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1-14『兄はエロい由芽もといエライ夢を見る』



…………。





『────、』


 大の字になって仰向けに寝そべっている俺を、妹の由芽がじっと見つめていた。


 なんだよ、何見てんのさ。


『────』


 話し掛けた筈だが由芽は特に返事をする事もなく、ただ俺を見続け……いや、棒立ちで見ていたのがゆっくりと身体を屈めて顔を近付けている。


 由芽は無表情のまま、身内贔屓無しでもそれなりに整っていると思える目鼻立ちが整った、一般的にかわいいと言われる部類の顔を俺に向けてくる。


 学校でもけっこうモテるのだそうだ。男と交際つまり彼氏を作った事は俺の知る限り無かった筈だが、まあ、隠れて彼氏のひとりやふたり居ても不思議は無いんじゃなかろうか。だいたい、親兄弟にいちいち自分の交際関係を逐一報告するような奴は現代日本においてそれほど多く無かろう。


 なので、実際の所では由芽がどんな男性遍歴をしているのかなど、俺は知らない。別に由芽がすっごいすっごいエロビッチだったとしてもそれは俺の関与する事では無いし、関係も無いだろう。所詮は家族とはいえ別々の個人なのだ。


 人生とは人がそれぞれ自身の責任と裁量で進んでいくものなのだから。


 当時中学生だった俺が、小学生だった由芽が「男の子の友達の所にみんなで遊びに行くの」という言付けの後に行われた学校行事の延長にあるような、当時の由芽のクラスメイトが多数集まっていた半ば義務的参加行事に即席釘バットを持参して強行偵察を行った時、紆余曲折あり最寄りの交番から帰宅しながらされた親父の超長い説教を短く意訳するとこんな言葉となる。


 ちなみにこの強行偵察の後、学校中に事実がバレてやべー奴扱いを受けたが、暴力は行使していないと語っておこう。銃刀以外の物でも凶器なら所持を認められないと初めて知った若き日の思い出である。逆に取り押さえられる時に痛い思いして泣いちゃった側である。


 まあ、それはいいとして、そんな余計な事を考えられる程度には意識がはっきりしていたが、これはどうやら夢らしい。


 それと言うのも、じっと俺を眺める由芽以外の存在がまったく無いのだ。壁や天井すら真っ白で、見える範囲では何も無い。こんなの、夢以外に何があるのか。


 まさかいつの間にか死んでて転生する場面て訳でもあるまいし。ふはは。


 ならば明晰夢というやつなのかと言えばちょっと違う気がする。意識は確かにはっきりしているのだが、自由に色々出来る訳では無いみたいだからだ。


 明晰夢は、確か夢を夢である事を知覚しつつ自由に行動出来るはずではなかっただろうか。現状、夢である事を認識しているけれど、自分の自由になる事まったく無いのはどういう分類になるのか。


 いや、身体がまったく動かないんですよね、先程から。


『───』


 ……なので、ただ夢の中で妹にじっと見られ続けるという変な状況にいるのだ。


 なんだこれ。


『───』


 いや、夢の由芽はただ俺を見詰めているだけでは無い。なんか、どんどん身体を近付けてきている。


 最初、棒立ちだった筈の体勢は、屈んで、膝を下に付けて四つん這いになっていた。


 さらに、手が伸びてきて肩に掛かる。それに合わせて由芽の身体も更に近付く。なんというか、押し倒されたような体勢になってしまった。


『────』


 おいやめろ。と、声を出そうとして口が動かない事に気付く。身体も動かない、声も出せないとなると、つまり何をされても抵抗が出来ないという事になる。


 されるがままに由芽は俺の身体に跨がり馬乗りになってくる。重さはほとんど感じないし、感触にも違和感がある。腰を太ももで挟まれてしまったのになんかただ、棒のようなものが押し当てられているような感覚しかない。実物の由芽に挟まれたら柔らかいはずなのにそれが無い。所詮は夢か。


 おちつけ、何を残念に思うのか。俺は実妹に欲情するほど倒錯的な変態では無い。断じて違う。違うったら違うのだ。


 見詰めてくる由芽はやはり無表情で、肩に触れていた手で俺の顔を撫でるように這わせているがこんな事されたいとか思って無い。無いったら無い。


 一体、この夢はなんだと言うのか。実際にこのように由芽に馬乗りにされたとしたら俺はすかさず腕を取り多少乱暴になろうとマウンティングを逆転させるべく行動に移るだろう。こんな無抵抗、されるがままなど兄としての沽券に関わる。


 そして馬乗りに仕返したら二度と舐めた真似を出来ないように最近膨らんで目立つようになってきた胸をリズミカルに打ち鳴らしてくれるわゴンガの如く。


 そんな訳でこの状況は非常にイカンもとい遺憾である。夢だとしても無抵抗のまま、由芽に馬乗りにされるのはよろしく無い。まるでそんな願望があるみたいじゃねーか。


 なんなの。なんでこんな夢を見ているのだ俺よ、おかしいでしょ。


 手で俺の顔をわさわさと撫でていた由芽は、更にその無表情な顔を俺の顔に近付けはじめる。


 ちょっと待て、それ以上はいけない。


 背中に流している由芽の栗色の髪──コイツは地毛が色素薄い──が一房、顔の横に垂れる。


 柔らかそうな唇が開かれて少しだけ吐息が漏れたような気がした。


 日本人以外の血が混じっている為か、くっきりとした形で、長い睫毛に彩られた眼が真っ直ぐに俺へと視線を放ち、射抜かれた俺にぞくっとした感覚を与えてくる。


 普段はコロコロ表情が変わるので必要以上に幼く見えるが、こうやって無表情のままずっといると妙に大人っぽく見えるから不思議だ。


 なんで、俺はこんなにもドキドキしているのだろう。


『────』


 夢の由芽は更に顔を近付ける。


 俺は、もしかして、こんな事を望んでいるとでも言うのか。


 更に近付き、もう俺と由芽の顔は触れ合う寸前だ。


 そんなアホな、確かに由芽はかわいい妹だが、そんな目で見た事など無いのだ。無いったら無い。






 …………いや、本当にそうだっただろうか?





 最近妙に身体付きがエロくなってきたなコイツ。とか思った時に、一瞬たりとも変な事を考えなかったと言えるだろうか?


 家の中でだらしない格好をしている由芽を「そんな格好でうろつくな」と注意する時に太ももを凝視していなかっただろうか? がっつりパンツが良く見えるアングルを探したり無意識にしていなかっただろうか?


 そもそも妹のパンツ姿など、「汚いもん見せるなブス」と罵って然るべきなのが世間一般的な兄としての態度では無かろうか。果たして俺は由芽に対して嫌悪を抱いた事はあっただろうか。いや無い。


 だって、ホントはちょっと見れて嬉しかったもの。



……………。



 なんて事だ、自覚してはいけない事を自覚してしまった。どうやら俺は妹にエロい事を期待してしまう変態グズ野郎らしい。



 つまり、この夢の由芽は、俺が望んだ存在そしてシチュエーションという事に……。


 そう気が付いた時には、由芽の唇が小さく開いて、俺の唇に触れていた。


 ……いや、何故か俺の下唇を由芽が歯でもぐもぐと甘噛みしつつ引っ張っている。


 そんな、やめてくれ……お兄ちゃんはそんな変則的なキッスを妹としたいなんて思ってなんか無かったはずなんだ。


 そんな事されたら、お兄ちゃんのやんちゃ棒やブッコミ上等の熱血硬派になっちゃう、ああっ……!




◇◆◇






「──ひょんなもぐもぐひないでくれ……お、お兄ひゃんはひょんなアブノーマルなフレンチキッスよりふひゅうのディープキッスのひょうが………ん……?」


 下唇がもぐもぐされている刺激に、目覚めを促されたらしく、夢現だった意識がゆっくりと覚醒した。


 ……どうやら、やはり先程までの事は只の夢だったらしい。まあ、当たり前だが現実で由芽とちゅっちゅっしてしまうという状況等あり得ないという事だ。なんとなく残念な気がしたがそれは気のせいという事にしておく。


「エロい由芽を見たじゃねえエライ夢をみひゃ……うあ?」


 朦朧としてぼやけた眼を手で擦る。まだ寝惚けているのか変な感触がある。と言うか、仰向けで寝ている上に何か軽い物体が乗っていてもぐもぐされている感触が続いている。


「…………?」


 なんだと思ってしっかり確認してみると、《鑑定》の効果も同時に発動して上に乗ってもぐもぐしているものを認識させた。




[スケルトン LV.1 HP10/10 MP0/0」





「あんぎゃーーーーーーー!?」



 俺は何故か、スケルトンに馬乗りにされて唇をもぐもぐされていた。


 はっきりと認識した瞬間、顔面にゼロ距離の位置にリアルな頭蓋骨が見えたら悲鳴を上げてしまうのは仕方ないんでは無かろうか。


「骨ーーー!! ホネェーーー!? なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 錯乱した俺は当然のように暴れて突き飛ばすようにスケルトンへと腕を振るった。ダンジョン最弱モンスターであるスケルトンはそれで雑作もなくバラバラになってHPの大半を失った。


「きぃぃぃぃやぁゃぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 ただ、頭蓋骨だけは俺の唇にしっかりと噛みついていたらしくしばらくぶらぶらと吊り下がっていたが。超怖かったです。


「……ぜぇ、ぜぇ……な、なんなんだ一体!?」


 数分後、ようやくもぐもぐしてくるスケルトンの頭蓋骨を取り外して容赦なく床に叩き付けて砕いた後、疲れて崩れ落ちた姿勢で頭をフル回転させてこんな状況になっている理由を考えた。


 ……確か、トカゲ対策も含めて自らの能力向上の為に、大した敵の存在しない第一階層で色々とやっていたはずだった。


 素振りしたり、スケルトン相手に竹刀で戦ってみたりして、剣術系統のスキルとか発生しないか試してみたり、檜の棒も装備して二刀流の真似事もしてみたり。


 HPを減らしたスケルトンに《小回復(ヒール)》を使用して効果あるのか、それとスキル経験値を得られるのか試してみたり。ちなみにどちらもダメだったが、これは恐らく無生物であるスケルトンに《小回復》が効かないからではと予測している。


「…………そうだ、確かMPが枯渇した時にどうなるのか確認するのにゼロになるまで《火球》を……」


 MPが枯渇した時、何があるかわからないので事前に確認しようとしたのだ。


 MPという存在がどんな物なのか、はっきりと教えられている訳じゃないがだいたいの予想はつく。たぶん、精神エネルギーだとか現代科学では確認されていない生物や様々な物質にも影響与える力場だとかきっとそんな感じの存在なのだろうと俺は思った。


 なので、それが枯渇状態になるというのはきっと悪影響があると踏んで、あえて確認したのだ。


 実際、魔法なんて物に無縁の筈の現代人の俺が、レベル1の状態で初期値としてMPを持っていたという事は元々身体に備わっている力という事になり、ゼロになっても身体にはまったく影響が無いとは思えなかったのだ。


 そして、今後MPを限界ギリギリまで使用しなければ突破出来ない事態とかがある可能性はダンジョンに潜っていれば多々あるだろうし、その時になってから枯渇した時の状況を初めて経験するのは危険だと判断して、今の内にそれをやったのだ。


「で、結果は良く分からんけど、多分気絶したんだな、そうじゃなきゃダンジョンの第一階層で寝ている状況になんか陥らない」


 さらに言うとMPを枯渇させる為の最後の《火球》を壁に向かって撃ち出した後の記憶が無い。クラっと来たと思ったら夢の中だったのだ。


「……MPの自然回復の具合から見て五時間ぐらい寝てたらしいな、もう朝じゃねーか」


 ちなみにMPの自然回復は一定時間毎にゆっくりと回復する。寝ていても起きていても一定で、おおよそ十分に一ポイント回復する。五時間なら三十ポイント程である。現在の俺の最大MPだと半分以上回復した事になるが、寝れば全回復という訳では無いのは不便かもしれない。


 まあ、その分半日経てば起きていても全回復するのでどっちもどっちだろうか。


 そんな訳で、おそらく、気絶している内にスケルトンが自動ポップして、集られて攻撃されていたというのが先程の状況らしい。


「……いつから集られてたか知らないが、あのスケルトン本当に攻撃力絶無なんだな……」


 仮にもモンスターの噛みつき攻撃が女の子の甘噛みと誤認するレベルってどうよ?


「……………………よし、これも全て親父が悪い。俺があんな悶々とするような夢を普通見るはずが無い。無いったら無い」


 そう、全ては親父が悪い。俺はまったく悪くない。あんな妹に欲情しているかのような夢を健全を絵に書いたような存在である理想的な兄である俺が見るはずが無い。絶対無い。


 という訳で、俺は起床後の生理現象である熱血硬派なやんちゃ棒をどうにかしようとダンジョンから撤退する事にした。その後、ベッドで少し寝直してから近所のホームセンターでも行こうかなと思っている。


 本日は休日なので、何か武器になりそうな物が無いかなと軽く物色したいと思ったのだ。ホンセンの商品を武器に転用は前々からやってみたかった事のひとつなのだ。丁度良いので探してみよう。







【ステータス】

シン・フジムラ

レベル 4 Exp[3/45]

クラス ――


HP 36/36

MP 50/50


基礎攻撃力 5

基礎防御力  5

魔法攻撃力  4

魔法防御力 6


筋力 17 速力19

体力18 技量13

魔力 14 精神20


〈スキル〉

火属性魔法

神聖魔法

EXP獲得量増加

スキルEXP獲得量増加


〈装備〉

E.くそダサいシャツ

E.ダボダボのチノパン



〈スキルレベル〉

[《火球》 LV.2→LV.3 S.EXP62/70]

[《小回復》LV.1 S.EXP 6/30]



※妹は美少女だけど兄は根性と品性がひん曲がっているので造形のわりにかっこ良く見えないという良くある設定。

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