1-4『親父のダンジョン第一階層その2』
【ステータス】
シン・フジムラ
レベル 1 Exp[0/10]
クラス ――
HP 15/15
MP 30/30
基礎攻撃力 21
基礎防御力 5
魔法攻撃力 1
魔法防御力 3
筋力 10 速力11 体力13
技量 8 魔力 3 精神15
〈スキル〉
火属性魔法
神聖魔法
EXP獲得量増加
スキルEXP獲得量増加
〈装備〉
E.ひのきの棒+10
E.くそダサいシャツ
E.ボロいジャージ(下)
E.ただのスニーカー
「やかましいよ」
入手した基礎スキル《ステータス表示》を発動させたら普段着のセンスを罵倒されたでござる。
なんでだ…………今来てるシャツお気に入りやぞ……なんでだ……。
「そこは今気にする所じゃないぞ伸、ちゃんと確認して把握しておけ」
「…………」
このステータスって、ダンジョンマスターである親父がたぶん製作、もしくは調整した代物だよな。
つまり、俺はこの親父にダセぇと思われているという事か…………くそぅ……。
「……まあ、良い……ちょっと聞くけど、このパラメータの数値はどんな基準で表示されてんの?」
「そうだな……だいたい一般人の平均値が10だと思えば良いと思うぞ。当然だがレベルが上昇すれば各種パラメータは上がる」
「上昇値の目安は?」
「人それぞれだな、個人の才覚によって得手不得手があるし、筋力や体力ばかり伸びるのに魔力がまったく伸びない奴や、その逆もある」
更に言うなら早熟だったり晩成型だったりといろいろ個人で違うと親父は説明する。まあ、基本的な事だしそんな難しい話しでは無い。
「伸の場合は、今のステータスで判断するとアタッカー寄りの万能選手だな。前衛向きの能力をしてるわりにMPが多い」
「MPってマジックポイント? で、良いんだよな?」
「その認識で構わない、マナだのオドだの細かく説明するとキリがないしな……色々はしょってシステム化するの苦労したんだぞ……」
本来、魔法関連はかなり複雑な仕組みっぽい。せっかく簡略化した物を用意されているのだし深くは聞くまい。めんどくさそうだし。
その後も色々と確認する。要点だけをまとめると。
・基礎スキルは全ての冒険者が扱える技能であり、やはりダンジョン内部でのみ使用可能なシステム。
・ステータスは本人の網膜に映し出した表示であり、他者が閲覧する事は不可能。スキル《鑑定》により調べる事は可能だが名前とレベルぐらいしか確認出来ない仕様になっている。
・《鑑定》について。ダンジョン内部のものならなんでも確認可能であり、攻略の際は基本的に使い込めとの事。
冒険者やモンスターを対象に使用すると簡易ステータスが確認可能。それ以外のアイテム等は説明付きで詳細に調べられるとの事。水や食糧、薬品等の摂取使用時は《鑑定》必須だと念を押された。腐ってたり毒物だったりするだろうからね、そうだね。
・《アイテムボックス》について。所持品を亜空間に収納出来る青狸の例の腹袋と同じ。ただし、ダンジョン外では発動不能という制限が存在するので便利だけど悪い事には使えない仕様になっている。
・《アイテムボックス》内部の物品を含む所持品はダンジョン内部で死亡した場合ロストする。文字通り履いてたパンツすら容赦無く剥ぎ取られた状態で復活するらしい。
・死亡せずに帰還した場合。冒険者ギルド的な物品取り扱いする場所を用意するらしく、ダンジョン内部で獲得したアイテムは全ての管理をその場所でのみ可能らしい。
つまり武器や怪しい薬物を個人的持ち出す事は実質不可能で、行政が絡んだしかるべき機関を通してのみダンジョンからの産出品は流通する。
「シビアだな、自分で持ち帰ったアイテム全部に制限付くのか」
「ダンジョン産の回復ポーションすら認可させるのに数年掛かるし、武器関連なんてもっとめんどくさいんだよ。法改正は進めて貰っているが最初はガチガチに縛るしかないのが現状だなぁ」
法に引っ掛からないように自主規制したって事ね。
まあ、聞けば飲んだだけで瀕死の四肢欠損状態からでも後遺症も無く復活可能な回復薬とか、振りかざすと爆炎を巻き起こす杖とかも存在するらしいので、そんなもの街中で所持されたら能力制限をかけていても混乱必至である。
「お父さんダンジョンマスターにはなったけど、魔王になるつもりはないからねぇ、ははっ」
聞けば納得出来る話なので文句は無いが、おそらく残念がる連中も居るだろなとは思った。まあ現代社会の平和には極端な武力を持つ個人なんかいらないだろうからね、仕方ない。
「でもさ親父、ちょっとわからないのはそこまでしてダンジョンマスターになった理由ってなんな訳?」
そこだけがちょっと分からない。いまいち把握仕切れていないが、こんなダンジョン造れてしまう親父は常識からかけ離れた力を持った存在なんだろうし、力を示すにしてはダンジョン経営なんてものは回りくどい。
逆に目立たないように暮らすにしてもそうだ。わざわざ普通のサラリーマンというありふれた立場に居たのだし、それを辞めてまで平穏無事な暮らしを崩す意味が何か気になった。
なんというか、中途半端な気がしたのだ。
「……ふむ、それは伸がダンジョンを攻略しつつ、ちょっとづつ教えていこうかな。お父さん、いわゆる最下層に居る最後のボスだから、バックストーリーは少しずつ明かされていくようにしよう」
いや、そんな勿体ぶられても。
実の父親の物語を聞く為に死ぬかもしれない場所を進めと言われてもモチベーション上がらないです。
まあ、こんな事始めて、俺に攻略先行しろって言うのにも事情あるんだろうし、一応付き合うけどさ。
親父は大抵の事は自分でどうにかしてしまう人で、人に頼るのが苦手な人だ。
そんな人が消極的ながら頼んできたという事は、なにか退引きならない事情が有るんだろう、たぶん。
◇◆◇
宝箱が設置されていた部屋を抜けて先へと進む俺。十分程の時間を分岐のない左右に時折折れ曲がった通路を進んでいるが、今のところ何か起きる気配は無い。
「そろそろモンスターが出てくるから、気をつけてな」
事前に言ってくれるのはありがたいが、ちょっと心配し過ぎな気がする。これでも警戒はしているし不安そうな顔して言わんでくれ。
「……チュートリアルなんだろ? そんな強い奴出現させてないんだろうし大丈夫だって」
「まあそうだが」
だいたい、事前に渡された武器が棒だしな。なんか+10とか表示が出ててステータスに表示された攻撃力がやたら突出して高くなってたけど、ひのきのぼうだしな。それで相手出来るモンスターが強いとは思えん、どうせスライムだろ。
そんなやり取りをしつつ角を曲がる。すると親父の言う通り初の戦闘相手であるモンスターが居るのが確認出来た。
さて、先程言われた通り、まずは鑑定と行こうか。
[スケルトン LV.1 HP10/10 MP0/0]
・スケルトン
種族 ゴーレム
・骸骨の模造品に魔力が宿り動き出した骨人形。本物の人骨では無いが、見分けは付かない。
「……いきなり人骨は辛くねぇ?」
プルプルしたゼリー状の野郎の方がやりやすいんだけど。
「いろいろと心理的な部分を考えて、最初の敵は遠慮が必要無い奴にしようって思ってな……いや、下手に動物だと躊躇が出る奴も居るし、本物の仏さんはちょっと問題あるし、例のスライムは権利関係でちょっと……」
「めんどくさいな!?」
言いたい事は分かるが、そこらへんは配慮し過ぎじゃねえ? 雫型のニヤケ面はともかく。
「まあ、最初にアンデット型のモンスターを倒させるってのも悪くないと思うんだ。とりあえず、殺っちゃいなさい」
「……お、おう」
しかしあれだね、人骨がカチャカチャ音立てて近付いて来るのって実際怖いわ。偽物らしいけどチュートリアルで経験しとくのは確かに悪くないかもしれない。
そんな事を思いながら、檜の棒を両手で構え、スケルトンが間合いに入り込んで来るのを待つ。
一応俺は剣道を習っていて段持ちである。中学校の部活で取った初段のみだけど。
「──シッ!!」
スケルトンが骨の腕を伸ばして来た瞬間、小手の要領で打ち据える、その一撃だけでスケルトンの腕はほとんど抵抗も感じずに砕けた。
[スケルトン LV.1 HP8/10 MP0/0]
……硬いな。何がって、檜の棒がね?
偽物らしいから同じとは言えないが人骨ってのは硬いもので、こんな細い棒で打ち据えても簡単に折れたりしないのだ。それが完全に粉砕したという事はこの棒、めちゃくちゃ硬い筈である。さすが+10、最早木材の硬度じゃない。
「プラス補正はオマケしといたから遠慮無くやると良いぞ、普通の鋼鉄製の武器と打ち合っても負けない強度の筈だから」
この親父、普通に過保護である。この棒は初期装備とは言わない。
「………動きも鈍いし、まあ、確かに負ける要素はないか……っと!!」
鑑定をこまめに発動し、HPがゼロになるまでスケルトンを滅多打ちにして倒す。
動きは緩慢で打ちたい放題だった。コイツ、攻撃力あるんだろうか。たぶん小さい子供でも鈍器があれば倒せるぞ。
「倒したな、まあ、コイツがこのダンジョンの最弱モンスターだから倒せない方が問題あるんだが」
「だろうなぁ、これ相手ならいくらでも出来る気がする」
「ちなみに取得経験値は0.01」
「まさかの1以下かよ」
「だって初心者講習用のモンスターだし、第一層にしか出現しないんだ、ついでに言うと第一層はコイツしか出現しない」
レベル1の状態でもレベリングに千体倒さなくちゃいけないモンスターとか、倒す意味あるんですかね。
「ポップ率も低いし、後数分歩いたらこの階層終わりだから、無理に留まる必要はまったくないぞ、ここでレベリングしようとしたらレベル2に上がるのに1ヶ月掛かるな」
ホントに練習用だな、まあ完全に無駄って訳じゃないけどさ? 武器練習のカカシにはなるか。
「じゃ、さっさと進んで第二層に進んで見ようか、一応チュートリアルはこれで終了だがね」
これ以上の事は自分で学べって事か、第一層はチュートリアルでも本当に最低限の事しか教えられないらしい。
まあ、なんとかやってってみようかね。
チュートリアルを特に問題無く終了した俺は、親父に促されて次の階層へと進む。
そこからが本当のスタートらしい。