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1-6『親父のダンジョン第二階層その2』



 さて、だいぶバカにしてくれたバッタを追って、先へと進んだ訳だが、標的である奴は簡単に発見出来た。小部屋から奥の通路に入って数メートルの所に立ち止まっていたからな。


 只ここから仕留めるのが大変だった。


 まず、このバッタは確かに弱い。ド素人丸出しの人間相手に、モンスターのくせして逃走を計るのだからさもありなん。


 ただ、追い付けない。近付こうとするとその立派な後ろ足で即座に跳躍してまったく近付けないのだ。


 全力疾走で追い掛けてもみょんみょん跳ねて余裕で攻撃の間合いから遠ざかる姿はとても憎たらしく、そして馬鹿馬鹿しくなる姿だった。


 なんで俺はバッタと追いかけっこしているんだ。


 せめて袋小路へ繋がる分岐でもあれば良かったのだが何処まで進んでも通路は一本道だった。


「ぜぇ……ぜぇ…………アホくせぇ……」


 たぶんね、あのバッタ倒すのって弓矢とか重火器必要ですわ、それか必中する魔法。


 ひと跳ねで十メートル近く跳躍する奴をどうやって追い詰めろと言うのか。


 ちなみに苦し紛れに《火球》を何度か撃ってみたが、(やっこ)さんはやっぱり全弾回避したよ。俺の中にあった魔法へのリスペクトは著しく下がって来ているぜ、役に立たねえ。


「……お?」


 そんなグダグタな追撃を継続していた俺だったのだが、しばらくして標的(バッタ)の逃げる先にまた何かが居るのに気が付いた。


 通路の天井に逆さまに張り付き、ブブブ……っと翅を鳴らして脚をすりすりと擦っていらっしゃり、二十センチ程の体長で黒っぽい。



「ハエだな、とりあえず《鑑定》」




[スロウフライ LV.1 HP3/3 MP0/0]

鈍重大蝿(ノロマオオハエ)

種族 昆虫

・進化の過程で身体を肥大化させ過ぎた蝿型の昆虫。蝿としては超大型だが動きは鈍重で天敵が非常に多い。




 ……うーん、只のデカいハエなだけっぽい。モンスターかって言われると疑問符が付くな、いや、あのサイズのハエはちょっと気持ち悪いけど。


「無視して下を通過しようとしてたかられる羽目になったら敵わんな、落とそう」


 あのサイズにブンブン飛び回られてみろ、めっちゃキツいわ。


 とりあえずバッタの追跡を中断し、先に天井に張り付く巨大ハエを叩き落とす事にする。手段としては当然天井までは直接手が届かないので《火球》となるが、まあ、この際当たらなくても良い。逃げてくか、それか直接殴れる高さにまで来てくれれば。


「……………《火球》!」


 ハエへ手をかざして集中、《火球》を撃ち出す。


 小さな火の球がまっすぐ対象へと向かい、そのまま回避させる事なく命中する。


「おおっ、当たった!」



──スキルレベルアップ!


──《火球》LV.1がLV.2に上がったよ、おめでとー!!



「おおっ?!」


 《火球》が命中して喜んだ瞬間、突然響いた(いもうと)の声にびっくりする。予測していなかったので本当にビビった。


 スキルレベルアップとかなんとか言っていたので気になるが今はそれよりも《火球》を命中させた結果を気にする方が先だ。


 《火球》の火に炙られたハエは翅を燃やされ、突然の攻撃に驚いて天井から落下するところだった。どうやら火力は本当にショボかったらしく、燃えやすい部位を失っただけでまだ倒せていない。



[スロウフライ LV.1 HP2/3 MP0/0]


 HPも一ポイントしか減少していないし、本当に最低限の火力なんだなぁって感じである。虫だし、火が弱点っぽいのにこれだしね。


 ただ飛び回る為の翅は燃やせたし、後は地面でジタバタしている奴にとどめを刺すだけだ。


 バッタが最弱と思ったが、どうやらこのハエの方が弱いようだ。


「あっ」


 と、そこでほったらかしにしていたバッタさんが、なんと火に炙られて落下したハエ目掛けて飛び付き、その顎で喰らい付いた。


 コイツ、獲物まで横取りするつもりかッッ!!


 咄嗟に俺は駆け出し、握り締めた檜の棒を振りかざしてバッタに襲い掛かる!


「ギィ!」


 捕食の為の動作で行動が遅れたバッタは、俺の飛び付くような一撃を回避しきれず背中に受ける。


 「もういっちょおッッ!!」


 動きが鈍ったバッタへ更に追い討ちとして、今度はしっかりと頭を狙って棒を振り下ろす。硬さはやはりそれほどでもなかったようで、簡単にバッタの頭は潰れてしまった。


 それから数秒、ビクビクと痙攣していたが程無く青白い光る粒子となって砕けるように霧散する。


 第一階層のスケルトンもそうだったが、モンスターは倒すと死体を残さず消えるようだ。親父の話ではドロップとしてアイテムを落とす事もあるらしいが、今回のバッタは何もドロップしなかった。


 また、魔石という物もドロップするという話なのだが、序盤でのドロップはまず期待しない方が良いと言われている。


「……まあしかし、やっと倒したな」


 上手いこと虫の食い意地を利用して距離を詰められたので倒せたが、もしハエが途中で出現しなかったら延々と追い掛け回していいたかもしれない。


 餌を見つけた瞬間に追われているのを忘れるバッタの頭の悪さに救われた訳だ、普通に倒すとなるとやっぱりちゃんと命中する遠隔武器か、地形を利用した追い込みが必要な気がする。


「つっても《火球》はバッタには当たらん上に命中しても威力が足りなさそうだし、追い込むにも第二階層は一本道っぽいし……やっぱり弓矢かね…………ん?」


 色々対策を考えていて途中で気が付いた。バッタに喰いつかれたハエがまだ消えてない。


[スロウフライ LV.1 HP1/3 MP0/0]


 おお、しぶといなコイツ……辛うじてだがまだ生きてる。


 一瞬バッタ攻略の立役者だし情けをかけようかと思ったが止めた。何かの間違いでテイムとか出来てしまったら激しく困る。ハエが相棒はちょっと見た目的にも精神的にも衛生的にもよろしく無い。


 ウンコ食べる虫になつかれるような行いは避けておきたいのでちょっと気の毒な気がしたがきっちりと殴ってどめを刺しておく。南無三。



──てっててー♪ レベルが上がった! ステータスを確認してね♪



「…………」


 ハエが粒子となって消えた瞬間、再び脳内に(いもうと)の声が響きレベルアップを知らせてきた。


 レベルアップ早いなとか、そういえばさっき《火球》のスキルレベルも上がってたなとか考える事はあるんだが……。


「このテンションの天の声はキツいわ」


 とにかくノリが寒い。不人気ユー○ューバーが無理にテンション上げて動画実況している的な寒さを感じる。無理すんなよ。


「……はぁ、けっこう時間経ったし、一度戻るか」


 上昇したステータスは来た道を戻りながら確認するとして、能力上昇という嬉しい筈の報告に非常に冷めた気分で初のダンジョンアタックから撤退を決めたのだった。



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