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子どもたちへ~システムエンジニアAさん~

作者: イタチ

子どもたちへ


父さんの仕事はシステムエンジニアだ。父さんがなぜシステムエンジニアになったかを教えてやろう。

父さんは小さい頃からなりたいものが2つあったんだ。

一つは「医者」、もう一つは「大金持ち」だ。

医者になりたかった理由は、みんなにチヤホヤされるからだ。医者はみんなが羨ましがるし、患者さんも「先生、先生」って頭を下げてくれるだろ?当然モテるし、給料もいい。でもならなかったのは一言で言えば大変だからだ。

まず学校に入るための勉強が大変だ。医者になるためには死ぬほど勉強が必要だ。それをするぐらいなら父さんは友達と遊びたかった。女の子とデートしたかった(あまりうまく行かなかったが)そんなわけで早々に諦めた。

学校へ7年いく必要があったのも嫌だったし、研修医制度っていう見習い期間も嫌だった、さらには学費も高くて考えるのがめんどくさくなったんだ。

父さんはこの「めんどくさい」ってのが嫌いだ。判断基準の大半は、楽か?めんどくさくないか?だ。

大金持ちになりたかった理由は単純だ。欲しいものを一切我慢したくなかったからだ。旨いものを毎日食って、広い家で暮らして、あとは兄弟が困っても軽く助けてやれるくらいの金が欲しかったんだ。だから父さんがなりたかった金持ちっていうのは数億円欲しいなってレベル。宝くじで十分なレベルだ。100億とか1兆とか、そんな資産はなくてもいいんだ。

あとは金だけ出して会社作って偉そうにテレビで講釈たれてるオッサンがいるだろ?ああいう人生がすごく楽でいいなって思ったんだ。


で、なぜシステムエンジニアになったかだ。父さんはまず公務員にはなりたくなかったんだ。公務員ってのは年功序列の昇進で、稼げる金もたかが知れている。一生食うのには困らないし、仕事もそんなに忙しくない。そういうところは好きだったんだが、父さんの夢は金持ちだったからな。公務員になったら転職も簡単にいかないだろうから、まず公務員ってのはナシだったんだ。

あと、父さんは営業職ってのも嫌だったんだ。営業職って年中ヘコヘコ頭を下げているイメージがあるだろ?みんなにチヤホヤされたい父さんから見て、ずーっとヘコヘコする営業は一番やりたくない仕事だったんだ。

同じような理由で、社会的地位が低い仕事はナシ。結婚相手のお父さんに言っても恥ずかしくない仕事をしたかった。

そして、父さんは朝起きるのが苦手だ。父さんの高校3年間での遅刻回数は100回を超えている。だから時間どおりの仕事はまずやりたくなかった。電車の運転手とか、学校の先生とか。父さんは別に遅刻自体は悪いともなんとも思ってないんだ(世間的には悪いことって認識だから、父さんの言うことを常識だと思わないように!)。父さんは朝起きて眠かったら会社へ行きたくないし、雨が降っても会社へ行きたくない。風邪なんかひいたら当然いかない。そんな大人だ。これは父さんの母さん、つまりお前の婆さんに似たんだ。さらに言えば婆さんの母さん、つまりひいばあさんも同じだ。

システムエンジニアもこういうのが許されるわけじゃないんだが、他の仕事から見たら緩い業界だ。もちろん就職する前はこういうことは知らなかった。とりあえず会社に入って合わなかったら転職するかなって思ってたからあまり気にしてなかったんだ。

結局、システムエンジニアになったのはこうやって消去法で決めたんだ。父さんが高校生のころはまだインターネット黎明期って時代で、それが大好きで夜更かしをして遅刻をしてたんだ。そもそも学校に行く理由がわからなかった。

テストなんてバカバカしいと思ってたし、そもそも問題を作っている先生がバカすぎるだろ?って思ってた。


ちょっと話が脇道に逸れるが、先生たちのテストの出し方ってのは大きく2種類あるんだ?知ってたか?

一つは勉強の中で知っててほしいこと、要はこれから大切になる知識を厳選して出題する人。父さんはこういうタイプのテストであるべきだとおもっている。教科書に書いてあってもなんの意味もない知識なんていくらでもある。学力テストって意味ならこれが正しいと思うんだ。

もう一つは逆に授業を細かく聞いていないとわからないこと、普通は知らないニッチな問題を出す人。これは学力というより素行を試すテストだ。毎日きっちり出席して、全てキレイにノートを取って、そういう努力する人に点数をあげようってテストだ。先生方の作るテストってのはこういうのが多い。だから父さんはバカだと言っているんだ。先生方は自分の話を聞いてほしいし、聞いてくれてるやつにはしっかり点数をあげたいってだけなんだ。そんなテストばかり出す先生方に嫌気が差して、父さんは勉強する気がなくなったんだ。そういった意味で、正しく評価をされたいなら良い学校に行くべきだと父さんは思う。だけど医者とか弁護士になりたいわけじゃないなら、あまり気にしなくてもいいよな。


そんなわけで父さんの高校時代の成績は低かった。だからその成績でいける学校は限られていた。父さんは実家を出て一人暮らしをして、更に都会で暮らしたかった。でも文系の学部に行くと営業職になる人が多い。だから理系の学部でそんなに成績がいらないやつ、しかもインターネットってのがどんどん発展してるから仕事に困らないだろうってことで大学を選んだ。結局はその大学で教授に気に入られ、システムエンジニアの会社を紹介してもらって就職したんだ。

当時のシステムエンジニアってのは激務だったから、父さんもかなり仕事をした。でも高校生の頃から夜更かしが好きだったから全然大丈夫だったんだ。遅くまで仕事をしたら、その分遅刻も甘くも見てくれるし。

でも父さんがシステムエンジニアになって嫌だったのは、周りがバカすぎるなって思ったことだ。父さんの世代より10年~20年前はコンピュータなんてそんな偉そうな業界じゃなくて、バカでもシステムエンジニアなら就職できるって言われる場所だったんだ。そんな先輩や上司がゴロゴロいるもんだから、出してくる指示はアホだし、若手の話は全く聞いてくれない。この会社は終わってるなって思ったよ。父さんはある程度知識をつけたら転職しようって思ってたし、この仕事じゃ大金持ちにはなれないから居座る気はなかったんだ。同期の中でも父さんより目立つやつは数人いた。父さんはそいつらよりずっと仕事ができる自信はあったけど、それでも仕事ができるから評価されるわけじゃないってのはお前もわかるだろ?だから半分そこは諦めて仕事をしていたんだ。

そしたら、いつのまにか父さんを評価してくれる人が現れて、結構会社内には名前が広まるようになったんだ。そしてその頃には目立ってた同期がどんどん転職していった。父さんが結局転職しなかったのは、めんどくさかったからだ。同じような業界で転職しても今の給料を超えるのは難しかったし、超えたとしても安定するか不安だった。新しくまたバカな先輩の相手から始まるのかと思ったらめんどくさくてめんどくさくて、転職することはやめちゃったよ。

だから父さんはシステムエンジニアを続けている。おまえにとっては魅力的じゃないかもしれない。でも父さんは何も考えずにシステムエンジニアになったわけじゃない。医者の夢じゃなくても、大金持ちの夢じゃなくても、それでも現実的に今の生活で十分だと思えているからこの仕事をしているんだ。

父さんの言っていることは夢がないか?バカなことを言っているように聞こえるか?それならお前はもっと別の仕事をしたらいい。お前は父さんよりずっとすごいやつだってことだ。

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