私と猫と迷探偵と ~隣人が多すぎる~ 【読み切り】
このお話は【小説家になろう】公式企画「春の推理2023 テーマ:隣人」に合わせて執筆した、『私と猫と迷探偵と』シリーズの読み切りバージョンとなっておりますが、本編を未読の方でも問題なくお読みいただけます。
これを読んで『私と猫と迷探偵と』に興味を持っていただけましたら、本編の方も何卒よろしくお願いします。
本編も、超短編やちょっぴり長編もあり、お暇な時間に気軽に読んでいただけるものになっています。
“推理”ジャンルですが、堅苦しいものではなく、“探偵が登場するドタバタコメディ”としてお楽しみいただけたらと思います。
それでは今回のお話、最後までお付き合いただけましたら幸いです。
ここは地球とは少し離れた、地球に似た星、アース星。
そしてそのアース星にある、日本に似た国、ジャペン国。
とある商店街の片隅に、ひっそりと・・・いや、堂々と佇む、平屋建ての、白を基調とした外観の、小洒落た近代風の事務所こそが、このお話の中心人物である3人(正確には2人プラス1にゃんこ)の働くRR探偵事務所です。
RR探偵事務所の若き所長は赤岩タルト25歳。独身男性。
赤毛のゆるふわ天然パーマ、仕事の時は常時スーツ着用。
容姿は一般的に言うとイケメンの部類に入りますが、性格・行動ともに三枚目。
ちょっと残念なイケメンです。
でも実家は大金持ちの名家です。探偵事務所にはその実家から通っています。
そして、タルト所長の助手を自称するのは青山スフレ21歳。ピチピチ女子大生。
“ピチピチ”の部分も自称です。
黒髪ストレートのおかっぱ頭、体力と行動力のステータスにポイントを全振りしているような健康優良成人女性。
かつてタルト所長に助けられた恩義があり、半ば押しかけ気味にRR探偵事務所で(自称)探偵助手アルバイトをしています。
探偵事務所には簡易のキッチンも備わっているため、大学が休みの日などはみんなの食事を作ったりすることも多いです。
大学近くのおんぼろアパートで独り暮らしをしています。
そしてそして、タルト所長の公認助手はエ・クレア。雑種のオス猫。フォルムはまん丸ころころです。
アース星のジャペン国は、地球の日本とほとんど同じ文化・環境なのですが、違う点も幾つかあります。
最大の相違点は、“ツチノコが食材として存在する”、という事なのですが、その他にも多少の違いがあるのです。
例えば、このエ・クレア助手。
アース星には『言語ワクチン』というものが存在し、このワクチンを接種した動物は人間の言葉を理解し、話すことができるようになるのです。
ワクチンに対応する動物種は限られていますが、猫は対応種であるので、言語ワクチンを接種したエ・クレア助手は“おしゃべりにゃんこ”認定猫として、しっかりタルト所長をサポートしています。
ちなみに、スフレさんと違って公認助手なので高給取りです。好物は魚系のジャーキーです。
商店街の魚屋の2階を間借りして住んでいます。
さて、RR探偵事務所の探偵陣のご紹介をしたところで、舞台をRR事務所内に移しましょう。
どうやら、事務所に1件の依頼が舞い込んだようです。
「所長!依頼書が届きました!」
スフレさんが1枚の紙を持って、タルト所長の座るソファのそばまで小走りでやってきます。
「スフレ君。それはメールで送られてきた依頼だね。・・・・何故なら君は紙1枚しか持っていない。郵送で来たのならそれが入っていた封筒も持っているはずだからね。ああ、わかっている。開封した封筒はその場に置いて、中身だけを持ってきたと推理することもできると言いたいんだね。だがしかし!その紙には折り目が付いていないようだ。僕の観察眼を侮ってもらっては困るよ。ああ、みなまで言うな。FAXで送信されたものかもしれないでしょ?と言いたそうな顔をしているね。ところがどっこい!僕はこの部屋にあるFAXの受信音を聞いていない。僕の傾聴力を甘く見てもらっては遺憾だよ。優秀な探偵はいつ何時も周りの音に意識を傾けているものだ。さっきから聞こえていたのは、エ・クレア君がジャーキーを食べている咀嚼音、スフレ君が窓を開けた音、鳩時計の音、スフレ君がキッチンの弱っていた床板を踏み抜いた音、スフレ君がコーヒーと間違えて墨汁を飲んで吹き出した音、スフレ君が墨汁を拭こうとしてテーブルの上の花瓶をひっくり返した音、スフレ君が墨汁を拭いた雑巾で花瓶の中の水がぶちまけられた床と下駄箱の中の僕の革靴をご丁寧に磨いてくれていた音、スフレ君が・・・て、君、騒がしすぎるよ!・・・でもまあ、そういうわけで、FAXは来ていない。そしてもちろん電話も鳴っていなかったから、その紙は、電話で聞いた依頼内容をスフレ君がメモしたものではない。・・・となると、答えは1つしかない。その依頼書はメールで送られてきたものをスフレ君がプリントアウトしたものだよ。PCとプリンタは隣の部屋だからね。どうだい?僕の華麗な推理は」
ZZZZZZZ・・・
「起きなさいスフレ君!!立ったまま寝るなんて器用だね!てか、僕の頭を枕代わりにしないでくれたまえ」
起きました。
「・・ええ、と。カレーが酸いか甘いかでしたっけ?カレーは普通辛いっすよ」
「カレーの話は一言もしていない」
「?」
「メールで来た依頼書の話だよ」
「メール?」
「その依頼、メールで送られてきたんだよね?」
「いいえ。伝書バトです」
「伝書バト?!」
「確かに封筒には入っていませんでしたが、折り目がついてないのは、クルクル丸めて鳩の足にリボンでくくられていたからっす。窓の音は鳩を招き入れるために開けた時のものですね」
「・・・君、僕の話聞いてたんだね。寝ながら」
「それとニャ、うちの事務所に鳩時計は無いニャンよ、タルト所長」
エ・クレア助手もサンショウウオジャーキーを頬張りながら話に加わります。
「本物の鳩の鳴き声だったんっすよ、所長。クルックー」
「・・・・・・・・」
「『僕の観察眼を侮ってもらっては困るよ、スフレ君』ニャ・・・ププッ」
「『僕のケーチョー力を甘く見てもらってはイカンのだよ、スフレ君』っす・・・ぷぷっ」
「%△#?%◎&@□!!」
RR探偵事務所の毎日はいつもこんな感じで過ぎていきます。
さて、気を取り直して、早速依頼書を見てみましょう。
【RR探偵事務所御中
助けて!隣人にころ】
「んっ?!」
「なんっすか?!」
「ニャンと!」
「依頼文が途中で切れてる?」
「隣人にころ・・・ってまさか!!」
「ニャニャっ!!」
「駄目だ駄目だ!」
「絶対ダメっす!うちの事務所は殺人事件はお断りっす!!」
「このお話は、ほのぼのハートフル探偵コメディなのニャ!!」
そうなのです。このお話は安心・安全、全年齢対象のピースフルコメディ。
闇・鬱要素ゼロでお送りしております。
「こ・・ころ・・・ころさr・・」
「駄目っす、所長!」
「そういう不穏なワードはNGなのニャ!!」
「・・・いやしかし、この途中で切れた依頼文・・・もしかすると依頼者はもう・・」
「絶対駄目っす、所長!」
「この小説に限ってそんなことはありえないのニャ!」
「どちらにしても緊急性の高い依頼には違いないよ。だが・・・依頼者の名前もわからないとなると・・」
「紙にはこれしか書いてないっすね」
「ウニャ~」
「これ、伝書バトで来たんだよね?なら、ここの近所じゃないのかな」
「そうっすね!」
「伝書バトは1000Km以上飛べるらしいニャンよ。通常でも200kmくらいの通信・運搬に使われるそうだニャ」
「うーーん。でもこの切羽詰まった状況でそんな遠くまで飛ばそうとするかな?」
「それを言ったら、そもそも伝書バトで助けを求めようとしますかね」
「110番した方が早いニャンね」
アース星でも警察を呼ぶときは110番です。
ちなみに時報は11711711028341番です。
「あ、そうだ。鳩が運んできたもの、この紙だけじゃなかったっすよ」
「そうニャのか?!」
「それを早く言いなさいよ、スフレ君!」
スフレさんは窓際に置いてあった手のひらサイズの何かの束を持ってきました。
「写真ですね」
スフレさんは写真の束から1枚ずつ取り出し、テーブルの上に並べていきます。
「1枚目は・・・女性の写真っす」
写真にはカメラ目線でキメ顔の女性の顔のアップが写っているのですが・・・
「これ、めっちゃ加工してるよね」
「光で飛ばしすぎて輪郭ほぼ見えなくなってるっす」
「目が顔の半分くらいあるニャ。映え通り越して軽くホラーニャ・・ブルブル」
エ・クレア助手はホラー系が大の苦手です。
「どこかで見たような顔の気がするが、いかんせんこの写真では・・」
「うーーん。判別不能っすね」
「ウニャウニャ」
加工で若く見せてはいますが、それほど年若い女性でもなさそうです。
そして、2枚目の写真は、
「犬の写真っすね」
そこには、1匹の柴犬が写っています。
何の変哲もないごくごく普通の大人の柴犬です。
赤い首輪をしていて、ソファの前にちょこんと立っています。
家の中で撮られたもののようです。
「かわいいっすね」
「うん。まあね」
「柴ニャン」
3枚目です。
「また犬ですね」
「これも柴犬のようだけど・・・」
「違うワンちゃんかニャ」
今度の写真にも同じく柴犬と思われる犬が写っているのですが、ふくよかで顔もお腹もたぷんたぷん。
フローリングの上にどーーんと寝そべっています。
こちらも室内で撮られたもののようです。
そして、次の写真は、
「家族写真ですかね?」
父親と思しき男性と母親らしき女性、その傍らに夫婦の子供であろう2人の女の子、そして1匹の犬が並んで写っています。
場所は桜の季節の公園のようです。
「この犬、2枚目のシュッとした柴犬と同じ犬っぽいっすね。同じ首輪してるし」
「この母親らしき女性だけ、やけに顔色が白いんだけど・・・1枚目の写真と同一人物かな」
「そして小顔加工しすぎてTINY HEADED KINGDOMみたいになってるニャ」
犬と加工女性に気を取られていたタルト所長ですが、改めて父親の方を見ると・・・
「あ!この男性、あの人じゃない?」
「え?この人ですか・・・あっ!この人、商店街の『まさか酒屋』の店主さんですよ!」
「名前は確か・・・真坂マサカドさんニャ」
「ということは、この女性はあのおかみさんか」
「まさか!」
「昨今のデジタル技術には目を見張るものがあるのニャ~」
「とりあえず、他の写真も見てみよう。まだあるよね?」
「はい。次はこれです」
5枚目の写真は、大人と子供が混ざった集合写真です。
全部で15人くらい写っていて、何人かの顔が赤いマジックで丸く囲まれています。
運動場らしき場所で、背後に、前半部分は人で隠れて写っていませんが『町内会』と書かれたテントが立っています。
「町内会の運動会での1コマのようだね」
「うちの地区運動会っすね。毎年盛大にやってますから」
「今年の運動会ではスフレがパン喰い競争で1番にパンに到着して、他のレーンのパンも全部食べてしまって怒られたんだニャ」
「それでも、他の人がパンの所に到着する前に食べ終わってゴールして、ぶっちぎりの1位だったんだよね」
「いや~美味しかったっすよ、あのパン。さすが『パンデミックパン店』で2番人気の超ロングフランスパン」
「もともとハードタイプのフランスパンだけど、前日の売れ残りのフランスパンを提供してたから更にカチカチだったのニャ」
パンデミックパン店は商店街で人気の、行列のできるパン屋さんです。
1番人気は生食パン。
「生食パン」「生キャラメル」「生チョコ」「生ドーナツ」などなど、近年流行の“生”食品は多々ありますが、
これって・・・生なの?生の定義とは?・・・というご意見も多かろうと存じます。
しかし、この店の生食パンはリアルな「生」食パンです。
平たく言えば、こねて発酵させたままのガチで生状態の食パンです。
各自、家のオーブンで焼いて食べるスタイルなのです。
『まずはそのままお召し上が』・・・ってはいけないタイプの食パンです。
「丸で囲まれた人達、知ってますか?」
「うーーん。この地区の面々なんだろうけど、商店街のお店の人たちでもなさそうだなぁ」
「大人にも子供にも丸がついてるニャ」
「とりあえず次の写真見てみましょう」
次の写真から5枚ほどは、同じような集合写真。
場所や写っている人物は全部バラバラ。
しかし、どの写真にも何人かに赤マジックの丸が付けてあります。
「どれもみんな見知った顔ではないな」
「それにしてもこの赤丸は何なんでしょう」
「他の写真はどうニャ?」
「あ、これで最後の写真っす」
スフレさんは手の中にあった最後の写真をテーブルに置きます。
その写真に写っているのは、薄い紙のような小さな緑色の欠片です。
「ん?何だ?何の写真だろう」
「・・・葉脈のようなものが見えるっす」
「何かの植物の葉っぱがちぎれた物かニャ?」
確かに植物の葉のようですが、1枚全体が写っているのではなく、葉の一部分の切れ端なので、これが一体何なのか、そして誰が何の目的でこのような物体を撮影したのかは全く分かりません。
「・・・・これで写真を全部確認したわけだが・・」
「謎が謎を呼ぶっすねぇ」
「犬と酒屋と正体不明の老若男女と葉っぱ・・・ニャンのこっちゃ」
「あ、そうだ。鳩が運んできたもの、まだあるんっすよ」
「そうニャのか?!」
「だから早く出しなさいよ、スフレ君!」
スフレさんは窓際に置いてあった一升瓶サイズの箱を抱えて持ってきました。
そしてテーブルの上にどーーーーんと置きます。
「?!?!」
「ニャヌッ?!」
「何が入ってるんでしょうね」
「いやいやスフレ君、何が入ってるかとかよりもさ・・・これ、全部伝書バトが運んできたの?!」
「書きかけの依頼書と10枚以上の写真とこの重そうな箱ニャ・・」
「ああ、なんかフラフラになってたんで、サブレを食べさせてあげたら元気になって帰っていきましたよ」
「サブレ」
「ほら、この前、ネットショップの『楽!天文単位市場』でお取り寄せした、地球の日本で人気のサブレですよ」
「確か、鎌倉とかいう場所の名産品ニャ」
「鳩にそのサブレを・・・」
「別に原材料がハトとかいうわけじゃないし、全然OKっしょ」
「ニャンだかニャア・・・」
スフレさんはテーブルに置いた箱を開けようとします。
「あ、待って。そんな不用意に開けちゃいけないよ」
「え?なんでですか?」
「爆発物かもしれニャいだろ」
「なるほど。・・・では、ちょっと私が調査してみるっすよ」
スフレさんはそう言ってテーブルの横にしゃがみこみ、手を当てた耳を箱に近づけて中の音をうかがいます。
タルト所長とエ・クレア助手はスフレさんから3、4メートル離れた本棚の陰に隠れて彼女の様子をうかがいます。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「ぎゃーーーーー!!!!」
「「!!!!!!」」
「どどどどどどうした?!スフレ君?!」
「ニャニャニャニャニャにがあったのニャ?!スフレ?!」
スフレさんは顔面蒼白でタルト所長たちの方を振り向きます。
「お・・・音がしてます」
「ど・・・どんな?!」
「どんな音なのニャ?!」
「・・・チクタク・・・チクタク・・・」
「!!!!!!」
「ニャニャーーーーン!!」
「こここ・・これって時限爆弾?!」
「!!!!!!」
「ニャニャーーーーン!!」
「どどどど・・・どうしましょう?!所長!!」
「・・・・・・・」
「どどどど・・・どうしたらいいんですか?!所長!!」
「・・・・・スフレ君。まずは落ち着きなさい」
「はははは・・・はいぃぃぃ~」
「そして、その耳元に当てた手に付けているアナログ腕時計を外しなさい」
外しました。
「・・・改めまして、調査、再開します!」
スフレさんは再び箱に耳を近づけます。
「・・・音は・・・しないようです。少し動かしてみますね」
箱に手を伸ばし、少し傾けてみました。
「ぎゃーーーーー!!!!」
「「!!!!!!」」
「どどどどどどうした?!スフレ君?!」
「ニャニャニャニャニャにがあったのニャ?!スフレ?!」
スフレさんは顔面紅潮でタルト所長たちの方を振り向きます。
「お・・・音がしてます」
「ど・・・どんな?!」
「どんな音なのニャ?!
「・・・チャプン・・・チャプン・・・」
「!!!!!!」
「ニャニャーーーーン!!」
「こここ・・これって水銀スイッチ爆弾?!」
「!!!!!!」
「ニャニャーーーーン!!」
「傾きを検知したら爆発する仕組みの!漫画やドラマで見たことあるやつ!!どどどど・・・どうしましょう?!エ・クレアさん!!」
「・・・・・・・」
「どどどど・・・どうしたらいいんですか?!エ・クレアさん!!」
「・・・・・スフレよ。まずは落ち着くのニャ」
「はははは・・・はいぃぃぃ~」
「もしそうなら、伝書バトで運ばれてくる途中ですでに爆発しているはずニャ」
納得しました。
「所長!X線で中身を見る機械とかないんですか?!」
「んな大袈裟な物、こんな個人の探偵事務所にあるわけないでしょ。開けてみるしかないよ」
「さっさと開けるのニャ、スフレ」
さっきと言ってることが違うじゃないか、とブツブツ言いながらスフレさんは箱を開けます。
タルト所長とエ・クレア助手は玄関の外へ移動し、ドアを薄く開けて、隙間から彼女を見守ります。
パカッ
箱の中には1本の瓶が入っていました。
「所長、中身は・・・って!どこまで逃げてるんっすか?!早く入って来てください!これ、ワインみたいっすよ」
「・・・ワイン?」
「・・・ワインニャ?」
3人(正確には2人プラス1にゃんこ)は、再びテーブルの周りに集まり、箱に入っていた瓶を凝視します。
「確かにワインだ」
「瓶にPOPシールが貼られてます。“当店おすすめ五大シャトーの一つ、肉料理にピッタリの一品! まさか酒屋”」
「五大シャトーとはボルドーワインの最高峰、ラフィット、ラトゥール、マルゴー、オー・ブリオン、ムートンの事なのニャ。このワインはこの内のどれなのかニャ?」
「このエチケットの絵柄は・・・シャトー・オー・ ブリオンだろうね。」
「えーと。エチケットにはシャトー・・・ブリアンと書いてあるっすね」
「ニャぬ?!」
「確かに肉料理にピッタリっすね」
「そりゃそうだよね。ピッタリというか肉料理しかできないよね。シャトーブリアン」
「ニャにがニャンだか」
とにもかくにも、この奇妙な依頼状に関するキーパーソンは『まさか酒屋』の関係者のようです。
早速、3人(正確には・・・以下略)は商店街にある、近所のその酒屋へと急ぎます。
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「こーんにちはーーー」
元気よく挨拶をしてスフレさんが中に入ると、顔なじみのおかみさんが待ち構えていたかのように駆け寄ってきました。
「スフレちゃーーーん。赤岩探偵と猫探偵も!待ってたのよーーー!!」
写真とはどう見ても別人のおかみさんは、スフレさんの手を取ってぶんぶんと上下に振ります。
「奥さん、やはりあの伝書バトはおたくが送ったものだったんですか」
「え?もちろんそうよ。依頼文にちゃんと書いてあったでしょ?」
怪訝な顔をするおかみさんに事情を説明します。
かくかくしかじか・・・・
「あれまあーーー?!私、書きかけの依頼文を送っちゃってたのねー!!」
「書きかけですか?」
「そうよーーやだわ。慌てちゃったのねー」
「内容が・・その・・かなり切羽詰まったようにお見受けしましたが・・・とりあえず命の危険は・・・なさそうですね」
「命の危険?」
「・・・隣人に命を狙われ・・」
「ないないーーー。そんなのあるわけないでしょー。推理小説じゃあるまいし」
「・・・・・・」
「・・・何かが根本から崩れ去っていく音が聞こえるニャ・・・」
「聞かなかったことにするっすよ」
「では、『隣人にころ』というのは?」
「ああ、ころ・・・はそれよ」
まさか酒屋のおかみさんは、スフレさんの持っている写真の束を指差します。
「この伝書バトで送られてきた写真っすね」
スフレさんがレジカウンターの上に例の写真を広げます。
おかみさんは、犬の写真を指さし、
「これがうちの“ころ”」
と満面の笑みで宣言します。
「コロ?・・・・犬の名前でしょうか?」
タルト所長の問いに、
「ううん。カタカナじゃなくてひらがなで“ころ”」
ちなみにアース星人は、発音した文字種が漢字なのかひらがななのかカタカナなのかを判別できます。
ちょっとしたアース星豆知識です。
地球の皆様も覚えておいていただけると、アース星への旅行の際に少しだけ役立ちます。
「“ころ”はどっちのワンちゃんですか?」
スフレさんが、先刻の2枚の犬の写真を見比べておかみさんに問いかけます。
「それがねぇ。どっちも“ころ”なのよー」
「どっちもっすか?!」
「それがまさに今回の依頼内容なのよね。実はね、うちの“ころ”・・・・ああ、うちっていってもここは自宅じゃないのよ。ここは店舗を借りてやってるだけで、自宅はここからちょっと離れた同じ町内の端の方にあるんだけど、その自宅で飼ってる“ころ”がね、太っちゃったの」
「あっ、じゃあ、このふくよかなワンちゃんが太った後の“ころ”ちゃんなんですね」
スフレさんがたぷたぷ柴犬の写真を取り上げて納得の表情を見せます。
「そうなのよ。使用前使用後、みたいな?」
「どちらかというとビフォーアフターだと思いますが」
タルト所長はシュッとした柴犬の写真をつまみあげて、スフレさんが持っているぷよぷよ柴犬の写真と見比べます。
「・・・で、もしや、この“ころ”君のダイエットのお手伝いの依頼・・・でしょうか」
「残念ですが、RR探偵事務所では取り扱っていない案件なのニャ」
「あ、私やりますよ?お散歩とかフリスビーとかおまわりさんごっことか、サルとキジの1人2役もやるっすよ!」
「桃太郎いないじゃないか。」
「どうせなら3役やりなさいニャ」
「あのー」
「桃太郎はエ・クレアさんで、所長は鬼役っすよ。で、ご主人とおかみさんはおじいさんとおばあさんをやってもらうっす」
「あのー!!」
話の脱線はRR探偵事務所の通常運行です。
しかし、今回は短編予定ですので、まさか酒屋のおかみさんには、さっさと話を本筋に戻してもらいましょう。
「そうじゃないのよ。実は“ころ”は放し飼いにしていて、いつでも好きな時に家を出てお散歩してるんだけどね」
「家を出るんですか?お庭じゃなくて外の道路に出ていくんですか?」
「ああ、うちマンションだからお庭はないのよ」
「マンション?!」
「町のはずれにある分譲マンションよ。“ころ”は賢いから自分でドアを開けて廊下に出て、階段を使って他の階に行ったりしているの。たまに人が乗ろうとしているエレベーターに一緒に乗って行っちゃう事もあるんだけど、危ないからマンションの外には絶対出ないように言い聞かせているのよ」
「もしかして、“ころ”君は言語ワクチンを接種してますか?」
「まさか。してないしてない」
「なら言い聞かせても無理じゃニャいのか?」
言語ワクチンは、アース星では周知されているのですが、高価だったり、対応動物種が限られていたり、体に合わなかったり、ワクチンが効かない個体も多かったりといった事情で、実際に摂取済みのおしゃべり認定動物は結構レアな存在なのです。
「で、自由に動き回るのはマンション内だけなんだけど、どうやらその散歩中に隣人の家でおやつをたくさん貰っているらしいのよ」
「ほぅほぅ」
「やっと『隣人』のキーワードが出てきたね」
「それで、たらふく食べた“ころ”氏は見事あんなころっころにニャりました。めでたしめでたしニャ」
「めでたくないのよっ!定期健診に行ったときに獣医さんにもダイエットを強く勧められてしまったの!・・・で、“ころ”の首輪に『減量中☆エサを与えないでくださいワン♪』て書いたんだけど、効果がなくて」
「“ころ”ちゃんはその後もおやつを貰い続けて、体重絶賛増加中・・・というわけっすね」
「どうやら1人の隣人から貰っているみたいだから、その人に直接事情をお話したいのよ。だから、探偵さんたちにはその隣人が誰なのかをつきとめてほしいの」
「え?普通に心当たりのあるご近所さんにたずねてみたらいいんじゃないっすか?」
「それが、心当たりが多すぎてねぇ~。ほら、私も酒屋の仕事で忙しいし」
「・・・・・はぁ・・」
「“ころ”君を部屋の外に出ないようにすればいいのでは?」
「何言ってるの!!そんな可哀想なことできないわよ!」
まさか酒屋のおかみさんはぷうっと頬を膨らませます。
「しかし、『助けて』などと書いているもんで、てっきり重大案件発生かと思いましたよ、奥さん」
「あらあら、ごめんなさいねー。さっきも言ったけど、忙しくて慌てちゃって」
「いえ!これは“ころ”ちゃんの今後の健康状態にかかわる重大な事件っすよ、所長!むむぅ~!犯人はおかみさんの警告も無視して、“ころ”ちゃんを糖尿病の危険に陥れる卑劣な餌付け行為を続けているのです!必ずや犯人をつき止めましょう!RR探偵事務所の名にかけて!!」
「で、奥さん。この”ころ”君の2枚の写真と奥さん一家の写真はわかりましたが、その他の写真は何でしょう」
タルト所長は、鼻息荒いスフレさんを完全無視して、残りの写真を手に取ってまさか酒屋のおかみさんに示しながら問いかけます。
「集合写真で丸の付いているのが、件の隣人さんたちよ。写真が手に入らなかった人もいるけど、まあ、参考までに、と思って」
「ニャるほど。・・・で、一番わけわからニャかった、この葉っぱのようなものの写真は何なのかニャ?」
「ああ、それねえ。ある日、マンション内散歩(おやつ付き)からいつものように帰ってきた“ころ”の体にくっついていたのよ。きっと、おやつを貰った家で付いたんだと思うのよ。何かの手掛かりになるかしら」
「そうですか。珍しい植物なら、それを育てている家を特定することが可能かもしれませんが」
「所長、とりあえずこの植物が何なのか、画像検索してみましょう!」
スフレさんはスマホを出して、写真を取り込み、画像検索にかけました。
≪ゴーグル画像検索
・・・・・・処理中・・・・・・
ピコーーーーン
結果:この画像は何らかの生命体の一部、もしくは無機物の一部、
もしくは芸術作品の一部、もしくは未知・未発見の物体と判明しました
おわり
関連画像:一致するものがありませんでした
≫
※アース星の画像検索は地球での画像検索とは相違があるものとご了承ください
「「「「・・・・・・」」」」
「・・・・とりあえず、写真の件については諸々、後で考えましょう。それより、おかみさん。最後に、このワインは?」
スフレさんは、伝書バトが頑張って持ってきた、箱入りのワインについてたずねます。
「それは、今回の依頼料の一部よ。うち、酒屋だからね。いいワインが手に入ったから今回のお礼に」
「・・・・シャトー・・・ブリアンですか?」
「そうよー。なんか、流しの行商人から五大シャトーの最高級品だって言われて仕入れたの。本来なら1本500万イィエンのところを1ダース買うと7000万イィエンにしてくれるっていうから、実家の金山を抵当に入れてローンで買っちゃったのよ」
「奥さん、それ、色々騙されてますよ!!」
「ツッコミどころが多すぎて処理しきれないのニャ」
ここジャペン国の通貨単位は『イィエン』です。
ちなみに1イィエン=1円、固定相場です。
「まあ、これで事件(?)のあらましと参考資料その他、事情は理解できたかな」
「そうですね。おかみさん、安心して下さい。この大事件は、必ずやこのRR探偵事務所が解決して見せますよ!!さあ!張り切って、今回の『他所の飼い犬餌付け洗脳事件』!この狡猾な犯人の捜索開始っす!!」
「ニャンだか仰々しい事件になってるけど・・・・ミャア、いっか」
「そんな大ごとにしないでーーーー」
~~~~~~~~~~~~~~~~
まさか酒屋のおかみさんに自宅マンションまでの地図を描いてもらい、タルト所長、スフレさん、エ・クレア助手の3人(正確には2人と・・以下略)は徒歩で事件現場(?)に向かいます。
おかみさんはまだ酒屋の仕事中なので不参加です。
てくてくてくてくてく
(3人そろって商店街を進行中)
「あ、所長。『You meetミート』の特製クロコダイルコロッケ、今日、特売みたいっすよ!買ってきます!!」
ぴゅーーーーーー
「ちょっとスフレ君待ちなさい!今買っても荷物になるだけだし、冷めきるよ!」
「・・・もう肉屋のおばちゃんにお金払ってるニャ」
ぴゅーーーーーー
「買ってきました!」
「無駄な行動力」
「帰りに買えばよかったのニャ」
「これ、今食べる用のコロッケっすよ?夕飯用は帰りに買います」
「え?」
「ニャ?」
「はい、所長!」
スフレさんは紙ナプキンで包んだ1枚のコロッケをタルト所長に手渡します。
「あ・・・ああ・・どうも」
「はい。エ・クレアさんも。このコロッケは玉ねぎが入ってないから大丈夫っすよ」
「美味しそうだニャン」
「・・・ていうか、君、コロッケいくつ買ってきたの?」
「10個ですけど」
「多いよ!!」
「えーー。だって、所長3個、エ・クレアさん3個、私4個ずつでちょうどじゃないですかぁー」
「そんなに食べるわけないでしょ!」
「どう“ちょうど”ニャのか」
「・・・むぅ・・・そうですか?では遠慮なく私が8個いただきますね」
ヒョイ パクッ ヒョイ パクッ ヒョイ パクッ・・・・・
「あ、所長。『ミセスドーナツ』でドーナツ詰め放題やってますよ!・・・ああっ!所長!『フルーツパーラーぱらぱら』は濃厚ドリアンジュースキャンペーン中です!テイクアウトでジュースを3杯買うとドリアン1個貰えるそうですよ!・・・ぬおっ!!所長!!『※印米店』はタイムセールで30Kgのお米が5000イィエンですって!!!・・・・・・あれ?」
ずるずるずるずるずるずるずるずる
スフレさんは、タルト所長に引き摺られながら商店街を後にしました。
~~~~
てくてくてくてくてく
商店街を出て、町はずれの方に向かう3人(正確には・・略)。
てくてくてくてくてく
~~~~20分後~~~~
「結構歩きましたね」
「まだ先みたいだよ」
「ニャンニャン」
てくてくてくてくてく
~~~さらに20分後~~~
「遠いっすね」
「マンション、同じ町内なんだよね?」
「ニャン」
てくてくてくてくてく
~~~さらに20分後~~~
「・・・・うそでしょ?」
「どんだけ広いの、この町」
「ニ・・・」
てくてくてくてくてく
~~~さらに20分後~~~
「むきーーーーーっ!!!」
「・・・・・・」
エ・クレア助手はスフレさんの肩に乗ってぐったりしています。
~~~さらに20分後~~~
「・・・ぜいぜい・・・や・・やっと見えてきたっす」
「ジャペン国の国土地理院を訴えたい・・・」
国土地理院、とんだとばっちりです。
エ・クレア助手はスフレさんの頭の上で香箱座りをしています。
商店街からはほぼ真っすぐ一直線だったので、まさか酒屋のおかみさんの描いた地図では距離感がつかめなかったようです。よく見ると、道の途中に二重波線の省略記号が挟まれていました。
「・・・まあ、栄養もたっぷり摂ってますから、まだまだ頑張れるっすよね。早速捜査開始しましょう!」
「栄養をたっぷり摂ったのは君だけなんだけどね」
「たっぷりすぎるほどたっぷりニャ」
「おかみさんが隣人リストも作ってくれましたよ」
スフレさんは肩ポケットから1枚の紙を取り出します。
まさか酒屋のチラシの裏にこれまたおかみさんの手書きで、隣人の名前等が記されています。
「ああ。それは助かるね・・・それはともかくその服、どこにポケット付いてるの」
「そういえばさっきスフレの肩の上に乗った時、なんかゴワゴワしてたのニャ」
「えーーと。例のマンションは『コーポめぞんハイツ・ラ・レヂデンス』、この建物ですね」
3人(略)の目の前には、大きな要塞のようなビル。
エントランスの植え込みに『コーポめぞんハイツ・ラ・レヂデンス』と彫られた銘板が設置してあります。
「意外と立派なマンションだね」
「ですね。・・えーと・・おかみさん・・真坂家の部屋はここの305号室です。・・で、疑惑の隣人さんの部屋が・・・」
「スフレ君」
「はい?」
「話の腰を追ってすまないが、ここで最重要事項の確認をしたいんだけど」
「なんでしょう?」
「今回のテーマは『隣人』だ」
「はい。そうっすね」
「では、『隣人』とは?・・・一体どこからどこまでが『隣人』と言えるのであろうか。隣人の定義とは?・・・ここをはっきりさせておかないといけないよ」
「はい。そうっすね」
「タルト所長。今スマホで検索したら、【隣人:となりに住む人。となり近所の人。また、自分のまわりにいる人】だそうだニャ」
「結構範囲が広いんだな」
「ちなみに『となり近所』とは、『周辺の家々やその住人。隣の家や近くの家。また、あるものや場所の近い位置にあるもの』ということみたいだニャ」
「????????」
スフレさんの頭から湯気が出ているようです。彼女には少々話が難解すぎたのでしょう。
「ちょっと待って下さいよ!『隣人』なんだから、あくまで『すぐ隣に住んでいる人』でしょ?2軒先のおうちの人を『隣人』って言いますか?」
「言うね」
「言うのニャ」
即答です。
「まあ、でもスフレ君の主張も一理あるね。『隣人』は実際に隣り合う『お隣さん』という解釈でいいんじゃないかな。というわけで、今回は依頼者である真坂家305号室の両隣のみが調査対象、ということでいいだろう」
「タルト所長のいつものさぼり癖が出たニャ」
「さぼり癖なんて失敬な。優秀な探偵は無駄な労力を使わないものなのだよ、エ・クレア君」
「ここに来るまでに相当な労力(体力)を使ったからニャ」
「おかみさんのリストによると、305号室の西隣が304号室の四条さん、そして東隣が306室の六角さんっすね・・・・あれ?」
「どうした?」
「ニャンだ?」
「リストには、北隣302号室二宮さん、南隣308号室八田さん・・・・・と載ってます」
「・・・・はい?」
「ニャンと?」
「あ、3階フロアの部屋の並びの図も描いてくれてます」
スフレさんが見ている紙には、正方形の中を『#』の形に区切った、魔方陣(縦横斜めの合計が同じ数になるようにマスに数字を入れるパズル)のような9マスの小さい正方形の左上から順に右へ301号室、302号室、303号室、真ん中の段左から304号室、305号室、306号室、下の段同じく左から307号室、308号室、そして1番右下のマスに309号と書かれています。
方位記号も書かれていて、紙の上方向が北なので、304号室は305号室の西隣ということになります。
「この『#』の部分がマンションの通路のようっすね」
「どんな構造のマンションなの?!」
「305号室の真坂さん家の日当たりはどうなっているのニャ?!」
「他のフロアも全く同じ構造で、4階の真上隣が405号室の五十嵐さん、西斜め上隣が404号室の四日市さん、南東斜め上隣が409号室の九十九さん・・・・」
「真上隣?西斜め上隣?」
「聞き馴染みのないワードなのニャ。もしかして、2階も・・・」
「はい。真下隣が205号室の五味さん、北西斜め下隣が201号室の・・・」
「やめてやめてやめて!1回ストップ!!!!」
「一応、全部『隣』っすね」
「いやいやいや。ホントちょっと待って。さすがに混乱してきた」
「簡単に言うとニャ。305号室を原点として、304、305、306号室を結んだ線をx軸、308、305、302号室を結んだ線をy軸、205、305、405号室を結んだ線をz軸とするとニャ。例えば401号室は(-1,1,1)、303号室は(1,1,0)、208号室は(0,-1,-1)と表され・・・」
「ぷしゅーーーーー」
スフレさんは完全に思考回路がショートしてしまいました。
「ていうか、そんな北西隣とか、“角”でしか接してないでしょ?それ、『隣』って言っていいの?」
「それを言うなら、上隣、下隣もどうなのかなって感じっすよね」
「いやもう全部おかしいのニャ」
~~~~
「・・・・で、どうする?全軒回る?真坂さん宅除いて26軒あるけど」
「隣人リストには詳しい家族構成も書いてますね。ちなみに301号室は夫婦と子供4人、それと夫の両親の8人家族、302号室は夫婦とその娘夫婦と孫2人、それから息子夫婦と孫3人の計11人、303号室は夫婦と子供2人と夫の愛人と妻の元夫、愛人の連れ子3人と元夫の母親、それとペットの九官鳥が23匹・・・」
「タイム、タイム!!何ここ、どんな集落?!」
「でも201号室とかは核家族みたいですよ」
「少人数家族も住んでいるニャンね」
「夫婦と子供15人です」
「「・・・・・・・・」」
「えー・・で、九官鳥などのペットは除くとして、隣人の総計が251人です」
「隣人が多すぎる!!!!!!」
~~~~
「・・・それにしてもスフレ君、その酒屋の奥さんの手書き隣人リスト、情報量がえげつなくない?よくチラシの裏にそんだけ詰め込めたよね」
「ああ、『まさか酒屋』のチラシはいつもB0サイズっすからね」
「もはやポスターなのニャ」
「・・・で、捜査の方針ですが、どうしますか、所長」
「・・・251人・・・251人・・・・ブツブツ」
「タルト所長、ニャにもひとりひとり話を聞く必要はないのニャ。とりあえず家族の代表者1人から話を聞けばいいのニャ」
「それでも26軒回らないといけないよね?」
「所長!餌付けをやめろという警告にも耳を貸さない残忍な犯人です!絶対見つけなければいけませんよ!!しかし、これだけ狡猾な犯人なら、聴取も一筋縄ではいかないような気がするっす!」
「とにかく家をまわって、ニャンとか理由を付けて家にあげてもらうのニャ。犬を飼ってないのに犬の毛が落ちているとか、あとこれニャ!この葉っぱに似た植物を置いてないかどうか要チェックなのニャ!ベランダも忘れずに見るのニャよ!」
エ・クレア助手は自身のスマホに取り込んだ例の植物の破片の写真を掲げて説明します。
「ほぅほぅ。さすがエ・クレアさん!なんか、探偵の調査ぽいっすね!ワクワクしてきました!!」
「そりゃ探偵の調査だからね」
「26軒もあるから手分けして探すのニャ」
「そうしましょう!」
「じゃあ、僕は4階を担当するよ」
「オレっちは2階に行くニャ!」
「では私は3階で」
~~~聞き込み中 しばらくお待ち下さい~~~
聞き込みが終了した3人は、3階のエレベーターホールに集まっています。
「全員聞き込み終わったようだね。どこも大家族だから、こんな平日の昼間でも誰かしら家にいてくれて助かったよ。・・・しかし、こちらは収穫無しだ。特に不審な人物はいなかったし、植物も・・・この写真の植物は薄い葉で網状脈だよね。植物を置いてある家もあったけど、葉が肉厚の観葉植物だったりして、写真と一致するものは無かったよ」
「オレっちの方も概ねそんな感じだったニャ」
「スフレ君はどうだった?」
「はい。産みたてダチョウ卵のクリームブリュレが美味しかったです!」
「・・・・は?」
「あと、特製機械油で揚げたサーターアンダギーも絶品でした!」
「・・・・・」
「せっかくだからって、いろんなお宅でお茶とお茶菓子をごちそうになったんっす」
「スフレのコミュ力がいかんなく発揮されたようだニャ」
「ちゃんと調査はしたのかい?」
「モチのロンっすよー。303号室の夫の愛人さんはなんと!元々309号室の息子さんの婚約者だったらしいっす」
「そんな情報はいらん!植物は見つかったのかい?!」
「いえ。6軒とも植物は置いてませんでした」
「ウニャー。こっちも手掛かりなしかニャー」
「ん?待って、スフレ君」
「ほい?」
「君、今、何軒って言った?」
「6軒っすよ。3階の6軒全部回りました」
「ニャッ?!ここはどの階も9軒あるのニャ!スフレが回るのは依頼者の真坂さん家を除いた8軒なのニャ!」
「え?え?・・私が回ったのは・・・北側の3軒と南側の3軒・・・ああっ!!!304と306に行ってない!!」
「305号室の“真の”『隣人』じゃないか!!」
~~~~
というわけで、305号室の両隣は3人で調査することにしました。
スフレさんの首には『お仕置き中。今日の晩ご飯と明日の朝ご飯抜き。餌を与えないで下さい』と書かれたプラカードがぶら下がっています。
《304号室 四条》
ピンポーン
「はい」
タルト所長がチャイムを鳴らすと、中から和服を着た50代くらいの女性が出てきました。
「こんにちは。突然すみません。RR探偵事務所の赤岩タルトと申します。お隣の犬の事で・・・」
「犬神様ですって?!」
「「「?!?!?!」」」
女性は口に手を当て、驚愕の表情で突然叫びました。
3人が女性の大声に不意を突かれ、固まってしまっている中・・・
「・・・・犬神様の事でしたらどうぞ」
女性はすん、と何事もなかったかのようにドアを大きく開き、3人を家の中に招き入れます。
「・・え・・・犬神様?の件ではないのですが・・」
「しっ!タルト所長。ここは黙ってお邪魔するのニャ」
「今度はお団子かなー。いちご大福かなー」
スフレさんはプラカードを裏返しています。
中に入ると、他の家とは違い、ふすまや障子が並ぶ純和風のインテリアになっています。
「こちらへ」
家の中で1番広い部屋と思われる場所に案内された3人は、畳敷きの和室の座布団に横1列に並んで正座をします。
向かいには同じく横並びで、この家の住人らしき数人の人物たちが座っています。全員和装です。
案内をしてくれた女性が1番端の座布団に座り、キセルをふかしながら
「わたくしは長女の松子です」
と自己紹介をします。
すると、その隣に座る女性から順に次々と名乗っていきます。
「次女の竹子です」
「三女の梅子です」
「松子、竹子、梅子ってもしかして・・・」
スフレさんがつぶやきますが、自己紹介は続きます。
「四女の櫻子です」
「五女の蘭子です」
「六女のカサブランカ子です」
「なんかちょっと多い!」
「六女は百合子でよかったのでは?」
「ニャンか嫌な予感が・・・」
「それで、犬神様の件でお話だとか。伺いましょう」
長女の松子が言います。
「すみません・・・実は、犬神家・・もとい、犬神様の話ではないんです。隣のお宅の“ころ”・・・」
「琴ですって?!」
次女の竹子が叫びます。
「あなた方、もしや犬神様にお祀りする家宝、【斧、琴、菊、櫂、梨】を狙っている盗賊団なのでは?!」
三女の梅子が気色ばんで3人に詰め寄ります。
「またちょっと多い!」
「良き事聞く甲斐無し?」
「縁起悪くないかニャ?」
「いえいえ。梅子さん。僕たちはそんな怪しいものでは・・・」
タルト所長が弁解をしようとしたその時、
「あら?」
何かに気付いた様子の長女の松子が、タルト所長の言葉を遮ります。
「佐清がいないわ!どこに行ったの、佐清!」
「スケキヨ?!」
「スケキヨっすか!!」
「嫌な予感的中ニャ!」
「いえ。佐清と書いてポンデローサと読むのです」
「ポンデローサ」
「まさかのキラキラネーム!!」
「ちなみにポンデローサは松の種類なのニャ!」
「・・・で、その佐清さんとかいう、松子さんの息子さんが行方不明なのかニャ?」
「そこの猫!!なぜ佐清が姉さんの息子だと知っているのですか!!」
次女の竹子がくわっ、と目を見開きます。
「いニャ・・・なぜと言われても・・・ニャ」
「・・ねぇ」
「・・うん」
「あの・・・佐清君の居場所なら見当が・・・」
「あなた、ご存知なの?さすが探偵さんね」
タルト所長の言葉に、梅子が手のひらを返します。
タルト所長は、佐清を心配して、気遣わしげな表情を浮かべる松子に問いかけます。
「こちらに湖はございますか?」
「なんですって?!湖ですって?!」
「ここの人たち、いちいち芝居がからないと気が済まないんっすね」
「・・・というか、マンションの住民に湖があるか聞く方もどうかしてるのニャ」
「姉さん、湖といえばあれでしょう!『那須湖』」
「そうね。『那須湖』ですわね」
松子と竹子が慌てて立ち上がります。
「湖あるんかい」
スフレさんがツッコミますが、華麗にスルーされます。
「こちらです」
松子の案内でベランダに向かいます。
そしてベランダに出た探偵事務所陣が見た物は・・・
「ビニールプール?」
高さが2メートル程あるような巨大なビニールプールがでーーーーんと置いてあります。
プールの側面には黒い筆ペン(油性)で、『那須湖弐号』と書かれています。
「壱号はカラスにつつかれて穴があいてしまったのです」
と、松子が説明します。
「佐清君は?」
タルト所長がプールの脇に置かれた踏み台に上り、中を覗き込みます。
「!!!!!」
珍しく後れを取ったスフレさんも慌てて踏み台に上り、タルト所長の肩に顎を乗せてプールの中を確認します。
「!!!!!」
エ・クレア助手は踏み台無しでポーーンとプールの縁に飛び乗って中の様子をうかがいます。
「ニャニャッ!!」
そこには、3人の予想通り、水面から逆さに両足が突き出た状態の佐清の姿がありました。
「佐清君!!」
「ぎゃーーーーーーーーーっっ!!」
「ウニャニャニャーーーーッ!!!」
3人の驚愕をよそに、松子は落ち着き払った様子でプールに近づき、中に向かって声をかけます。
「佐清。あなた、まだここにいたの。あまり根詰めるとよくないですよ」
松子の言葉に、突き出ていた2本の脚はくるりと反転し、水の中からゴムマスクをかぶった頭がひょっこりと出てきました。ウルトラマンのゴムマスクです。
「佐清。アーティスティックスイミング部の発表会が来週に迫っているからといって、練習し過ぎもよくないですよ」
「でも母さん、今回の演舞テーマは『ウルトラマンVSモスラ決死の水中対決』なのです。大役のウルトラマンを仰せつかったからには絶対に成功させなくてはならないのです。わかって下さい」
「アーティスティックスイミングってそんな競技でしたっけ?」
「シンクロナイズドスイミングから名称も変わったことだし、競技内容も変わったんじゃない?」
「タルト所長、また適当ニャ事を言って」
「あのー。それで、松子さん?」
本来の来訪目的を達成すべく、タルト所長が松子に声をかけます
「なんでしょうか」
「お隣の犬の事なんですが・・こちらに、毎日餌をあげている方はいらっしゃいませんかね」
「お隣の犬?・・・ああ、あのいつもマンション内をうろうろしている犬のことですわね。餌?まさか。あの犬は犬神様ではありませんからね。近づいたこともありません」
「なるほど。・・・あ、佐清君はどうかな?犬におやつあげたりとかしてない?」
タルト所長がゴムマスク(ウルトラマン)の佐清にたずねます。
「まさかあなた、佐清を疑っているの?!」
松子がエキセントリックに声を上げます。
「わかりました。佐清!頭巾を取っておやり!!」
「いやいやいや。いいですいいです!ていうか、マスク関係ないです!」
スポン
佐清がウルトラマンのマスクを取ると、そこには顔ではなく、モスラのゴムマスクが現れました。
「?!?!?!」
「演技中、モスラ役の人に何かあった時のために下にモスラのマスクも付けているのです」
佐清が説明します。
「・・・はあ・・そう・・ですか」
「なんですって?!それでは納得できないとおっしゃるのですか!!ならば、佐清!その仮面を半分めくっておやり!!」
更に逆上した松子が叫びます。
「いや、何も言ってないんですけど・・」
当惑するタルト所長を横目で見ながら、佐清が震える手でゴム製の仮面をめくります。
ぺり
ぺりぺり
「・・・・・ごくり」
そこには、ごくごく普通の健康的な青年の顔がありました。
さすがに長時間プールで練習していたので、体が冷えて手が少々震えていたようです。
「佐清!もうよい!仮面をお下ろし!」
「・・・いや、最初からもうよかったんですけど」
「わたくしどもは誰ひとり、隣の犬に関わりはございません。お引き取り願いましょうか」
松子の言葉を合図に、3人は304号室を後にするのでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・・疲れた・・・」
「滞在時間10分くらいだったのに、まるで1日が終わったような疲労感っす」
「植物は、松と竹と梅と桜と蘭とカサブランカが生けてあったけど、どれも写真の葉っぱとは違うのニャ」
「では、最後の306号室、行きましょうか」
「そうだね」
「今度はまともな人だといいけどニャ」
《306号室 六角》
ピーーンポーーーン
ガチャ
出てきたのは6、7歳くらいの男の子です。
「こんにちは」
スフレさんが子供に挨拶します。
「おばさん、誰?」
ピキッ(スフレさんのこめかみが痙攣する音)
「お・ね・え・さ・んは、RR探偵事務所のビューティーインテリジェンスパーフェクト探偵助手、青山スフレさんだよ☆」
「・・・・・・」
「あ、ボクにはちょっと難しかったかな?てへぺろ♪」
「探偵事務所のゴリラ探偵助手の青川ククレ3が何か用?」
「誰がゴリラだ!ウホッ!!」
「あ、ボク、お母さんいるかな?」
見かねたタルト所長が、子供に話しかけます。
「要らない」
「いや、そうじゃなくて!・・・って!お母さんは要るでしょ?!」
「すでに居るからもうこれ以上要らない、という意味だ」
「あ・・・そう。・・ま、いいや。では、言い直そうか。お母さんはご在宅ですか?」
「母ちゃんに用があるならまず俺らを倒してもらおうか!」
「なんで?!」
「いきなりどうした?!」
「俺“ら”とはニャ?」
「おい!二郎!三郎!あれ持ってこい!」
子供は家の中に向かって呼びかけます。
すると、玄関近くの部屋から2人の男の子が手に何かを持って出てきました。
2人とも前の男の子と背格好が同じです。
「俺らは三つ子だ。長男の三郎、俺が次男の一郎、一番下が二郎だ!」
「どうしてそうなった?」
「俺らの名前についてはさておき、ここに俺らが学校で使っている赤白帽が5つある!今、赤の状態のものが2つ、白の状態のものが3つある」
「赤白帽!懐かしいっすね!!」
三郎と二郎が手に持っていたのは赤白帽のようです。
一郎は、2人からそれらを受け取ると、そのまま探偵陣の方に差し出します。
「では、俺らは縦に整列するから、俺らに見えないようにその5つの赤白帽の中から適当に3つ選び、1人ずつかぶせていけ」
先頭から、一郎、三郎、二郎の順に1列に並んだ三つ子にスフレさんが赤白帽をかぶせていきます。
「これで今、自分より前に並んだヤツの帽子の色は見えるが、自分や自分より後ろのヤツの帽子の色は見えない状態だ」
「・・・は・・・はあ・・そうっすね」
「では、二郎!自分自身の帽子の色がわかるか?」
「わからないよ」
二郎は答えます。
「じゃあ、三郎!自分自身の帽子の色がわかるか?」
「わからん!!」
三郎も答えます。
そして、その2人の答えを聞いた一郎は少し考えて、
「俺はわかったぞ!」
と声を張り上げます。そして続けて探偵陣に問いかけます。
「さて、俺、一郎の帽子の色は何か?探偵ならこれくらい推理できて当然だよな?見事推理できたら母ちゃんを呼んできてやる!」
かなりドヤ顔でふんすふんすしている一郎ですが・・・・
「え?僕たちからは丸見えなんだけど・・・」
「それに私が被せたんだし・・・」
「・・・どうしたものかニャア・・」
探偵陣は顔を見合わせ、ひそひそと密談します。
「でも、ここは我々が大人になって、推理クイズに付き合ってあげるのが得策だニャ、タルト所長」
「・・・私はこういう論理クイズ系苦手なんで、所長、お願いするっす」
「そうだね。まあ、見ていなさい。サクッと終わらせるよ」
タルト所長は1歩前に踏み出し、推理披露を始めます。
「まず、赤の帽子は2つしかないのだから一郎君と三郎君が両方赤だった場合、二郎君の帽子は白で決定だ。しかし、二郎君は自身の帽子の色がわからないと言った。ということは一郎君と三郎君の帽子の色の組み合わせは一郎君が赤で三郎君が白、一郎君が白で三郎君が赤、一郎君が白で三郎君も白、のどれかになる。この状態で三郎君が、自分の前に立つ一郎君の赤い帽子を見ていたら、一郎君が赤で三郎君が白という正解の組み合わせにたどり着けるはずだが、三郎君も自身の帽子の色をわからないと言った・・・・ということは、一郎君は赤の帽子をかぶっていない、つまり!君のかぶっている帽子の色は白色なのだよ、一郎君!!」
どーーーーーん
「「「おみそれしましたーーーー!!!」」」
「・・・・なんのこっちゃ」
「とんだ茶番なのニャ」
パタパタパタパタ
その時、廊下の奥の方からスリッパの足音がして、30代くらいの女性が、濡れた手をエプロンで拭きながら玄関の方に小走りで出てきました。
「すみませーーん。ちょっと水仕事していたもので。どちらさまでしょう」
「お忙しいところすみません。僕たちはRR探偵事務所の者です。僕は所長の赤岩タルトと申します。こちらは助手のエ・クレア、そしてこちらが・・・え、と誰だっけ?」
「嘘でしょ?!」
「・・で、ご用件は?」
「あ、はい。お隣の犬の“ころ”君におやつをあげている隣人さんを探してまして」
「ああ。私です」
「!!!!!」
「ええっ?!」
「い・・今、ニャンと?!」
「私が“ころ”ちゃんにおやつをあげてますけど?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・こんなにあっさりと・・・」
「ここまでの苦労は何だったのか・・・」
「・・・ニャン」
「あの、六角さん。“ころ”ちゃん、今ダイエット中なんですよ」
「えーっ?!そうだったんですか?!」
スフレさんがそう告げると、306号室の主婦、六角須花は初めて知ったような驚きの表情を浮かべます。どうやら演技ではなさそうです。
「“ころ”ちゃんの首輪に『餌を与えないで下さい』って書いてあったと思いますが」
「え?首輪ですか?・・・・?あら?“ころ”ちゃん首輪してたかしら?・・・そういえば、以前は赤い首輪をしていたようだけど、最近ではしてなかったような・・・」
六角須花は訝しげにそう答えます。
顎に指をあててしばし思案していたタルト所長は、何かに気付いたように、
「もしかして、“ころ”君の首輪・・・見えなかったんじゃ?」
「見えなかった?」
ワン!
廊下の方から犬の鳴き声がして、ふくよかなワンちゃんがどっしんどっしんと306号室の方へ駆け寄ってきました。
「あっ!“ころ”ちゃん!」
スフレさんが、玄関先から廊下を覗いて声をあげます。
“ころ”ちゃんの赤い首輪は・・・・・首のお肉で隠れて全く見えませんでした。
「・・・やっぱり」
「あ、首のお肉を持ち上げたら首輪見えるっすね。おかみさんの言っていた通り、『減量中☆エサを与えないでくださいワン♪』て書いてあります」
「やだ。気づかなかったわ。真坂さんにも“ころ”ちゃんにも悪いことしちゃったわ。」
「真坂のおばちゃんも、そんなに大ごとにしてほしくなさそうだったし、これから気をつけてくれればいいニャンよ」
「・・・そう?わかりました。これから気を付けますね。おやつじゃなくて、遊んであげる方がいいですね」
「そうっす。そうっす。いや~めでたく一件落着っすね」
「そうだ、六角さん。最後に、これなんですが、見覚えはありますか?」
タルト所長は例の葉っぱの写真を六角須花に見せます。
六角須花は写真を見るなり、
「ああ、それはうちのベランダの家庭菜園で育てているニンジンの葉ですよ」
「ニンジン?!」
「ニンジンって、あの野菜のニンジンっすよね?!」
「ジャペン国の画像検索技術は一体どうなってるのニャ・・・・」
「よかったらお持ちになりますか?さっき収穫したばかりなのでどうぞ」
六角須花は満面の笑みを浮かべてそう言うのでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~
RR探偵事務所に帰ってきた3人。
スフレさんが夕食を作り、みんなで今回の反省会がてら、さっそくお腹を満たすことにしました。
「まあ、なんだかんだで無事に今回の仕事も達成しましたね、所長」
「隣人が多すぎたけどね」
「『隣人』はともかく、『推理』の方は・・・ニャ・・」
「そういえば・・・推理らしい推理と言えば、最初の『それはメールで送られてきた依頼だね。ドヤ!(推理失敗)』と『三つ子の論理パズル(茶番)』だけっすよね・・・」
「それも推理らしい推理と言えるかどうかなのニャ・・・」
「・・・ま、まあ、いいじゃないか。一応推理はしたんだし。とにかくお腹すいたし早く夕食にしよう」
「スフレはお腹すいてないのニャ。アホほどコロッケ食べてたし」
「いえいえ、おなかペコペコっすよ。早く食べましょう」
「今日はカレーか。エ・クレア君には、いつもの玉ねぎ抜きの猫用カレーだね」
いっただきまーーーーす
ぱくぱくぱく
ごろごろごろごろごろ
「・・・・ん?スフレ君、これって・・・」
「あ、さっき六角さんにいただいたものを早速使ったんですよ」
ごろごろごろごろごろ
「・・・・にしてもだね・・・」
「ん?なんすか?」
ごろごろごろごろごろ
「ニンジンが多すぎる!!!」