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1-8『兄と妹の夜の○○○な話』



 数分の躊躇いの後、意を決して非常口(ワープ)へ突入し、何事も無くダンジョン入り口前に戻れた俺は、それなりに歩いて疲れた身体を休める為に床下収納の名残である蓋を、階段を登って開く。


「あっ」


「……んー?」


 すると、目の前のパンツを履いたお尻があった。


「ああ、お兄ちゃん戻ってきたんだ、お疲れさまー」


 俺の顔に向かってしゃがみ込み、けつを振りつつガサゴソと冷凍庫を漁る妹、由芽である。


「……何してんのお前?」


「アイス、食べる?」


「食う」


「わかった、はい」


 丁度、床下収納があった部分が冷蔵庫の前だったので、中身を探ろうとすると此方へ背中を向けるという塩梅になるのだ。まあ、それは別にどうだって良い事なので構わないのだが。


 俺は床下収納から這い出て立ち上がり、由芽からアイスを受け取りながら一言物申す事にする。


「由芽、下着姿でうろつくのはお兄ちゃん感心しない」


「シャツは着てるよ? ブラはしてないけど」


「下を履けって言ってんだよ!! 上の情報とか要らんわ!!」


「えー、めんど」


「めんどでもインドでも構わんから恥じらいを持ちなさい」


 お兄ちゃん女の子はきわどい格好とか簡単にしたらいけないと思ってるの。いつもの事だが肉親なら見られても平気ってスタンスは止めた方が良い。異論は認めない。


 そんな感じでちょっと注意をしようとしたのだが、由芽はじとっとした目を向けて「またか」と言う顔をする。


「…………」


「な、なんだよ……俺は間違ってないぞ!」


「シスコン」


「違うし!! 誤解だっ!!」


「ちらり」


「シャツの裾をめくるんじゃないバカにしてんのか!?」


 コイツはお兄ちゃんが妹に反応する鬼畜なお兄さんだったどうするつもりだ。


「で、どうだった? ダンジョンどんな感じ?」


 しれっと話題を変えやがったぞコイツ。ニッコリ微笑んで話題を戻そうとするのに圧力かけて来ている。なんなの、なんでパンツ見せたの。


「…………まあ、ツッコミ所が満載なのはともかく、楽しそうではある」


 手渡されたアイスの包装を剥きながら、聞かれた事に素直に答える事にする。


 由芽はふーん? っと頷きつつキッチンと併設されているリビング、そのソファーに座って俺も来いと手招きする。言われんでも俺も座るわ。


「ところで親父は?」


「お風呂入ってすぐに寝室行っちゃったけど。疲れてたっぽいしもう寝たんじゃないかな?」


 成る程、親父はもう就寝中か。なら今日の所は由芽と話すだけで良いか。


「一応先に言っとくね、お父さんからお兄ちゃんにはギリギリまで内緒にしとけって言われてたんだよね、黙っててゴメンね?」


 と、今一番ツッコミたい部分へ由芽から牽制の言葉が来た。


 口止めね、理由ぐらいは聞いときたいが。


「理由は?」


「さぁ、それは分かんないかなー?」


 俺はアイスにかぶり付きながら更に聞く。んまい、疲れて火照った身体にチョコ味が染み渡る。


 由芽の返答はまあ、予想通りといった具合だ。その内親父から直接聞けば良い。


「つーか、ファンタジー過ぎてびっくりなんだが。良く今まで隠してこれたな」


「お父さん、相当気を使ってたらしいし、実は十数年も前からダンジョン自体はあって、信用出来る一部の人はそれ知ってたらしいよ」


 十数年ね、けっこう前からと言うべきか、それとも随分と歴史の浅い最近の出来事なんだなと思うべきか。


 まあ、つまり親父はダンジョンにまつわる事に対してずっと以前から当事者で、何かしらの理由でダンジョンの管理者としての力を入手する事になったと。


 何かしらの……と言いつつ、予測はもうしてあって、たぶんそれが正解なんだと思うが。


「………なぁ、親父って、もしかしなくても、めちゃくちゃ強い?」


「そうなんじゃないかな? なんだっけ、戦車に大砲撃たれて当たっても効かないって言ってたよ?」


 それ人間なんですかね。どっかの野菜っぽい名前の種族の戦闘民族かなにかじゃないかな?


 まあ、でもだいたいわかった。親父はダンジョンの奥に居たらしい守護者とか言うダンジョンのラスボスを討伐して、管理者権限を奪ったのだ。


 本日夕方まで、およそ二週間にもおよぶ音信不通の理由は、本人がポロっと述べていたけれど七日七晩そのボスと戦っていたり、それ以外の残りの日程はダンジョン運営の段取りに奔走してたんだな、たぶん。


「……親父、普通のサラリーマンだったはずなんだがなぁ」


「ね、お父さんの勤め先だった会社、普通の商社だし、ダンジョンと何か関係あるとは思えないんだけどね」


 昼はサラリーマン、夜はダンジョン攻略者な生活だったのかな、そりゃハードワークでハゲもするよ。少なくとも姿眩ませている時以外は休日祝日は普通に家でゴロゴロしてたから、傍目にはまったく気付かなかった。


「……正直いきなり色々知らされていっぱいいっぱいだな……納得出来ない所とか、そこ秘密にするのかよってのも多いけど、小刻みに情報提供して貰えた方が結果的には良いかも、いきなり全部はちょっと受けきれない」


「お父さん曰く、“──真実はダンジョンの奥にある。キリッ”……だって」


「キリッじゃねえよ、親父の声真似しながら笑わそうとすんな」


 ゲームじゃねえんだからイベントチャートを組み込もうとするのは止めて頂きたい。


「というか、俺は内緒にされててなんで由芽は知らされてたんだ?」


 そこらへんもちょっと納得し難い。由芽にも秘密だと言うならまだそうだったのかー、で軽く考えるが…………なんか俺だけ除け者みたいで、嫌。


「あー……それは、わたしが感付いただけというか、ねだって教えて貰ったというか」


「どんな風に?」


「テンプレ的な父娘のおねだりシーンを想像すればだいたい合ってる」


 ぱぱーおねがぁい♪ おこづかいちょーだぁい的なアレか。アレ良いよな、将来娘が出来たら毅然としていられる自信は無い。


 アレなら仕方ない、親父はきっとデレッデレッに顔を崩して秘密を晒したに違い無い。


「そんな訳だから、本当ならお兄ちゃんが頑張った分だけ同じタイミングで教えて貰える事を、少しだけ先に教えて貰ってただけかな……全部ひっくるめて教えて貰えた訳でも無いし、わたしが知ってる事はお兄ちゃんもすぐに教えて貰えると思うよ」


「なるほど、なら良いや」


 完全に除け者だったらグレてやるのも辞さない気分ではあったが、まあ、それも性分じゃないし。


「ボチボチテキトーに攻略してればその内分かるんだろうし、気長にやるか」


「それで良いんじゃないかな、お兄ちゃんだけに潜らせる訳じゃないみたいだし」


「冒険者だっけ、ロマンと財宝求めてくれそうな暇人集うんだろたしか」


「うん、そのものズバリなギルドも作ってるって言ってた」


 俺は一応、先行してβテスト的に潜りだしただけらしいからね。いつ頃かは知らないがその内大量の暇人達がダンジョンに殺到する事になるんだろうな。


 こういうの好きな奴、大量に居るからねぇ。


「そういや、由芽はやらないのか? ダンジョン攻略」


「わたし?」


「うん、お前もこういうの好きだろ、ゲームなり漫画アニメなりで見てたの知ってるぞ」


「あー、うん、まあそうなんだけどね」


 なんだ、歯切れ悪いな。そんな困った顔されても逆に俺が困る。ただ質問しただけだぞ。


「一応、わたし受験生だし」


「家で宿題ぐらいしか手を付けない奴が何を仰る」


「……他にやりたい事あるし?」


「そうなのか、なにそれ?」


「ナイショ………後ね、それとなくなんだけど」


「うん?」


「お父さんは、わたしにはあんまり潜って欲しく無いみたい、キツイ言い方とかはしないけど遠回しに、出来れば近付かないで欲しいっぽい……かな?」


「……今までの話で一番よく分からんネタが出てきたな」


 俺は推奨されて、由芽はそれとなく反対ねぇ。なんの意味があるのかね?


「詳しくは?」


「聞いてないよ、無理に聞くことも無いかなとも思ってるし、少なくとも高校生になるまでは」


 ……まあ、気にはなるけど、どうしても潜らなきゃいけない理由もないからな。由芽の言うとおり今は学業優先かね。


「どうしても行きたくなったらちゃんと言うよ。それまで一人で頑張ってねお兄ちゃん」


「はいよ……つーか、そうか……俺、基本ソロ確定なのか……? 友達とか誘ったらダメなんだろうか」


「…………友達?」


「なんで懐疑的なんだよ!? 居るからな?! ほ、ホントだぞっ、ウソじゃない!!」


 き、近所の太郎さん(二十代男性、ニート)とか。


「いや、疑ってる訳じゃないけどさ……どうせ微妙な面子だろうけど……こほんっ、人を誘う時はちゃんとお父さんに言った方が良いよ? そのうち集める予定の冒険者って身辺調査とか徹底的にする方針らしいから」


「…………そ、そう……」


 怪しい人はお断りらしいからな、スパイ的な意味で。


 なんの能力も無いニートなら誘っても平気だよね? いやもちろん聞くけども。


「ま、話戻すけど、そんな訳だからわたしはダンジョンへは潜らないよ。潜るにしても、きちんと話を聞いて、事前に準備してからかな?」


「そ、そうか……なら話は終わりだな……いや、もうひとつあったな」


 話の流れぶったぎるが、ちゃんと聞いておかねばならない事があった。


「ん、なに?」


「……由芽、お前……あの天の声なに?」


「なっ、聞いたの!?」


 由芽は天の声(ナレーション)のボイス担当である。デフォルトは親父の声だったが、そちらはあまりにもあんまりなので由芽ver.をデフォルトにするように既に親父には進言済みである。


 ただ、由芽ボイスも普段と違う寒いテンションのノリノリボイスだったので正直キツイ。


 声質自体はかわいいものなので、きっと特定層の大きなお友達には大層人気になるんじゃないかとは思うが、お兄ちゃんは実の妹の声には萌えられないんだ。すまない。本当にすまない。


「いちいち変更しなくちゃ聞けないはずなんだけど、なんで!?」


「お前は親父の声の天の声をいちいち聞いていたいのか? そんな事より、普通にナレーションすれば受け入れられた筈なのに、なんなのあのノリ」


「も、もし友達とかに聞かれてもなるべく身バレしないように無理してっ……って、お兄ちゃんはお父さんの方で我慢してよ!!」


「……そもそも、なんで由芽はあれを?」


「うっ、ちょっと、その……お小遣いくれるって言うから」


「……ほう、それはおいくら万円?」


「…………いちまんえん、かな?」


「やっすい仕事だなぁおい!!」


 身内だからってちょっとケチり過ぎてませんかね親父? 桁がちょっとひとつ足りませんぜ。


「…………やっぱり安い、か……」


 まあ、小遣い名目で中学生に六桁万円は与えられないのは分かるが、だったら身内で済ませるなって話である。声優さん呼んでこいやクソ親父。




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