推しへの愛を語らせて
高校3年生、夏。私、櫻庭笑茉は、恋愛になんて興味ない。だって、推しが今日も笑顔で生きている、それだけで私は満腹だから。
昨今人気急上昇中の世界的に有名なNova Paletteは、4人のイケメンアイドルグループである。
私が彼らの虜になったきっかけは、とても些細なこと。
彼らの音楽に惹かれ、人柄に惹かれ、たまに見せる人間らしい側面に心が惹かれた。
そしてだんだん、彼らを見ていると自然に笑みが溢れたり、気付けばスマホのアルバムに写真が大量に保存されていたり、SNSをチェックするたび隅々まで見て愛しく思えたりして、沼にどっぷりとハマっていった。
そして現在、Nova Paletteの公式DVDで彼らの歌に魅了されながらリビングのソファで家族の目も気にせず一人はしゃいでいた。
「やっぱりかっこいいなぁ!! いつかひと目でもいいから会いたいなあ‥‥」
「姉ちゃんまたNova観てるよ‥‥いい加減リモコンの所有権俺に渡せよな」
目を細めて軽蔑したように私を見つめる高校2年生の弟、海里。
「いいじゃん! あんたと違って私は高校生活陰キャ極めて愚民と化して生きるんだから家でくらい王様気分味あわせてよね」
「いや、姉ちゃん高校で結構有名だよ。うるさいバカでブスの3年ってね」
「あんたそれ誰が言ったの!? あんただってちょっとイケメンで運動神経抜群で勉強できるからって調子に乗ってると痛い目見るよ」
海里と私は同じ高校で、私はヲタクを極めた黒髪ロングストレートのブスでうるさい陰キャだが、海里は学年一位の成績、顔面、運動神経、180cmブラウンのマッシュヘアを持ち合わせた神の子なのだ。
「はあ!? 姉ちゃんが俺に勝てるとこでもあんのかよ」
「あるよ!! ‥‥いつかできるの! ‥‥ってちょっと静かにして、今推しが輝いてるんだから!」
「はいはい。これ、誰だっけ?」
そう言って海里が指さしたのは、私のイチ推し。
「チカ」
その瞬間、私のヲタク魂は燃え上がり、解説モードに入る。
「本名、六道愛、20歳。Novaの次男で優しくて仲間思いのメインボーカル。金髪が似合う爽やか王子様タイプイケメンね」
「キラキラしすぎだろ。じゃあこの仙人みたいな人は?」
「それは長男でリーダーの黒岸麗音、21歳。めちゃくちゃ器が大きくて、イタズラされても笑顔でよしよしするタイプの超仙人リードダンサー!この人がキレるところなんか見たことなくて‥‥」
話の途中で海里はまた次の人を指さした。
「これは?」
「それは三男の朝波瞬19歳。甘えたがりでイタズラ好きの困らせ屋のメインダンサー。でも憎めないほど見た目も中身もかわいい。でも意外なのが、超武闘派で柔道の世界大会で1位を取ったこともあるらしい」
「へー。じゃあ俺部屋戻るわ」
そう言ってリビングから立ち去ろうとする海里。
「まって!!最後一人聞いてないじゃん!」
「いや別に興味ないし」
「末っ子の時雨律、18歳。末っ子なのに賢くてしっかりしてるリードボーカル。4人の中で一番クールで努力家。多種多彩で楽器はほとんどのものを弾けるしNovaの曲も作ってるまさにアイドルになるべくして生まれた子」
「勝手に喋りやがった。まあ、男の俺から見てもかっこいいのは確かだな」
「でしょでしょ!!」
私はソファから落ちそうなくらい前のめりになってキラキラ目を輝かせながら海里を見つめた。
「その推しへの愛をもうちょっと勉強に向ければねえ」
海里はそうぼそっと言いながら部屋へ帰還した。
「推しへの愛は誰にも負けないのよ〜ん」