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断編集 CGF劇場  作者: CGF
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第九話『病室』


目覚めると白い天井が見えた。


見知らぬ天井ってやつ?


……いや、見知ってるんだけどさ。



理奈が病室に入って来るのが見えた。おはようございますと声を掛けながらカーテンを開ける。



「理奈まぶしぃ~」


「他の患者さんもいるのよ?日光に当たりなさい」



看護師姿の理奈にたしなめられる…他の患者って、一人しか居ないじゃない。


ホントなら女性用の病室に入らせてくれればと思うけど、私はいつもこの部屋に割り振られる。



「おはようございます。御加減はいかがですか?」


「…………」



理奈は同室の患者さんに声を掛けた。向こうの声はくぐもってよく聴こえない。



天井を眺める。



(考えてみれば…いつもこの部屋よね)



視界の隅に天井を球がゆっくり転がるのをぼんやりと感じる。


それはまるで床をハイハイする赤ちゃんの様で、たどたどしく何故か愛らしい。


窓の外を眺める。


電柱のてっぺんに座り込んでるオジサンが居る。


オジサンはこちらに背を向けて青空を見詰めている様だ。



概ね、私にとってはいつもとさして変わらない風景と云えた。




────────


子供の頃から身体が弱く、よくこの病室に寝泊まりしている。


双子の理奈は健康そのもの、看護師になったのは私を介護するのが理由だったのかもしれない。


母のお腹の中で理奈に自分の分まで健康を渡した代わりなのか、理奈には無いものを私は持って産まれた。



いわゆる『霊感』というもの。



どうもこの能力、普通の人が思い浮かべる様なものでは無く、『幽霊とはなにか違うモノ』までよく見える。もちろん幽霊もハッキリと。


……ハッキリよく見えるとか、おかしな話じゃない?かすかだから幽霊でしょうが!?


とにかく私にとって世界にはイロイロ居るのである。



たとえば先程から天井を転がる球、赤ちゃんの様な肌色をした肉の球だ。


…肉の球、ってなんかヤだな。ミートボール?こういうのも見える。


こんな話はたとえ双子の理奈にも言える事じゃ無い。子供の頃理奈に話して怖がられた。



「は~い、美奈ちゃん回診ですよ~」


「おはよ~タケ兄」



タケ兄とは子供の頃からの付き合いで、病院の跡取り。


私の事を知っている数少ない人物でもある。



「……なんか見てる?見えてる?」


「ん?あぁ、たいしたものじゃ無いよ?」



視界にチラチラとミートボールが動くものだから、つい視線が動いてしまう。それをタケ兄に気付かれたみたい。



「怖いな~」


「医者でしょ?科学の徒でしょ?」



タケ兄にそう言うとヘラヘラ笑われた。



「……それよりタケ兄?アッチのヒト」


「うん?菅原さん?」


「…ヤバいよ、今夜辺り……多分ムリ」



タケ兄は真面目な顔で頷いた。




私がいつもこの病室に入れられる理由……



『菅原さん』のお腹の上には死神が体育座りしていた。




────────


ソイツは黒いボロボロの…マント?布切れで身体を覆っている。頭からすっぽり被ったソレからは、たまに腕とか足が見えたりする。細くて蒼白い。


いつもは廊下の隅でゴロリと横になって身体をボリボリ掻いてたり、ジュースの自販機をしげしげと眺めていたりする……アンタお金無いでしょ?



死神というより、なんだか病院内をうろついている浮浪者というかニートみたいなボロ男だけど、コイツがベッドに寝ている人の上に乗っていると大抵その人は次の日まで…もたない。



私の病室はそういう人が入院する。私がこの部屋に寝かせられているのはタケ兄が頼んだから。上手くすれば助かる人もいる。



「子供の頃はさー、人助けになればって思ってたけど。勝率低いじゃん?」


「だけど対応し易いんだよ、御家族に連絡とか」



タケ兄はそう云うけど、コッチは心に重く残るのだ。ずっしりと溜まるよ。




────────


夜、苦しむ『菅原さん』が運ばれていった。



……ボロ男が『菅原さん』の胸から転がり落ちる。


別にタケ兄や理奈が勢いよく運んだから…って訳では無く、『菅原さん』は助かるからだろう。


タケ兄の勝率、ちょっとだけ上がったね。



ストレッチャーを見送りながらボロ男はお尻をボリボリ掻いていた。




────────


深夜、独りきりの病室で目が覚める。



(喉…渇いたな)



自販機は一階。階段は廊下の向こう。


誰もいない真っ暗な廊下を歩く。



そこにぼんやりした影が現れた。


パジャマ姿の中年男性……に見える。



(ぅわー、厭だなー…)



私はどちらかといえばこういう『普通の幽霊』が苦手だ。『変なモノ』はこちらを気にしないけど、『普通の幽霊』は……



刺激しない様に努めて無視する。


そのオッサンはすれ違う時、こちらをじぃー…と見詰め、私の横にペタペタと素足でついて来た。



……すごく厭だ。



「……なぁ、アンタ見えてる?」



オッサンが顔を近付けて私の耳許で訊いた。



「……見えてるだろ?見えてるよな……なぁ、シカトすんなよ」



……これが苦手なのだ。


生きてる時に持っていた礼儀だのなんだのを忘れるらしい。



「おい…コッチ見ろ…」



誰が見るか。


私は廊下の途中にある女子トイレに入った。大抵、相手が男だとこれで遠慮する。



「逃げんなよ…ここで待ってるからなー…」



マヂかよ……


げんなりした時、トイレの隅で踞る姿が目に飛び込んできた。



ボロ男だ。


ちょ!?女子トイレだよココ!?




ボロ男はギョッとする私を無視して立ち上がり、トイレの出口へ向かう。



「……え?…お、お前!ひ!?ひいぃっ!?」



あのオッサンの悲鳴に振り返ると…



…そこにはボロ男だけが背中を向けて立っていた。



……あのオッサン幽霊は?


逃げた?



ボロ男はげっぷを一つすると隅の方で横になった。


げっぷ?


え?……ウソ。



ていうか…トイレの床で寝るの?




────────


次の日。夜に熱を出した。


ああいうのに絡まれると私はよく熱を出す。


だから『普通の幽霊』は厭なんだ。霊障ってやつ?今回丁度入院してたから不幸中の幸い?……いやいや、良くないでしょ。


意識がぼんやりしながらも眠気は訪れない。白い天井をベッドの上で眺める。


入退院を繰り返すのも医学的な話じゃなくて、実はこの霊障が原因なんじゃなかろうか?…なんてね。



ゴロッと身体を横向きにする。




身体が固まった。




目の前、私の顔のすぐそばにボロ男の顔があった。


ベッドの端にしゃがみ込んで、フード越しに私の顔を間近で見ていた。



(……ぃい!?)



思わず顔が強張った。


まずい……今、目を逸らすとか…こっちが『視えてる』のがバレるし、かといってこのまま凝視する訳にも…


…き、気まずい。というかぶっちゃけ怖い!


脂汗なのか冷や汗なのか判らない汗がながれる。



どれだけそうしていただろう…



『メヲクレ』



(……メヲクレ?え?呪文?……メ?…目ェ!?)


「い、いや…」



目玉を寄越せってコト!?いやいやいや、困るよ!



『モラウ』


「い!?」



ボロ男の蒼白い掌が私の顔、両目を隠す様に触れた。


生臭い、蟹とかが腐った様な臭いが鼻に充満する。



私…このまま食べられちゃうの?昨夜のオッサンみたいに……




────────


朝、普通に目が覚めた。


夢?目を開ければ白い天井。



「おはようございます」



理奈の声。私達しか居ないんだから形式ばらなくても…


そんな事をぼんやり考えて…ふと訊ねた。



「ねぇ?『菅原さん』って?どうなったの?」


「持ち直したわよ?病室替わったけど」



そう言いながらカーテンを開ける。


私は窓の外を見た。



電信柱のオジサンが居なかった。


そういえば今日はミートボールも見ていない…


…………あれ!?




────────


結局、私は『視る力』を失った…らしい。


ボロ男…いや死神が持っていったのだろう。何故アイツが欲しがったのか、それは解らない。



『視る力』を失って、霊障を受ける事も無くなった。多少は身体が楽になった気はする。


もっとも、元々病弱なのだ。あれからも病室泊まりはよくしている。今日もそう。



見えなくなったせいで楽になった事もあれば、逆に怖くなった事もある。


今もベッドに横たわり天井を見てるけど…


…もう死神の姿が見えない。




仮に今、私のお腹の上にアイツが体育座りしていたとしても、私にはもう解らないのだ。



それが怖い。






─────第九話 終。


楽屋裏


美奈「霊感少女キター♪」


理奈「……ミスキャストね」


美奈「ひどっ!」


武士「今回は皆ちょい役状態で美奈ちゃんの一人芝居だったね」


正人「まぁ僕ら主役回数多いから」


美奈「ふっふっふ!これで第一ヒロインとして認知」


理奈「されないわよ」


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