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憧れられたい

作者: 横瀬 旭

 憧れは憧れのまま終わる。


少ない給料をはたいて憧れの人がいつも着ているようなカーキ色のロングコートを買い、それを着て街を歩いているだけで神様になったような気分だった。


僕はそれを「神様コーデ」と呼び、休みの日はそれを着て秋葉原を高慢に歩くのが好きだった。次第に歩き方や髪型なども憧れの真似をするようになった。


 友達とカラオケに行くと"Rock 'n' Roll Star"や"Live Forever"を入れて右手でマイクを持ち、左手を後ろに回して腰を曲げて歌う。


しかし、出てくるのはアンガールズ田中のような細くて弱々しい声と下手くそな英語だった。友達はそれを見てどう思っただろうか。


"I() wanna(こがれ) be() adored(れたい)"という曲がある。歌詞を直訳すれば「俺は崇拝されたい。俺を崇めろ」と歌い上げる高慢ちきな曲だが、この曲を作ったバンドに影響されて音楽を始めた人が大勢いるし、僕の憧れもそうだった。


 僕もそのように高慢な態度でいたい。なんなら気に入らない人をバタバタ倒して、好き勝手に生きていきたい。


しかし、それは憧れを追っている僕でしかない。実際には、気に入らない人にペコペコ頭を下げて窮屈に生きている。


 髪も薄くなり、髪型を真似することもできなくなった。憧れとはほど遠い人間になった。


結局僕は、秋葉原を高慢に歩くハゲ、ガリ、アニオタ童貞という、ただの、どこにでもいる日本の若者になった。


周りの人を見て、そんな若者ネットで囃し立てられているだけで実在するのは僕だけだということに気が付くと、恥ずかしくて早く死んでしまいたいと思った。


 しかし、二十一で死んでもシド・ヴィシャスにはなれないし、二十三で死んでもイアン・カーティスにはなれない。


僕は、僕のままで生き続けるしかない。他人の人生にはなれない。リアム・ギャラガーもそのようなことを歌っていた。


 憧れは憧れのままで終わる。だったら、僕は誰かの憧れの対象になりたい。今の時代、容姿を見せずに考えを発信することはいくらでもできるから。


その気持ちだけが、僕に前を向かせ、生きる気力を与えてくれる。

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