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リアル美少女

有料駐車場に雫のパッソを見かけたが本人がまだ帰って来ていなかった。

時間にはまだ10分程度ある。

植え込みの木陰に避難して雫を待っていると道を渡って来る姿が見えた。

ショートカットでアイボリーのキーネックチュニックのシャツに、麻色のワイドパンツ。ヒールスリングのオフホワイトのパンプスを履いていた。

翔達を見付け手を振って近付いて来る。聡史はそわそわして走り始めた。

「待った~ごめんね。」

車に近付き運転席のドアを開けて、エンジンを作動させ窓を開ける。

エアコンを強にして少し待っていると冷気に代わったところでドアと窓を閉めた。

「こんにちは。雫さん。時間通りです。本日はよろしくお願いします。」

身を屈めて雫と目線を合わしながら聡史が言う。

「場所、分かる?」

翔が聞きながらカードを出す。

「うん。ナビにセットしてあるから大丈夫だよ。マップにも病院以外何もないみたいだから、近くまで行けば分かりそう。それじゃあ行こうか。」

雫は言うと運転席に入りシートベルトをする。

聡史は当然のように助手席に座った。

当然だが、聡史の後ろは窮屈になるので雫の後ろに翔が座る。

駐車場を出て右折し、国道16号線を渡る。駅前の商店街を通り根岸線を越えて住宅街の細い坂道に入り、T字路を左折して並木道に入った。

大きく右に旋回する並木道を通り、坂を登り詰める。

「ナビ。あんまり意味なかったな。ほぼ一本道だね。」

翔が後ろから声をかける。

「そう?私は助かったけど。聡史君が曲がるとこ指示してくれるから間違えなかったしね~」

聡史はナビ画面を見ながら、「信号右です。」「あ、そこを左です。」といちいち言っていた。

「そんな事無いですよ。雫さんが運転に集中出来るよう自分がサポートしたまでです。」

話をしているうちに広い駐車場のある2階建ての建物が見えて来た。駐車場の入り口に『東洋医心研究所』と大きな標識がある。時間は14時42分。予定よりも少し早く着いた。駐車場には車が2台あり、玄関から一番遠い空スペースに駐車する。


車を降り、玄関に向かう。案内版に土曜日の診療は9時から13時までの受付とある。

玄関ドアに『本日の受付は終了しました』と案内表示が掛けられていた。

白い壁の建物の南側には、石垣で一段高くなった庭とその先に海が見えた。

時間が早かったので、駐車場から庭へ入るための三段ばかりの石段を登り、芝生の敷かれた庭に入る。

庭には大きなオリーブの木が枝を横に伸ばし適度な日陰を造っていて木製の白いベンチがひとつあった。東側は崖になっていてアルミの手摺越しに横浜港が見えた。

三人で歩き、高台からの風景を見に行く。

自分達がいた大学の校舎群と港が眼下に広がり、鎮守の杜と教会の青い尖り屋根が程よい調和を生んでいた。

気温は高かったが、海からの風がほのかに潮の香を運び暑さを緩和する。

一回りして玄関に戻ると北側の花壇に女の子が一人いて、色鮮やかな花が咲いている中、青いトレニアの花がらを摘み雑草を間引いていた。

長い黒髪を束ねライトブルーのTシャツに薄紫のサブリナパンツ。白いサンダルを履いた小柄な高校生くらいの娘であった。

翔達が玄関に近付いて来た事に気付き、立ち上がって振り向いく。

雫よりも10センチメートルくらい低い身長と、華奢(きゃしゃ)な体形のとても綺麗な少女だった。

翔達を見て微笑む。

少女を見た聡史は吸い込まれるように歩いて行き、話し始める。

「ここの娘さん?自分、青嵐学院高校の二年。仲村聡史と言います。秋月先生に会いに来ました。ご案内お願い出来ますか?」

聡史の積極性は類まれな才能かもしれない。

言われた少女は、手にはめていたビニールの手袋を脱いでゴミ袋に仕舞い、髪をほどいてから三人を見渡し、再び微笑んだ。

「お待ちしてました。秋月です。」

聡史は翔に振り返る。翔と雫も顔を見合わせてから、翔が口を開いた。

「あ、神崎翔と申します。え・・・っと。多分、お母さんとの面会を深山さんにお願いしたと思うのですが。」

一昨日の深山との対談を思い出しながら目の前の美少女を眺める。

聡史がいつも言う様に、翔の周りには綺麗な女性が多く、所謂(いわゆる)美人には耐性があるが、目の前の秋月を名乗る少女からは『異質』の魅力を強く感じる。

少女が何かを言おうとした時。

「先生!秋月先生。ちょっと戻って来て貰えますか。水島さんが駄々こねて秋月先生じゃなきゃヤダって言ってるんです。」

半袖の白衣を着た中年の女性が玄関ドアを開けて、大きな声で呼んでいた。

「しょうがないな~君達、暑いから中に入って待っていて貰える?斎藤さん。この子達に冷たいもの差し上げて~」

言うと翔達を置いて玄関に入って行ってしまった。

斎藤と呼ばれた女性は三人を見て会釈をしてから玄関へ手招きをすると待合室へ通した。

室中に入るとみるみる汗が引いていく。(しばら)くすると斎藤が冷えた麦茶を持って来た。

テーブルにグラスが置かれ、翔が聞く。

「ありがとうございます。あの、先程の方が秋月楓先生ですか?」

「はい。主任鍼灸師の秋月先生です。皆さんは、今日お約束の方ですよね。申し訳ありませんね。他の先生が診ていたのですが、どうしても秋月先生じゃないと触らせないっていう患者さんがいて、うちはそういう人多くて。あ、足りなかったらこれ置いておきますのでご自由に飲んでください。」

そう言って氷の入ったピッチャーを置いて行った。

残された三人は顔を見合わせて暫く閉口していたが、聡史が口火を切った。

「おい『十年前の美人』だよな。リアル美少女じゃないか。俺、年下かと思ったくらい幼かったぞ。もう少しで『どこ中?』って聞きそうだったじゃねーか。」

翔に向かって言う。

「いや、俺も意識がある時に会った事ないから。ねーちゃんも俺の入院中の出来事知ったのは最近だし。深山さんの話は間違いなく十年前の出来事だった。母さんに話した時も『楓さんは本当に綺麗な娘さんだった』って言っていたし。」

黙っていた雫が口を開く。

「歳をとらない病気みたいのがあって。都市伝説的な話しだと、昔の映画の『ハイランダー』の影響を受けた人が広げた『ハイランダー症候群』っていうのがあるけどぉ・・・これは実例が確認出来ていない噂話(うわさばなし)。日本の伝説にはぁ、八百比丘尼(やおびくに)の物語があって、人魚の肉を食べて不老不死になった話がある。秦の始皇帝は・・・不老不死を求めて徐福(じょふく)にこの日本にあるとされる仙薬か、不老不死を可能にする仙人を探させた。日本書記や古事記には、垂仁天皇(すいにんてんのう)の逸話に田道間守(たじまもり)常世(とこよ)の国に送って不老不死の妙薬『登岐士玖能迦玖能木実(ときじくのかくのこのみ)』を取りに行かせたというのがある・・・他にも世界中に不老不死を求める伝説や神話があってぇ、人の成功例としての不老不死は八百比丘尼が唯一になるけど、あくまでも伝説の話し・・・美魔女ってテレビとかでやってた事あるけど、先生は自然に若かったねぇ。私も歳下だと思ったし。」

翔も聡史も雫の話しに唖然とした。寛美が雫に民俗学的な内容は聞いてみるといいと言った事を思い出した。

「ねーちゃんって、どんくさいだけかと思っていたけど、ちゃんと勉強してるんだな。まあ、こっちに知識無いから事の正否は判断出来ないけど。」

翔は茶化して言ったが聡史は羨望の眼差しで雫を見ている。


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