに気が付いた。

 そして、記憶の中からある一人の人物が浮かんだ。


「皇妃様⁉」


 そう、イエロー帝国の皇妃であるセシリーである。

 そこからは、脳がフル回転した。イザベラにそっくりな皇妃。そして、イザベラは帝国からの留学生。帝国籍ももっているという。

 つまり、イザベラは帝国の皇女。わけあって公式の場には出せないが、それは皇妃と竜頭勲章閣下の子供だから。

 そんな重い事情だと勘違いし、自分はこの場で皇妃に会ってしまったことを秘密にすべきかどうかで悩んでいた。

 しかし、それはほんの一瞬。

 固まっていたリリアに対し、トイレから出てきた女性、ナンシーは笑いながら話しかける。


「違うわ。婚約者だとまだうちの事情を知るには早いと思って、今日は顔を出さないつもりだったんだけど、まさかトイレで出くわすとはね。私は皇妃セシリーの姉よ。イザベラの母親でもあるけど。そう、私がイザベラに見えたのね」


 と、若く見られたことで上機嫌であった。

 そして付け加える。


「私は、クリプトメリア王国との戦争で死んだことになっているの。自分の旦那に殺されたってことで、墓碑もあるのよ。そんなわけで、公式の場には出られないから、貴女とアーサーが婚約した時も、紹介されてないのよね」

「そういえば――」


 クリプトメリア王国とカスケード王国の戦争については、リリアも歴史の知識として学んでいた。クリプトメリア王国の裏にはイエロー帝国がついており、スティーブとスートナイツの戦闘で、クイーン・オブ・ソードが帝国を裏切ったものの、最後はスティーブに討たれるというものであった。

 カスケード王国ではナンシーの人気は絶大で、今なお悲劇が舞台で演じられるほどである。

 ただし、イエロー帝国では裏切者として見る国民も多い。クーデターで国を追われたルイス殿下を守り、帝位奪還を果たした妹のセシリーとは真逆の評価となっており、帝国の保守派には命を狙われかねないので、死んだままになっているのだ。

 しかし、停戦条約によって、裏切り自体の罪は消えている。

 そんな話を聞いて、リリアはどうしてイザベラを見た時に、皇妃を思い出さなかったのかと、自分の記憶力を呪った。

 そして、エリザベスの言った、イザベラも公式の場ではそれなりの振る舞いが出来るというのにも納得したのである。


「そういうわけで、今日ここで会ったことは内緒にしてほしいの」

「わかりました」


 そう言ったとき、リリアの脳裏にふと疑問が浮かぶ。


「あの、クイーン・オブ・ソードなんですよね。ひょっとして、イザベラさんは幼いころから稽古を?」


 学校でイザベラと戦おうとして、それが実現できなかったのだが、両親が竜頭勲章とスートナイツとなれば、その実力はかなりのものではないかと想像できた。


「そうね。今なら帝国のスートナイツ、そのエースになれると思うわ。まあ、あの子はこの国が好きだから、帝国の騎士にはならないでしょうけど」

「そう……ですか……」


 戦わなくてよかったと、リリアは心の中で胸をなでおろしたのだった。


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