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異獣の谷

琴乃達は玄倉川上流の谷を走っていた。

目的地の巳葺小屋へ時間にして最短となる道を哲也が指示し山住衆が先導して進んで行く。

ごつごつとした岩場を平然と進み藪に入ると気配が変わり、先頭の従者が身構える。

藪の先に黒い塊が見えた。

「一頭だけです。琴乃さん。」

従者の男が琴乃に伝える。

2メートルを超えるほどの背丈で、全身を白い毛に覆われた大きな人のような二足歩行をしている物怪を凝視してから琴乃が応える。

「皆ここにいて。玄さん。皆をお願いね。」

玄さんと言われた男は「はい」と言い道を開ける。

琴乃に気付きその物怪は近付いて来た。

『ミエルカ?・・・ワカルカ?・・・オマエ・・・チカラアルナ・・・タオセルカ?・・・ヒヒ・・・タオシテクレルカ?・・・キコエルカ?』

その物怪は琴乃に訴え続ける。狒狒より体毛が長く、髪の毛は特に長かった。

顔も黒い毛に覆われ、目だけが力強く琴乃を見る。

「あなた所謂(いわゆる)異獣(いじゅう)ね。丹沢にもいるのね。狒狒を倒して欲しいの?」

『タオセルカ?オマエタオセルカ?ヤマ・・・スミヅラクナタ・・・ヒト・・・アテクレナイ・・・ヒヒ・・・ヒトクウ・・・ヒトコワガル・・・サミシイ・・・オレチカラナイタスケラレナイ・・・ヒト・・・タスケラレナイ』

「安心しなさい。狒狒を倒すためにここを通るの。道を譲って貰えるかしら。楓さんが待ってるのよ。狒狒の事を知ってるの?」

琴乃が楓の名前を出すと異獣は近寄って膝を付いた。170センチメートル近くある琴乃と目線を合わせて言う。

「カエデ・・・カエテキタノカ?・・・オマエカエデトモダチカ?・・・ヒヒ・・・エンコウ・・・ムカシイイヤツダタ・・・ムクロエンコウソソノカシタ・・・オ・グォ・ロ・・・オコタ・・・ムクロシンダ・・・エンコウ・・・イマ・・・ヒヒツレテ・・・ヤマアラス・・・ニナタ・・・マタヒトオソイハジメタ・・・タオシテクレ・・・ヒヒ・・・ソウカ・・・カエデモドタカ・・・アイタイ・・・カエデオレニ・・・ヤサシイ・・・カエデヤサシイ・・・」

言い終わると立ち上がって、左手で進むべき道を指し示し琴乃に頭を下げ藪の中に消えて行った。


猿猴(えんこう)?河童が出るの?・・・楓さんっていろんなところで有名ね。言ってみるもんだわ。あの人の交友関係ってどうなってるのかしらね。一度携帯の連絡先チェックしたいわ・・・(むくろ)?まあいいわ。お任せなさい。」

異獣が消えて行った先に呟いた。高坂玄司(こうさかげんじ)が近付く。

「異獣ですか。こんな所にも現れるんですね。何を話していたんですか?」

玄司が聞くのを琴乃はスマホを見ながら話す。

「狒狒を倒して欲しいって。楓さんのお友達なんだってさ。」

「楓様の?あのお方は心が広いと言うかなんというか。」

「玄さん。十年前の事、詳しく教えてくれない?私も会合には出席したけど真面目に聞いてなかったのよね。そういえばその時が楓さんとの初めまして。だったな。」

「十年前の事件は、私も詳しくは教えて貰えていないのです。まだ本格的にお仕えする前でしたから会合には呼ばれていませんので。神崎総本家統領の史隆様も詳細は分からないと仰っていました。ただ、翔君と隆一様が別の日に現世(うつしよ)に戻ったのは相手の幽世(かくりよ)の完成度の高さからだと生前に御先代様が仰っていました。」

「あ、そう。御爺ちゃんにきちんと聞いておくんだったわ。まあいいや。水平距離で1キロメートルくらい。30分ってところね。皆疲れはない?もう少しだけど着いたら即戦闘となるかも知れないから準備してね。」

琴乃は一同を見てから振り向き玄司を先頭に戻して走り出した。


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