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高貴なる者の義務 NOBLESSE OBLIGE

本部では、弥生と史隆が本部前のテーブル席で話をしていた。

翔が楓を連れてやって来る。

翔に気付くと史隆が立ち上がり肩を叩きながら言う。

「大変だったな。本当はこっちの世界に踏み込まないようにって思っていたんだけど、今となっては少しずつ教えておくんだったと反省している。たった一日でいろいろな変化が起こって心の整理が付かないだろうけど大丈夫か?」

翔は複雑な想いを整理して応える。

「正直に言うと大丈夫かどうかも分からない状態です。楓さんからこれからいろいろと教えて貰えるようですけど、無我夢中でやったことがたまたま上手くいったんだと思います。今、涼子さんから今後は叔父さんの様に頼りにするって言ってくれましたけど、今回・・・というか今まで皆さんに守られて来た事を実感しています。恩を返したいんですがどうすれば出来るのか見当も付きません。叔父さん。これからどうすればいいんでしょうか?」

翔の真摯な態度に史隆が応える。

「一度この世界に足を踏み込んでしまうと昨日までのような世界には戻れないんだ。実際そう思うだろ?たださ、恩は必ずしもその人に返さなくていいんだよ。自分が恩恵を受けたと感じたのなら今度は自分が出来る事がある時に同じように手を差し伸べるようにする。恩を送る事を心掛ければいいんだ。特に翔には規格外の力がある事が分かった。力のある者にはそれなりの義務が存在する。ノブレスオブリージュって言葉あるだろ。今は楓さんによく教わって、有益な力の使い方を覚える事から始めればいいさ。」

史隆は言い、楓や弥生の同意を促す。二人とも笑顔で応えていた。

翔は快く返事をすると改めて楓に頭を下げた。


哲也がスマホを手に持って歩いて来て、翔の腰を軽く叩き頷いて労う。

「父さん。電話変わってよ。母さんがカンカンでさあ・・・」

言われた史隆は顔を引きつり哲也に手を交差させて逃げようとする。哲也に手を握られ嫌々スマホを受け取り、楓達を横目に見て足早にロータリーへ歩きながら話し始める。

「あ~はい。はい・・・いえ。あの・・・翔―がですね・・・はい。ですね、アルバイトは・・・そうですよね、急にはね・・・はい。はい。急いで帰ります・・・はい。はい。あ、お疲れ様です。はい・・・あ、はい。失礼いたします。」


神崎総本家では伊豆で本業の果樹園と茶畑を所有し、作物の販売や食堂も運営していた。昨日の早朝、楓から連絡を受けて従業員を含めて術の修練をしている者を全員引き連れて来てしまっていた。夏休みシーズンの土日に人手がなくなって史隆の妻の美里と、夏休みで帰っていた大学生の美幸の他、女性達が駆け回って仕切っていたのだった。

特に事情も言わず、事前の相談も無かったため美里の怒りは夫の史隆に向いていた。


肩を落とし、中腰のまま哲也にスマホを返した。

實明と直志が近付いて来て声を掛ける。

「史さん、もう帰っても大丈夫だよ。後はうちの方で処理するからさ。神奈川は九鬼の担当範囲ではあるしね。車回すからさ、急いで帰って機嫌直さないと・・・ね。」

直志が察して話し、一志に車の手配を指示した。

「三家筆頭の神崎総本家統領も奥さんには頭が上がらないか・・・まあ、他人事ではないけどね。分かるよ。史さん、お互い大変だよな・・・男尊女卑とかいう人もいるけどさあ、この国では元々奥方をかみさんと呼んで神様扱いしていた事は忘れ去られているんだよな。我が家でも家庭では奥方こそが神様だからな。まあ会社運営については任せてくれているけれど、最終決定は嫁さんの同意が絶対条件さ。」

實明が史隆の肩を叩き、これから起こるであろう嵐を予感した。

「全面的に同意です。もっとも家族円満の秘訣ですし、実際家庭では男が勝てる要素皆無ですからね。」

いつの間にか深山がいて嬉しそうに家庭会話に交じっていた。

「うちもそうですよ。嫁姑が仲良過ぎて実家長男なのに婿状態ですから。」

宗麟までもが参戦してくる。

僧侶がそんなこと言っていいのかと突っ込まれながらも、これも修行の一端ですからと無理な言い訳をしていた。

男達は家庭での不幸自慢という名の嫁自慢が始まっている。


「あの、叔父さん。俺、何か手伝い・・・」

善意で話し出した翔の肩を掴み笑顔で首を振り哲也が小声で言う。

「大丈夫だよ。父さんはあれで喜んでいるんだから。母さんから頼られている証拠だし、帰る理由にもなったしな。」

「哲さん。いろいろありがとうございました。まさかこんな世界が直ぐ隣にあったとは思わなかったんで、まだ混乱しています。」

「そうだな・・・まあ、お盆に墓参りで家に来るだろ。その時話ししよう。美幸も帰って来たし、また離れで子供同士で騒ごうぜ。丁度夏だしガチの怪談してやるよ。」

二人は笑い合い九鬼兄弟もやって来た。

「哲っちゃん。あと30分位で来るよ。中型バス3台で大丈夫だよね。」

一志が言う。神崎勢は総勢五十名。大型観光バスで検問中の道路は登って来れないとの判断だった。

「はい。助かります。3台なら皆足伸ばして帰れます。」

哲也が言い、改めて翔を紹介した。

九鬼兄弟も挨拶して若い者同士で苦労話を始めた。



男達が騒いでいるのをよそに、楓と弥生のテーブルに裕子と琴乃もやって来た。

「楓さん。お風呂入りに行きませんか?神社の鳥居前町に大きな銭湯あるみたいですし、着替えも何か買えると思いますよ。」

琴乃がスマホの情報を見ながら話し出す。

「神社は規制されてないのかしら。まだ9時前よ。お店とかも開いているのかしら。」

裕子が言い、弥生と顔を合わせる。生乾きの服を仰ぎながら琴乃を見る。

「ちょっと待ってください。」

琴乃は言って電話をかけた。周りを見て雫達の人数もカウントする。通話を終えると裕子を見て笑った。

「大丈夫ですって。神社の鳥居前町は規制解除されたみたいです。臨時で登山バスのバス停も警察の方で誘導されて観光客が見え始めているらしいです。館内の売店とかには登山客用に着替えの用意もあるそうですよ。昨日からの規制もあって利用者激減で予約客のキャンセルが多く出ちゃっているそうです。私達のせいもありますし、お詫びも含めて行きませんか?思っていたより広そうです。お腹も空きましたしね。」

聞いた裕子は忍を呼ぶ。

話を聞いた忍が雫達も引き連れて来た。当然の様に聡史も付いて来る。

女性達の心は一致した。

楓も同意したので従者の女性も含めて十二名が神社に向かう事になった。

聡史から話を聞きつけて翔と九鬼兄弟も行く事になる。

哲也も参加しようとしたところでバス3台が入って来た。

ほぼ同時に山住達の手配で脊山の遺体を収容する車が来たので宗麟が経を読上げ、皆で見送り、山住達もそれぞれ帰って行った。

藤盛の遺体を引き取る者が出て来なかった為、深山が須藤と同様に手配し、明日月曜日に県庁へ問い合わせる事となる。

ひと段落したので、史隆を先頭に静岡勢三十八名で2台に乗り、彰幸達神奈川縁者十二名が1台分を使って全員が乗り帰路についた。

玄司が龍崎一門を乗せる車を手配し、實明に伝えると琴乃が近付いて来て言う。

「お父さんの車置いてってよ。私、楓さん達とお風呂入ってから帰るからさ。あとお金も置いていってね。」

それを聞いた實明は自分も行くと言い出し、玄司に先に帰る様に言った。

直志も同様に希代司に後を頼む。

宗麟や深山、仲村と浅井も加わりそれぞれの車に分乗して神社前の駐車場へ向かって行った。


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