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担任は優しい旦那様  作者: 華愁
13/40

第十一話☆新しい出会い

卒業式から半年、

残暑が残る九月に

私は新しい命の

立会人となったのだった。


マー君が一年生の

担任になり何かと忙しく、

帰って来るのは

十一時近いことが増えた。


その日も、

帰りが遅い

マー君のために何を

作ろうかと考えながら

スーパーに行き、

家に向かおうと

思った矢先に

妊婦さんが

しゃがみ込んでいた。


『大丈夫ですか?』


苦しさからなのか

この暑さのせいなのか

わからないけど、

その人は

ひどい汗をかいていた。


とりあえず、

ハンカチを取り出し

その汗を拭った。


住宅街にタクシーが

走ってるはずもなく、

携帯を取り出して

何時も使ってる

タクシー会社に電話を掛けた。


『もしもし、

何時も利用させて

頂いてる佐川ですが

〇〇町〇〇-〇まで

大至急来て下さい』


八分後、何時もの

運転手さんが

降りて来たから

事情説明をしながら

彼女をタクシーに乗せ

私は助手席に乗り込んだ。


『総合病院まで

お願いします』


後ろの彼女を

気にしながら

病院に電話を掛けた。


電話口に出た

受付の女性に

今の状況を伝えた。


見つけた時よりは

落ち着いたのか

病院に着く頃には

呼吸は整っていた。


もう一度、

運転手さんに

手伝ってもらい

妊婦さんを降ろし、

料金を払った。


『ありがとう

ございました』


年配の彼は

いえいえと言って

帰って行った。


「あの、

ありがとう

ございましす」


出会って数十分、

話せる状態になり

よかった。


『当然のことを

しただけですよ』


まだ歩き難そうな

彼女を支えながら

受付まで着いて行き

産婦人科の前で

一緒に待つ。


「ええと、

お名前訊いても

いいかしら?」


そういえば、

名乗っなかったっけ。


『失礼しました

佐川華蓮って言います

私も訊いていいですか?』


見た目からして

二つ三つ上そうだ。


「栄螺那々弥といいます」


『因みにお歳は?』


女性に歳を

訊くのは本来ご法度だが

栄螺さんは

気を悪くすることなく

答えてくれた。


「二十三歳よ」


やっぱり予想的中だ。


「佐川さんは?」


栄螺さんは

こっちが聞くと

聞き返すのね。


『二十歳です……』


話してる内に

彼女が診察室に呼ばれた。


「行ってくるね」


立ち上がり、

一番奥の診察室に

入って行った。


二十分程して出てて来た。


『お帰りなさい』


「ただいま」


ノリのいい人だ。


『お腹の赤ちゃん

大丈夫でした?』


見つけた時、

冷や汗まで流して

しゃがみ込んでだし

大丈夫なのだろうか?


「うん、大丈夫だって」


よかったぁ~


「後一ヶ月で

出産予定日なんだ」


お腹を撫でる

栄螺さんは

"お母さん"の

顔をしていた。


『少し早いですけれど

おめでとうございます』


触ってもいいですか?って

訊いたら、私の手を

お腹にあてた。


あっ、今動いた。


「不思議よね」


私の手の上から

栄螺さんの手が重なった。


「よかったら、

出産に立ち会ってくれない?」


ぇぇぇ~!?


私が……!?


『旦那さんは?』


敬語が外れたけど

今はそんなことを

気にしている

場合じゃない……


「さぁね、

此処四ヶ月くらい

帰って来てないんだ」


何とも言えなく

なっちゃったなぁ……


『それ、

家の旦那さんに

訊いてみてからでも

いいですか?』


困った時は、マー君に

相談するのが一番。


「結婚してたんだ……」


驚くのも無理ない。


私の身なりは

人妻って感じじゃないし

半年前に専門学校を

卒業したばかりだ。


『はい、

もうすぐ三年です』


今年のプレゼントは

何がいいかなぁ~


「さっき、

二十歳って言ったよね?」


『そうですね』


うん、間違ってないから。


「十七で結婚したの?」


聞き方は

質問というより

確認してる感じだ。


『高二の時に

籍入れました』


"普通" じゃないのは

初めから判っている。


「旦那さんは何してる人?


そうなるよね。


『教師です』


"何処の"とは

あえて言わないでおいた。


「そうなんだ」


何となくわかっただろう。


とりあえず、

お会計するために

一階まで降りた。


彼女の家を

知らないから

住所を聞くと

家よりかなり先だった。


「そうだ、

此処に来た時の

タクシー代幾らだった?」


どうやら、

返そうとしてるらしい。


『いいですよ』


たまたま、

彼女を見つけて

此処まで

連れて来たのは

私が勝手にしたことだ。


「でも……」


腑に落ちないらしい。


『わかりました、

此処に領収書が

ありますから

割り勘して下さい』


バックから財布を出し、

先程のタクシーの

領収書を渡した。


帰りのタクシーも

自分の家までの分は

出すことになった。


マンションの前で

停めてもらい

私は降りた。


『じゃぁ、

気をつけて

帰って下さい』


さっき、タクシーを

待っている間に

マー君にメールをした。


そしたら、

俺も一緒に立ち会うと

言い出して

那々弥さんと笑った。


「家に着いたら

メールするね」


彼女を乗せたタクシーが

見えなくなったのを

確認して

マンションの中に入った。


メールが来たのは

それから、

十五分してからだった。


『あっ、ヤバい

荷物あそこに

置きっぱなしだ……』


そう思って

どうしようか

考えてたら、

携帯が鳴った。


『もしもし』


電話の相手は

何時もの運転手さん。


『どうしたんですか?』


自分の声に

覇気がないのは

承知で聞く。


「買い物、

あそこに

忘れて行きましたよね?」


思い出したのは

今だけどね。


『ええ、それが?』


「実は、こっちで

お預かりしてるので

後で取りに来て下さい」


タクシー会社までだと

バスで四十分くらいか……


『分かりました、

今すぐ取りに行きます』


電話を切り、

玄関の鍵を閉めたのを

確認してバス停に

向かった。


今日買った物を

思い出して、

自分で苦笑いする。


『これも、

ある意味

運命なのかな?』


バスを降りて

歩きながら

小さく呟いた。


「お待ちしてました」

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