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1-15『バールのようなもの』



 ダンジョンで気絶してそのまま寝てしまうという事態を起こし、休日という事できっちり自室で寝直してから俺は近所のホームセンターへと足を運んでいた。


 目的はもちろんダンジョン探索に有用である武器になる物の購入、しかも高校生でも購入可能なお手軽プライスな強力武器を求めてやってきた訳である。


「……おお」


 ホームセンターで武器を用意という安直かつ厨二な発想による行動ではあるが、意識して店内を回ればあながちバカに出来ないと認識出来る。


 たとえば、定番とも言えるだろう(なた)。それだけでも数多くの種類があるし、値段で言えばのリーズナブルなものからけっこう高額で、俺の所持金では手が出せない万単位の価格の物までズラリと並んでいる。


《角鉈》攻撃力+5

・多目的用途の鉄製刃物。枝払い等の野外活動補助目的の品の為、殺傷力は低い。国外大量製造品。(税別1980円)

《角鉈+2》攻撃力+7

・クロム鋼製。肉厚で薪割り用として非常に扱いやすく、品質も非常に優れている。日本製高級品。(税別9400円)


《鑑定》を使い安いものと高い物を比べてみる。ちなみに《鑑定》は普通に物品を調べる事が可能で、こうして売っている物を見定めることにも使える。


 まあ、本来は例の能力制限のせいでダンジョン以外では《鑑定》も発動しないのだろうが、俺は何故か制限が効いていないらしいので見れる。


「……値段が五倍近く違うが性能差はたったの2なのか……」


 予想通りと言えばそうなのだが、もう少し高い方は強いと思ってた。まさか日本の鍛治屋さんが鍛えて作ったような商品──たぶんだが──がメイドインチ○イナとそこまで差が無いとは。もっと、言ってしまえば攻撃力+10はあると思ってた。


 だって、質の良い鋼使った刃物ですよ? もっとあるでしょ。


「用途の違いかね……んん?」



《剣鉈+1》攻撃力+9

・先端が鋭角の形に造られた鉈。多目的用途であり扱いやすい造りとなっている。日本製(税別64500円)


 ナイフのような形状だけどこれも鉈なのね。用途はそこまで変わらなそうだけど此方の方が攻撃力が高い。やはり先っちょが尖っているからだろうか。


 それに攻撃力のわりに角鉈よりも武器としては高性能なようだ。まあ、角鉈って武器として使うには欠点だらけな刃物ってのは一目で判るし当然と言えば当然だが。


 うーん、見た目に剣鉈はちょっと欲しいな。手が出せる値段ではないのだが、こう、親父に頼んでなんとかならないだろうか。


「……」


 気になっている剣鉈+2を、陳列されたショーケース越しに眺め──高額商品の為かきっちり防犯ガラスのケースに陳列されている──持ちやすさも丁度良さそうだし突いても払っても良さげで悪くない。ぎらりと鋭い光が刃に反射して思わずニヤリとしてしまう。


 欠点を上げるならやはりリーチかね、木刀なんかに比べたら不渡りなんて短いなんてもんじゃないし。ただ、純粋にナイフのようなとして扱うなら取り回し的にも悪くは無かろう。


 欲しい。どうしようめちゃくちゃ欲しい。


「くくっ……」


 こいつを使ってあのトカゲ野郎を切り刻んでやれは怖さなんぞ感じる前に殺れるはずだろう。そう、この剣鉈をふたつ用意して疾風怒濤の連撃を叩き込み反撃の隙など与えずに──


「………………………」


「うっ!?」


 剣鉈を見詰めながらニヤニヤしていたら、通路の先で従業員のおっさんがじっとこちらを見ているのに気が付いた。


 やばい、あれは不審者を警戒するスタイルだ。


「ノーノーノーノー!!」


 俺は即座に防犯ケースから離れて両手を上げて無害のアピールを示す。いかん、窃盗の疑いとかされても面白くないしおまわりさんのお世話になるのはまっぴらである。


「……………………………………」


 従業員のおっさんは一応善良な一般少年だという事をわかってくれたのか、訝しめな眼を向けつつも他の場所へ向かってくれた。


 …………危ない所だった。買う金も無いのに事務所へご案内されるかと思ったぜ。嫌だねぇ日本は、ちょっと眺めてただけで危ない奴認定ですよ、監視社会とはよく言ったもんだぜ! 息苦しいったらありゃしないよまったくもう。


「とりあえず鉈はパスだな、どうせ買えないし」


 これ以上は危険だし、なにより意味も無いので鉈が並んだ列を離れて他の場所へ移動する。


 というかね、元々リーチが長い得物を探しに来たんですよね俺。なんでナイフ的な役割の鉈とか眺めてたんだって話である。


「リーチ、リーチねぇ……」


 次いで立ち止まった所は鉈のすぐ近く、薪割り斧が並ぶ場所だった。



《ハンドアックス》攻撃力+8

・片手用野外活動向け洋斧。重さも大きさも片手サイズで用途は限定的。セラミック製。(税別1580円)

《木割り斧》攻撃力+12

・洋斧。セラミック刃、グラスファイバー柄。扱い易さに重点をおいた斧。軽量なので戦闘には不向き。アメリカ製(税込8560円)

《鉄の斧》攻撃力+18

・薪割り和斧。分厚い刃が叩き付けた薪を簡単に裁断する。戦闘用では無いので重量は軽めであり、その分扱いやすい。日本製(税別22600円)



「むっ」


 斧を数種類《鑑定》で見てみると、値段のわりに攻撃力が件並の高めなのに気付いた。


 これは……斧使いになる事を考慮するべきか?


 ぶっちゃけ高校生でも買える値段で武器カテゴリ常連の物が揃ってるのにびっくりだ。中には五千円以下なのに先程の剣鉈よりも強いものもある。それにリーチも申し分ない。


 まさか斧がこんなにコスパが良い代物だとは。


「手頃なやつなら買えるな、よし……」


 俺は意を決して薪割り斧を購入しようと手を伸ばす。すると──


「……………………………………………………………」


「ッッ!?」


 先程の店員のおっさんがめっちゃ観察してきていた。隣にはレジに居たパートのおばちゃんらしき人も不安げな顔で覗きこんでいる。



「ノーノーノーノー!!」


 俺は速やかに斧が陳列されていたエリアから離れてホールドアップした。あぶないひとない、ぼくただのおきゃくさんだヨー。


 無条件降伏を示すポーズのおかげか、おっさんとおばちゃんは不審な眼を向けつつも向こうへ行ってくれた。


 ふぅ、やれやれもうちょいお客様を信用して貰いたいもんだぜ、斧見てたらおーのーって気分だよ。つまらんな。


 さて、こう怪しまれているとあからさまに武器ですって商品は買えないかもしれんね。


 そうなると、高校生の身分としてはかなり購入出来るものに制限が加わる事になる訳だが…………まあ、冷静に考えてみると成人もしていないガキンチョが鉈だの斧だの買いたそうにしていたら不審に思うよね大人なら。当たり前の事だったわ。


「……どうすっかな、スポーツ用品売り場で野球のバットでも買うかね……んん」


 そのまま店内をうろちょろと見回して、武器になりそうな物を探す訳だが、まさか本当に野球のバットを買うつもりも無いのでわりと迷った。


 流石に電動工具辺りはダメだと判るし、ゾンビ退治の定番チェーンソーなんか役に立たないのは分かってるし。


 まあ、一応《鑑定》してみたけど攻撃力表示が無かったのでお察しだよね。つまり武器としては使えないって事ですわ。


 で、再び鉈が並んでいた列に戻って他の道具はどうなのかと探してみるのだが、これが案外バカに出来ない物が多かった。


 まあ、つまり農具と工具なんだが。



《草刈り鎌》攻撃力+2

・雑草駆除用の鎌。刃の長さは短め。(税別1280円)

(くわ)》攻撃力+6

・耕作用品。畑仕事の必須用品で一揆の友。(税別2980円)

《角スコップ》攻撃力+3 防御力+2

・刃の部分が四角のスコップ。 土砂や砕石、堆肥等を掬うのに便利な形のスコップ。堅くて丈夫なので小盾代わりにもかろうじて使える。(税別3980円)

《スチールフォーク》攻撃力+16

・四本爪の金属製農具。刈り取った草を集めたりするのに使う。鋼の突き刺す爪なので殺傷力は高めだが乱暴に扱うとすぐに壊れる。(税別4360円)

掛矢(かけや)》攻撃力+10

(かし)製の大木槌(おおきづち)。杭を打ち付ける時等に使う工具。見た目の割には軽くて丈夫。(税別6800円)

《コンポーネントハンマー》攻撃力+15

・樹脂製一体生成のハンマー。耐久性と扱い易さはかなり優秀。(税別38000円)

《大ハンマー》攻撃力+22

・槌の部分がクロム鋼製の金属ハンマー。土木、解体業でよく使う。(税別4980円)



 ざっと見た限り値段と攻撃力は関連性が一切存在してねえ!


 まあ、当然なのかね、あくまでもホームセンターに置いてある商品は武器じゃないし、無理矢理武器として扱った場合の攻撃力表示がこんな感じになるって事だろうからな。


 で、見た限りもっとも気になる、武器として転用した場合コスパと性能が優秀なのがこのふたつだった。



《剣スコップ》攻撃力+23 防御力+2

・先端が鋭利なスコップ。軽くて丈夫、扱い易く、土木作業の必須用品。新世代厨二武装筆頭。(税別2980円)

《金テコ150mm》攻撃力+32

・クロム鋼製。構造物の設置等に使う。全鋼製の為非常に丈夫で重量があるテコ棒。通称バールのようなもの。(税別4680円)


 値段を無視してもこのふたつは別格と言っても良いかもしれない。というかバールのようなものが他の物と比べても攻撃力高い。


 スコップもなんでこんなに? と思うほどの性能なのだが理由までは分からない、ただ、持ってみるとかなり軽いし片手で余裕で振り回せそうだし、取り回しの面で優秀なのだろう。何故か防御まで上がるし。


 金テコは特に説明の必要無いと思われる。凄まじく丈夫な鉄の棒だもの。あと、先っちょがやや尖っているので槍にも使えそう。


「決めた、どっちかにしよう」


 スコップ持ってダンジョンでサバイバルするか、金テコを槍のように扱ってバトルするか。


 個人的にはスコップは気になる。ただ、今見ているスコップ持って戦うのはカッコいいだろうか。だって、これ普通のスコップだし、オシャレなサバイバルスコップじゃないし。

 一応スコップで戦うような話をちらほら見た事があるので忌避感があるわけじゃないのだが、ああいうのって軍用スコップだったり多機能スコップだったりするし、ただの穴堀り用のスコップ持つのはどうなのか。いや、ただの穴堀りスコップなのに高性能なのが今確認されたんだが。


「……それにスコップ持って戦う方法は俺、知らないんだよな」


 武器としてスコップを見た場合、やはり形が独特な訳で慣れが必要な気がする。


 それだけなら別に慣れちゃえば問題無いのだが、スコップ闘法とも呼べば良いのか、スコップを扱う技術は他に活かせるだろうか。


 今回探している武器はあくまでも“繋ぎ”の武器なので、無駄とまではいかないがスコップ専用の戦闘方法を確立してもその後に活かせるのかが不明過ぎるのだ。


 ……まさか、伝説のオリハルコンスコップとかがダンジョンに落ちてるとかそんな事は無いだろう。たぶん。いやあの親父なら持っていそうな予感も確かにあるのだが。


 でも剣や槍、杖等の棒状の武器よりは確実に少ないはず。


「……金テコだと、木刀の延長としても槍としても、ただの棒としても扱えるしなぁ」


 金テコ、通称バールのようなものの利点はそこだろう。形状が単純なので今後扱うかもしれない武器の代替としては申し分ないのだ。


 そうなると、やはり金テコだろう。


「よし」


 俺はようやく購入する物を決断し、撰んだ金テコを手に取ってレアへ──



「キミ、ちょっと良い?」


「えっ」


 ずっと見詰められていた店員のおっさん……ホームセンターの店長さんらしい人に背後から肩を叩かれ、呼び掛けられた。


 その後バックヤードに連れ込まれ事務所の椅子に座らされ、男性店員複数立ち会いのもと質疑応答が始まった。


 どうやら、ヤバい目付きの不審な少年が凶器となりそうな商品ブースに長時間居座っているのを訝しく思い、監視カメラと直接監視の完全対応で見張っていたらしい。


「ひ、必要だったんですよアレがっ、危ない事になんか使いませんよ!?」


「普通、高校生があんなもの買わないでしょ、どうするつもりだったの?」


「誤解です! ぼくは無実だっ!!」


「いや、だから何に使う為に買おうとしたのか聞いてるだけだから、あれ以外にも色々見てたよね、鉈とか斧とか物騒なものばっかり」


「違うんだぁ!!」




 ……この後、おまわりさん召喚だけは勘弁して貰い、代わりに親父を召喚してめっちゃ呆れられた。親子揃って店長さんにごめんなさいして逃げるように帰った。


「理由はわかったが……購入はネットショップにしてホームセンターでは買おうとせず帰れば良かっただろ……」


「あっ」


 また恥を晒してしまった休日の一幕だった。


 ちなみに金テコは別のホームセンターで親父に購入して貰った。やったぜ流石親父だぜ。



未成年者は勘違いされそうな物品を購入しようとするのはやめておきましょう(´・ω・`)

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