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ショート・メルヘン

浜辺の二人

作者: 雪 よしの

 私はずっと待っている。この思い出の浜辺で。


 ”今日こそと会える”と、もう何年待ったかも思い出せないくらい。でも、あの人、すぐるさんは、”迎えにくるから”と約束してくれた。彼は、約束は絶対に破らない人だから、かならず来てくれる。


「織江さん、夕食ですよ」

うちのお手伝いさんが、私を呼びにきてくれたので、”はーい”と返事をしたけど、まだ帰りたくない。本当に今日こそは会えるきがするからだ。


「織江さん、どうしましたか?」

お手伝いさんのせかう声がして、こっちにくる足音が聞こえた。


 浜辺の階段を上がりかけると、遠くからこちらに歩いて来る人が見えた。そうだ、やっと来てくれた。やっと会える。私の大切な人に。胸が苦しいくらい高鳴る。嬉しい。


「織江さん、お待たせ」

「いいえ、ちっとも、待っている間も、あなたの事を考えていたから楽しかったわ」

卓さんは、やさしげな顔で手を差し出し、私はその手をしっかり握った。手先から、卓さんの想いが伝わってくる。私は、幸せ。これ以上もないくらい。


*** *** *** *** *** *** ***


 老人介護施設から、入所してる祖母の容体が急変したとの連絡がきた。搬送された病院についたけれど、もう祖母はすでに、逝ってしまっていた。


 医師の話しでは、急性心不全という事らしい。前から心臓が弱っていたのかもしれないと。

祖母は、少し微笑んでいるような穏やかな死顔で、まるで寝ているようだった。

そばに、施設の担当の介護の方がいた。30歳くらいの女性で、申し訳なさそうに立っている。


「申し訳ありませんでした。私がついていながら。春日織江さんは、夕食時に声をかけた時には、返事をされたので、いつものように車椅子を自分で押して食堂にこられるとばかり・・。

私も他の方のほうに回っていて、食堂にまだ織江さんが来られないので、あわてて部屋を確認しにいったら・・・本当に申し訳ありません。車椅子にのったまま、心臓はすでに停止していて。」


 彼女は涙ぐみながら、謝罪するので、僕のほうが彼女を慰める事になってしまった。

僕は、冷たい孫かも、涙がでない。あれほど祖母にかわいがってもらったのに。でも、祖母の顔を見てると、幸せそうなんだよな。


 その後、父母が帰って来て、相談の結果、祖母は家族葬に。葬儀の際、病院で謝っていた担当の女性が来て、祖母の私物を少し持ってた。お棺にいれてほしいとのこと。


「織江さん、この写真が大好きで、いつも眺めてました。亡くなってた時、この写真を握り締めていたんですよ。きっと思い出があるんでしょうね」


 それは僕が、旅行で撮った小樽の海の写真だった。夕暮れ時だろうか。

祖母は、小樽で祖父と出会い結婚したそうだ。祖父は、定年を待たずに病に倒れ、鬼籍の人になっている。



 夕陽のあたる浜辺をとった、どうという事のない写真。高台からとったので、浜辺は小さく見え、険しい崖が海を囲んでいる。


 目の錯覚だろうか?浜辺に黒い細い影が二つ見えた。見ていると、その陰が移動してるようなきがした。祖父母がここを歩いているのだろうか・・


 



 


短編は水曜日深夜(木曜日午前1時代)に登校します。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  せつない話でした。  ですが、すごくいい話でした。  私はこういう話に弱くて……。  あの世で二人は再び一緒に暮らしていると思います。
[良い点] おじいさんと会えてよかったですね。織江さん、寂しくないですね! うまい書き方だと思いました。自然に状況が入って来、自然に物語を楽しむことができました。 花丸!
2018/08/31 05:05 退会済み
管理
[良い点] 呼ばれたんですね、おばあさまはおじいさまに。それにしても霊的な描写が含まれているのに、恐怖だけを強調しない物語はあまりないと思いました!洒落抜きで尊敬します。 [一言] 二人があの世で仲良…
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