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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
自分らしくあるために
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 今、自分の幕舎の中には小さなタルに入った液体がある。

 オルガがなんか難しい説明をしてくれたんだけど、簡単に言うと岩盤をもろくする薬らしい。

 説明は全然わかんなかったんだけど、ものとものと結びつきを弱くして、なんちゃらって言ってたけど、細かいことはわかんなかった。

 顔の筋肉とかないから表情とかでないはずなんだけど、オルガは自分の顔をみるとなぜか肩をすくめてタルと同じ液体がはいったフラスコを持ってきた。

 そして、自分の手を引いて幕舎を出ると、その辺にあった手ごろな大きさの石に向けて、フラスコを傾ける。

 フラスコの口から液体がぽとぽとと石に降り注いで、しばらくすると、ぼろぼろとその石が崩れて壊れた。

「おおー」

 思わず、声をあげてしまった。

 オルガは「こゆこと」と胸を張ってドヤ顔をする。

「これをかけて、崩れたところを掘ってけばいいんだよね?」

「そうよ」

「液体の量はもらった分だけで足りるのかな?」

「その辺については心配しなくていいわ。材料はまだまだあるからいくらでも作れるもの」

 と、いうことらしい。


 とりあえず、道具は手に入ったので、あとは実行か。

 掘り進めた後に、侵入するメンバーも選抜しないといけない。

 そのことは何となく部隊のみんなには伝えてある。シルディアの正門を開けることを考えると、十人くらい選んで連れていきたい。

 後続はもちろん入ってくるだろうけど、やっぱり最初のメンバーが肝心だと思う。

 失敗してせっかく掘った穴をふさがれたり、警戒されてたりしたら、同じ手が二度と通じなくなってしまう。

 ともかく、もらった液体で穴を掘ることから始めようか。


 今日もシルディアへの攻撃が始まった。

 自分は、それに紛れるようにしてシルディア城塞の土台の岩壁の一部を掘り進めた。

 みんながわーわーと闘っている間に、指示された場所にとりついて、そこに薬をかける。

 部隊のみんなが自分を守るようにして、盾を掲げて隠してくれた。

 上から見えてるんじゃないかな、と警戒もしたけど大丈夫みたい。

 薬をかけて、もろくなったところ崩していくだけだから掘っているという感じはしない。

 けど、やってみると確かに早く掘り進められる。

 堅固な重たい城が乗っている岩壁だから、ものすごく硬いんだろうけど、薬をかけた部分はぽろぽろと面白いように崩れていった。

 

 朝、日が昇って攻撃がはじまって。そして日が落ちるまでに掘り進めることができたのは、だいたい十歩分くらい。

 人一人が立って歩いて行けるだけの高さと幅の横穴を掘り進むことができた。

 戦闘が終わると、岩とよく似た色の布でそこを覆う。一応、見つからないためだ。

 もっとも、シルディアの中にこもったバルバラ兵たちはめったなことでは城の外には出てこない。

 

 マルガは三日で落とせると手紙に書いていたので、あと二日くらい同じことをすれば地底湖に到達できると思う。

 その前に、突入メンバーを選んでおく必要があるんだけど、正直、誰がいいかなんてわかんないんだよね。

 そんなことをその日の戦闘後、ぼやいていたら、いつものように勝手にこの幕舎にはいってきてその辺に寝転んでいたワイズがロイをあおり始めた。

「コソ泥、お前の出番じゃないのか」

 やめてぇぇぇぇ。幕舎のなか狭いんだからけんかしないでぇぇぇ、と思ったけど。

 隅のほうでナイフの手入れをしていたロイは全然気にしていないようで、「まぁ、俺だろうよ」なんて安請け合いする。

「こういうの得意なの?」

 自分が聞くと

「見張りの目をかいくぐったりするのはけっこう得意だな」

 ということらしい。

 そういえば、前にマルガが兵隊をつれて村に来た時に、ロイは自分をつれて兵士たちに見つからないように移動してたっけ。


「じゃ、ロイは決定ね。あとはだれを連れて行こうか」

 適当にピックアップしてしまおうか。

 ちなみにワイズやオルガには断られた。というより、適性がないらしい。

 魔術師は、基本的にあまり運動が得意じゃないらしい。

 潜入なんてやったこともないし、見つかったら危ないから行きたくないそうだ。

 いや、みんな潜入なんてやったことないと思うけど……。

 

 悩んでいると。

「わたしも行きます!」とヴェラが勢いよく手を挙げた。

 この時を待ってましたと言わんばかりの意気込みにちょっとびっくりした。

 けど、さすがにこの子を連れてくのはどうかと思う。

 一番に潜入して、正門を開く任務だから、正直ものすごく危ない。

 敵に囲まれるはずだし、そんな場所にこんな小さな女の子を連れていくのはどうかと思う。

「いや、ヴェラはおるすば……」

「行きます!」

「だから、おるすば……」

「行きます!」

 なんで、そんなに来たがるんだ。

 この後も、散々押し問答したけど、結局連れていくことになってしまった。


 潜入メンバーは、自分、ロイ、ヴェラ、あと自分の部隊から数名。

 当日の戦闘開始後、岩盤を掘り切って潜入、内側から正門を開けてエルザの兵士を中に招きいれる。

 バルバラの兵士が城壁付近で防衛に専念している間、地下からシルディアに潜入して正門を開ける。

 ところで、正門ってどうやって開けるんだろうか。

 あの大きくて分厚い扉を人力で開けているとは思えない。

 なんか、ギミックがあるんだろうか。どっかのレバーを引くと開くとか。

 それも中に入ってから確認するしかない。わからないことが多すぎて正直不安ではある。


 自分がやることっていつも手さぐりになっちゃうな。



 二日後の戦闘。

 最初の日と同じように岩壁を掘り進んでいくと、やがて向こう側に突き抜ける。

 最初は、こぶしほどの穴が貫通したんで、そこから中をのぞくと向こう側には地底湖があった。

 足元を確認したけど、こっちに水が流れてくる心配はないみたい。きちんと地面のある場所に掘りぬけたようだった。

 さすがマルガ。

 そこまで確認したところで、後ろに一緒についてきていた、部隊の兵士に進入路が確保できたことを伝えてもらうため、走ってもらった。

 あとは、ここを一気に崩して、中に侵入するだけだ。

 今もエルザ軍の兵士たちはシルディアをずっと攻め続けている。

 時折、爆火が城壁にぶつかって爆発する音が響いて天井から土がパラパラと落ちてくる。

 

 よし、ここまで来たらあとは行くだけだ。

 すぐ後ろにいたロイとヴェラのほうを振り返る。

 二人とも神妙な顔でうなづいた。

 シルディアのバルバラ兵たちは、エルザ軍との戦いのために城壁周りで奮闘しているはず。

 城の中は手薄なはずだ。うまく潜入して、どさくさに紛れて中から正門を開けてしまいたい。


 ありもしない心臓が、どっ、どっ、と脈打った。

 いよいよ作戦、決行だ。

 


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