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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
自分らしくあるために
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 ふらふらとした足取りで、自分の幕舎に戻る。

 中には、いつものようにワイズ、ロイ、マルガ、そしてヴェラがいる。

 ワイズとロイはいつものようにつまらない言い争いをしてるんだけど、なんか気づくと一緒にいる。

 ちまちまとした言い合いをして、お互いイラついているのだが、そんなに嫌なら一緒にいなければいいのに。

 と、思っていたのだが、最近は猫が二匹じゃれてる姿に見えてくるから不思議だ。

 まぁ、ふたりのことはとりあえず無視して、これからどうするか考えねば。


 幕舎の敷物の上に腰を下ろして、ため息をつく……つけねぇ、そういえば肺がなかった。

「どうしました?」

 ヴェラが敷物の上を四つん這いで這いながらやってくる。

 すると、どうしたどうしたとみんなが自分の周りに集まってきた。


「いやー、なんか、バルバラの騎士からラブレターもらっちゃった」

「「「はぁ?」」」

 みんなわけがわからないという顔をするが、さっき将軍たちに言われたことをそのまま話してやった。

「結局、受けるんです?」

 ヴェラが小首をかしげながら聞いてくる。

「どうしよう。自分宛てに来たものだから自由にしていいって言われてるんだよね」

「でも、なんで突然そんなこといいだしたのかしらね」

 さっきからずっと敷物の上にごろごろしていたオルガがあおむけになりながら目だけこっちに向けてくる。


「なんだ、そんなことか」

 ワイズも敷物の上にじかに腰を下ろしながら言う。

「向こうの立場で考えてみればいい。要塞にこもった。相手を迎え撃つ。

 でも、また黒い霧に襲われたら要塞なんて意味がない。

 城壁には守られている。だけど、霧は城壁の上から、城壁の隙間から、自分たちに迫ってくる。

 守られているようで、守られていない。

 私がバルバラの兵士だったらそう思うな」


「それは怖いってこと?」

「そうだ」

「でも、向こうの兵士に竜の力が使えないことがバレちゃってるんだけど」

「そうなのか? だが、知ってても恐れるのが人間だ。

 リム平原で見た光景は思い出しただけで身震いがする。

 黒い霧をまとって、敵対するものを瞬時に腐らせていくあの姿は、正直、その場にいたもの全ての心を恐怖のどん底に叩き落としただろうな。

 誰が言い出したか知らんが、恐怖騎士テラーナイトとはよく言ったものだ」


 ロイもうーんと考え込んだ。

「本当に霧は使えねぇかどうかわかんねぇから、怯えてるのか。

 そんな状態じゃ、シルディアとはいえ守りづらいわなぁ。

 もう大丈夫だって確かめるための、骨との一騎打ちってことか?」

 

 ヴェラもオルガもうなづいた。

「そう考えるのが一番自然かと。

 バルバラもエルザが苦しいのは知っているはずですし、このまま長期戦に持ち込めば勝てることもわかっているはず。

 そんな状況でわざわざ向こうから先手を打ってくる理由なんてそれくらいしか思い浮かびません」

「自由に使えないなんて言っても、アレを一回見ちゃってるもんね。

 でも、リム平原の時と、森林戦でちょこちょこ使っただけで、あとは一切使ってないから、バルバラもそのあたりは確かめたいのかもね。

 まぁ、わたしたちの言ってることなんて予想以外の何物でもないんだけど」


 みんなの話を聞いてると、確かにそれくらいしか理由は思いつかない。

 だけど、そうなると、今、あの堅固な城塞の中でバルバラの兵士たちは恐怖騎士テラーナイトの影に怯えているということだろうか。

 指揮系統や作戦行動に支障が出るほどに。

 リム平原ではモラルブレイクを起こし、将軍の命令を無視して散り散りになるほどだった。

 バルバラ兵の心には根強い恐怖がこびりついているはずだ。

 味方であるエルザの兵士たちでさえ、まだ自分のことを避けている人が多い。

 味方でさえ、こうなのだから敵兵の戦闘コンバットストレスは相当なものだろう。

 だったら、竜の力は常にちらつかせていたほうがいい。

 あるいはそれが、城塞攻略の突破口になるかもしれない。

 

「無視しちゃっても良いって、将軍たちには言われてるんだよね。

 確かに、そんなもの受ける義理なんかないんだもん。

 でもさ、これ、うまくやれば城塞攻略のチャンスにならないかな?

 自分もどうしたらいいかなんてよくわかんないんだけど、ここがターニングポイントのような気がする」


 思いついたようにヴェラが言う。

「名を馳せた有名な将たちは、鋭い嗅覚で戦況を読みます。

 骨さんがそうだとは言いませんけど、わたしも確かにここが何かのきっかけになると感じます。

 まったく根拠はないんですけどね。

 ただ、やはり竜の力が使えないとはっきり相手に悟られるのだけは避けたほうがいいです

 そもそも、あれは捨てちゃいましたしね」

 言った後で、ちらりと視線を投げかけてくる。


 自分はそ知らぬふりでつづけた。

「でも、一対一で勝負しちゃったらバレちゃうよね?」


「いいえ。使えるけど、使わないと最初に相手に言い放ってしまえばいいんですよ。

 決闘でこれを使うのは卑怯だから、とかなんとか理由をつけて。

 それだけで敵は疑心暗鬼になってくれるでしょう。

 ただ、ちょっとしたパフォーマンスは必要ですね。

 ワイズさん」


「なんだ?」


「錬金術師でしたよね? なにかこう黒い霧に似たようなものが発生する薬か液体か、作れません?」


「それなら骨のスカスカの鎧の中で火でも焚けばいいだろう。煙がもくもくと出るぞ」


「やだよ!  熱いじゃん!」


「チッ。しょうがない。骨が黒い霧をまとうようなものは作れん。

 だが、白い煙みたいなものが、足元にもやもやと残留するような奴でいいならできるぞ」


「白い煙かぁ。色はつけれないの?」


「無茶言うな!」


 ということらしい。


 はっきりと明言したわけじゃないけど、決闘を受ける方向で話は進んでいく。

 オルガが思い出したように聞いた。


「そういえば、骨さんと戦いたいって酔狂な人は誰なの?」


「なんだっけ、えっと、えっと、ファル何とかさん」


「ファルクラム!」

 ヴェラが急に大声を上げたので、みんなが驚いて振り向いた。

「ど、どうしたの急に?」

 

 ヴェラがわなわな震えながらつぶやいた。

「この勝負、やめたほうがいいかもしれません」

「なんで?」


「ファルクラムと言えば、音に聞こえたバルバラ随一の剣士です」


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