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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
自分らしくあるために
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 岩壁を掘り進めるとき、ミザリといっしょにやった砂遊びを思い出していた。

 すなで山を作ってトンネルをほって貫通させる遊びだ。

 両方から掘り進めた手が砂の中でぶつかると、彼女は何がうれしいのか、キャッキャと笑った。

 自分はそれをいま城塞ののっかっている岩壁でやっているのだから変な話だと思う。


 わずか、こぶし大にあいた穴から中の様子をうかがった。

 地底湖は光が差さないはずなのに、光るコケが周囲にびっしりはりついていて、淡い青い光に包まれている。

 いっそ幻想的な場所だが、余韻に浸っている場合ではない。

 人の姿がいないことを確認すると、すぐに人が通れるほどの穴をつくって中に侵入する。

 シルディアの中に入った……。あんな堅固な城の中に。

 なんだか、ちょっと感動するが、すぐに動かなければ。

 

 周囲を見回す。すぐに上につながる階段を発見できた。

 最初の突入は全部で9人。

 自分とヴェラとロイの三人がリーダーで二人ずつお供をつける感じ。

 

 ロイが飛び出して、地底湖のほうへ走っていく。

 階段は上から地面をくりぬいて作られているためトンネル状になっていて、左右は壁だった。

 ロイはそこから顔だけを出してのぞき込み、だれもいないことを確認する。

 自分たちも続こうとしたが、手でこちらに合図してくるのでその場にとどまっている。

 すると、階段から一人のバルバラ兵士が下りてきた。

 階段の入り口横に身を潜めていたロイは、出てきた兵士のうしろから襲い掛かる。

 片手で口をふうじ、もう一方の手で体のベルトに挿していたナイフを抜いて一息に喉をかき切った。

 バルバラ兵は音もなく地面に崩れ落ちる。手慣れている様子だった。

「すまん、ほかにやりようがなかった」

 申訳なさそうにこちらを見てあやまってきた。自分は自分の部隊にできるだけ人を殺さないというスローガンを掲げた。それを気にしているのか。

 だが、どうしようもないことなんかいくらでもあるし、今、ここでそれを責めるのは筋違いだ。

「気にしないで。行こう!」

 地底湖の入り口には一応、人を配置して

 ロイを先頭に、気配を消しながら階段を上る。

 

 階段を登り切ると、そこは石造りの廊下だった。左右に廊下が伸びている。

 一見するとダンジョンのようにも見えた。なんの装飾もないレンガ状にきりそろえられ、積み上げられた石の廊下があるだけだ。

「はやくここから離れたほうがいいな。水場には人が来やすい」

 ロイは廊下の左右を確認する。自分もすぐ隣で左右を見たが、どちらに行けばいいかわからなかった。

 悩んでいると、ヴェラがさっと飛び出した。

「こっちです!」

 足音を消して小走りにかけていくそのあとを全員で追った。

 今のところ、だれともすれ違わない。外からは、戦闘の激しい音が聞こえてくるので、みんな防衛に出払っているのだろう。

 チャンスは今しかなかった。

 ヴェラが進むままついていくと、やがて城の渡り廊下に出た。


 中からや、城壁の外からではわからなかったが、シルディアは大きな城の周囲に小さな城が二つあった。

 自分たちはその小さな城の一つから出てきたらしい。

 外に出ることができて、正門の位置もわかった。でも、ここから正門に行くまでにどうすればいいのやら。

 仕方なく、人通りのすくなそうな建物の陰に隠れていたが、9人の大所帯だ。すぐに見つかってしまう。


 ロイは、「待っててくれ」と言って、また一人で飛び出していった。

 自分はいつ見つかって囲まれるかもわからない緊張でガチガチなのに、ロイは気軽な感じてふっと歩いていく。

「あんな無防備に?」

 思わず声が出たが、逆にそっちのほうがいいのかもしれない。

 バルバラの兵士たちも着ている鎧は様々だし、自分たちが紛れてもわからないかもしれない。

 それにがっちり守られているシルディアの中にエルザ兵がいるなんて思ってもみないだろう。


 少しして、ロイが帰ってくると「大体の場所は見てきた」とこともなげにいう。

「こんな頼もしいロイを見るのは初めてだ」

 つぶやくと、本人にぽかんと頭を叩かれた。

「あんまり大所帯はやめて、それぞれ少数に別れたほうがいいな。堂々としてれば、案外ばれないぜ」

 なんて笑っている。

「それと、城門は仕掛け扉らしい。城門内側のわきに二つのレバーがあって、それを同時に操作すれば開く仕組みみたいだ。

 俺と数人が片っぽやる。骨とヴェラはもう片方を頼む」


 自分たちは固まりながらも、周囲には無関心を装って、個人で動いているように見せかけていた。

 バルバラ兵たちとすれ違うことがあったが、エルザに攻められている状況では細かいことは気にしないらしい。

 自分たちに目をやることもあったが、みんなちらっと見た後でどこかに慌てて走っていく。

 城門にはすぐにたどり着いた。

 しかし、そこには会いたくない人がいた。ファルクラムだ。

「ほかの兵士は気が付かなくても、あの人は目ざとく見つけてくるかもしれない。どうしよう、ここで一気に飛び出してもいいかもしれないけど……」

 とりあえず、手近なところに身を潜めてファルクラムの様子をうかがう。

 ロイのほうも、出ようにも出られないといった感じだ。

 判断がつかなかった。

 だが、決断しなければならない。

 ファルクラムは城門の裏で、ほかの兵士たちに軽口を叩いたり、はっぱをかけたりしている。

 戦場なのに、気安い酒場のような雰囲気になっていた。ファルクラムがなにか言うたびに、兵士たちは笑い声をあげ、そして奮闘する。

 懸命に戦うバルバラ兵の姿は、どこか彼にいいところを見せようとしているようでさえあった。

 必死に戦っている若い兵士たちも肩の力が抜けて本来の力を発揮しているように見える。

 こっちのほうが本質なのか。面倒見のいい兄貴といった感じで兵士たちもそれに応えている。

 剣士というよりも指揮官なのだ。そして、そのことが恐ろしい。

 ファルクラムは戦況を観察しながら、気を配っているように見えた。

 そして、彼の存在は自分たちにとっては脅威だった。

 今はまだ、こちらに気づいていない。ただ、そこにいるだけだ。なのに、自分たちはここから動けずにいた。


 だが。

「おい、ファル、西側の攻めが激しい。ちょっとこっち来てくれ」

 走ってきた兵士がファルクラムに声をかける。どうやら、エルザ軍はがんばって攻撃をしてくれているらしい。

 正直、そのまま兵士についてどこかに行ってほしい。そうすれば、飛び出せるのだが。

 しかし、ファルクラムは渋い顔をする。

「チッ。いや、だが、ここは動けねぇ。なんか今日に限って嫌な予感がしやがる」

 やめてくれ……。

 この人は勘もいいのか。

 

 しかし、思ってもみないとこから援護が来た。城壁を守っていた兵士たちが話を聞いてファルクラムをからかいだした。

「いいから、行けってファル」

「お前なんかいてもいなくてもおんなじだろ」

 ぎゃはは、バルバラ兵たちは笑う。

 ファルクラムも苦笑いをしながら、「そんならちょっと行ってくる」とその場を離れた。


 チャンスである。

 向こうに隠れていたロイと目配せして、飛び出した。

 剣を抜いて、近くにいた兵士たちを切り殺す。飛び散った血が顔の骨にかかった。

 9人であらかたかたずけると、城壁の上の兵士たちが自分たちを見つけて騒ぎ出した。

 だけど、もう遅い。

 自分とロイが城壁のレバーにとりついた。一気にレバーを引いて、城門が音を立てて開き始める。

 ごごごご、徐々に開いていくシルディアの正門。

 わずかに開いた隙間のむこうに、エルザの兵士の姿が見えた。

 やったか!? 

 一瞬、安堵した。

 だが、次の瞬間、飛んできた何かがレバーで操作された歯車の部分にがっちりと挟まって門の開放が止まってしまった。

 開いたのはわずかに人が二人くらい通れる隙間だけ。

 そのなにかは剣だった。大きな段平である。

 

 剣が投げられた方向をみるとそこにはファルクラムが青い顔で立っていた。

「あぶねぇ!」

 急いで戻ってきたのか、息を荒げている。

  

 それでもわずかに開いた門からはエルザの兵士が少しずつ城内に流れ込んできていた。

 ファルクラムはそこに立ちはだかって、素手で兵士たちを殴り飛ばしていた。それに呼応するように、ほかのバルバラ兵たちも集まってくる。

 門の向こうから、エルザの将軍の声が聞こえる。

「すすめ! すすめ!」

 狭い入り口から、我先にと城内に飛び込んでくる兵士たち。

 だが、ファルクラムとその配下の兵士たちに阻まれている。

 幸い、ファルクラムは剣を失っている。自分も剣を捨てて、ファルクラムの太い腕に飛びついた。

 少しでも、妨害できれば。そんな考えからだったが、それが契機になった。

「てめぇ! 骨野郎!」

 振り払おうと腕を振るが、自分は必死になってファルクラムにしがみついた。

 そうしているうちに徐々に城内に侵入してきたエルザの兵の数が増え、みんなで一斉にファルクラムに襲いかかった。

 勇者も数十人のエルザ兵に一度に襲い掛かられてはなすすべもなかったらしい。

 まるで人の波に押し流されるように態勢をくずして、倒れ、そして取り押さえられた。


 その後は、もう語るまでもなかった。

 流れ込んできたエルザ兵は、徐々にシルディアの内部を制圧した。

 堅固な城塞には逃げ道などなかったらしく、多くのバルバラ兵が殺されたり、取り押さえられたりした。


 その様子を自分はどこか遠い風景のように眺めていた。

 隣にいたヴェラは、バルバラの兵士が一人殺されるたびに両手で顔を覆っていた。

 よっぽど怖かったのか、泣いていた。

 今さら泣いていた。リム平原でも、バルバラ森林でも、人が殺されるところなんて見ていたはずなのに。

 彼女の中に何かが途切れたのかもしれない。

 年を偽っているが、彼女はまだ13、4歳の小さな女の子なのだから。

 

 シルディアが陥落したことで、バルバラは裸同然になった。

 あとは帝都を残すのみで、そこまで攻めるのに時間はかからない。

 すぐにバルバラ側に降伏勧告をしたが、それも無駄に終わった。

 残った兵士を帝都に集めて、まだ戦う気らしい。


 二日後、エルザ軍は帝都バルバラへの侵攻を開始した。


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