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大神祭(おおかみさい)の禊祓(みそぎはらえ)

食事が終わると座布団を並べて仮眠をとる酔いつぶれの両統領達数名を置き去りにして売店に向い、着替えになる服の物色をする。

それぞれ着替えると宿を出て賑わい始めていた鳥居前の商店街に出て行った。

楓を先頭に翔達は神社へ向かう。

御神門を抜けると紫色に白い紋の入った袴の年配の神職と、安全祈願をしてくれた浅葱色の袴の神職が巫女を連れて出迎えた。

「楓様。おはようございます。ご用意は出来ておりますのでこちらへ。」

年配の神職が楓に頭を下げて言い、社務所へ招いた。

「皆は拝殿の控室で待っててね。巫女さんが案内してくれるからさ。」

楓に言われると巫女が手をかざし案内する。楓からしゃもじを預かった美鈴が連れて行っても大丈夫かを訊ねると楓から「大丈夫よ」と言われそのまま肩に乗せて歩く。


「琴乃さん。何が始まるんですか?」

聡史が小声で聞く。

「私だって知らないわよ。一君分かる?」

「楓さんが企むことは常人には予想不能ですよ。ただ、楓さんがやる気満々の企みは回避不能です。黙って踊らされるしかありませんよ。」

ひそひそと話すが期待も含めて気が付けば大勢の人間が控室に入って来ていた。

暫くすると太鼓の音がして社務所からの渡り廊下を正装の神職たちが歩いて来るのが見えた。

先頭は出迎えた紫色の袴の神職。

その後には白の狩衣に銀色に輝く紋の入った白袴を履いた楓が歩き、松葉色の袴に浅葱色の狩衣の翔が続く。

雫と寛美、忍は緋色の袴を履き巫女の正装をしていた。三人共、千早といわれる上衣を着ている。

最後に浅葱色の袴の神職が歩いて来ると控室に入って来た。

年配の神職が前に立ち挨拶をする。

黒い狩衣に烏帽子を被っていた。

「皆様本日はようこそお参りいただきました。宮司を務めております石上(いそかみ)と申します。本日は秋月先生のご提案で皆様の安全祈願と光雲候に(ゆかり)のある方々の大神様へのご挨拶として祝詞の奏上を行わせていただきます。」

挨拶を終えると太鼓が鳴り響く。

若い神職が誘導し、全員を本殿前室へ招き「修祓(しゅばつ)」を宮司が行うと、本殿へ案内した。


本殿内で行われている厳粛な雰囲気を感じた観光客が大勢、拝殿前を取り囲んでいた。


本殿では宮司が祝詞を奏上し、楓を先頭に翔と雫が並びその後ろに寛美と忍が並んでいる。

弥生と深山夫妻は感動して涙を浮かべながら司会の神職に合わせて立ち上がったり頭を下げたりして式に参加した。

聡史は全く別の意味で感動している。

何処からして来たのか本殿内に桜の香が漂う。

玉串(たまぐし)奉奠(ほうてん)を終え宮司の挨拶が終わると式が終わった。

太鼓の音に送られ控室に戻ると楓が宮司と前に来て話し出した。

「それじゃ~来年の大神祭は翔君と雫ちゃん、寛美ちゃんに忍ちゃんが舞うって事でよろしくね~」

『・・・・・・はい?』

全員がはめられたことに気付く。

宮司と若い神職、巫女達も笑っていた。

宮司の挨拶で言った『大神様へのご挨拶』とは大神祭の神楽(かぐら)を行うための挨拶であった。


「はは、いーじゃない。皆で見に来ようよ。一君も楽しみでしょ?」

琴乃が大笑いして一志に聞く。

一志も同意して笑っていた。

母親の弥生や深山夫妻も喜んでいる。

「ああ成程。流石は琴乃さん。楓さんが企むってこういう事だったのか。私も巻き込まれたって事ね。」

寛美が呟くのを雫が返す。

寛美(ロミ)~何でいつも冷静なのよ。大丈夫って言ってたよね。皆ではめられたのよ~」

「いいじゃない。楽しそうよ。こんな経験頼んでも出来る事じゃないし。あなた民俗学やってるんだから絶好の体験学習になるよ。私もこの神社には興味あったしね。」

翔達の前に宮司が来て説明する。

「大神祭は毎年節前の夜に行われます。『節』とは、二十四節気の一月節である立春を指します。太陽暦では概ね二月四日ですので半年ありますからお時間のある時にお稽古にいらしてください。神楽と言っても皆さんには決まり事の所作を覚えていただき、(うたい)囃子(はやし)に合わせて舞っていただきますので主に謡の人との合わせになります。そんなに難しくはありませんから大丈夫ですよ。」

「翔君は光雲の、雫ちゃんはまんま雫役よ。二人の舞と寛美ちゃんや忍ちゃんの巫女舞は別だからそれぞれ時間ある時に来ればいいのよ~」

楓は笑顔で言い宮司に「ありがとう。今後も宜しくね。」と言って琴乃達の所に歩いて行く。

琴乃は笑って向かい入れ、九鬼兄弟は楓と記念撮影をお願いしていた。

「翔君。似合ってるね。」

忍が近付いて微笑んでいる。

翔は頭を掻きながら照れていた。

美鈴がしゃもじを肩に乗せて歩いて来た。

翔と忍を横目に不満そうな顔で寛美に言う。

寛美(ロミ)さんズルいー私もやりたいな。」

「出た。美鈴(みー)の『私もやるー』小学校卒業以来ね。巫女舞って二人だけってこともないから麗香(レイ)も巻き込んで皆でやれるように楓さんに頼んでみればいいじゃない。皆で素人舞の方が私も気が楽だしね。」

「そうか、その手があった。流石寛美。じゃあさ。ここの先生に定期的に学校来てもらえばよくない?どこかの教室借りてさ。その方が集まりやすいよね。」

雫はどうせやるなら知り合いとやりたいと思い提案する。

寛美と雫の提案は意外にあっさりと許可された。

スケジュールは後日調整することになり神社の巫女とも連絡先の交換をして励まされていた。

この状況で聡史が大人しくしている訳は無く縦横無尽に動き回りそれぞれとのツーショット写真をゲットしまくっていた。

そのためにも九鬼兄弟の楓との写真や雫と一志との写真までも積極的に協力して回っていた。

翔の家族写真も撮り、最終的に全体写真を拝殿前で撮り終わると観光客からも拍手が沸き起こった。

巫女姿の三人は勿論、狩衣の衣装を纏った翔は目立ち、観光の女性からも写真をお願いされていたのだった。

外国人の観光客は狩衣姿の楓を追いかけようとするが、宮司と共に早々に本殿に戻って何か祈祷を行っていた。

翔と雫、忍は本殿御神域に七色の光りが舞うのを目にしていた。


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