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1-26『酷い』

※タイトル変更と登場キャラクター紹介を追加、話間の由芽、リーザの画像紹介を削除致しました。



 親父のダンジョン第五階層で遭遇した新たな妹だという少女、リーザとのあれこれがあった翌朝。

 俺は休日らしからぬ早めの起床をして、隣で漫画の単行本を枕元に重ねつつ添い寝していたリーザを尻目にベッドから抜け出し、部屋を後にした。


「……うぅ……むにゃ……」


 半吸血鬼ダンピールという事で、その生態は夜行性だというリーザは、どうやら俺を気絶させた後、ずっと添い寝しつつ漫画を読んでいたらしい。

 で、朝日が顔を出して明るくなってきた時間帯に眠くなり、手で漫画のページを開いたまま眠りについたと。


 なんというあざとい子だろうか、いちいち俺の心を擽る行動をしてきやがる。

 だが俺はそんな事で揺るぎはしない。昨晩のリーザとのやりとりは個人的には無かった事にさせて貰う。

 そうでなくては兄として、男として恥ずかしいとしか言えない醜態を晒してしまった訳だし。


 そう、何も無かった。


 全てはこの洗濯機が作る渦の如く、汚物ごとキレイさっぱり流されてしまえば良いのだ。


 そんな事を朝からシャワーを浴びて、それから身に付けていた衣服を洗濯機に入れてスタートボタンを押してから思っていた。


 とりあえず、この話はもうよそう。それが良い。


「……ふにゃ…………おはょ……」


「由芽か、おはよう」


「……んー……」


 そのまましばらく洗濯機の前でぼんやりしていると、たった今目覚めましたと言わんばかりにぼんやりとした気配と、寝惚けてぼけっとした表情の由芽がふらふらしながら洗面所に歩いて来た。


「ずいぶん眠そうな顔だな、休みなんだからまだ寝てりゃ良いのに」


「んー……ちがうの、すっごいよくねたからもうねれないんだ……んん……」


「ふーん……なるほど」


 そういえば、リーザが昨晩、由芽が起きて来ないように睡眠魔法を掛けたと言っていたのを俺は思い出した。

 たぶんだが、その影響で普段よりも睡眠が深く、そして覚醒するのに時間が掛かっているのかもしれない。


「おにいちゃんはなにしてんの? せんたく? あさから?」


「まあな、俺もお前と同じで起き抜けでぼけっとしてただけだ、気にすんな」


「んー、わかった」


 そう言いながら、由芽は洗面所の流しの前へ立って自身の歯ブラシを手に取って、歯磨きの用意を始めていた。


「……由芽、朝飯食う前に歯磨きで良いのか?」


「えー、食べたらもっかいするからべつにー」


 まあ、細かく言う事でもないかな。そう思って俺は、このままぼけっとしていても邪魔になると思って洗面所を後にしようとした。しかし。


「あ、ほにぃちゃんまっへ」


「あん? なんだよ」


 歯ブラシを食わえながら俺を引き留める由芽の声に、廊下へ出た所で足を止める。

 どうでも良いが、歯みがき粉をモゴモゴさせながら話そうとするのはやめなさい。


 俺に見咎められたのに気付いたからか、由芽は軽く口をゆすいでから向き直り、俺を見ながら疑問を投げ掛ける。


「ふぅ……、ねえお兄ちゃん、リーザちゃん知らない? 昨日一緒に寝る筈だったのにわたしひとりで寝てたみたいだし、気になってさ」


 由芽が聞きたい事はリーザの事らしい。

 まあ、自分の部屋に泊まる事になっていた子が居なくなってれば当然疑問に思うよな。

 とりあえず隠す事でも無いし、俺としては疚しい事など一切無かったつもりである。だって色々触ったりしてねーもん。

 ここは素直に答えておくべきだろう。そう思って再び歯ブラシを食わえて歯磨きを始めた由芽に答えを投げた。


「リーザなら寝てる俺の横にずっと居たよ」


「ぶふぉっ!?」


「のぉおっ!? なに吐き出してんだオイコラァっ!?」


 妹の吹いた泡なら汚なくないとかそんな変態的な事を思うこともなく普通に汚ねぇ。

 突然の吹き出し攻撃を食らい、せっかくさっぱりと綺麗にして着替えもしていた身体を台無しにされる。


「そ、それどういう意味!? まさか、まさかまさかやっぱりそういうっ」


「どういう意味も何もない! 言葉通りなだけで穿った意味は介在しない!」


「ウソだ! あんなお兄ちゃんがモロ好みそうな子が隣で寝ててあの(・・)お兄ちゃんが何もしない訳ないじゃん!」


「信用がねぇ!! びっくりするぐらい信用されてなかった!? リーザは一応妹って事になる子だぞ、疚しい事なんか出来るか!!」


「だからこそ怪しい!」


「なんでだ!?」


 おかしい、こうも論理的かつ倫理的で完璧な返答をしているというのに信じてくれない。

 何故だ。本当に俺はやってない。もっと信用されるべきなのに信じてくれない。


「この際だから断言しておくが俺はシスコンじゃないからな! 例えば由芽、お前が目の前でおっぱいプルプルさせていようが俺は動じたりしない」


「え、いきなりそういう事言わないでキモい」


「…………」



 ドン引きされた。


 解せぬ。



◇◆◇



「…………はい? 一緒に来る?」


「うん、昨日から考えてたけど、やっぱりお兄ちゃんひとりに任せっきりには出来ないかなって」


 早朝の由芽とのやりとりはぐだぐだしつつも、なんとか誤解を解くことに成功した。

 まあ、寝ていたリーザを由芽が起こして事情説明させたと言うのが正解なのだが。


「ふぁ……もう迷宮へ行くのかの、日が落ちてからでも良いと思うがの?」


 昨晩と同じポジションでリビングに座り込み、眠たそうにあくびをしながらリーザは提案してくるが、俺と由芽としては親父の件もあるし、さっさと攻略を進めて他に居るとされる兄弟や親父の嫁……義母になるのかね、その人達に会ってみないといけないと判断したのだ。


 ちなみに由芽の誤解を解くとき、リーザの口から余計な事が漏れないか冷々したが、リーザは「兄様の蔵書に興味があって、寝ている横で読んでいただけなのじゃ」と比較的簡潔に述べるに留めていた。

 その時、チラリと流し目のように俺へ視線を投げてきた時は不覚にもゾクリとした何かを感じてしまったが、俺は気合いでそれを跳ね返した。跳ね返せた筈だ。


「由芽が付いてくる事に俺からは反対は無いが、良いのか?」


「良いも何も、この前からお父さんに許可貰おうとしてたんだけど」


「そういやそうか……つーか、それも踏まえて何で考え変えたんだ? 最初はまだ潜らないって言ってたろ」


 由芽はダンジョン出現直後、親父の否定も兼ねて自身ではダンジョンへと潜るつもりは無かった筈だった。

 少なくとも中学生の内は潜らないと思ってた筈で、他にやりたい事もあるといった感じだったのだがそれは良いのかね。


「最初はね。お父さんがそう言うなら特に反発する事も無いし、そこまでダンジョンに興味あった訳でも無いし、だったら受験優先でいいやって思っただけ」


「……受験ねぇ」


「……お兄ちゃん、わたしこれでもちゃんとやってるからね? 楽しようとするのと努力を怠るのは一緒じゃないからね?」


「お、おう」


 ジト目で諭すような事を言ってくる由芽だが、お兄ちゃんだってそんな事わかってるし、言われるまでもないし!


「んー、敢えて言う事でも無かったから言わなかっただけで、秘密でも無いから言うけどさ、わたし、友達と同じ高校行くのに定期的に勉強会みたいなのしてるの」


「ふーん、そうなのか、てっきり俺は、親父からせしめた小遣いでJCが集まってカラオケ辺りできゃぴきゃぴしてるのかと」


「「表現古い(のじゃ)」」


 酷い。黙って聞いてたリーザにまでツッコまれた。


「そんな訳ないじゃん……たまには行くけど……、そんな訳だったからダンジョンの事はお兄ちゃんに任せてたって事。お兄ちゃん、基本的にヒマだし」


 酷い。俺だってごく一般的な高校生としてやるべき事をキチンとこなす模範的な学生で暇人という訳でも無かったのに。

 そうだよ、俺だってヒマではない筈、例えばダンジョン攻略開始する以前は、まず学校終わったら帰宅部なので真面目に直帰するだろ?

 それでまずは自室に籠ってパソコンを起動させ某掲示板を開いて気になるスレッドが無いかをチェック。

 一通りその作業を終えたら次はキッチンにある棚から備え置きされているお菓子を持ち出し、ゲームハードを起動するじゃん?

 ひときしり己の技量の向上に勤しんだ後は由芽が用意してくれた晩飯を食べて(当番時は自分で作るが)、スマホ片手に入浴してから再び自室で読むのが途中になっていたラノベや詰んでいた漫画を読み、気が付いたら寝ていて翌朝になっている。


 うん、暇だな。


 流石に趣味で忙しいって開き直るにはちゃんとした理由のある由芽に申し訳ない。


 話がそれたな。まあつまり、由芽は由芽なりの理由で以前はダンジョンへ向かう事を控えてたって事か。


「そういう訳だったんだけど、事情も事情だし、こうなったらお父さんの許可とか無視で良いかなって」


「なるほど、まあ、そうなるよな」


 リーザから聞いた親父の所業、それは当たり前な日本人としての感覚を持つ俺や由芽からすれば、ちょっと、いやかなり受け入れ難く衝撃的なそれだった。

 今、母さんが居ればなんて思うのかね? ああいや、確か母さんは知ってたかのようにリーザは言っていたか。本当かは不明だが。


「まあ、それが無くてもたぶん近い内にお父さんの反対を押し切って、お兄ちゃんに付いていったと思うけどね」


「……それはなんで?」


 そういやそうね、由芽がダンジョン潜るって言い出したのは昨晩より以前、リーザと会う前からだし。


「へ? そんなのお兄ちゃんがひとりで居ると問題しか起こさないからだけど?」


「…………」


 酷い。なんで実の妹からの信頼度がこんなに低いんだ。


 泣いていい? いいよね?


「ちょっと思ったのじゃが」


「ん?」


 それまで黙って話を聞くことに徹していたリーザが、挙手をしつつ声を上げる。


「ユメ姉様が父様に迷宮入りを反対されたというのは本当なのかの?」


「そうだが、なあ由芽」


「うん、理由まではちょっとわかんないけど反対されてるけど、リーザちゃんは反対する理由とかに心当たりとか無い?」


 俺や由芽よりはいくらか事情を知っているリーザに、由芽は親父がダンジョンへの出入りを許可しない理由を知らないか聞いた。

 まあ、それは俺だって気になる事のひとつだったし、ここで分かるならはっきりさせておきたい。親父は何故か理由を言わないしな。


 聞かれたリーザは、首を傾げつつウンウンと唸り、それからソファーに頭を預けるように顔を天井に向けてうぬぅとかむぬぅと数パターンの唸り声を披露しつつ長考していた。


「む、わからんのじゃ!」


 が、やはり心当たりは無いらしく、姿勢を戻して放った台詞がそれだった。


 リーザ、やっぱり半端に使えない子である。



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