ダリルの勘違い聖人伝~悪役令嬢と呼ばれた少女~
※登場人物が主人公ダリルの聖人っぷりについて語っていく方式です。
◆1人目【ある男爵令嬢の取り巻きの話】
――男爵令嬢のアイナ=カトラー様は、学園で常にこんな主張をしていました。
『お友達になるのに身分の差なんて関係ないわ。みんな仲良くしましょう!』
その言葉どおり、平民である僕を同じグループに誘ってくれたのです。
第3王子のアンソニー殿下、そして宰相であるケニー公爵のご子息、聖騎士団長のご子息などの、そうそうたるメンバーの中に入り、僕は驚くばかりでした。
僕は学園に途中編入してきたばかりなので、この国の事をよく知るために本当に助かっています。
ある放課後のことです。僕が教室で提出用のレポートをひとりで書いていると、
「殿下の婚約者のダリル様が、わたしに嫌がらせをしてくるの……」
あなたにだけ話させて、とアイナ嬢が涙を浮かべてすがりついて来ました。
アイナ嬢の漆黒の瞳から、真珠のような雫がぽろぽろと零れます。
ダリル嬢といえば、人を癒す不思議な力をお持ちの女性です。
伝説の聖女の再来と噂され、第3王子のアンソニー様と婚姻を結ぶと聞いていますが、本当に嫌がらせなどをするのでしょうか。
アイナ嬢は、ずたずたになった制服と焼かれた教科書を僕に見せてくれました。
「きっと、わたしがアンソニー殿下と仲良くしているのが許せないのね。みんなで楽しく学園生活を過ごしたいだけなのに。同じ男爵子女として悲しいわ」
そうなのです。
お2人は爵位も同じで、同じ学級で仲良くなれるはずなのに対立しているのです。
「わたし、見ちゃったの。ダリル様が悪魔の力で本に火をつけているところを」
「本当ですか?」
「だから、彼女を異端審問にかけるように教会にお願いしてきたのよ」
異端審問とは、中央教会から派遣される異端審問官が、奇跡の力の正邪を判断し、もし異端者ならば裁きにかけて断罪するという仕組みのことです。
実際、悪魔の誘惑に負けてしまい、異端に身を堕とす者もいます。
ダリル嬢がそんな過ちを犯すとは、僕にはとても思えないのですが……。
「あなたも一緒に、審問官に証言してもらえると心強いわ。悪魔の手から、この学園を救いましょう!」
アイナ嬢はそう微笑んで立ち上がり、長い黒髪をさらりとなびかせます。
まるで物語の主人公のような、自信と正義感にあふれる瞳をしていました。
僕はこっそりと、ダリル嬢にアイナ嬢のたくらみについて話をしました。
このまま真実も知らず、一方的に終わるのは不公平だと思ったのです。
けれど彼女は、寂しそうに微笑んだだけで何も言いませんでした。
数日後。ダリル嬢は異端者の疑いをかけられ、身分を剥奪されて修道院へ送られることになりました。
アイナ嬢は悪魔の再来を未然に防いだ功績を認められ、近いうちにアンソニー王子と婚約するそうです。
「ローレンの証言のおかげで、学園もこの世界も助かったわ。ありがとう!」
そう言って、僕はアイナ嬢から感謝されました。
しかし証言といっても異端審問官とはまったく話をしていません。
ダリル嬢を裁いた審問官は、おそらく偽物なのではないのでしょうか。
どう考えても冤罪であり、アイナ嬢の方がおかしいのです。
ですが微妙な立場の僕は、最後まで異を唱えることができませんでした。
ダリル嬢は学園を退学することになり、教室に荷物を取りに来ていました。
あんなにひどい事をされたのに、彼女は怒りを見せることもなく静かです。
無言で歩いてくるダリル嬢に、アイナ嬢はぼそりと話しかけました。
「――悪役令嬢のダリル様には、修道院がお似合いだわ」
ダリル嬢はそれを聞き、薄桃色の瞳をはっと見開いていました。
そのまま言葉を交わすことなく、ピンクブロンドのふわふわした長髪を揺らして、ダリル=オリヴィエ=マルガリデール様は学園を去っていったのです。
彼女の高潔さを感じさせるような凛とした後ろ姿は、まさしく聖女でした。
◇ ◇ ◇
◆2人目【ある乗合馬車の御者のひとりごと】
――よお。嬢ちゃん、どこに行きたいんだい?
俺が馬車の御者台からそう声をかけると、貴族のご令嬢は薄桃色の瞳をまん丸にして驚いていた。
つばの広い帽子をかぶってこちらを見上げる少女は、訳アリのご令嬢だ。
小さなトランク1つ持ち、護衛もなしに人通りのない郊外の道を歩くなんぞ、絶対おかしいに決まってる。
まだ1人も客はいねぇから乗っていきな、と言うと彼女はこくりとうなずいた。
牧草地の広がるのどかな景色が続く中、乗合馬車を走らせる。
気になりすぎて、後ろに乗せたご令嬢と話をしてみた。
「で、目的地はどこなんだい?」
「…………ロサ・カニーナ修道院です」
「遠いな! 歩いて行けるような場所じゃねえぞ」
よくよく話を聞くと、王都を出発してきた馬車から途中で荷物1つで降ろされて、仕方なく1時間ほど歩いているとのこと。
俺がよそで仕事をしている間に、まさかそんな事になっているとはな。
「どこの馬車組合のヤツだよ。客を勝手に途中下車とか、訴えてやろうぜ!」
「…………王立聖騎士団の馬車です」
「お、おう」
そりゃまあなんとも。訴えた側が逆に罰をくらいそうな相手だわ。
しばらくお互いに無言のまま街道を進んでいると、ご令嬢が話しかけてきた。
「あの。どこか、買い物ができる街で降ろしていただけませんか?」
「いいぜ。何か欲しいものがあるのかい」
「…………カツラです」
はあ!?
大声を出しそうになったがこらえた。お洒落とか変装用のカツラだよな、きっと。
「実は……散髪を失敗してしまいまして」
そう言って、彼女は大きな帽子をとる。思わず馬車を止めてガン見しちまった。
長かったはずのピンクブロンドは、見るも無残に短くなっている。
毛の長さが5センチもないなんて、完全に男の髪型だ。
「一体なにがあったんだ……」
「修道院に行く前に髪を少しだけ短くしてもらおうと、理髪店に行きました」
「専門の理髪師がやったんだよな? なんでそんなことに」
わかりません、とご令嬢は首を横に振った。
初めての店だったので予約をとり、店で自分の名前を告げたらこうなったらしい。
これは何かの陰謀を感じるな。
「女性の大切な髪をこんなにしちまうなんて、ひでぇよ。慰謝料を請求しようぜ」
「……いいんです。なんだか、これはこれでスッキリしました」
彼女は薄桃色の瞳を細めて、輝くような笑みを浮かべていた。
そんな簡単に許せるなんて、聖人かよ・・・!
途中の街で馬車を止め、一緒に買い物をすることにした。
なんか彼女を放置してると、そのうち誰かに騙されそうで怖いしな。
これも何かの縁だからとことん付き合うぜ、と俺が言うと彼女は驚いていた。
街までの運賃を渡されたが、目的地についてからでいいと返しておく。
彼女は金髪のカツラを買い、ついでに修道院で着れそうな服も買っていた。
ぜいたくが許されない場所だから、灰色の地味なローブだけどな。
適当な食堂に入って昼メシを食べながら、俺は彼女に忠告した。
「なあ。修道院なんか行くなよ。今ならどこにだって逃げられるだろ」
「いいえ。決まったことですから、定めに従います。私はそこに行って、ある疑問についての答えを見つけたいのです……」
ご令嬢は両手を組み、そっと祈る仕草をした。
こりゃ決意は固そうだな。俺に出来るのは、馬車の御者を務めるぐらいだ。
「私はダリルです。……あなたのお名前を教えていただけませんか?」
「へっ。名乗るほどのモンじゃねえよ。御者のおっさん、で十分だ」
それから俺たちはロサ・カニーナ修道院へ向けて出発した。
馬車の停留所の前で、他の客から乗せてくれ、と叫ばれたが断らせてもらう。
すまねえ。この馬車、今から貸し切りなんだ!
◇ ◇ ◇
◆3人目【あるシスターの告解】
――ダリル様は、まごうことなき聖人でいらっしゃいますわ。
彼女が馬車でロサ・カニーナ修道院に来たのは、今から1週間前のことです。
到着したばかりの彼女に、正門の前でご令嬢向けの手引き書が渡されました。
貴族から修道女になるにあたり、守るべき簡単な3つの事柄が書かれています。
ダリル様は薄桃色の瞳を見開き、言葉を失っているようでした。
「…………!」
1.華美な服装や化粧は禁止です。中に入る前に着替えて素顔になること
2.戒律により、頭髪を装飾したり偽ったりすることは禁止されています
3.守れない場合は、重い懲罰を与えることがあります
手に持った用紙をぷるぷると震わせて、彼女は必死に門番に問いかけました。
「か、カツラは駄目でしょうか…………っ」
門を守る兵士に駄目です、と言われたダリル様は、がっくりと肩を落とします。
あとで正門横の控室で服装を整えるように、と兵士から告げられました。
馬車の御者の男が、元気だせ、と声をかけます。
がんばります、と彼女が答えてくるのがとても健気でした。
役目を果たした馬車が去って行くのを、ダリル様はいつまでも手を振って見送っていました。
控室で着替えたダリル様は、入所説明を聞きに院長室に向かっているはずです。
わたくしも慌てて着替えをして、彼女の元に駆け付けました。
「わたくしはシスターフロレンスと申しますわ。……ダリル様、どちらへ?」
ここは同じ敷地内にある、男子修道院です。
女子の建物とは高い壁で仕切られており、行き来できるのは関係者のみです。
彼女が男子寮の一室に案内されるのを、わたくしは茫然と見ているだけでした。
ダリル様は、ベッドに腰かけて短いピンク髪の頭を抱えておられました。
持参してきた、灰色の足元まであるローブを着ていらっしゃいます。
「どうしてこうなったのでしょうか…………」
「……そのお姿が原因だと思いますわ」
ダリルというお名前が、男性に多い名だというのも原因かもしれません。
しかし王都から届いた書類に、出身地と家名と性別が書いてあるはずです。
何か書類に不備でもあったのでしょうか。
「すぐに院長様に説明して参りますね」
「――――いいえ。決まったことですから、定めに従います。私はここで、ある疑問についての答えを見つけたいのです」
なんと崇高な精神をお持ちのお方なのでしょう……!
彼女のことを、ぜひお手伝いしたい。心からそう思いました。
「ダリル様。どうかこのフロレンスに、お力にならせて下さいませ」
そして現在。1週間が経ち、ダリル様は男性修道士として過ごされています。
日中は他の修道士とともに、お祈りや奉仕作業をなさっているのです。
彼女は背も高く細身で、正体が見破られることはありませんでした。
とても端正な顔立ちで、目元涼しいピンクブロンドの美青年にしか見えません。
1日のおつとめを終え、ダリル様がお部屋に戻っていらっしゃいました。
修道士の黒いローブをまとった彼女は、お茶を飲んでほっと一息つかれました。
わたくしと2人きりなので、やっと気を抜いた表情をされています。
「ふう。人間、ごまかせば何とかなるものですね…………」
「着替えとお風呂と厠と言動にさえ気を付ければ、全然大丈夫ですって」
男子寮の貴人用の豪華個室を借り、そこで生活をしてもらっております。
わたくしの権限を使えば、割とどうとでもなるのですよ。
「では、わたくしは自室に帰りますから、部屋の鍵をかけておきますね。冷めないうちに湯浴みをなさって下さい。いつも通り準備は整えておりますので」
「シスターフロレンス、あなたはどうしてここまでして下さるのですか?」
「今はロレンスです。ダリル様にお仕えする、一修道士でございます」
わたくしも今は姿を変えて、男の恰好をしていました。
そうでもしないと一緒に男子修道院にいられませんからね。
長い黒髪をした、なかなかの美形に変装できているのではないかと思います。
王国では長髪の男性が多く、また修道院でも男女に関わらず長髪は許されているので、怪しまれる事はないでしょう。
ダリル様は部屋を出ようとしたわたくしに、こう仰います。
「ロレンス様。……私は、何もあなたにお返しする事ができません」
「見返りなど不要です。しいて言うなら、ダリル様の生き方を見てみたいですね」
そう告げると、彼女は真剣な顔つきで何かを考えていらっしゃるようでした。
粛々と修道士の務めを果たすダリル様は、徐々に周囲に認められていきました。
料理や裁縫、薬の調合までこなす彼女は、たちまち人気者になります。
「ダリル君の薬のおかげで、最近調子がよくなってきました!」
「毎朝、枕を見て悲しい気持ちにならずに済んでおります!」
よく効くと評判の薬を求めて、毎日のように大勢の修道士が押し寄せました。
「いつも感謝しております、ダリル殿。どうかこれをお納め下さい」
「……代金はいりません。私も、自分の髪のために作っておりますので」
金銭を渡そうとする司祭様を制して、ダリル様はにこりと微笑みます。
その神々しい姿に、彼らは口々に叫び出し、その場にひれ伏しました。
「おお。神か…神なのかっ!」
「いや。髪様だ……ッ!!」
「髪の使いダリル様、ありがたや~」
少しニュアンスが違う気もしますが、彼女の偉業は称賛されてしかるべきです。
わたくしも、ちょっとあの薬に興味が出てきました。
やがてその薬は聖髪剤として、国王陛下へと献上されることになります。
ダリル様の身の安全を守るため、製作者の名は厳重に伏せておりますが。
なお貴重な薬のため、市販はしていません。
そのため国王を見て奇跡を知った貴族が、修道院に入りたいと殺到しました。
ここは育毛施設ではないのでお帰り下さい、と断るのが大変だったそうです。
善行を積んだ者のみが薬を与えられるとの噂が立ち、自ら罪を償おうと大幅な自主粛清が行われ、腐敗していた国政がたいそう綺麗になったとのことです。
これはまさしく、ダリル様がもたらした奇跡なのでしょうね。
調合作業を終えてお部屋に戻られた彼女に、わたくしはお茶をお出しします。
「今日もお疲れ様です、ダリル様」
「ありがとう、ロレンス様。私のせいで騒がしくなって本当にすみません」
「いいえ。あなたのおかげで皆の心が救われました。聖人として、称号を授けようという動きも出ておりますよ?」
「そんな……とんでもない事です」
薄桃色の瞳を丸くしながら、彼女は恐縮しておられました。
薬のおかげか、短かったピンクブロンドも10センチほどに伸びてきています。
今ではこの髪型も気に入っていると、彼女は笑って話していました。
かつて聖女の再来と謳われ、王子の婚約者とまでなった貴族令嬢が、男子修道院で神のごとく崇められているなんて――本当に数奇な運命ですよね。
当の彼女は、いつも他人に対して気を遣っているようでした。
「……ロレンス様は、ご自分のお仕事も忙しいはず。とても申し訳ないです」
「わたくし、変装が趣味で仕事なのです。おかげで毎日楽しいですわ。あらやだ、女言葉が出てしまいました」
わたくしがおどけたように言うと、ダリル様は声を出して笑ってくれました。
ひとしきり笑い終えると、彼女はぽつりと本音をこぼします。
「…………これまで辛い事もいっぱいありました。でも、私を見ていてくれる人もいて、ひとりじゃないんだって思えて……だから頑張れるんです」
「ダリル様……」
きっと今まで、色々な事があったのでしょう。
多くを語らない彼女の行いは、きっといつか報われると信じております。
あなたが求めている疑問についての答えが、早く見つかりますように。
ダリル様がここへ来られてから、4か月ほど経ったある日のこと。
修道院にひとつの事件が起こりました。
「アイナが様子を見に来てあげましたよぉ~。ダリル様はどこかなー?」
面会を求めて、王都から黒髪のご令嬢が現れたのです。
王子の婚約者として修道院を慰問に来たとのことですが、たぶん嘘でしょう。
「あれれ~ダリル様ったら。どうして男子のお部屋にいるのかな~」
「…………アイナ様」
アイナ様はずかずかと部屋に入り込むと、黒い瞳をうるうるさせて訴えました。
「ねえ。ダリル様だけにお話したいことがあるの。聞いてくれる?」
わたくしは部屋から追い出され、アイナ様とダリル様が2人きりになります。
30分もしないうちに、女性の悲鳴が上がりました。
「助けてえ~! わたし、ダリル様にひどいことをされたんですぅ!」
「!」
不祥事を起こしたとして、その日のうちにダリル様は修道院を追放されました。
ダリル様の悲しそうな顔が、わたくしは今でも忘れられません。
◇ ◇ ◇
◆4人目【ある異端審問官の愚痴と溜息】
――以上が、ダリル殿の行いに対する彼らの証言だ。何か意見はあるかな?
提出用のレポートを手に、私ことフロレンティウス=ベルナーは彼女に問うた。
目の前に座る女性は、ダリル=オリヴィエ=マルガリデール。18歳。
幼少時にたぐいまれな才能を見出されて男爵家の養女となり、王立学園でその癒しの能力を開花させ、一時は第3王子の婚約者にまで選ばれた聖女。
学園をトップで卒業できるほどの才女でありながら、悪魔の力を使うとして異端審問で有罪となり、退学を余儀なくされた悲劇の女性。
また追放先の修道院では、性別を偽って男子修道院に潜り込み、聖髪剤という人心を惑わす薬をばらまき、周囲の尊敬と寵愛をほしいままにした魔性の女。
そんな彼女の生活を終焉に導いたのが、アイナ=カトラーという令嬢だ。
アイナ嬢の証言では、慰問に向かった先で聖人だと話題の人物と話していたら、突然襲われたとのこと。男として修道院にいたダリル殿が疑われることになった。
なお現場を見た者は誰もおらず、被害者本人の証言のみである。
不祥事を起こしたとしてアイナ嬢は王都に連れ戻され、王家預かりとなった。
ダリル殿は身柄を保護されて、隣国にある私の家に身を寄せている。
修道院にかくまっているのも限界だったので、あれが潮時だったのだろう。
「疑問点があるのなら、この異端審問官フロレンティウスがお答えしよう」
「…………あれからアイナ様は、どうなったのですか。大丈夫でしょうか」
肩口まで伸びたピンクブロンドの麗しい少女は、うつむいたまま聞いてきた。
こちらで用意した、淡い紫色のドレスがよく似合っている。
「ここにきて他人の心配か? 貴女はお人よしにも程があるな……」
深く溜息をつきながら、私は正直に答えることにした。
「アイナ嬢……被告人アイナは、同様の手口による詐欺を30件以上も起こした罪で起訴。聖女を無実の罪に追いやった件についても再調査中。王子との婚約解消後、男爵令嬢の身分を剥奪され、王国の監獄で異端審問待ちとなっている」
薄桃色の瞳をしばたたいて、ダリル殿はかなり驚いた様子だ。
「そ、そんな事に……? では私も、王都に帰らないといけないのでは」
「あのまま王国にいたら、一生飼い殺しになって毛生え薬を作らされるぞ。そんな楽しくもない人生を送りたいのか?」
「…………」
想像してしまったのか、彼女は顔を曇らせて押し黙った。
「貴女の実家についてだが……マルガリデール男爵家は例の自主粛清の波に飲み込まれた際、お家取り潰しになったらしい。裏であくどい事をやってきた罪を、今ごろ償っているのだろうな。髪に祈りを捧げつつ」
「お義父さま……! 確かに、毎朝鏡を見て嘆いていらっしゃったけれど。もっと早くに気付いてあげていたら、私……」
彼女は口に手を当て、瞳に涙を溜めた。
きっと男爵は、表向きは善人だったのだろう。実際のところ、聖女が追放された時点で男爵家は詰んでいたのだが、それを今話す必要はない。
「罪は罪だ。いつか男爵の償いが終わった日には、会ってやるのもいいかもな」
「……はい」
「さて、堅苦しい話もここまでだ。今日はゆっくり休んでほしい。明日この国を案内して差し上げよう」
そう言うと、私は彼女にあてがわれた個室を後にした。
何かあればメイドを呼ぶようにと呼び鈴を渡したので、不自由はないはずだ。
この屋敷は、聖公国内にベルナー公爵家が所有するうちの1つ。
公爵子息である、私の邸宅だ。
翌日、私はダリル殿を伴って首都の中心部を訪れていた。
「聖公国って、こんな所だったんですね……!」
中央教会のお膝元であり、各国の聖職者たちが集まる由緒正しい聖地だ。
「教会関係の建物ばかりだ。特に面白くもない景色だな」
「いえ。一度来てみたかったんです。教科書で読むのと全然違って面白いです!」
古い建造物を見上げ、彼女はしきりに感激している様子。
ご満足頂けたようで何より。女性が喜びそうな気の利いた場所などを知らぬ身としては、大変助かる相手だ。
広い公園のベンチに座り、露店で買った飲み物を渡しながらダリル殿に尋ねた。
「なにか、この国でやってみたい事はないだろうか。遠慮せず言ってほしい」
「………………私。悪役令嬢になってみたいです」
「はい?」
予想もしなかった返答に、思わず間抜けな声を出してしまった。
まったく、このご令嬢の扱いは一筋縄ではいかないらしい。
そもそも悪役令嬢とは、一体なんのことなのだろうか。
「……アイナ様が、よく私に向かって呟いていたんです。悪役令嬢のくせにって。意味がわからず、私はその疑問に対する答えを求め、考えて過ごしてきました」
「まさか、そんな事でずっと今まで悩んでおられたのか?」
ダリル殿はこくりとうなずく。
直接アイナ嬢に聞けばよかったのでは、と言うと、他人に頼らずに自分の力で答えを見つけてみたかったとのことだ。真面目か!
公爵家の屋敷に戻り、私たちは今後の対策を立てることにした。
「悪役というからには、性格が悪く、他人を陥れる事が得意なのだろうな」
「令嬢というからには、高貴な生まれで身分の高い女性なんでしょうね……」
語句としての意味は分かるのだが、組み合わさった言葉が聞きなれず、なんとも形容しがたい。おそらくは物語に出てくる悪役のようなものだろう。
――少なくとも、今のダリル殿にまったく当てはまらないのは確かだ。
彼女は真面目で善良で、頭の中が心配になるぐらいにお人よしだ。
これは悪役を演じるのは、難儀しそうだな。
令嬢、という身分については、彼女は現在は平民扱いだが……その辺は私の権限を使えば割とどうとでもなるから良いとして。
「まずは、悪を行使するための敵を作ろう。そして令嬢としての気品を磨きつつ、人々を恐怖のどん底に叩き落とす必要がある」
「怖いです! 敵を作るのはともかく、令嬢の気品とは何でしょうか?」
「気品か……。ダリル殿、ダンスは得意かな?」
「えっ」
第3王子の元婚約者であったためか、彼女のダンスは見事なものだった。
話を聞くと、練習はしていたがパーティに呼ばれる事は1度もなかったという。
王子はアイナ嬢に夢中で、ダリル殿は放置されていたのか。何ともひどい話だ。
屋敷で雇っている演奏家のバイオリンの音色に合わせ、2人だけのダンスパーティを楽しむことにした。
「これで気品が磨かれるのでしょうか……」
「私にも分からないが、高貴な女性のたしなみには違いない。色々試してみれば、いずれ悪役令嬢の極意をつかめるだろう。今後の方針は、それでよいかな?」
「はい、頑張ります!」
そう意気込むダリル殿は、今まで見た事がない程にきらきらと輝いていた。
軽くステップを踏みながら、腕の中の少女に言葉をかける。
「貴女のピンク色の髪と瞳は、とても綺麗だな。まるでお花畑のようだ」
「……フロレンティウス様の、紫色の髪と瞳も宝石のようで綺麗だと思います」
「それはどうも。珍しいと評判だが、お気に召して頂けて良かった」
この世界の人間は黒髪・茶髪・金髪が主だっているが、まれに珍しい色の髪を持つ子供が生まれることがある。そんな子供は神の祝福を受けているとして、大切に育てられるのだ。
珍しい髪の子供は、ダリル殿のように不思議な力を持っている場合がある。
私は――まあ、少し変わっている力があるだけで至って普通の人間だ。
その力のおかげで、若くして異端審問官になれたという事もあるのだがな。
ダンスを終え、少し休んだのち、屋敷でディナーをとった。
そのうち、外食に行ってテーブルマナーを磨くのもいいかもしれない。
ここでの滞在費や衣装代をダリル殿がしきりに気にしていたが、私のひと月の給金で賄える範囲であるし、彼女が修道院で受け取らなかった薬代もこっそり持ってきているので、何も問題はないと告げた。
それでも働きたいというので、得意な裁縫を生かして刺繍の仕事をしてもらう。
美しく繊細な薔薇の意匠をちりばめたスカーフは、街で飛ぶように売れた。
これもきっと、悪役令嬢への理解を深めることに繋がるだろう。
私と彼女は、その後も悪役令嬢についての研鑽を重ねていくのだった。
――ダリル殿が聖公国に来て、1か月ほど経ったある日のこと。
私の屋敷に、中央教会の関係者たちが血相を変えてなだれ込んできた。
「フロレンティウス様! 王国が聖女を返せと通告を出してきました。受理しない場合、開戦も辞さないと言ってきております」
「国境付近に王国軍の尖兵が確認されました!」
「どうしましょう。聖女など、この国には居ないというのに……」
「無いものを出せとか、何の言いがかりだ。教会を敵に回すつもりかっ!」
聖職者たちの騒がしい会話を聞き、ダリル殿が驚いているようだ。
彼女の身の上は、旅先で保護した可哀想な少女、という事になっている。
聖女なんて肩書きは、生きるうえでの足かせにしかならないからな。
「皆様、静粛に。私が異端審問官として王国軍を説得し、事を収めて参ります」
「それは助かる! 頼んだぞ、ベルナー君」
「フロレンティウス様さえ居れば何とかなる……!」
「さすが聖公国の最終説得兵器!」
何なんだその二つ名は。やめてくれ、と思いつつ私は出発の準備をする。
異端審問官の白い制服に袖を通し、聖杖と細剣を腰に佩いた。
とそこへ、緊張した面持ちのピンクブロンドの少女が姿を見せる。
普段は着ないような、極彩色の派手な赤いドレスを今は身にまとっている。
燃えさかる薔薇の刺繍は、今の彼女の決意の現れのようだ。
「作らずとも、敵が向こうから来るとはな。ではダリル殿。参ろうか」
「――――はい!」
「我々の特訓の成果を、あいつらに見せてやろう!」
ダリル殿とともに、国境へ向かう。悪役令嬢の、輝かしい初舞台だ!
目的地に到着した。
事前に打ち合わせたとおり、聖公国の兵士は全て撤退させてある。
これから始まる烈しい戦いに、味方を巻き込むわけにもいくまい。
国境に迫る王国軍の前まで行くと、先頭にいた第3王子が声を上げた。
「ダリル! オレが悪かった。今すぐ帰ってきてくれ。2人でやり直そう!」
「アンソニー殿下……」
「オレには聖女が必要なんだ!!」
「……聖女」
ダリル殿は、おびえたように後ずさりする。無神経にも程がある王子だな。
「どうする、ダリル殿。アレとやり直したいか?」
「いいえ。――私は、立派な悪役令嬢になってみせます!」
彼女が両手を高く掲げると、蛍のような無数の光が辺りを舞った。
肩までの長さのピンクブロンドの髪が、眩しく明るい光を放つ。
これは聖女に関する者しか扱えない、聖なる奇跡の力だ。
「聖女なんて、初めからいませんでした。私、実は悪役令嬢だったんです!」
彼女がそう言い放つと、小さな光が何万の数にも分かれて膨れ上がった。
「あなた方の大切なものを、今から奪わせていただくわ!」
細い両腕を敵軍に向け、聖力を最大出力で解放する。
たくさんの光たちが、王国の兵、そして王子を襲った。
「「「毛がぁ! 毛がぁ!」」」
「オレの大切な金のおぐしがあぁぁっ! 嫌だ、父上みたいになりたくないっ!」
多くの敵たちが、次々と戦意を失って王国へと逃げ帰って行く。
最初から持たざる者でさえ、悪夢のような光景を目にして恐れおののいた。
「これは、なんという凄まじい力だ……!」
バサバサと黒や茶や金の毛髪が辺りに散乱するのを見て、私はドン引いた。
2人で悪役令嬢用のこの技を考案したとはいえ、いざ目にすると恐怖でしかない。
事前の練習もなしでここまでの威力とは、聖女を敵に回した輩は不幸だな。
「ごめんなさい。命を奪うくらいに残酷な事をしてしまいました……」
「いやダリル殿は全然悪くないだろう。というか、私の出番はなかったな。さすがは悪役令嬢だ」
「はい。こんな恐ろしい役割はもうやりたくないです」
「うむ。悪役令嬢、これにて完結といったところだな」
自衛のためとはいえ、こんな悪行はこりごりである。
もし次があったとしても、今度は話し合いで平和に解決しよう。
我々は人気のなくなった戦場で、戦いのむなしさを噛みしめていた。
後に残ったものといえば、大量の髪の山だ。
「お掃除、しましょうか」
「ああ。そうだな……」
もったいないので、綺麗なものを選り分けてカツラを作ることを2人で決めた。
それを王国に売って、ついでに恩を売ろう。罪を憎んで、髪を憎まずだ。
一方、その頃。
聖女の力は王都にも及び、邪な考えを持つ老若男女の髪の根を止めていた。
国王は再び絶望に沈んで失脚し、王子も毎晩悪夢にうなされ寝込んでいる。
まともな王族たちが後を引き継ぎ、どうにか国を立て直しているという。
「うっそお! わたしの綺麗な黒髪を返してよぉ!」
牢獄にいたアイナは狂ったように泣き叫び、激しく後悔した後、異端審問に引っかかって令嬢としての幕を閉じた。
悪役令嬢という不思議な言葉を知る彼女は、どこか違う世界から来た存在だったのかもしれない。
その証拠に、アイナの取り調べ中に彼女の姿が忽然と消えてしまったそうだ。
なにか別の神の力が働いたらしく、消える寸前の彼女が、
「神様! わたし、やっと元の世界に帰れるのね……!」と呟いていたらしい。
なお頭髪が無いまま消えた。彼女のその後に、幸あらんことを。
「――以上が、王国に関する今回の事件の顛末だ」
屋敷の一室で、他の異端審問官からの報告書を読み上げ、私は深く息を吐いた。
報告を聞いた彼女は、神妙な顔つきでこちらをじっと見ている。
「ダリル殿。楽しい日々は終わってしまったな。これからどうする?」
「……私は、あなたに聞きたい事があります。フロレンティウス様」
いつになく彼女の眼差しが鋭いと感じる。どうやら怒っているようだ。
「あなたから受けた恩は、とてもありがたく、決して忘れません。でも、私などにここまでして頂くのは、どう考えてもおかしいのです」
「貴女の事を気に入った、という答えでは不服か?」
「それでは説明がつきません。納得のいく答えをお願いします!」
頑固な彼女のことだから、私も本気で返答しないと許してもらえないのだろうな。
「やれやれ。助けてほしい、という心からの一言を下さいますれば、いつでもダリル様の望みを叶えてあげられるというのに。……人の心とは、難しいものです」
こちらが話し言葉を変えると、ダリル様は叫ぶように声を荒らげました。
「あなたは、一体誰なんですか。私の同級生? 気のいい御者さん? 親切なシスターと修道士? それとも異端審問官? いい加減、本当の事を教えて下さい!」
「――ほう。吾輩の正体にお気付きとは。さすがはダリル様ですな」
ダリル様はこちらから視線を外さずに、絞り出すような声で告げてきます。
「…………あなたの魂は、人と違っているんです。どうしてですか」
「人と違う、ですか。……その根拠は?」
ようやく、この日が来ましたか。
貴女に正体を教える日を、心待ちにしておりましたよ。聖女様。
◇ ◇ ◇
◆5人目【ある守護精霊による5つの告白】
――聖女ダリルは、このように語られました。
「私、他人の魂の色が見えるんです! 普通の人は白か灰色なのに、あなただけは紫色でした。姿形を変えていても、すぐにその色で分かったんです」
「なるほど。こちらの正体は最初からばれていた、と。いやはや、貴女の力は凄いですな。吾輩もそれに気付かぬとは、全くお恥ずかしい」
半年前、やっと聖女ダリルを見つけられた喜びで、少々浮かれすぎておりました。
延々と彼女に付き添っていた吾輩を疑うのは、もっともな事です。
では今ここで、真実を打ち明けましょう。
「改めて自己紹介いたします。吾輩は聖女の守護精霊を務める、蛍石の精霊フローライトと申します。ああ、人間としての呼び名はフロレンティウスで結構ですよ。精霊といっても魔法が使える以外は、人の身と何ら変わりありませんので」
「えっ? そんなの聞いた事ないです……教典にも載ってなかったはず」
「そうでしょうとも。教会に知られぬ存在ゆえ、我ら精霊の存在は未だ異端扱いです。しかし悠久の古代より、聖女が生まれた日と同時に人として生を受け、聖女の心からの求めに応じてお守りするという、大切な役目を仰せつかっております」
吾輩が腕をひと振りすると、蛍のような無数の光が辺りを舞いました。
紫色の長い髪も、明るく発光します。
ダリル様のような大きな奇跡を起こす力はなく、せいぜい姿変化の術を使えるぐらいですが、聖力と源が同じ力なので信じてもらえることでしょう。
すると彼女は、すごい勢いでピンク髪の頭を下げて謝罪してきたのです。
「――――私、とんでもない勘違いをしていましたっ!」
「ダリル様?」
「フロレンティウス様のこと、ずっと悪魔だと思ってました。すみません!!」
「なんですと!?」
「…………だって、私のことを何度も誘惑してきたじゃないですか。あなたの誘いを断るのに、今までずっと必死だったんですよ?」
責めるような瞳で、じぃっと見つめられてしまいました。
はて。そんな誘惑をしただろうかと、吾輩は頭をひねります。
まず初めに、学園の平民生徒ローレン。
『ダリル嬢、僕と一緒に逃げませんか。きっと楽しく暮らせる国があるはずです』
次に、御者をしている名もないおっさん。
『嬢ちゃん、人生にゃもっと楽しい事があるんだ。おっさんが教えてやろうか?』
そして、敬虔な修道士ロレンス。
『ダリル様。わたくしはこのまま、毎日あなたと楽しく過ごしていたいです……』
最後に、異端審問官フロレンティウス=ベルナー。
『ダリル殿。いっそ公爵家に嫁に来て、私と楽しく悪役令嬢談義を続けないか?』
別に口説くつもりはなかったのですが、純真なダリル様には刺激が強かった模様。
「ふむ。言われてみれば、確かにそうですな」
「もう、絶対にあんな事しないで下さいね。いくら冗談でも困りますから!」
彼女もその時のことを思い出したのか、両手で顔を隠して恥じらっています。
そんなダリル様の前で吾輩は床に片膝を落とし、ひざまずきました。
「――では、冗談ではなく本気の申し出をさせて頂きたい。ダリル様、どうか吾輩の妻になってくれませんか」
「えっ!?」
薄桃色の瞳を見張って、ダリル様が驚いております。
ピンク色に染まった頬が、とても可愛らしいです。
「聖女に人間のお相手がいない場合、精霊が責任をとり娶ってもよい決まりになっております。……というのは建前で。この半年間、貴女を見守ってきて、その潔い生きざまに惚れてしまいました。今後の人生を2人で仲良く過ごしませんか?」
彼女に向けて右手を差し出しながら、紫の瞳でウインクしてみせます。
「これからも楽しくて退屈しない毎日をお約束しますよ。――――ダリル」
愛おしいその名を呼ぶと、ダリル様はおずおずと手を伸ばしてきました。
「…………はい。私でよければ…よろしくお願いします!」
そしてふわふわのピンクブロンドを揺らして、最高の笑みを見せてくれたのです。
断られなくて、本当にほっとしました。良かった。
ダリル様は、聖女でした。
最初から吾輩が守護精霊の正体を明かせば良かったのに、うっかりそのタイミングを逸してここまで遅くなった事に関しては、全く怒っていないのです。
やはり彼女は、とても心の広い、聖人のごとき女性だと感服いたしました。
◇ ◇ ◇
ダリル様と、私ことフロレンティウス=ベルナーは、すぐに結婚して聖公国で暮らすことになった。
表向きは公爵家の三男の私は、家を継がずに異端審問官の仕事を続けている。
最近になって中央教会に勤めるダリル様とようやく一緒の職場になった。
2人で世界各地を旅して、奇跡の力に悩む者たちの生活改善に取り組んでいる。
これ以上、ダリル様のように強すぎる力で苦しむ者を出したくないからな。
「フロレンティウス様、ご飯ができましたよー!」
おっと。こんなレポートなど書いている場合ではないな。
妻の手料理はとても美味いのだ。私は、世界で一番の幸せ者だな!
王国では悪役令嬢の伝説がまことしやかに囁かれていた。
伝説ではなく現実なのだが、皆早く忘れたいのだろう。私も早く忘れたい。
悪い事をすると髪の呪いが降りかかるよ、と子供たちへ恐怖を植え付けている。
しばらくは、悪人の少ない良い治世になることだろう。
そして近ごろ話題に上るのが、ロサ・カニーナ修道院で起きた神の奇跡。
日々の奉仕を欠かさず1年続けた者の枕元には不思議な薬が現れたとか。
髪の聖人ダリルの贈り物として、いつまでも語り継がれたということだ。
――――めでたし、めでたし。
以上、語り手はすべて同一人物【フロレンティウス】でお送りしました。
5章分あるので分割しようかと悩みましたが、短編にしてみました。
残酷な描写あり、のキーワードを初めて作品に付けました……。
(本当に残酷ですみません)
ラストにあるとおり、改心した人には髪の救済があったと思います。
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最後までお読みいただき、どうもありがとうございました!