1-18『親父のダンジョン第四階層その1』
ネタスキル修正要請を親父へ突き付けた翌日、俺は第三階層でのレベリングを終了して第四階層へと向かった。
しつこくレベリングの為に徘徊していた事もあり、第三階層から第四階層への階段はけっこう前に発見、階段途中の非常口も解放していたのだ。
なので本日のダンジョン攻略は初めから第四階層へ突入となる。
「三階層は端から端までで、おおよそ二キロ四方ぐらいだったかね、どんどん広くなってるが最終的には一フロアでどれだけ広くなるんだか」
第一階層が一本道で、入り口から出口まで徒歩30分程度、第二階層も一本道だったが第一階層よりは広くて徒歩二時間ほど。どちらも曲がりくねった道だったのでマッピングすれば面積割り出せそうだがめんどくさいのでするつもりは無い。だいたい、第三階層の面積だってかなり大雑把でテキトーな割り出しなのだ。
第三階層は分岐があったので、道順を小まめに記す必要があった為、だいたいこのくらいかなといった具合に直線距離なんかを割り出しただけである。
で、これらの傾向からすると、第四階層は更に広くなり、道も複雑になると踏んでいる。
あんまり極端な巨大迷路とかにはならないで欲しいものだが、どうだろうね?
「……とりあえず、外見に変化は無し、またただの洞窟風と」
階段を降りきった先のフロアへと脚を開いて踏み入れ、様子を見るため立ち止まるが、特にこれまでの階層と変化した所は見当たらない。ここまでくると、変化が起こるのは五階層とか十階層とか、区切りとなる階層でしか変化しないのかもしれない。もしくはずっとこの洞窟のような見た目のダンジョンのままなのか、そのどちらかだろう。
四階層開始地点は四方十メートル程度の小さめの部屋で、そこから伸びる通路は左右の二ヶ所。ぱっと見た感じどちらもそれなりに奥まで続いているように感じるので、すぐに行き止まりに突き当たるという事は無さそうである。
悩んでも仕方ないので、とりあえず深く考えずに右の通路へと進む。
途中、モンスターが出たがバッタとトカゲが一度づつ出現しただけで、レベルが三階層に居た奴よりひとつだけ上昇していた以外は変化は無い。
「……丁字路か、やっぱりマップが複雑になってるな」
歩くこと数分、通路の突き当たりが丁字路になっていた為、メモ帳とボールペンを《アイテムボックス》から取りだし書き記してから再び右側を選択して進む。こういう分岐が多くなった通路は、初めはごちゃごちゃと左右バラバラに選んで進むより全部右や左といった、分かりやすい選択肢をまずは選べと聞いた事がある。
まあ、ファーストアタックなんて道間違えてなんぼだし、しらみ潰しにするつもりで進まなきゃ未踏破のダンジョンなんて歩けませんからね、ゲームの話だがそう間違えてないだろう、たぶん。
そんな事を考えつつスタスタと軽い調子で歩いていたのだが、次の瞬間、カチッという何かが嵌まったような音が足元から響いた。
「──ぐっはぁん!?」
そして、俺の股間に強烈な速度のナニかが地面から衝突し、軽くジャンプしたかのように俺の身体を打ち上げた。
「ぐぉぉおおおぉぉ……な、なにぐぉぉおおおぉぉ…………!?」
恐ろしい程の激痛が俺の股間に発生しゴロゴロと地面にのたうち回りながら一体何が起きたのか考える……が、ちょっと場所が悪過ぎる。
いかん、男であることを忘れてしまいそうなほどすっごく痛い。直撃では無い。しかし、こんな所痛くなる経験などしたことが無いのでむちゃくちゃ痛い。
【ステータス】
シン・フジムラ
レベル 13 Exp[590/1950]
クラス ――
HP 88/98
MP 136/136
「ひぃ……ひぃ……ふぅ、ふぅ……!」
痛くて泣きそうになるのをなんとか堪えて、状況確認の為にステータスを確認してみるとHPが減少している。おい10も減少してるぞ、どんだけ強烈だったんだよレベル1ならほぼ瀕死になってるダメージだぞ!
「……ひぇ!? 出血してやがる……!!」
押さえてた手を確認すればべっとりと血が付着しているのに気付いてちょっと青くなった。これ、直撃していたらどうなっていたのか、下手をすれば雄姉さんになっていたかもしれない。
とりあえず、即座に魔法《小回復》を連続で唱え、患部の治癒に入る。まさか、はじめてまともに使う《小回復》が股間の治癒とは……。
「……ふぅ、なんとか治った。しかし、トラップだよな……これ」
目線の先にあるのは、先程不名誉な初ダメージを喰らわせてくれやがった地面から伸びる杭のような罠。
ご丁寧に先端が鈍角ながら角になっていて、勢い良く人にぶつかれば肉を抉って骨を砕きそうな代物だった。
《股間クラッシャー》
・打撃系トラップ。隠されたスイッチを踏んだ対象へダメージ。脅威度(低)
脅威度低くないよ危うく男性として死ぬ所だったよ!!
そもそもレベリングしてかなりHPと耐久力が上がってたからこの程度で済んだが、普通にサクサク進んでいたらバットエンド待った無しだったんだが!? それに女性の冒険者だったらどうするつもりだ、それともここはエロダンジョンだったのか!?
「……くそ、初っぱなにご対面したのがこんなトラップとか……親父のセンスを本当に疑うぞ」
せめてダメージ負うにもはじめてはモンスター相手が良かったよ。それがぶっとい杭に股間を強打されたからって。
とりあえずこのクッソ下らねぇ罠は親父を糾弾して撤去させるの決定として、第四階層はどうやら罠がはじめて設置された階層のようだ。
「……もっと慎重に進まなきゃダメか、良く見ればトラップのスイッチ部分、うっすらと何も言わない無い地面と色が違うし、見分けながら歩かなきゃ」
最初からトラップが出現するかも、と心構えを持って進めばこんな痛い思いをしなくて良かった訳だが、それは今さら言っても仕方ない。
その後、俺は慎重に、足元を特に注意しながら第四階層の探索を再開した。