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1-23『下手人不在の質疑応答』



「さて、まず話すべきはそうじゃの、やはり妾の事かの?」


「ちょっと待って今忙しい」


「お兄ちゃん、やっぱりラ○ンもツ○ッターも反応無い。全然既読付かないし無視されてるっぽい」


「電話もメールもダメだな、分単位で鬼コールしようとしたら圏外に居るのか捕まらねぇ、あのクソ親父この大事な時に……!」


「あれ、なんで妾を無視してケイタイいじってるのじゃ!?」


 リビングのソファーの対面に、寛いだ様子で腰掛けるリーザだったが、俺と由芽は並んで座りながら、親父への電突を優先して対応はおざなりになっていた。

 そんなもんだからリーザは焦ったように声を掛けてくるが、こっちとしては突如沸いた家庭の問題に、元凶不在では納得行かないのだ。

 由芽もきっとそうだろう、さっきからまるで般若のような形相をしていてちょっと怖い。


「え、えと、父様は確かお仕事なのじゃ、迷宮へ潜る冒険者、その幇助組織であるギルドを認知させるのにテレビに出演するからその収録があるって……」


「はぁ!? なにあの親父テレビ出るのかよ!?」


「え、ウソ、ホントに!?」


「ホントなのじゃ、『よーしパパ、ガセネタ乙って言われないようにはりきっちゃうぞー!』って、すごい笑顔で言ってたのじゃ」


 そんな爆弾さらっと追加しないでいただきたい。聞いてねえよそんな情報。


「ど、どうしようお兄ちゃんわたし達芸能人の子供になっちゃうよ……」


 隣の由芽は変な所を気にしてオロオロしていた。いや、素人の親父がテレビ出演しただけで芸能人にはならないからな?

 まあ、状況考えると超有名人の時の人にはなりそうだが……。


「い、いや、そんな事は今は良い。よく考えると親父のダンジョンの運営方法なら広報は当然する筈だし、テレビぐらい出ても不思議じゃないし」


「そ、そうかな? でもテレビだよ? ユー○ューバーじゃないんだよお兄ちゃん」


「むしろお兄ちゃんとしては親父がチューバーしてる方がキツイ。テレビの方がなんぼかマシだろ」


 テレビなら演出考える人とかいる訳だし、人生に疲れた雰囲気を醸し出している親父に個人撮影の動画は絶対に合わない。


 親の醜態はなるべく目にしたくないのだ、俺としては。


「む、父様のチャンネルかの? 後日作ると皆に宣言して……」


「そういうの良いから!! はい、この話終わり、俺は何も聞いてない!!」


 そんな情報は要らない。どうか頓挫してくれますように。


「話を戻すぞ、とりあえず親父が現在連絡不能なのは変わらないから仕方がないとして……」


「うむ、そこまで重要な話でも無いからの、本筋から脱線してまで話す事でもないのじゃ」


「うーん……それは確かにそっか、それで、えと、リーザスローデ、さん? で良いんだよね?」


「リーザと呼んで欲しいのう、妾としては姉妹で他人行儀な呼び合いはしたくないのじゃユメ姉様」


「……う"~ん……そもそもホントに兄妹、姉妹なのか確証が……」


 由芽の言う通り、いきなり知らん子が妹なのじゃ、とか言い出しても自称でしか無いからな。良く考えると確かに疑わしい。


 というか狂言であって欲しい。流石に親父が、余所で俺達の妹をこさえてましたとか、いきなり言われてもねぇ。


 まあ、あまりにも堂々と言い切ったので一瞬信じちゃったが、其処らへんはっきりしとした証拠が無ければ、このリーザという子を妹とは認められない。


「えーと、リーザ」


「うむ、なんじゃ兄様?」


「……くっ!」


「お兄ちゃん?」


 俺の呼び掛けに応じて、にぱっ、とした笑顔のリーザに、にいさまと呼ばれた事に不覚にもグッとくる物を感じてしまった。


 ダメだ、心をもっと強く持つんだ俺。よく知らない美少女に兄呼ばわりされる事に新しい扉が開きそうになったが、隣の本物の妹である由芽がすっげぇ冷めた眼で俺を射抜いている。

 お兄ちゃんと呼ばれる事に慣れきっている所に兄様呼びは卑怯だ。こんなの、俺がシスコンみたいじゃないか。

 将来、彼女が出来た時ににいさま呼びを強要する奴になって彼女にも妹にもドン引きされる人間になったらどうするつもりだ。責任取れるというのか。


 いやそんな事はどうでも良い、先程から余計な事で脱線し過ぎだ。軌道修正しなくては。


「ええい話が進まん、とにかくリーザ、お前が妹だという確たる証拠があるのか! 証明出来なきゃにいさま呼びは認めんぞ!!」


 俺はソファーから立ち上がり、リーザへ人差し指を向けながら宣言する。

 いくらおめめがパッチリした金髪美少女であろうと、血筋が無ければ妹とは認められないのだ。

 義妹というポジションを瞬時に連想してそっちなら良いかなとか誘惑されるが根性でそれを振り切る。振り切らなくてはいけない。


「むぅ、証拠かえ、確かに他の兄妹が存在する事を秘匿されて育ったであろうシン兄様とユメ姉様には必要かの」


「え、あるの?」


 俺の言葉に納得したのか、何も無い空間、《アイテムボックス》からスマホらしき物体を取り出し、ポチポチと操作を始めるリーザ。

 というか、リーザも親父が言う能力の制限が掛かって無いらしい。

 この家はダンジョンの入り口こそあれど、内部では無くちゃんと外界の筈なのだが。


 それと半吸血鬼(ダンピール)という種族であるリーザが、普通に電子機器であるスマホまで所持して、慣れた手つきで操作をしているのもツッコミどころではなかろうか。


「…………どうしよう、どんどん追加の情報が出て来て何から聞けば良いのかわかんねぇ……」


「お兄ちゃん、とりあえずメモ取ろうメモ。書記に徹するから応答はお願い」


「お、おう」


 ずっとオロオロしたままかと思った由芽だが、何か吹っ切れたのか突然テキパキと行動を始めた。

 さっと立ち上がりダッシュボードに置かれていたメモとボールペンを持って戻ってきて、サラサラと色々と書き出し始める。

 どうやら、言ったように書記に徹して話の要点をまとめてくれるらしい。


「えーと、公式な血縁を示す戸籍情報まではケイタイの記録端子には入れてないのじゃけれど、此方ならどうじゃろうかの」


「……え、なにこれ?」


映像記録(スフィアメモリ)じゃ。えーと、ろ、録画びておというのじゃったかの」


 見たことの無い機種のピンク色の保護ケースを装着されたスマホ、その画面には保存されていたらしい動画が再生されていた。


「妾の五歳の誕生日の記録じゃの。ほれ、父様も今より若いじゃろ?」


「…………お、おう、そうだな」


「……禿げる前のお父さんだ……」


 再生されている動画には、現在よりもフサフサな、俺達が子供の頃に見ていた親父の姿があった。

 その親父がリーザをそのまま幼稚園児にしたような、可愛らしい女の子を抱っこして頬っぺたにキスしまくっている。


 うん、これは他人の子だったら犯罪ですわ。それに小さいリーザも嫌がるどころかお返しのちゅーを若い親父にしている。羨ましい。


「確たる証拠というにはちと曖昧かもしれんが、まったくの虚言とも言えぬようになったじゃろう?」


「そ、そうだな……確かにこりゃ、家族への対応だわ」


 しかし、そうなると本格的に親父の行動が世間的に非難されるそれじゃなかろうか。


「……二重家族」


 由芽、ボソッと決定的な事を呟くのはやめて。


「色々聞きたい事はあるが、とりあえず、まあ、わかった。リーザは俺達の妹、えーと異母妹になるって事だな?」


「そうじゃの、兄様達のお母上はレナスティエラ様、妾はグリムガルデ母様から産まれたからの」


 母さんまで知ってるのか。しかし、なんでこうも情報に差があるのかね?


 まるで俺と由芽にだけ秘密にしてたような雰囲気なんだが。


 その辺りの疑問も聞いてみたのだが、リーザは「それは知らんのじゃ」と、答えは出してくれなかった。


 そういや、俺と由芽がリーザのような妹が居るという事を知らなかったのを、把握してなかったんだったか、まあ、予想はしていたようだが。


「そういう訳で、迷宮も地上と繋がり、地上人と妾達の交流も本格的に開始されるのじゃし? それなら地上に住む兄様達と会ってみたいと思うのは当然じゃろう?」


「なるほど、つまり親父が全て悪いと」


「うっ……まあ、そうじゃの、父様は何故隠していたのかのう? それを言えば、妾達が今初めて会ったのも不自然ではあるのじゃが」


「不倫だからじゃないの? バレないとでも思ったとか」


 由芽の中の親父の好感度がストップ安を叩き出す勢いで暴落してるっぽい。なんか声が冷たい、仕方がないかも知れないが。


「その辺りは父様に直接聞くしかないのじゃ、その、それでじゃの?」


「大丈夫、えと、リーザが悪い事した訳じゃないもん、ねえお兄ちゃん」


「そうだな、全て親父が悪い」


 俺達の異母妹に産まれたからといって、リーザ本人に責任があるわけでもないし。

 ここで気にくわないからと、リーザを否定してもどうしようもない。


 そもそも、かわいい女の子が妹になるなら俺は歓迎する。俺は兄として懐の広さをアピールすれば良いだけである。


「まあ、俺達は仲良く出来るだろ、親父は絶対殴るが」


「そうだね、わたしもお姉ちゃんになるのはいきなりだけど悪い気分でもないし。お父さんは帰って来なくて良いけど」


 由芽が思春期にありがちなお父さんキモい現象を発生させている。

 無理もないけど、今まで決して嫌う事の無かった親父の事をそうまで言うとは、余程虫酸が走ったらしい。


「えと、そ、その、あまり父様を嫌わないで欲しいのじゃ」


 一方リーザはオロオロしながら親父の擁護に回っていた。まあ、既に周知の事実だった訳だし、そういう反応にもなるか。


「そもそも迷宮は一夫多妻、多夫一妻どちらも問題無いのじゃ、だからこそ父様も母上方様達に応えて全員を……」


「ちょっと待って」


「ふぇ?」


 ちょっと今聞き捨てならない言葉が聞こえたんだが。


「全員を、なんだって?」


「めとる」


「…………」

「…………」


「え、その、父様はその、五人の伴侶をじゃな」


「…………」

「…………」


「……あの……それで、妾と同様に異母姉妹がえと…………」


「あ、うん、ちょっと待とうか、由芽」


「うん」


 ちょっと情報量が多くてついていけない。

 とにかく、順番に聞いて行こう。由芽には筆記に集中してもらう。


「他にも兄弟が居るのはわかった。人数は……今は良いや後で聞こう」


「う、うむ」


 なんとなく、結構な人数が居そうで詳細を今聞いても把握仕切れない可能性がある。

 これについては後日、対面しつつ把握しよう。


「まず、ダンジョンで暮らしてるのか、リーザ達は? そこから聞きたい」


 先程から言葉の端々にそれを思わせる言葉をリーザは放っているが、きちんと理解する為にもちゃんと聞いておきたい。


「そうじゃの。妾達は父様の、アラタの迷宮で暮らしておるのじゃ」


「そっか、それはなんでだ?」


 実際に潜った経験から言わせて貰うと、ダンジョンの内部は人が住むには適しているとは言い難い。

 そんな所に住んでる事に違和感を感じるのだ。


「えーと、それはあれじゃの」


「ん、なんだ?」


「妾も知らん」


「知らねえのかよ!」


 質問した瞬間になんか目が泳いだと思ったら知らないと来たかコイツは。


「えと、その、父様と母様が言うにはこうどなせいじてき問題とかなんとかで聞いてもよく分からなかったんじゃもん……」


 あ、この子、実はあんまり賢くないぞ。なんか分かってしまった。

 由芽も言葉には出さないが、呆れた眼を向けている。


「あ、でも、迷宮に住まう者の数は分かるのじゃ!」


「おう、それも聞いとくべき事のひとつだな、言ってくれ」


「百万人とちょっとなのじゃ」


「は?」

「えぇっ」


 ひゃくまんにん。なんか想像してた桁をふたつぐらい上回ってるんだが。



「妾達は、百万の民と共に迷宮の中で暮らしておるのじゃ」



 リーザははっきりと、そう言葉にした。


 

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