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親の町工場を立て直そうとしていたが、志半ばで他界。転生した先も零細の貴族家だったので立て直します  作者: 工程能力1.33
外伝4

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第188話 グランヴィル家の窮状

「助けてほしいの?」


 エリザベスが訊ねると、ナタリアは頷いた。

 そして、ここに来た背景を説明し始める。


「グランヴィル家は騎士爵なのですが、ここ数年の建築ブームに乗って工務店の経営を始めました。途中までは順調だったのですが、元受けのカヴェンディッシュ建設からの支払いが遅れがちになって、そこから資金繰りが悪化してしまったのです。このままでは、支払いが出来ず、借金の返済も出来ず、我が家は破産してしまいます。仕事もあるし、売掛金もあるのに。それをなんとかしていただけないかと思い……」


 ナタリアの実家、グランヴィル騎士爵家に限らず、ここ数年で領地を持たぬ貴族たちは、事業に手を出すようになっていた。領地持ちの貴族の金回りが良くなり、それに対抗するという意味もあったのだが、好景気に沸く国内は、多くの事業者にとっても非常に稼ぎやすい環境だったのである。だからこその、貴族の間での起業ブーム、フレミング男爵がそうだったように、である。

 そして、グランヴィル騎士爵は建築ブームに目を付け、工務店を開業した。

 スティーブのアイデアなどにより収穫量のあがった地方では、農業に就けない者たちであふれてしまった。彼らが都市に流入してきたことで、農業従事者以外の労働者が増えるのであるが、これによって住宅の需要も増加した。

 そこで起こったのが建築ブームである。これがバブルではないのは、実需が伴っているからである。

 そして、多くの若者が目指すのは大都会、王都というわけである。

 そして、グランヴィル工務店もこの恩恵を受けて順調に仕事をこなしていた。その元受けはカヴェンディッシュ侯爵の経営するカヴェンディッシュ建設という会社であった。

 カヴェンディッシュ侯爵は王都都市再開発委員会議長という立場にあり、公共事業を私物化したり、建築許可を恣意的に扱ったりとやりたい放題であった。

 だからこそ、そこにうまみもあって多くの工務店が下請けとなっていた。

 また、カスケード王国の建築業界は後払いが基本であった。施主は施工主から完了の報告を受け、確認を終えてはじめて代金を支払う。

 つまり、建築資材の仕入れや人件費が先に出て行ってしまうのである。

 日本であればこれを手形で資金繰りするのだが、カスケード王国では銀行からの融資によって資金繰りをするのが一般的となっていた。

 そして、グランヴィル工務店の仕事は100%カヴェンディッシュ建設からの受注であり、そこの支払いが遅れた場合、他からの入金の宛はないのである。

 そして、カヴェンディッシュ建設は下請けいじめで、その支払いを意図的に遅らせることがあった。グランヴィル工務店のかかわった仕事も、施主からの支払いはあったのだが、カヴェンディッシュ建設はそれをいくつかの下請けに支払っていないのである。

 相手は侯爵経営の会社ということと、そこ以外に仕事がないということで、グランヴィル工務店も強くは出られない状況だったのである。

 ナタリアはそんな実家の事情を知り、フレミング商会を救った経済革命クラブに一縷の望みをかけたというわけである。

 その話を聞いてまずはミハエルが口を開いた。


「その話が本当だとして、当面の資金繰りを乗り切ったとしても、次も同じことになる可能性がある。そして、僕らにはカヴェンディッシュ侯爵を指導する権力はない」

「それに、グランヴィルさんの話の裏もとらないとね」


 アーサーがそう言うと、ナタリアはひどく落ち込んだ。

 ナタリアは真実を話しているのだが、それを手放しで信じるほどアーサーは抜けてはいない。

 現段階でナタリアの話が真実だとわかっているのはナタリアだけ。口にはしなかったが、イザベラたちも同じ考えであった。

 悲観するナタリアだったが、それに手を差し伸べる者があった。


「我が婚約者様であれば、この程度の問題、難なく解決いたしますでしょう?任せておきなさい」


 そう言ったのはリリアであった。

 その発言にイザベラが即座に嚙みつく。


「ちょっと、貴女部外者でしょ!何を勝手なことを」

「いいえ、入会しようと思ってここに来たのよ。今から入会するわ」


 二人の視線がぶつかって火花が散る。

 アーサーはため息をついて、再び二人を止めるのであった。



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